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花冷え  作者: 天青


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6/18

冷たい夜

 試合の結果はというと、甲子園の出場が決まった。そして、特に苦戦することはなかった。それでも皆は大喜びだ。

 相手が弱かったわけではない、ただ、こちらのチームの調子が良く、絶好調だったのだ。さらに俺は決勝でホームランを2本打ち、ちょっとした英雄扱いを受けた。


 一方で、負けたチームのあの悔しそうな表情は忘れられない。一歩間違えていたらああなっていたのかと思うと震えが止まらなくなった。

 今は甲子園に向けての練習があっている。以前よりも練習がきつくなったように感じる。初めての甲子園ということで胸が高鳴る――でも、これがゴールではないことを俺は理解している。俺の夢はプロ野球選手だ。甲子園で活躍しないと意味がない。


 部活が終わり、美月と一緒に帰っている。前より少し、肌が焼け、細くなったように感じる。


「最近の体調はどんな感じ?」


「まあまあかな、日によって違うよ。まだ、風をこじらせてるっぽい」


 甲子園から1週間、未だに体調が安定しない。風邪をこじらせているだけだろう。俺はそう自分に言い聞かせる。


「そんなに続くことあるかな~? 一旦病院で検査をしたほうがいいんじゃない?」


「大丈夫だって!!……ごめん。でも、本当に大丈夫だから」


「うーん、わかった。」


 そのあとは、2人とも無言で駅まで歩いて行った。

 例え、何かの病気だとしても、甲子園が終わるまでは行かない。甲子園に行くことはプロ野球選手になるための絶対条件だ。不安なことを考える時間があるなら、練習した方がいい。


 荒れた小さな庭を抜けて、玄関の扉を開く。重い荷物を肩にかけ、一歩一歩階段を上る。

 右手側の扉を開けて、荷物を床に置く。ドスンという音を立てた。そのままベットに寝転んだ。


 やはり、不安だ。どうしようもない不安が俺を襲う。きっと風邪だと言い聞かせて、現実から逃げていることは自分が一番わかっていることだ。体調は明らかにおかしい。普通ではないとわかっている。だからと言って、病院に行くわけにはいかないんだ。せめて甲子園が終わるまでは、耐えるんだ。体調が悪いといっても、体が重く、熱っぽい程度だ。それに何もしなくても治る可能性だってある。

 きっと、心配のし過ぎなだけだろう。


 今日は早く寝ることにする。  


 朝になった。カーテンを開けっぱなしにしていたため、朝日が入り、眩しい。なかなか起き上がることができない。もうずっと寝ていたい。そういう気分だ。起きなきゃいけないことはわかってる。でも、体の上に金属の板が被さっているように重い。いや、体そのものが金属のようだ。

 学校に行かなきゃ――甲子園も近いんだ。練習しないと――


 1日くらい、いいか――

 どこから来たのかもわからないその思考に俺は支配された。今日無理して行けば、明日に響くだろう。少し、ほっとした自分がいる。やっと休める。そこで俺は自分が疲れていることに初めて気が付いた。

 母さんに言わないと――


「母さん……今日は体調が悪いから休んでもいいかな?」

 俺は恐る恐る聞いた。


「やっとその気になったのね。最近ずっと体調が悪そうだから、大丈夫?って聞いても何も答えないし。頑張りすぎよ。今日は休みなさい。」


 思っていた通りの答えが返ってきた。母さんならこういうとはわかっていた。

 俺は重い体を持ち上げて階段を登り、ベットに横になる。そうだ、部活を休むことを伝えないと。部長にラインで報告した。

 これで良し、今日はゆっくりしよう。ベットに大の字になって、天井を見た。


「……」


 なんだろうこの感じは――心臓が押しつぶされるように重い。さっきまでは休めてうれしいと思っていたのに――

 俺はこの気持ちが何なのかをすぐに理解した――罪悪感だ。


 今まで休まずに学校に行っていたのに、それを辞めたことに対する罪悪感。甲子園が近いのに練習しない罪悪感。1日だけならと、甘い考えをした罪悪感。


 それに、俺は気づいてしまった。今日は休めたからゆっくりできる。じゃあ、明日は? 明日は流石に休めない。でも、行きたくない。そう思ってしまう。そのあとはどうなる? この理由のわからないだるさに耐えながら、また学校に行き、授業を受け、野球をしないといけないのか? 俺は、とてつもない不安に襲われた。


