01【緑黒の対立】
世界で一番大きな大陸に、そのほとんどを領地としている二つの大きな国がある。
一つは「アーリス国」。多くの国を吸収してできた国であるため、様々な民族が入り混じって生活している国である。例外の民族も居るが、茶や金・銀の髪の人がメジャーである。しかし、王家を始め、上級貴族は必ず金髪で碧眼をしているのが特徴。自然が豊かな国であり、大半が森や草原に囲まれた国であるため、「緑の国」と呼ばれることが多い。
そしてもう一つは、黒の種族が住む国「ブライス国」。この種族は、一見すると普通の人間であるが、鋭い牙と長い耳を持っており、黒い瞳をしているのが特徴。肌も、やや黒い傾向がある。知能も人間と等しいくらいに高く、ほぼ人間と同じ扱いを受ける種族である。というか、今では人間の中の一民族だと認識されている。戦闘を好む種族で、長い歴史の中で数々の戦を繰り広げてきた。軍事力でこの国にかなうものはいない……という噂もある。実際、史上で他国に戦で負けたという記述は全く無い。また、余所者を酷く嫌う習性が強く、戦で得た領地に住んでいた者を、全てアーリス国へ追い払ったという記述がある。確かに、ブライス国で緑や青の瞳を持っている人は見られない。反対に、アーリス国でも、黒い瞳の者は見られない。
両国の仲はそれほど良くは無く、はっきり言って悪い方である。そのためかは分からないが、この二つの国の種族が混ざり合うことは今まで無かった。アーリス国民がブライス国に行けば、直ぐに戦闘開始。逆にブライス国民がアーリス国に行けば、戦闘まではいかないものの、非難の目で見られ軽蔑される。場合によっては宿に泊まることも、物資を購入することも出来なかったとか。そもそも、他の国に行く勇気のある者がいるのかどうか分からないが。
それでも大々的な戦争にならなかったのは、大陸を二つに分かつ山脈のおかげだろう。
高く連なる山々の東側にはアーリス国、西側にはブライス国が栄えている。一夜で越えられるような易しい山々ではない。恐らく、この山脈が無ければ、とうの昔にどちらかの国がもう片方の国に攻め滅ぼされていたことだろう。
しかし、今から二十五年程前の事。この大陸で、歴史上最大とも呼べる大きな戦争が勃発してしまった。言わずもがな、アーリス国とブライス国の戦争である。
原因は、ブライス国の軍隊による、アーリス国北東部の村「レイスト」襲撃である(後に「レイスト事件」と呼ばれる)。武装したブライス軍は、武器を持っていなかったレイスト村民を次々に虐殺していった。この事件をきっかけにこの戦争は始まり、およそ三年間続いた。アーリス国は国王とその妻を失い、ブライス国は第一王位継承者となる王子と多くの貴族たちを失った。
戦争が勃発してから三年後……つまり今から二十二年程前に、この戦争は他の大陸の大国「クロード国」の仲裁によって終結された。その後の講和会議にて、両国がもう片方の国の貴族を「人柱」として国の牢獄に入れ、人質として捕らえておくという「両国交換条約」が結ばれた。国に攻め入れられたならば、その人柱を盾に取り、あるいはその場で殺害しても良い、というものである。また、人柱として相手国に差し出す者は、それぞれの国の最上級貴族の中から選ぶことが条件で(「最上級貴族」は国の中で王族の次に強い権力を持つ一族で、歴史上様々な活躍をしてきた家系である。王族に嫁ぐ者も、この最上級貴族の中から出る者が多い)、最低三人以上差し出さなければならない。国の未来を担う貴族を失うとなると、国の弱体化に繋がらないとも限らない。人柱となった人物は、年に数回自分の国に戻り、重要な会議に出席する。その後、人柱を変更するかどうかの会議も行われ、新たに人柱となった人物や、あるいは今までの人柱がもう片方の国の牢獄へと行く。この条約が結ばれたあと、それぞれの国から、もう片方の国へ三人ずつ人柱が送られた。
終戦直後のごたごたした社会の中(現在も、ごたごたが全く無いとは言えないのだが)、私「ルエラ・ローウェル」はアーリス国に生まれた。
戦後ということもあり、食物や衣服等の生活物資が足りなくなっていた。しかし、私の生まれた地域はブライス国との国境付近ではなかったので、さほど影響はなかったらしい。それに、私の家は貴族であるため、それほど心配は無かったのだとか。
そして現在、十六歳の私は家出の真っ最中である。