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HolyHoly  作者: 4en25_ahn
1/1

問題児

 七月の下旬だと言うのに、既に五日連続の猛暑日続きだった。

 だから夏は嫌いだ、と夏が来るたびに思う。そして冬になると夏が恋しくなる。こんな馬鹿みたいな暑さを憎んだり、ときには恋しくなるなんて、全く自分は芯のない人間だと思わされる。

 かんかん照りの太陽は今日も無慈悲に私達を照らしている。


 「暑いなー。誰か凄い魔術で太陽ぶっ壊してくれないかな〜」

 「そんなことしたら私達生きていけないよ」

 「だって暑いんだもん」

 彼女は手のひらの上の水の塊をぷかぷかと浮かばせ、その中に顔を突っ込んだ。数秒して息が切れそうになって顔を出したが、顔は濡れていない。

 ここゲシュヒテ魔導大国は十年近く前から、夏季の異常なまでの猛暑に苛まれている。原因は北から吹くなんとか風と、南のなんとか気団が関係しているらしい。あいにく気象に関する知識は全くないので、そこらへんのことは全く分からない。ただこの猛暑が及ぼす影響で冬季に活動する魔獣が減っているらしい。反対に夏季に活動する魔獣が獰猛になり、餌と生息地を求めて市街にまで現れることがあるらしい。この大陸に大殺戮を起こすような危険な魔獣が棲んでいないことが不幸中の幸いだ。

 また、専門家の見立てではこの異常気象は今年で終わるらしく、来年から徐々に気温が下がっていくらしい。めでたい。

 隣を歩く友人は水の塊に顔を突っ込んでは浮上する奇行を繰り返している。

 

 「来週で二年最後の魔術試験かー」


 魔術とは言っても、それはあくまで総称に過ぎず、細かく分ければキリがない。神術、呪術、邪術、医術、占星術、錬金術、祈祷、奇術、妖術……などなど。さらに全ての魔術の源流にしてどこにも属さない原典とも言える、魔法も存在するが、一介の魔術師が魔法を操ることはまず不可能なので割愛。

 私達の通うゲシュヒテ学校魔術部魔術科は魔術を学ぶ部門の主に魔術全般を学ぶ。神術科や呪術科などは名前のとおり、他の種類の魔術を学ばずにその科目名の魔術を専攻する。私たちは魔術全般に興味があったので魔術科に入学した。

 学校とは言っても、社会に出てから入学した人や私たちよりも十個も下の幼児も在籍している。要は学ぶ気があって、才能があるなら来る者を拒まないと言うことだ。

 試験というのは定期試験のことで実技、座学を用いて生徒の技量を図るという古き良き制度の一つだ。もちろん卒業に関わる。卒業までに四十五個のスターを集める必要があり、スターは試験で最大五つ貰える。試験は年に三回あるので、最短三年で卒業することができる。それ以外にも研究や学外での功績を称え、学校がスターを授与することもある。スター剥奪や強制退校があるということは説明するまでもない。

 私がこの学校に入ったのが二年前で、現在二十四個のスターを持っている。バイオレットは二十一個のスターを持っている。

 自分で言うのもなんだが、私達はかなりの秀才だ。だけど私たちよりも偉大な魔術師や才能のある学生がうじゃうじゃいるので思っていてもそんなことを口には出来ない。


 「妖術かー。私苦手なんだよね。あれってする方も心が痛むよね」

 妖術は幻惑や幻覚の魔術である。使い手の練度によって差異はあるが、個人に死者の幻覚を見せる低度の者から、人々の認識や常識を変える高度なものまである。極めれば全ての魔術は脅威になるが、妖術はその傾向が強い。妖術使いは妖術に妖術られてるなんて意味の分からないことを言っている生徒がいたっけ。