 いつの間にか寝ていた。もう14時か――何かやらないと、ダラダラしてちゃダメだ。

 そう思うのに、いつの間にか数時間、スマホを見ていた。16時になり、少し日が落ちたように感じる。何もしたくない。そういった気分だ。またスマホに手を伸ばそうとする。いや、素振りだけでもしよう――俺は、階段を降りて、部活道具を入れた物置からバットを取った。自分のバットを手に取る瞬間、俺は奥に目をやった。 

 あれは――父さんのバットだ――

 なんとなくそれを手に取り、家の庭にでた。このバットを持つのは何年ぶりだろうか――

 振ってみると、やはり、いつものバットではないので違和感があった。でも、嫌な感じはしない。俺はそのまま振り続けた。そうしていると、不思議と落ち着いてきたように感じる。そのあとは、ご飯を食べ、風呂に入り、疲れていたのでそのまま寝た。

 

 次の日――

 朝起きると、また体がだるかった。でも、今日は流石に休めない。俺は重たい腰を上げて、ベットから降りる。ふぅ、とため息をついて、学校に行く準備をした。正直、行きたくないと思った。もう、諦めてベットで寝たいと――でも、それはだめだ。夢の為に立ち上がらないと――

 準備を終え、自転車で学校に向かうと、気持ちは楽になった。一度行動してしまえば何とかなるのだと思った。ただ、授業中、強烈な眠気に襲われた。やはり、気付かぬうちにつかれているのだろうか――

 放課後、部活に行った。昨日よりは体調が良さそうなので、今日は大丈夫だろう。部室に入ると、山崎先輩がいた。


「お! 奏、大丈夫かー?」

 先輩は気さくに聞いてきた。


「はい、大丈夫です。」

 俺はそう言うしかなかった。先輩に迷惑をかけたくない。いや、それだけでなく、弱みを見せてはいけない。甲子園に出られなくなる可能性があるからだ。監督や他の選手に感づかれるのはまずい。

 

「まあ、無理せずに……だが、時期も時期だしなぁ……ま、何かあれば俺に言えよ。いつでも助けてやる」

 先輩は背を向けて、手を振りながらグラウンドへと向かった。先輩はいつも俺を導いてくれる。

 

 それから、1週間。休まず練習し続けた。必死にきついことを隠して――

 思い通りのプレーができないことが多々あった。考えることが多くて、集中できない。このままではいけないとわかっているのに、体が追いつかなかった。

 それと同時に、体調が悪い原因が気になる。重い病気だったらどうしようかと頭を抱える日々が続く。

ネットで調べているものの、症状が曖昧過ぎて原因がわからない。それにあまり調べたくはない。

 いつまでこれが続くのだろうか――イライラが止まらない。野球をしたいのに――

 部活が終わり、皆帰っている。ここで帰ればまた、一歩遅れてしまう。俺はグラウンドに残って練習しようとした。


「おい、奏」


 山崎先輩だ。なんだろう


「お前はもう帰れ……最近調子悪いんだろ? 無理すんな。明日に響くぞ」


「でも……」


「お前の気持ちはわかる。だが、無理をしても意味はない。それは野球に向き合ってきたお前にならわかるだろ?」


「いや、やります! やらないといけないんです!」


「やめろ! そのままじゃ壊れるぞ!」

 急に怒りが沸き上がった。


「そうやって俺に練習させないで、俺を落とそうとしてるんですか!! 邪魔者は排除しようと思ってるんでしょ! 俺に優しくするのは、俺を陥れようとしてるからだ」


 頭が働かなかった。怒りに支配され、思ってもないことを言ってしまった。先輩に怒っているのではなく、このどうしようもない現状に怒っているのに――

 

