表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花冷え  作者: 天青


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

裏の世界

 入院してから1週間が経つ。今の治療法としては薬を飲むことと点滴だけだ。入院生活には慣れてきたが、依然として、不安は消えない。入院してから、メリットはあった。学校に行かなくていい。ただそれだけだ。朝早くに起きる必要はないし、学校の人とも会わなくていい。クラスメイトの一部の人たちは陰ながら俺が甲子園に行くことを応援してくれていた。だから、甲子園の出場が決まって、とても喜んでくれた。だが、まさか甲子園に行けなくなるとは皆、思っていなかっただろう。だから、合わせる顔がないのだ。今は1人で居たい、そういう気分だった。だが、1人で居ることの恐ろしさを俺は知りつつある。1人で居ると考えすぎるのだ。笑い合える友達も愚痴をこぼせる家族もいない。それは、予想以上に辛いことだった。今、連絡を取っているのは、優斗と美月と母さんだけだ。それが唯一の支えとなっている。


 頭の中でぐるぐると考えているうちに、午後1時になった。やることがないので外に出たいが、外に出るのは基本的に禁止されている。弱っている状態で感染症にかかるのは良くないからだ。だから、ずっとこの病棟にいないといけない。唯一の暇つぶしはYouTubeを見ることだけだ。

 

 現に、今もこうしてベットに寝っ転がってスマホを睨みつけるように見ているのだが、時間の無駄だと、そう思ってしまう。かと言って、やりたいことなど他に何もないのだ。相変わらず体はだるいし、すぐに疲れる。何かをする気力もでない。


 それから数日後、今は病室から少し離れたベンチに座っている。ここは人があまり通らないし、落ち着く。最近見つけたリラックススポットだ。入院生活も1週間を過ぎると、段々ときつくなってきた。最初はゆっくりできるからいいや、なんて思っていたが、今はとにかく家に帰りたい。その一心だった。ずーっと1人で考えていると、気が狂いそうになることが何度もある。それに、周りには苦しんでいる老人たちが沢山いて、俺も将来ああなるのかと思うと、さらに気分が落ち込んだ。そういうことを思うのは良くないとわかっているのだが、考えないというのは無理だった。


 だから、こうしてそこから離れて物思いにふけているのだ。ここには自動販売機とベンチしかない。見える情報が少ないと脳をリラックスできる気がする。俺は数十分、ベンチに座り、自動販売機の機械音を聞きながら外の景色を眺めていた。


 そろそろ病室に戻ろうかと思い、立とうとした――その時、1人の男が話しかけてきた。入院患者用の服を着ていた。40代くらいの男で、髪はまだ黒い。独特の雰囲気と迫力があった。


「隣、いいですか?」


「……はい」


 俺は戸惑ったが、それを必死に隠した。


「君、最近入った子でしょ。俺はここにいるほとんどの人の顔を覚えているからわかるんだよね」


「はは、そうですか……」

 ここは適当に流して、さっさと出よう。


「まあまあ、そんなに急がないでよ。どうせ時間はいっぱいあるんだからさ」

 確かに、戻ったってやることはないか。


「珍しいね。君みたいな若い子が入院なんて、ここにいる人たちは皆おっさんばっかで嫌気がさすだろ?」


「いいえ、そんなことは……」


「そんなかしこまるなよ。面白いな、お前」

 元気だけど、なんだか嫌な男だな。この高いテンションについていけない。それに、なんでこんなに元気なんだ。病気してるんじゃないのか?