 次の試験は試験官に妖術をかけて、かけられた試験官がその使い手の技量を図るという試験だ。自分を最高の魔術師と思わせる妖術をかけて、最高評価を狙いにいくのもありだ。しかし相手は対妖術のプロなので妖術を極めなければ、試験官を欺くのは不可能だろう。同じ類の妖術でなければ技量を図れないと思うかもしれないが、相対評価ではなく絶対評価なので他の生徒の成績が自身の成績に反映されることはない。順位表も出ない。

 私は妖術が苦手でも得意でもない。試験官には学校が壊れる妖術を見せるつもりだ。見込みではスター四個は貰えると思っている。


 「あ、そうだルーナあれ申し込んだ?」

 「あれってなに?」

 「ゲシュヒテ魔術隊の入団希望」

 「まあ、高給料だし一応」


 ゲシュヒテ魔術隊とはゲシュヒテ魔導大国の兵団だ。主な活動は魔術討伐やダンジョン攻略などだが、戦争が始まれば主力部隊として参加する。私の叔父もゲシュヒテ魔術隊の一員として働いていた過去を持ち、若い頃に西の大陸にあるとある国と戦火を交えた際、兵士として戦場に赴いたと聞いたことがある。

 ゲシュヒテ魔術隊の基本月給は百万ギル。年収はボーナスなども合わせれば一千万ギルを優に超えるし、昇級に応じて支払われる対価も増えるので兵隊長クラスになれば年収一億ギルも夢ではない。

 ゲシュヒテ魔術隊は大陸中の魔術部に在籍している年間平均スター獲得数が十三個を超えている者であれば入団試験に応募することができ、合格すれば正式にゲシュヒテ魔術隊の一員となる。私の年間平均スター獲得数は四.八個なので応募条件を満たしている。バイオレットも四.二と応募条件を満たしている。


 魔物討伐やダンジョン攻略は決して安全ではない。常に死と隣り合わせだし、舐めてかかれば簡単に命を落とす。しかし現代の魔術戦術や魔術師そのものの平均練度の向上によって、魔物討伐やダンジョン攻略で死者が出る方のは珍しいと言われている。死ぬ奴は舐めてかかった奴か、シンプルに弱い奴だけだ。

 魔術部に通う生徒はほぼゲシュヒテ魔術隊の入団を希望する。魔術を使える上に高月給。努力次第では自身の魔術練度の向上にも繋がる。魔術師にとってゲシュヒテ魔術隊とは夢のような職場なのだ。

 それに昔とは違い、ゲシュヒテ魔導大国は現在戦時中ではない。それも入団希望者が増加する一因になっているだろう。


 「まあどことも戦争してないからいいけどさあー。戦争が始まったら最前線で戦わないといけないのは嫌だよねー」

 「戦争って言ったって周辺国とは友好状態だし、戦争をする理由も国もないんじゃないかしら」

 「そうとは言ってもさー、軍隊があるって攻撃されたら攻撃仕返せますよって脅しじゃない?本当に友好状態からそんなの解体しちゃえばいいのに」

 「ま、それが出来たら世界平和はとっくに訪れてるわね。敵がいないと生きていけないのよ人間は」

 「なんか深いねー」


 他愛もない会話をしながら歩いていたら、いつの間にか目的地に到着した。


 「ここ?」

 「そう、ヴェルディ魔術店。試験前に愛用の杖が折れるなんて最悪よ」

 

 魔術店。名前の通り魔術に関する物品を売買する商いだ。杖や魔導書などの魔術を行使する上での補助道具や、魔術の力を発揮する魔導石。魔術を始めたい人向けの指南書なんかもある。

 今日ここへ来たのはバイオレットの新しい杖を買うためだ。魔術師にとって杖や魔導書は魔術を使う上での大事な道具の一つだ。ピックがなければ速弾きが出来ないのと同じように、杖がなければ魔術は上手く扱えない。

 例えば火球を作っても飛ばしたい方向に飛ばせないし、水を集めてもその場に留まらせることが出来ない。風を吹かせても範囲を決められないし、雷を落としたいところに落とせない。熟練の魔術師は杖を使わずに完璧な魔術を扱うらしいが、私の周りにそのレベルの魔術師は存在しない。

 