「そういうわけじゃないんだ……ただ、心配なだけさ……すまん、余計な事言ったな」


 先輩は悲しそうな顔をした。そのまま去っていく。俺は何も言えなかった――俺は先輩が羨ましかった。野球が上手くて、誰にでも優しくて、気遣える。人格者だ。俺には無理なことを先輩は平然とやってのける。悔しかった。みじめな自分が、弱い自分が嫌になる。


 結局帰ることにした。外はもう真っ暗で、寒かった――


 そしてとうとう、メンバーの発表日が来た。俺は上の空で、今日1日の授業を受けた。やれることはやってきたつもりだ。不安でしょうがない。基本的にメンバーは前回と変わらないはずだ。でも――結果はなんとなくわかっている。

 グラウンドに部員全員が集合した。監督からの話の後にメンバーの発表があった。ものすごい緊張感だった。メンバーが変わることもあるため、皆どこかで期待と不安を抱えている。


 結果は、俺の予想通りだった。聞いても何一つ驚かなかった。それよりも、どうしてだろうか――楽になれる。そう思ってしまう自分がいた。


「花田、ちょっと……」

 監督が俺の方を見て手招きしている。


「まあ、なんだ……今回は残念だったな。以前のお前の実力なら、絶対にメンバーに入れてたんだが、というか……お前をメンバーから外すなんて考えもしなかった。」


 俺は何も言わなかった。監督はそのまま話を続けた。話している間、俺の方を一切見ずに、他の部員が練習しているところを見ていた。


「お前が一番わかっているだろうが、ここのところあまりにも調子が悪いじゃないか。ヒットも打てないし、守備もミスばっかりだ。どうしたんだ?スランプか?」

 俺は答えに迷った。自分の体調のせいにはしたくなかった。


「いえ、ただ単に、野球に力が入らなくて……」

 

 監督は神妙な顔つきをした。


「そうか……」


 監督はそれだけを言って、行ってしまった。今日は練習で誰一人として俺に話しかけなかった。

 何だろう――力が抜けていく。早く家に帰りたい。そう思った。家に帰るとご飯も食べずに寝てしまった。起きると夜の10時になっていた。なぜか無性にイライラした。バットを振りかぶって物を壊したい気分になった。俺はボーっと部屋に置いてある父さんのバットを見ていた。父さんのバットを振ったあの日、なぜか部屋に置いておきたかったのだ。


 今までの出来事が走馬灯のように蘇ってきた――

 父さんが死んだこと。野球に全てを捧げてきたこと。人と話すのが怖かったこと。思い出せば出すほど、俺は空っぽな人間なんだと気づいた。嫌なことに見て見ぬふりをして、野球に逃げた。俺にはこれしかないと言い聞かせて。自己中な生き方しかできなかったな――もう考えるのも疲れてきた。早く寝よう。


 朝起きると9時になっていた。目覚ましをかけるのを忘れて寝坊した。すると、部屋のドアをコンコン、と誰かが叩いた。母さんだ。なぜ、起こしてくれなかったのか? 俺は疑問に思った。


「奏……大丈夫?」

 母さんはひどく心配した顔だった。母さんには甲子園に行けないことは伝えていない。でも、言わなくても俺の顔を見てわかったのだろう。

「うん、遅刻だよもう……学校に行かないと……」

 でも、体を起こそうとしても、以前と同じように起き上がれなかった。


「病院に行きましょう……」

 突然、そういわれた。もう、行かない理由はなくなった。


「うん……」


 病院は明日、行くことになった。今日は家でゆっくりすることにした。

 