「高校生か? 学校はどこなんだ?」


「梅宮高校です」


「お! 俺も梅宮高校に行ってたんだよ! 奇遇だな。しかもお前、その坊主頭は野球部か? 俺も野球部だったよ。こう見えても甲子園に行ったことあるんだぞー」

 そんな過去の栄光を言われたって、興味はない。


「興味なさそうだなー」

 意外と人の感情は読めるのか。


「お前も甲子園を目指してるのか? そういえばもう少しで始まるよな。あれがいつも楽しみなんだよなー」


「甲子園なんて、所詮は高校生の遊びですよ。出ようが出まいが何も変わらない。残るのは過去の栄光だけです」


「はは、ひねくれてんな~お前。まあ、そりゃそうか。まさか入院するなんて思わねーよな。俺もそうだったよ。」


 おじさんは楽しそうだ。もう少し付き合ってやることにした。おじさんはまだ話を続けている。ごわごわに生えた髭を扱いながら、真っ白な壁を見つめている。過去の思い出深いことでも思い出しているのだろうか――どこか遠くを見ているような、そんな気がした。


「いつ退院かわかってんのか?」


「医者からは早くても3週間と言われました」


「なんだ、結構早いんだな。」


 3週間が早いとは俺は一切思わない。病院にいると時間の流れがとても遅く感じる。体感2倍は遅い。


「まあ、なんだ。またここに来いよ。な?」


「はい、気が向いたら……」


「まあさ、あんまり思い詰めるなよ。じゃあな」

 おじさんは去っていった。暇つぶしだったのだろうか。だが、久しぶりに人とちゃんと話すことが出来て内心、楽しかった。美月とは毎日電話はしているが、部活で忙しいらしく、直接は会えていない。ただ、3日後に会いに来てくれるようだ。


 俺は病室に戻り、ベットに寝転がった。これからどうしようかと考えていた。もう学校には行けないと俺は強く思った。すべてを忘れ去って自由に生きたい。でも、何年生きれるかはわからない。いっその事、このままこの世界からいなくなれれば、どれだけ楽だろうかと思った――


 後日――また、あのおじさんに会った。前と同じベンチにおじさんはいた。


「おー! あの時の坊主じゃないか。ほら、座れよ」

 おじさんは隣のベンチを叩いていた。ニヤニヤしていて少し嫌な感じがした。



「どうだ。調子は? 少しは良くなったか?」


「まあ、多少良くはなりましたけど、別に良くなろうが、悪くなろうが関係ないですよ」


「はは、まるで他人事のように話すな、お前は……良くなった方がいいに決まってんだろ。まあいい、これでも読んどけよ。どうせ暇だろ?」

 なんでそんなに上から目線なんだ。少しイライラした。おじさんは自己啓発本を渡してきた。

「0から1を作る方法」ありきたりな本だと思った。胡散臭い、こんなものを読んで何が変わるというのか――

 おじさんは本を渡すと、そそくさとどこかに行ってしまった。まったく、よくわからない人だ。


 ベットに戻り、俺はまた、スマホでYouTubeを見る。1時間ほど経っただろうか――流石に飽きてしまった。かと言って他にやることはない。簡易的な机の上を見ると、さっきの本があった。乗り気ではないが、それを読むことにした。

 

 読んでみると、思ったよりもまともな内容が書いてあった。1ページ、また1ページと読むほどにそういう考え方もあるのかと勉強になる部分もある。そして何より、ページをめくる紙の音が心地よいと感じる。

 100ページほど読んだところで疲れてしまった。眠たいな。最近は夜になかなか寝れないから、久しぶりによく眠れそうだ――


 次の日、症状は少しづつ回復しているが、精神的には何も変わっていない。あるのは不安だけだ。今日もやることがないので、ベンチに行く。また、おじさんがいた。


「よう!」


「こんにちは」

 最近は毎日のようにこうしておじさんと話している。俺はおじさんが何者なのか知りたくなった。あまり過去のことを聞くのは良くないと思っていたが、今日は少し踏み込んで聞いてみることにした。