 「いらっしゃい」

 店主は髭を生やしたスキンヘッドの大男だ。絶対魔術師体型じゃないだろと思ったけれど、多様性だ。筋肉も魔術師には必要だ。

 バイオレットは杖が売っている場所に向かって歩き始めた。店内は本棚や何に使うのか分からない道具だらけで、まるで博物館のようだ。魔術に関する名著や、学校で使った実験器具など、分かるものもいくつかあった。

 

 杖の良さは三つの要素で決まる。

 使用している木材と年月と製作者だ。

 木材は折れにくく柔らかいものが好ましい。北の方に群生しているバハの木や南の大陸に群生しているオストラの木を使った杖が定番だ。良いものを求めればキリがない。宝樹と呼ばれる、この世界のどこかに数本しか生えていない木を使った杖は、私が三回生まれ変わっても買えない値がついている。

 次に年数。これはシンプルで、樹齢年数が大きいものほど良い。楽器や絵画と同じで古いものほど手に馴染み、味があり、扱いやすいらしい。私にはよく分からない。

 そして製作者。これはもう最上級の杖を選ぶ際に重要なので、私たちのような一般の魔術師には縁のない話だ。無名の著者が書いた小説と文豪が書いた世界で一番売れた小説。どちらの本が面白そうかという話なのだろう。


 杖が売っている場所は壁一面に杖が掛けてあった。天井に近くなっていくにつれて値段も高くなっている。私が使っている杖はちょうど、自分の目線と同じ高さにある杖くらいの値段だ。バイオレットも自分の身長と同じ高さの杖を手に取った。

 バイオレットが手に取ったのは長さ四十センチくらいの短い杖だ。補助の強さは下がるが小さいから扱いやすい。大抵の魔術師はこのタイプの杖を使っている、私もそうだ。対して長い杖は補助の強さは上がるが、大きいため扱いづらい。戦闘では邪魔に感じる。

 その後もバイオレットは杖を手に取っては戻してを繰り返していた。そうしているうちに三十分くらい経った。

 「これにする!」

 バイオレットが指したのは、最初に手に取った杖だった。バハの木製、木目も粗くない。欠点がないことが美点というヤツだ。バイオレットはその杖を持って店主の元に向かった。

 「お嬢ちゃん、この杖を選ぶとはお目が高い」

 「え、この杖なんか特別なんですか?」

 「この価格にしては木目が粗くない。さらに使用しているバハの木も三十年物だ。三十年物でこの値段は破格の値段だぜ」

 私の目利きは良い方らしい。

 「へえ〜」

 「二十三万ギル。買うかい?」

 「買います」

 バイオレットは鞄の中から財布を取り出した。金貨が彼女の手の中でカチャカチャと音を立てている。金貨一枚の価値は一万ギルちょうどだ。

 「…二十二、二十三万ギル。確かに受け取った。ほれ、保証書だ。大事に保管しろよ」

 「ありがとうございます!」

 バイオレットは丁寧に店主にお辞儀をした。顔を上げると買った杖をマジマジと見つめはじめた。彼女のキラキラと輝く瞳は、早く魔術を使ってみたくて仕方ないといった様子だ。

 「ルーナ、Dランクくらいのクエスト受けよ、早くこの杖を使いたいの!」

 「落ち着きなよ、とりあえず掲示板にある手頃なクエスト見てみよう」

 クエストというのは戦闘能力のない商人や市民、魔術師が何かしらの報酬を対価に、魔術師や冒険者にする依頼のことだ。畑仕事から魔物討伐まで、依頼と報酬が釣り合っていれば何でも良い。大抵の報酬は金銭だが、稀に魔導石や杖など物品の場合もある。お宝を求めて物品報酬のクエストを周回する熟練魔術師も少ない。


 掲示板とはクエストが書かれた紙を貼り付ける板のことだ。至る所に設置されているので、その掲示板ごとに貼り付けられているクエストは異なる。猫の手も借りたいレベルの簡単なクエストがあれば、化け物レベルの超高難度クエストが貼り付けられている場合もある。