 午後6時になり、俺は勉強をしていた。すると、スマホからコールが鳴った。誰からだろう――

 見ると、美月からだった。


「あーもしもし、どした?」


「どした、じゃないよ! 聞いたよ甲子園のこと。しかも今日学校休んでるでしょ! 大丈夫なの?」

 

「あぁ、そのことね。出られないって何となくわかってた。だからそんなにショックじゃないよ。」

 嘘だ、本当は辛い。ただ、それを感情に出すとおかしくなりそうだった。だから、必死に抑え込んでいるだけだ。


「嘘だ! あんなに必死にやってたのに、悔しくないわけないでしょ! それにずっときつそうだったし……」


「もういいんだ……ごめん、もう切るわ」

 俺は美月の反応も聞かずに通話を切った。冷たい態度を取ったとは思う。でも、今は1人になりたい。


 何をしたらいいか分からなくなった。また、野球を頑張って甲子園を目指せばいいだけ――それが正しいことは分かっている。でも、そのやる気がない。長い道のりな気がしてしまう。


 そして、次の日。俺は母さんと一緒に病院に行くことにした。あれだけ行きたくなかった病院も今はそうでもなくなっていた。家から車で20分の小さな病院に行った。明るい雰囲気で落ち着いた室内だった。とりあえず、採決をして結果待ちだ。その他にもいくつかの検査をしたが、原因は分からなかった。


 後日、血液検査の結果が出たので、病院に行った。どうやら、白血病の数が多いようだ。その中でも、リンパ球の数が多い。医師の先生によると、ここの設備では詳しくは分からないので、大きな病院にかかった方がいいとのことだ。紹介状を書いてもらい。3日後にその病院に行くことになった。

 俺は徐々に不安になっていった。でも、それと同時にいっその事、大きな病気になって死んでしまいたいと思う自分がいた。俺にとっての野球は、もう、楽しいものではなくなっていたのだ。


 この数日間、学校には行っていなかった。ずっと家にいれば何もしなくていい。でも、なぜか疲れる。気持ちが落ち込む日々が続いた。

 そして、検査のため、大きな病院に行った。外装は少し寂れている。白いコンクリートが黒ずんでいるのが良く分かった。正面の入り口の自動ドアを抜けると、多くの人がいた。こんなにも多くの人がいるのに、静かだった。少し重々しい空気を感じながらも、俺は紙に書いてあるいくつかの場所に行き、順番に検査を受けていった。検査は数時間にわたるものだった。朝から行ったのに、気付けばもう夕方だ。やっとの思いで検査が終わり、診察を受けることとなった。何の病気か分かったのだろうか? もしくは最初から病気ではなく、ただの疲れによるものだろうか――


 診察室に入ると、男の医師がいた。年齢は50代ほどだろうか、白髪が混じったその髪は、いかにも中年男性という感じだ。だが、以外にも顔は若々しく、エネルギッシュな人だと思った。


「どうも、初めまして。医師の松下と申します」


 礼儀正しく、落ち着いた雰囲気だ。


「初めまして、奏の母の優香里です。」

 母さんはそわそわしていた。俺よりも緊張しているのではないだろうか。


「今の体調はどんな感じでしょうか?」


「今も体のだるさはありますね。」


「そうですか……」


 この質問は、診察で聞いているというよりも、話の導入として聞いているだけなのではないかと感じる。もう、原因は分かっていて、それを急に伝えるのはこちらの心の準備ができていないまま伝えることになる。この医師はそれを避けたような気がする。


