第1話 その矢が、はなたれた日
パタンっ。
衣装ケースとクローゼットを閉じて、ベッドに座って一呼吸。
はぁー。
だいたい、荷物の整理が終わったかな。そう思って、部屋を見渡す。
部屋はワンルーム。角に半畳のクローゼットとハンガーラック。横にした三段のカラーボックスの上には十九型のテレビ。中央にはカーペットとこたつが置いてあって、その横に今私が座っているベッドがある。
部屋の中には、まだいくつか空けていない段ボールがあるけど、荷物はだいたい出し終わっていて、これで明日から生活ができそう。
そう、私は、今日から一人暮らし。千葉の大学に通うために、実家のある北海道から出てきたのだった。
明日から、念願の大学生。
楽しみだなぁ。
そう思いながら、早々とベッドに入って眠りに着いた。
翌朝。
壁には、買ってから一度も袖を通していないベージュのジャケット。
昨日、ハンガーラックの下段に片付けた衣装ケースから、お気に入りだけど、あまり履いていないスカートを引っぱり出す。
普段は動きやすさからズボンばかりはいているけど、大学初日の今日は、スカートを履いてみようと思ったの。
白のハイネックシャツ、青のストライプのひざ丈スカート、最後にジャケットを着て、大学に向かった。
大学はアパートから徒歩二十分。自転車通学する予定だけど、今日は早く起きてしまったので、散策がてら歩いて大学に行くことにした。
アパートの近くは、同じような大学生向けのワンルームのアパートがいくつもあって、その周りは畑。しばらく歩くと大通りに出て、その両脇には一軒家が立ち並んでいる。大学は駅前にあって、駅に近づくにつれ高層のマンションが建ち、駅前にはデパートやお店が並んでいる。
バッ!
信号の手前で、周りをキョロキョロと見まわしながら立ち止まった私の目の前に、突然、スローモーションで人が飛び込んできた。
その人物は、点滅している横断歩道をギリギリで渡ってきて、右折した車にクラクションを鳴らされていた。
ドキンッ。
私の瞳に彼が映った瞬間、胸が高鳴る。
グレーのパーカーに、爽やかなペパーグリーンのチェックのダウンベスト、細身の黒のジーパンを履いて、すらっと背が高く、サラサラで少し癖のある黒髪が耳に掛かって色っぽい。スッと通った鼻筋、涼やかな目元がとても印象的で――とてもカッコ良かった。
ドキンッ。
また胸が大きく跳ね、早鐘のようにドキドキと脈を打ちはじめる。
その瞬間、私は彼に恋に落ちたの――
そう――
いたずらキューピッドが、私・愛野 美羽に黄金の矢をはなったのだった!