幽霊で遊ぼう
“幽霊”ってファンタジーの括りに入るんでしょうか?
ここは無人の住宅。
その半分ほどが森に埋まっているように建つこの家はただの空き家じゃない。
その昔、と言うほど昔でもないのだけど、この家に強盗が侵入し、一家が皆殺しにされたという、曰くつきの家だ。
だから気味悪がって誰も住みたがらないし、元々ここは田舎だ。過疎化が進んで出ていく住人は数あれど、入ってくる住人は滅多にいない。
そんなこんなで手入れもされないこの家は、蜘蛛が好き勝手に巣を作り、強盗が踏み荒らした床や壊した家具などがそのままになっている。元々古くからある立派な日本家屋のため、夜になれば 立派な幽霊屋敷である。
さて、ここで自己紹介をしておこう。僕はここに住んでいる幽霊だ。要するに、強盗云々の被害者その一である。
まあ家族とか、そういうその他の被害者は割とお気楽な人たちだったので、殺された時も『あー、神様のお出迎えじゃー。ついに天国に召される時が来たかー(一部勝手に改変)』とか言いながら、殺されたというのににこにこと幸せそうに天国に行っちゃったけど、まあ今はそんなの些細なことだ。僕が何故ここに残っているのかとかいうのも、面倒だから省いてしまおう。
だからうん。とりあえず、状況を整理してみようか。
今は夜。場所は当然幽霊屋敷だ。
ここは大人も近寄りたがらないれっきとした地元の心霊スポットで、実際肝試しをしに来た子どもくらいしか来たことはない。まあよほど家を荒らされたりしなければ黙ってみてたけど、変なことをしそうなやからには遠慮なくポルターガイストもどきをお見舞いしてやった。そこからあまり人が来なくなったのは幸運だったかもしれない。やっぱり自分の家に勝手に入られるのは気分が悪いからね。
……話がそれた。まあ、要するに、僕が言いたいのは一言だけだ。
「なーゆうれい、ちゃんとはなしきいてんのかよー」
「幽霊じゃないよ秀くん。ちゃんと名前聞いたじゃない」
「そうだっけ? わすれた」
「ねーかいとー、あそぼー」
「だめー! 海兎はわたしとあそぶのー!」
「海ちゃん、もてもてだね」
……うん。ほんと言いたいのは一言だけだ。というか、この一言ですべてを言い表せる気がする。
……何がどうしてこうなった。
◇◆◇
時計がないから時刻は分からないけど取りあえず夜。僕は今、非常に困惑している。
取りあえず、押しかけてきたちびっこーずに名前を聞かれて反射的に答えた十分前の僕を、首を絞めて昇天させたい。……あ、もう死んでた。
僕がいる居間には何故か電気がついており、同じ部屋に何故か小さいのがわんさかいる。どうでもよくないことだけど、僕電気代とか払えないんだけど。てゆうかまだここ電気通ってたんだ。
認識を違えないようにしつこいだろうけど言っておくと、ここは立派な幽霊屋敷だ。僕という幽霊が住んでいるし。
加えて今は夜中ってほどでもないけど、まず間違いなく夜だ。日が落ちてから結構経っている。そして目の前に居るのは、ちっさい子どもが三人とそれよりは大きい子どもが一人。
……わけわかんね。
「ゆうれー、あのさー」
駄目だ。僕は現実を直視したくない。ちょっとここで現実逃避をしようじゃないか。現実逃避最高。
「……なーあかね、ゆうれいがはなしきいてくれない」
「あ、泣かないで。大丈夫。海ちゃんちょっと現実逃避してるだけだから。そのうち戻ってくるよ」
……何故分かる。
いや、駄目だ僕。落ち着け。策略に乗ってはいけない。落ち着いて前向きに現実逃避しようじゃないか。なんか表現がおかしい気もするけど。
つか今、夜だぞ。なんでこんなところに子どもがいるの。親とかどうなってんだ。育児放棄か?
……育児放棄の親多過ぎない? 四人て。
……違うのかな。
まあ、それは置いといて。なんで僕が見えているのかが問題だ。流石にこんな人数が全員“霊感あります”って訳ないだろ。幽霊だぞ、僕。
特に強い怨念持ってたりもしないし……なんでだ?
――ちょっと待て。
待て待て。ほんと待て、僕。
なんか普通に現状を考えてないか? これって現実逃避っていうのか? 普通に現実直視している気がするんだけど。
「かいとー、あそぼーよー」
「海兎ぉ……おこってるならあやまるから、あそんでー」
どうしよう。なんかすごい服引っ張られてるんだけど。なんか一人涙ぐんでるんだけど!
つか見えるどころかさわれるのかお前ら! すごいな! そして僕は幽霊で間違いなかったよな!?
……いや、駄目だ駄目だ。これも一種の策略だ。屈するな僕。現実逃避を継続しろ。なんで僕懐かれてんのとか、なんでこいつら居るのとか、いっさい考えるな。――もう考えてるけど! 手遅れだけど! ただのたとえだから問題ない。問題ないさ!
さあ、張り切って現実逃避を続行――
「ゆーれーもどってきたのか!? ほんとか!?」
ぞっこ――
「うん。ほら秀くん、今のうちに聞いてもらわないと」
逃避――
「ねーねーまだー?」
「うー……あそんでよぉ」
……
『あーもう煩い!!』
続行できるかぁぁぁ!
反射的に叫んだ僕に、部屋は一瞬静まり返り、……そのあとちびっこ達が嬉々として寄ってきた。
ああ、駄目だもう。
負けた。
その後、夜遅くなるまで遊びに付き合わされた。
今時珍しく、近所の人が総出で探し回ったようで、その人たちに引き取られて帰って行った。
帰り際にはなっていった「またくるからなー」「またあそんでー」という捨て台詞は、聞かなかったことに決めた。僕の身が持たん。
後、僕の姿は何故か全員に見えていたようで、ときどきご近所づきあいと称して人が訪ねてくることが増えた。
どうしてそんなににこやかなんですか皆さんと問いたい。すごく問いたい。なんでそんなほのぼのとした雰囲気で接してくるの。僕一応霊なんですけど。「海ちゃんを見てると癒されるのぉ」それはどういう意味ですかおじいちゃん。幽霊に癒されてどうするんですか。それとももう呆けてるんですか。「海ちゃん子どもたちをよろしくねえ」ってそこのばあちゃん。訂正して。今すぐ訂正して。冗談でもそうじゃなくてもお断りだから。受け付けないから。禁止だよそういうの。言っちゃだめだよ。禁句だよ。わかってよ。
そんなこんなで僕の周りは少しにぎやかになった。
なんかもう………………つかれた……
あ、電気代どうしよう……
ちびっこ二人の名前が出てこないけど、とくに問題ありません。
途中から壊れていく海兎くんを書くのが非常に楽しかったです。
あと、なんで幽霊なのに見えんの? って質問は、この一言で万事解決です。
……この小説はご都合主義全開!!