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冬の話  作者: ロボ
13/22

第十三話 二度目の葬式

 「黒川君、好きだよ…」

 そういって、有坂の顔が迫ってくる。その華奢な体を抱きしめて、僕は…

 といったところで、目が覚めた。

「夢か…」

 そうつぶやいてから、きのうの出来事を思い出す。とたんに顔に血が上った。

 頭を降ってその考えを追い払い、僕は葬式に出るために着替えを始めた。


 昨日からの雨はやんだものの、まだどんよりとした雲が空にかかっていた。

 秋川の葬式には、やっぱり多くの人が詰めかけた。前の学校からの参列者は少なく、どちらかといえばつきあい…同じクラスや部活の子が目立つ。

 泣いている子はいなかった。里中や岸も、ないてはおらず、そのかわり有坂にかみつきそうな目を向けていた。


 「今日の新聞は見た?」

 隣の有坂に話しかける。

 「うん。確か、自殺だっていってたよね」

 今日の新聞は、どこも三面にでかでかとこの事件のことが書かれていた。

 「確か、死亡推定時刻は十時過ぎだったよね」

 「でも、それ以外にこれといった記事は載ってなかったね」

 「昨日、警察は来た?」

 「ううん、こなかった。絶対にくると思ってたのに」

 それだけじゃない。今日は、みんなから非難されるとばかり思ってたのに、誰からも、何もいってこない。里中や岸も、高原や佐久間も、こちらをにらみつけるだけで、沈黙を保っている。

 なにかあったにちがいない。たぶん、有坂になにもいえなくなるようななにかが。


 雑踏をかき分けながら、一人の男がこちらへと向かってくる。中山だ。

「やあ、その節はどうも」

 僕は有坂を促し、無視して立ち去ろうとした。

 が、中山はそんなことにはお構いなしに、つきまとってきた。

「今度のことについて、話を聞きたいんだけど」

 ずうずうしいにもほどがある。

 しかし、僕は彼の方に向き直った。


 「どんな話ですか?」

「まあ、いろいろとね。この前自殺した木田君と、今度自殺した子の関係とか」

「いいですけど、今度はそちらが知っていることを聞いてからですよ」

「…まだ、探偵ごっこを続けてるのか?」

「ええ。やめる理由がないもので」

「そういうことはプロに任せろ…っていっても無理か。とすると、話すことはなにもなさそうだな」

 そういうと、中山はやけにあっさりときびすを返した。

「じゃあ、ひとつだけ聞きたいんですが」

 僕の声にも、中山は面倒くさそうに返事をしない。かまわず続けた。

「自殺らしきものが二件も立て続けに起こってますけど、警察はどう思ってるんでしょう?」

 「それはすぐにわかるよ」

 そういうと、中山は僕のうしろを指し示した。

 そこには、厳しい顔をした警官がたっていた。



 「黒川耕平君と、有坂優樹さんだね?」

 「少し話を聞かせてもらえるかな?」

 男は、県警の島だと名乗った。

 「いったい何のご用でしょう?」

 そういいながら、有坂の半歩前にでる。

 「いや、ちょっとしたことだよ。一昨日死んだ女の子…秋川さんのことについて聞きたいんだが」

 「わかりました」


 「きみたちは、秋川さんと仲がよかったんだってね」

 「だれがそんなことを?」

 「クラスの子達だよ。里中…とかいう名前の子だ」

 いかにも里中のいいそうなことだ。ここで何か僕らがぼろを出すことを期待しているのかもしれない。

 「秋川さんが死んだとき、何か変わった様子はなかったかね?」

 「そうですね…確かに少し気が立っていたようなところはありました」

 「確かにずいぶんといらついた様子でしたけど」

 まさか、本人から電話がかかってきたなんていえない。

 「どうしてかはわかるかい?」

 「やっぱり、木田君が死んだからだと思います」

 「そうか」

 そのことについて何かつっこまれると思ったが、刑事はあっさりと話題を変えた。


 「じゃあ、二、三ヶ月前は?秋川さんに何か変わったことはなかった?」

 二、三ヶ月前?