「おじさんはここに来る前、何をしていたんですか?」 

 おじさんは優しい顔をした。でも、その奥にある寂しそうな表情に俺は気が付いてしまった。


「俺は……会社の社長だったんだ。美容品を作って売る会社でな、結構うまく行ってたんだよ。意外だろ? 俺が美容品なんて」

 何となくは予想していた。どこかのお偉いさんだとは思っていたが、確かに、美容品とは意外だった。


「でも、俺がこんなになっちまって。会社は長くは持たなかったよ。金はだけはあるんだけどな! はは……そのせいで奥さんには色々と迷惑をかけちまったなぁ」

 そんな過去があったのか――表には出していないが、色々と抱えているのだろう。


「ご家族はおじさんのことを心配してるでしょうね……お子さんはいるんですか?」


「いないよ。妻は子供を産めないでね。」

 しまった――余計なことを聞いただろうか――


「でも、いいんだ。俺は妻さえいれば幸せだよ……昔はな、仕事仕事で妻のことをほったらかしてさぁ。本当に大切なものを見失っていたよ」


「そうですか……でも、凄いですね。会社を作るなんて」


「なあに、そんなに難しいことじゃないよ。誰にだって出来る。ただ、行動するのが難しいだけさ」

 謙遜か、それとも事実なのか、俺にはわからない。


「しゃーねーな。どうせ俺はもう社会には戻れねえんだ。俺が教えれることは教えてやるとするか……」


 そうしておじさんは自分の過去について色々と教えてくれた。聞いていくうちに俺は段々と楽しくなっていった。俺の知らない世界を聞いてわくわくしている。


「まあ、要するにだな。会社を運営するってのは案外、難しいんだ。でもな、そこに行かないと見れない景色がある。俺の他にも頑張ってるやつはいっぱいいたぞ。歌手を目指してるやつ、漫画を描いてアニメ化をさせたやつ、大企業の偉い地位に就いたやつ。色んな奴らがいたなぁ。皆、目が輝いていたよ。どいつもこいつも楽しそうでさ――俺もそれを見て、会社を作りたいと思ったんだ。」


 おじさんもまだ、40代ほどなのに、これほどまでに色々な経験をしているのか。


「てな感じだな……こう見えても俺は色々と頑張ってきたんだよ。まあ、若いころの話だがな……」

 そうか――俺はまだ終わってない。この先長くは生きれないかもしれない。きっと、病気で苦しむことも増えるはずだ。どうせ普通に生きれないなら、他の人が送れないような――そんな人生を送りたい。俺はそう思った。ただ死ぬのではなく、爪痕を残して死にたい。そう強く思った。


 それからというもの、俺は残された人生について考えていた。何をやるべきか、ずっと悩んでいた。俺の夢は野球選手だった。でも、それはもう叶わない。でも、別の事ならまだできるはずだ。体力がなくたって、病気だってできることが――きっと――


 それから数日後、退院の目途がたってきた。俺はまだ悩んでいる。これからどうすべきかを――

 大人しく学校に戻るのか、それともまったく別の道を行くのか。別の道って何があるのだろうか。選択肢がありすぎて良く分からなくなる。路頭に迷う日々が続く。


 ある日、おじさんが直接、俺の病室に来た。ベットを囲むカーテンをバッと開け、何も言わずに手招きした。俺は仕方なく付いていくことにした。

 ついていくと、いつものベンチだった。ここなら待っていればいずれ会えるのに、どうしてわざわざ呼んだのだろうか――


 「ちょっと話があってだな……お前は今、やりたいことはあるのか?」


「探してはいるんですけど、なかなか見つからなくて……そもそもここで出来ることって限られてるんです。」

 おじさんは少し悩んでから話し始めた。


「実はな、俺の知り合いの社長が新しいプロジェクトを始めるらしいんだ。俺がそいつに頼み込んでな。お前を参加させてやれないか言ってみたんだ」


「なんで勝手に」


「まあまあ落ち着け。最終的に決めるのはお前だ。でな、その企画の立案なら試しに入れてやってもいいと言われたんだ。」


「それは仕事ですか?」


「ああ、そうだ。YouTubeで番組を作るというプロジェクトでな。多くのプロジェクトの中の1つで、試しにやってみるそうなんだ」


「それは、僕に何のメリットがあるというんですか? 高校を辞めて働けと、そういってるんですか?  いつ死ぬかもわからないのに。社会の歯車になるのはごめんですよ」


「そう怒るな……まだ話は終わってないんだ。何か爪痕を残したいんだろ? これはチャンスだ。このプロジェクトをうまくいかせれば、会社での立場を一気に上げることが出来る。爪痕を残すと言っても、何も自分が有名になるだけではないだろう? もしかしたら、その、YouTubeチャンネルが百万を超える登録者数になるかもしれないだろ? その番組が成功すればお前は爪痕を残せる」


