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花冷え  作者: 天青


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静かな日

 入院してから1か月が経った。代り映えのしない日々を送っているはずなのに、時間の流れはいつも遅く感じる。 


 それに、眠っている時間も長くなった。昼寝もよくする。疲れることは何もしていないのに――


 どうして人生こんなにも上手くいかないのだろう――そんな考えが頭をよぎるが嫌な感じはしない。すべてを受け入れている自分がいる。むしろ諦めがついたことで息苦しさから解放されたような感覚すらある。


 自分でも不思議なくらい苛立ちや不安がなく、落ち着いている。


「奏、仕事はもう辞めなさい。今のあなたにはもう続けられないわ。それに……」


 今さっき、病室に入ってきた母さんがかぼそい声で言った。


「辞めたよ、もう……昨日、社長に連絡した」


 俺はできれば仕事を続けたかった。でも、もう無理だと――普通の生活には戻れない予感がしたのだ。


「そう、ならいいの。今はゆっくりしなさい……退院しても仕事なんてしなくていいの。好きなことだけをしてればいい」


 母さんはどこか焦っている。きっと俺がいなくなるのではないかという不安に駆られているのだろう。


 俺は、自分と周りとのギャップに戸惑いがあった。自分はもう全部受け入れて、どうでもよくて、こんなにも安らかな気持ちなのに、周りは焦り、悲しみ、暗くなっていく。俺はどうすればいいのかわからなかった。


 それからというもの俺は、朝7時におき、ご飯を食べ、寝て、昼ご飯を食べ、寝て、夜ご飯を食べ、寝る。それをひたすら繰り返している。唯一変わることがあるとすれば、面会だ。基本的に母さんは毎日来る。たまにでいいと言っているのにも関わらずだ。美月は3日に1回、優斗もたまに来てくれる。後は会社の人や学校にいた時の担任だ。これだけが俺の楽しみで、このために生きていると言ってもいい。


 特に最近は体調が悪い日が多い。もうベットから立ち上がるのが嫌なくらい俺の体は言うことを聞かなくなっていた。それと同時に、寝るのが少し怖くなっている。寝たら最後、2度とこの世に戻れなくなるのではないかという不安に襲われるのだ――



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 入院してから2か月以上経った。俺は日に日に弱っていく。様々な治療をやってきたが、どれも効果はいまいちだ。同じ病室で変わらぬ食事を摂る。まるで牢獄にいるかのような毎日だ。


 ベットから動けないので俺は頭を動かすほかにやることはなかった。だからずっと考えている。自分の人生についてを――自分の人生がどうだったのか、後悔はないか、そんなことばかりを考える。でも、結果はいつも同じだった。


「なんだかんだ言って、幸せな人生だと思う。大事な人もたくさんできた。美月に優斗、母さんと

兄ちゃん、会社の上司。最初から成功なんてものに縛られる必要はなかったな……俺にとっての成功はもう手に入れていたんだな」


 頭に浮かんだ言葉をすべて吐き出してから、俺は病室で1人、今日も寝ることにした。


 























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