 それ以外にも魔導庁には国が依頼するクエストが張られた王立掲示板もある、しかしこれは個人ではなく団体向けのクエストがメインなので、小遣い稼ぎには普通の掲示板のクエストがもってこいなのだ。

 

 魔術を使うこと自体は禁止されていないが、街中で炎を扱う魔術を使うのは当然危険だ。魔術によって市民に傷害を負わせたり、死亡させたりすれば当然この国の法律で裁かれる。魔術は人を簡単に傷つけることが出来る上、本来人に向けて放つものでもない。それ故に街中で魔術を使って、被害を出した時の刑罰はかなり重い。だから魔術を使う時は無関係の人がいない、広大なところが好ましい。


 掲示板は店名しか知らない宿屋の入り口のすぐ横にあった。大きさは長方形で横三メートル、縦二メートルくらいのなかなかの大きさの板だった。掲示板に貼られているクエストは多種多様で、カボチャの収穫から魔物が棲みつく廃墟攻略まで様々だ。掲示板の前には剣を背負っている冒険者や杖を持っている魔術師が七人くらいたむろしている。バイオレットは張り出されたいくつもの紙達と睨めっこをしていた。

 「良い感じのあった?」

 「うーん、なんかどれも微妙〜」

 どうやら丁度良い手頃なものがないようだ。

 「別に報酬も受け取れて一石二鳥だと思っただけだし、平原の奥の方まで行く?」

 「うーん、それは面倒だし…」


 ダハラ平原はゲシュヒテ魔導大国の北部に広がる平原だ。緑豊かな大地と多様な生態系を持つ平原の奥にはオリュンポス山が屹立としていて、その景色は世界有数とも言われている、らしい。周辺国との非魔術師の商人街道として拓けた平原地帯には危険な魔物もいない。

 平原の終わりの方にある森林地帯には、危険な魔物が棲息する。定期的にゲシュヒテ魔術隊や騎士団らが魔物討伐を行い、危険な魔物から商人や国を守っている。また魔物の素材が高値で売れることから、冒険者が魔物を狩ることも結果的に商人や国の保護に繋がっている。

 

 平原の奥の方に向かう理由は、森林地帯に棲息する危険な魔物を討伐するためだ。危険とは言っても並の魔術師なら対処可能だし、立ち入り禁止の札や魔物保護法といったものもない。素材を売ればお金になるし、バイオレットの新調した杖の試用にもなる。一石二鳥だ。




 「君たち、魔術師か?」

 長考しているバイオレットの肩を叩いて話しかけてきたのは剣を背負った冒険者だった。綺麗な白い髪が特徴的で、顔立ちも男前だ。筋肉もある。なのに歳は私達と同じくらいに見える。

 「そうですけど」

 バイトレットが敵意剥き出しといった様子で応えた。彼はそれを気にすることなく続けた。

 「この、廃墟に棲みついた魔物討伐。俺と一緒にやらないか?前衛がいれば安全だし楽だろ」

 彼は貼り付けれた紙を指差して言った。廃墟に棲みついた魔物の討伐。報酬は三十万ギルだった。

 「俺は五万ギルでいい。君らは一人十二万五千ギル。悪くない話だろ。それに見たところ、その杖はさっき買ったんだろう?」

 バイオレットが男から離れる。尾行されていたと思っているのだろう。

 「尾行なんてしてないさ、見れば分かる」

 確かに、見れば分かるかもしれない。

 私に近付いたバイオレットに向けて囁く。

 「私は別に悪くない話だと思うけど、どうする?」

 「ルーナが良いって言うなら良いよ。でも、コイツがいなくてもこのクエストはクリアできる」


 確かに、私とバイオレットの二人なら廃墟に棲みつく魔物は討伐できるだろう。すごく丁寧な依頼文にもゴブリンやオークといった低級から中級程度の魔術ばかりだ。油断せずに挑めば難なくこなせるだろう。ただ、イレギュラーもある。たまたまいなかっただけでドラゴンの巣になっているかもしれないし、森林地帯に棲息している危険な魔物がいるかもしれない。ドラゴンレベルの魔物はもはや個人で対処が出来ない。ゲシュヒテ魔術隊のような訓練された集団での対処が必要だ。とはいえ、そんな可能性はほぼゼロに等しいし、ダハラ平原でドラゴンの目撃情報も聞いたことがない。