「正直、乗り気ではないですね。やっぱり俺は俺自身が有名になりたいです」


「お前の気持ちは良くわかるよ。俺もそうだったからさ……でも、社会は厳しい。今から何かを0からやって有名になれる可能性は0に等しいぞ。俺はそういう奴らをたくさん見てきた。だからわかるんだ。世界は残酷なんだよ……現に、今お前もその厳しさを味わってるだろ」


 何も言い返せない――


「俺が0から1を作ってやる。そう言ってるんだ」


「ちょっと、考えさせて下さい……」


「もちろんだ。正解はお前の中にあるさ。どんな道になろうが自分を信じろよ!」


 おじさんはこちらを振り向かずに、この場を後にした。これを逃せば、もう2度とチャンスは来ないと何となくわかっていた。でも、俺にできるのだろうか――そもそも病人の俺が普通に働けるのか? 必ず迷惑をかけてしまう。それならば、1人でやって成功する方法を探す方がいいのではないか? だが、考えずとも、俺がどちらを選ぶのか、わかっていた。これしかないと心の奥で言われているような気がする。


 次の日――


「おじさん、昨日の話だけど……俺、やるよ。おじさんの話に乗る」


「ふん、お前ならそういうと思ったよ。もう少しで退院なんだろ? それまでの間、俺が社会で生きていくためのテクニックを教えてやるよ!」


 俺は退院までの間、毎日おじさんの元へ行き、仕事の意義や考え方、運営の仕方まで様々なことを教えてもらった。そして、気付けば、明日、退院することになった。入院したのは3週間だった。地獄だと思う日々も多々あったが、おじさんのおかげで、俺はこの入院に意味を見出すことが出来た。絶望から抜け出すことができた。

 ただ、怖い。病院の外に行くのが怖い。病院の中と外ではまったく違う世界のような気がする。多くの人が学校に行ったり、仕事に行ったりしている空間が表の世界なら、病院は裏の世界だ。死を近くに感じる。ずっと、裏の世界にいると表の世界に戻るのが怖いのだ。それに、皆とは違う道を行く。レールを外れた人生を生きるんだ。勝つか負けるかの世界――それでも俺は、その道を歩みたい――

 

 このことは母さんには言っていない。以前、もう学校には行かないと伝えると、せめて専門学校には行って欲しい、と言われた。それでも行かないと言うと、母さんは泣き出してしまったのだ。それからは一切母さんとは話していない。病気をしていなければ、家出でもすればいいだろう。でも、病気をしている今、それはできない。通院もしないといけないし、お金もかかる。それに、母さんをこれ以上は悲しませたくない。だから、俺は母さんを説得しないといけないのだ。

 今日の夕方、母さんが来る。その時に話すつもりだ。


 いつものベンチで母さんと会った。


 「奏、良かったね。明日退院になって。退院したら、今後のことを話し合いましょう。ゆっくりで良いから……」

 母さんは辛そうな顔をしている。退院を喜んでいるのは本当だが、今後のことで悩んでいるに違いない。俺はまた、母さんを苦しめるのか――


「やっぱり、高校には行かない。専門学校も……俺は……俺は今すぐにでも働きたいんだ」


「何を言ってるの? 無理よそんなの……中卒で働くなんて、どれほど大変か分かってるの? それにその体じゃ……大人しく学校に行って、青春を送るのが一番いいの、わかるでしょ? 別に勉強を頑張れなんて言わないから。友達と遊んで、学校行事を満喫して、彼女だっているじゃない。楽しく遊べばいいの!」


 母さんの言い分も良くわかる。普通なら誰だってそうする。でも、俺は普通で終わりたくないんだ。


「俺はいつ死ぬか分からない、もしかしたら10年、20年と長く生きれるかもしれない。でも、1年ともたない可能性だってある。それなのに、俺は何かに縛られて生きなきゃいけないの?」