 「いえ、わかりません」

 有坂の方を見ると、彼女も首を振っていた。

 「どんな小さなことでもいいんだけど」

 「そういわれても…」

 何とか思い出そうとはしてみたが、特に思い当たるところはない。

 そう刑事に伝えると、彼はまた話題を変えた。


「それから、木田君が死んだときなんだけど」

 その言葉に、僕は少し緊張した。まあ、これだけ短い間に、同じクラスの生徒が二人も死んだのだ。関連づけて考えない方がどうかしている。そう思って、気分を落ち着かす。

 「どうして屋上に上ったのか、理由を知らないかね?自殺するんだったら、他にいくらでもできるところがあるのに、何でわざわざ学校に忍び込んでまで、屋上にこだわったんだろう?」

 「自殺した理由もわからないのに、死に場所にこだわった理由なんてわかるわけないじゃないですか」

 「どうやって屋上に上ったのか、わからないかね?先生達の話では、あの屋上には普段は鍵がかかってるそうだ。けれどあの日に限って鍵が開いていて、そこから飛び降りた…ちょっと不自然じゃないか?」


 どうしようか?一瞬だけ、僕は迷った。ここでどうして木田が鍵を持っていたか話せば、必ずいじめのこともはなさねばならないだろう。そうすれば、間違いなく僕は容疑者の一人として疑われることになる。それも、一番疑わしい容疑者だ。

 けれどここで話さなかった場合、もし高原達が鍵のことを言っていたら、どうなる?

僕への疑いが、さらに強くなるだけだ。高原達がいじめのことを言わなかったとしても、クラスの誰かがこれからそのことを言ったら?

 しかし、ここで迷ったこと自体で、もう何か知っていると言っているようなものだということに気がついた。だから、しかたなく鍵のことだけ話し、その後を嘘で固めることにした。


 「あそこの鍵は、僕が持っていたんです。ときたま一人になるのに、ちょうどよかったから。ただそれを、木田が知って、貸してくれと頼まれたんです。一回ぐらいならいいかと思って、OKしたんですけれども」

 そういうと、警官はうなずいた。

「ああ、それで職員室の鍵はそのままだったんだな」

「それにしても、何で合い鍵なんか持っていたんだ?」

 たぶん来ると思っていたこの質問に、僕は笑顔で答えた。

「あまり大きな声ではいえないんですけど…」

 わざと声を潜め、明るくいった。

「お巡りさんは、子供の頃秘密基地を作ってみたいと思ったことはありませんか?」と。

 島は破顔して、うなずいた。どうやら納得したらしい。


「ところで」今度は、こちらから質問してみる。

「警察が来たってことは、秋川はやっぱり殺されたんですか?」

 この質問に、警官が渋い顔をした。

 やっぱり、無理か。まあ、こんなのでうまくいくとははじめから思っていない。

「それはまだなんともいえないな。そのために調査をしているわけだしね」

 予想通りの答えが返ってきた。

「木田の自殺との間に何か関係があるんですか?」

 その答えを無視して、ぼくはさらに聞いた。

「何か知っているのかね?」

 島の目が光ったようだ。しまった、やぶへびだったか。

「いえ、ただ自殺が二回も続けて起こるなんて変だなと」

 つまらない回答でお茶を濁す。

「中学生がそんなことに首を突っ込むんじゃない」

 つまらない回答に、さらに輪をかけてつまらないアンサー。

「友達が二人も立て続けに死んだのに、ですか」

「友達」という言葉に引っかかりを感じつつ、とりあえず反撃してみる。

「だからって、おもしろ半分にやっていいことじゃないぞ」というと、警官達はひきあげていった。

 記者に続き、警察に聞いてみるという案もあえなくつぶれた。まあ、最初から期待してはいなかったけど。

 まあ、木田と秋川の死を警察が関連づけて考えていることがわかっただけでもいいんだろうか?


 あれこれ考えていると、有坂に肩をつつかれた。

「なんだか、記者の人がみんな帰って行くんだけど」

 言われて気がついた。あんなに大勢いた記者が、今では十人くらいにまで減っている。

 

 記者が帰るということは、取材が終わったのか、取材をする必要が無くなったのか。取材がこんなに早く終わるとも考えにくいから、取材をする必要がないということ。つまり、自殺の可能性が高いということだろう。しかしなぜ、マスコミはそう考えたのだろう?