 

 「自分で言うのもなんだけど、俺がいないとクリア出来ないと思う」

 「聞こえてたの?」

 地獄耳だ。さすが冒険者、素の身体のスペックが恐ろしく高い。並の冒険者ではないのかもしれない。よく見ると、彼の背負っている剣も異質だ。大きすぎる。刃渡りが二メートルくらいある特大剣だ。

 「これは俺の勘だけど、このクエストなんかクサイんだよ」

 「クサイ?」

 思わず聞き返す。


 「まず報酬金が高すぎる。高難度ってわけでもねえのに三十万ギルは割に合わない。それに、依頼文に『簡単ですよ』って書き過ぎなんだよ、このクエスト」

 それは確かにそうだ。親切に書いてくれているのかもしれないけど、書き過ぎだ。『魔術師様、冒険者様なら簡単に討伐できるでしょう』、『地味なクエスト』、『お手伝い』。良く読むと書かなくても良いことを書き過ぎだ。でも別に怪しいとは思わない。


 「俺を連れて行かなくても良い。二人で行って十五万ギルを山分けしたって良い。でも二人で行ったら絶対に死ぬ」

 バイオレットは彼の侮辱とも取れる断言を聞いて眉を顰めた。それは私も同じだった。でも彼の言葉には妙な説得力があって、私は言い返す気が起きなかった。

 「舐めないでよね、こう見えても魔術部ではかなりの好成績なんだから」

 「学校の授業と実戦は違う。…まあ好きにしてくれ。引き留めて悪かったな」

 男はそう言うと私たちに背を向けた。

 

 「待って」

 「ルーナ?」

 自分でもなぜ引き留めたのか分からなかった。

 「手を貸すわ、その代わり、報酬は私達二人で山分けする」

 男は私の言葉を背中で受け取って、しばらくしてから振り返った。


 「交渉成立だな」

 男は笑っていた。


 ◆


 男の名前はファウスト・ペンデュラム。

 年齢は私達と同じ十九歳だった。十二歳の頃に家を飛び出し、これまで一人で旅を続けているらしい。生まれは遥か北、オリュンポス山を超え、宝銀渓谷を越えたさらに先にある、名前もない小さな村らしい。髪色が白色なのはその一族の遺伝の影響のせいだそうだ。

 話してみると博識な上に面白かった。バイオレットは第一印象が最悪だっただけに、かなりツンとした態度だったが暫く話すとすぐに打ち解けていた。

 「その大剣、使えるの?」

 「楽勝さ」 

 バイトレットの質問攻めになんなく応えていた。

 剣士としての技量は未知数だが、ただならぬ雰囲気が溢れ出ていることは私にも分かった。



 昼ごはんを食べ終わり、ベンチに腰掛けてスイーツも食べ終わった。ご飯を食べないと力も出ないし、魔術も使えない。そこらへんのシステムは人類共通だ。

 「廃墟かー、怖そうだなあ」

 「やっぱりただの魔物討伐じゃないのかしら」

 「俺の邪推かもしれないし、とにかく行ってみよう。危なくなったら二人をおぶって逃げるくらいは出来る」

 ファウストはアキレス腱を伸ばしながら呑気そうにしている。あまり緊張していない様子だ。対してバイオレットは不安そうで、この状態で魔物と戦わせるのは不安だ。バイオレットを守りながら戦うようにしよう。魔物はファウストが倒してくれるだろう。

 