 涙が溢れてくる――


「自由に生きずに周りと同じ生き方をして、死んでいくなんて俺は嫌だ! 何でもいい、爪痕を残して死んでいきたい。プロ野球選手を目指してたのも、どこかで有名になりたい、成功したいって思ってたからだ……だから……たとえ上手くいかないと……しても……俺は自分の生きたいようにしたいんだよ! 母さんから見たらおかしなことを言ってるっていうのは分かってる……急に高校を辞めて働くなんて、それも病気をしてるのに……入院して頭がおかしくなったんじゃないかって……確かにそうかもしれない……でも、この気持ちは止められないんだよ……」


 母さんは何も言わずに俺が話しているのを聞いているだけだった。怒っているのか、泣いているのか、わからない。


「そんな簡単に、はい、とは言えないわ。もう1度よく考えなさい。あなたにとって一番大切なものは何かを……」


 やっぱりダメなのか、俺には母さんを説得することはできない。やっぱり大人しく高校に戻った方がいいのだろうか――俺は一時の感情に支配されているだけなのだろうか――急に俺がやろうとしていることが無謀なことに感じてきた――


「ちょっと待ってください」


 突然、俺たちの方に声をかける人がいた。手を組み、床を見ていた俺は、声のした方を見た――いたのはおじさんだった。


「何でしょうか?」

 母さんは少し驚いた様子だった。


「私はそこにいる奏くんとよく話していた者でして……奏くんに仕事をすることを提案したのは私です」


 母さんの顔は怒りに満ち溢れていた。


「あなたが奏に何か吹き込んだんですね? どうりでおかしいと思いましたよ。急に働きたいだなんて、働くのには早すぎるし、別に働かなくたって生きているだけでいいんです。それだけで私は……」


「確かに、私は奏くんに色々と教えました。他とは違う道を歩む方法を……でも、どうするかを決めるのは奏くん自身です。他の誰でもない、自分自身の人生を生きるべきだと私は思います」

 

 母さんは黙っていた。ほんの僅かな沈黙が流れた――すると突然、おじさんが床に膝をつき、頭を下げた。


「お願いします。奏くんの好きなように生きさせてやってください。俺は何度も見てきたんだ。夢や目標、やりたいことがあって、頑張っても成功しなかった奴らを、それでもあいつらの目は輝いてた。一方で、何もやらなかった奴らもたくさんいた。そいつらは死んだように生きてた。いつも死んだような目をして、ネガティブなことばかり言って。奏くんにはそうなってほしくはないんです。だから、お願いします」


 おじさんはまた、深々と頭を下げた。どうしてそこまでしてくれるのか、俺にはわからない。母さんも戸惑っているようだった。


「わかりました。そこまで言うのなら、私ももう一度考えてみます……」

 そう言うと、母さんはそのまま部屋から出て行ってしまった。これで良かったのだろうかという疑問が残る。


「すまん、余計なことをしたな」


「いえ、助かりました。おじさんはどうしてそこまでしてくれるんですか?」


「別に大した理由はないんだ。ただ、昔、仲が良かった後輩にお前が似ててさ、つい重ねちまったんだ」


「そうですか……」


「お前なら絶対に上手くいくよ。心配するな」


 今日の昼、俺は退院する。最後に、おじさんに今までのお礼を言おうとしたが、探してもおじさんは見つからなかった。いつもなら、どこかしらには居るのに、今日に限っていないなんて――


 仕方なく、俺は荷物をまとめて手続きを済ませ、病院の正面入り口からでた。久しぶりの外で風が心地よかった。母さんが車で入り口まで来るのを待っていると、突然後ろから声をかけられた気がした。おじさんの声だ。見送りに来てくれたのかと思い、後ろを振り返ったが、おじさんはいなかった。気のせいだろうか――その後、すぐに母さんの車が来たので、荷物を乗せて、俺も車に乗り、家へと向かった――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