 考えながら歩いていると、長谷部を見つけた。何人かと話をしている。

 やがてそれが終わった彼は僕たちに気がついた。

 あいさつもそこそこに、秋川の死について、なぜみんなの態度が変わったのかを聞いてみる。

 長谷部は、少しためらった。

 「ほんとに知らないのか?すごいうわさになってるのに」

 「なにが?」

 「秋川が妊娠してたってこと」

 「ええっ!」

 「学校も、秋川の親も認めてないけど、みんな知ってる。だから、秋川が木田の後追いで自殺をしたんだと、みんな信じたわけだ。警察の捜査もおざなりだっただろ?」

 「その子供は、木田の子供だったの?」

 「他に考えられないだろ」

 「いや、たとえばさ、別の人と秋川との間で何かあったのかもしれないし」

 「ふたまたとか?」

 「それもあるけど、もっと…ほら」

 そこで長谷部は言葉を濁した。


「有坂さん、どう思う?」

「秋川さんが別の人とつきあっていて、それで口封じのために殺したってことは?」

「でも、それだと何ヶ月か前に何かがあったってことでしょ?そのころは、何にも変わった様子はなかったけど」

「とすると、なにもなかったんだろうな。有坂さんは、いい悪いは別として秋川と関係が深かった。ほとんど毎日会ってたっていってもいい。その有坂さんがわからなかったっていうことは、相手は有坂さんが知ってる範囲の人で、秋川と普段から仲がよかった人ってことになる。高原とか佐久間とか、他に秋川と仲がよかった人かもしれないけれども、やっぱり木田が一番可能性が高いんじゃないかなあ」


 「そのことを、秋川は知ってたのかな?」

 「どうだろう…。死ぬ前の様子はどうだった?」

 「やっぱり、ちょっと様子はおかしかったわね」

 そういって、有坂が僕の方をちらっと見る。(あの電話のことだな)合点して、有坂にだけわかるように小さくうなずいた。

「だとしたら、知ってたのかもしれない。それで悲観して自殺ってことも、考えられる」

「でも、遺書は見つかってないんだろ?」

「見つかってなくても、状況としてそう考えるのが一番妥当だろう。別に遺書がなければ自殺しちゃいけないって訳でもないんだし」

 そういうと、長谷部は別の方へと歩き出した。

 「どんな結果がでるか、楽しみにしてるぜ」最後にそういい残して、彼は去っていった。

 「どうもあいつ、おもしろ半分だな。まあ、協力してくれるだけで大助かりだけど」

 「そうだね…」と、相づちを打とうとした有坂の表情が固まる。


 「なにやってんのよ、有坂。秋川の葬式だって言うのに、彼氏と来てるなんて。あんたが殺したようなもんなのに」宮野だ。

 「そうよ。秋川が死んでも、悲しくも何ともないんじゃない?」里中がいう。

 「あんなにかわいがってもらったのに」岸の声にも、一見非難がにじんでいる。

 でも、こいつらの顔におびえがないことに、僕は気づいた。目の奥が、冷ややかに笑っていることに。

 有坂は、じっとうつむいて耐えている。握りしめた手がぶるぶると震えている。その手のふるえが宮野たちに見えないように一歩前へ進んでから、話題を変える。


 「宮野たちは、昨日はいったい何してたんだ?」

 「どうしてそんなこと聞くのよ」

 宮野の反応は素っ気ない。

 「有坂ばかりを非難するのはちょっと。ずっと秋川と長いこと一緒にいたのは、宮野だろ?」

 「あたし達を疑ってるの?おあいにくさま。あたしはあの日は十時まで塾にいたの。里中も岸も同じ塾にいたから。秋川を殺すことなんてできる訳ないでしょ」

心の中で、何かが引っかかった。

 「だいたい、あんた達以外に秋川や木田を殺す動機がある人なんかいないじゃない」

 さっきの引っかかりは、しかしその一言で心をすり抜けていった。

 「犯人を捜すポーズなんかしたって、だまされないわよ。警察に捕まるまで、そうやって自分たちだけごまかしていればいいんだわ」

「行こう、有坂」

 そういって、身を翻す。有坂も、あわてたようについてきた。

 後ろで宮野が何か言っているようだったが、無視することにした。そんなことよりも、有坂を落ち着かせることが先決だった。



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