 「えーっと、クエストってどうやって受注するんだっけ?」

 「本人のところに行くか、魔導庁を介するやり方の二種類だな。普通の掲示板なら本人のところに行くのが手っ取り早い」

 「じゃあ本人のところに行ってみようか、怪しい依頼人のところに」

 「住所はさっき見た時に覚えた」

 「記憶力も良いんだね〜」

 「覚えやすかっただけだ」


 ◆


 「覚えやすいって…そりゃ覚えやすいわよね…」


 ブルバス邸。この街一の金持ちであるブルバス家が住む大豪邸だ。きっとブルバス邸の五文字しか書いてなかったのだろう、この街でブルバス家を知らない人なんていないからだ。色々な商業で名を挙げていて、どの業界もブルバスという姓を持った人物が有名なのだ。魔術部の副部門長の名前がアドリアネ・ブルバスだったっけ…。

 「たった五文字だ。覚えやすいだろ?」

 そりゃそうだ。妙に納得してしまう。

 

 ブルバス邸の入り口は、門番らしき人物はおらず、大きな鉄の門があるだけだった。

 こういうところって呼び鈴とかもないしらどうやって入れば良いのか分からないな。

 悩んでいる私を置いてけぼりにして、ファウストは鉄の門に手をかけた。


 瞬間。

 空中に術式が現れた。

 「危ない!」 

 私とバイオレットが即座に杖を取るが、ファウストに防護の魔術をかける時間はない。魔術の展開速度が速すぎる。

 白く輝く術式から火球が見えたと同時に、爆発した。

 範囲はそこまでではなく、黒煙が私たちを覆うことはなかったが、ファウストには間違いなく直撃した。

 「大丈夫!?」

 バイオレットが黒煙に向けて声を掛けたが、応答はない。

 「じれったい」

 風の魔術で黒煙を吹き飛ばす。 

 そこには…。


 「大丈夫だ」

 「え!?」「え?」

 

 応答は黒煙からではなく、私たちの後ろから聞こえた。

 「え、どうやって避けたの?」

 「避けただけだ」

 「無理でしょう、だってそんな時間なかったじゃない」

 「あったが?」

 何なのこいつ…。今の瞬きも惜しい時間の中で、一瞬で移動したのか。


 「まあ、攻撃されたことだし、こっちも一撃やり返して良いよな」

 ファウストは特大剣に手をかける。

 「待って、ダメだよ」

 バイオレットが剣を引き抜こうとする彼を止めた。

 「確かに攻撃されたけど、先に鉄の門に触ったのはこっちだし、ね?」

 「ふむ、まぁそうか」

 納得してくれた。良かった。

 


 「避けたのか…」

 

 鉄の門の向こう側から声がした。


 「悪いな。あんた強そうだったから、試したくなったんだ」

 「試したくなった?」

 バイオレットが首を傾げた。

 「お前、強えな」

 鉄の門の向こう側には目付きも口も悪い男がいた。紫色の髪に髑髏のネックレス、ピアス。

 極め付けに右手に杖を持っているので、ファウストを攻撃したのはこの男で間違いないだろう。

 

 「俺じゃなかったら死んでいた」

 「お前じゃなかったら手は出さなかった。嬢ちゃんどっちかに同じことをしたら死んじまうからな」

 良い気はしない。

 「俺はお前を殺してもいいのか?」

 「ま、殺すつもりでやったんだ。ノーとは言えないな」


 「これはやり返していいのか?」

 ファウストがバイオレットに聞く。

 「こ、殺しちゃダメだよ」

 「殺さなければ良いのか」

 「うーん、ほどほどにね?」

 バイオレットが不安そうにそう言った。すると、ファウストが目の前から消えた。

 慌てて、鉄の門に顔を向ける。


 何かが壊れる轟音がすぐに聞こえた。

 マズイと思う暇もなく、目の前にはひしゃげた鉄の門と、その門に挟まれて気絶している男の姿があった。

 「悪い、試しただけだ」

 私とバイオレットが頭を抱えていることも知らずに、彼はズカズカとブルバス邸へと歩いて行った。

お読みいただきありがとうございます

誤字脱字誤植ありましたら教えてくれると助かります

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