「……検査の結果ですが、原因が分かりました」


「何なんですか?」

 母さんは恐る恐る聞いた。


「説明の前に、奏くんは今からの説明を聞きますか? 心の準備ができてからでも大丈夫ですよ」


「はい、大丈夫です」

 俺は、はっきりとそう答えた。


「病名は……慢性リンパ性白血病です」


 白血病? 聞いたことがある、芸能人やアスリートがこの病気になって苦労したという報道があった気がする。だが、俺は具体的にどういった病気かパッとしなかった。

 医師は依然として真剣な眼差しだった。母さんのほうを見ると、顔が青ざめていた。


「お二人方とも落ち着いてください。すぐにどうこう、というわけではありません。今から説明に入りますが、」

 そうして長々とこの病気の説明があった。簡単に言うと、この病気の症状としては、発熱や倦怠感など様々あること。人によって差はあれど、長期生存ができること。慢性から急性となる場合もあり、急性リンパ性白血病になれば、生存率が低くなること。今は症状が少しひどくなっているので、入院が必要なこと。主に話した内容はこんな感じだ。

 聞いている間、気分が悪くなった。でも、自分の事だから聞かないといけないと思い、必死に耐えた。入院は今日からだと聞いて、俺は大きなショックを受けた。

 

 この後は、色々と入院や治療をするにあたって、やることがあるのでそれを母さんに任せ、俺は診察の待機所にある椅子に座りこんだ。気づくと周りに人はほとんどいなかった。病院内は明るいはずなのに、とても薄暗いように感じる。今にも泣きだしそうだ。自分が病気になるなんて微塵も思っていなかったし、生存率という言葉を聞いて、死を間近に感じた。そして何より、今日から入院なんて――学校はどうするんだ?友達にも会えないじゃないか。野球は?勉強についていけるのか?ネガティブな思考が俺を支配した。もう人生終わりだと思った。どん底だ、落ちて、落ちて、ただひたすらに落ちてゆく――


 20分ほど経っただろうか、母さんが戻ってきた。顔を見ると、笑顔だった。その笑顔が作りものだということに、すぐに気づいた。


「入院の手続きは終わったよ。大丈夫よ奏。今は辛いだろうけど……きっと、きっと……大丈夫」


 俺に何と言えばいいのかわからないのだろう。なにより、母さんも相当心にきているに違いなかった。病室へは母さんと一緒に行くことにした。廊下を歩き、エレベーターで上がると、病棟についた。エレベーターを降りて、右側の廊下を歩くとすぐに俺が過ごす部屋についた。312号室、6人部屋だった。今からここで過ごすと思うとゾッとした。

 周りにはお年寄りの男性しかいなくて、1人1人の顔を見ると死んだような顔をしている人もいれば、まだ元気な人もいた。それに、この部屋は独特な匂いがした。とりあえず俺は、自分のベットに座った。


「すぐに良くなるわ、大丈夫よ奏。野球だってまたできるから。だから……今はゆっくりしていなさい。明日家の荷物を運ぶから、必要なものがあれば教えて」


 母さんはそう言って、病室をそそくさと出て行った。今にも泣きだしそうな顔で――今思えば、父さんが死んでからというもの、母さんはいつも無理をしているような気がする。きっと母さんは父さんが死んだ時にできた心の傷が癒えてないのではないだろうか。そして、今、息子を失うかもしれないという恐怖を感じているのかもしれない。俺はまた、母さんに迷惑をかけるのか、金銭面でも精神面でも負担をかけて、結局甲子園にも行けなかった。俺は――なんて――なんてダメなんだろう。


 母さんがいなくなり、俺は1人でずっと外を見ていた。時間の進みがやけに遅いなと感じる。すべてから解放されたような――閉じ込められたような――何とも言えない感情に俺は支配された。 


 夜になり、少し冷えこむはずだが病院内は室温が一定になっているため、寒さは感じなかった。窓から外を見ると真っ暗な風景に建物からでる光がキラキラと輝いていた。これはこれで綺麗だと思った。もっとよく見ようと窓に近づくと窓越しに冷気が伝わった。試しに窓を手のひらで触ると、とても冷たかった。


――その冷たさは、手から腕へと伝わり、心臓まで届きそうだった――



 

 

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