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アナザー・ヨロズブ 第1章「青の沈黙」  作者: 有氏ゆず&chat448
第五話「落とされた名前」
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5-6



窓に映るべきはずの自分がいない。


「……ほんとに、消えてるのか。俺」


古はぽつりと呟いた。


“影がない”という事実が、物理的な存在の消失ではなく――

「認識の欠如」そのものであると、やっと理解できた。


この世界は、“名前”を失ったものを、映さなくなる。


「じゃあ……俺は、もう“この世界”には映らないのか」


有翔は言葉を失っていた。


ただ黙って、窓越しに立つ古の姿を“見ようとして”いた。


「見えてるか?」


「……見えてるよ。ちゃんと見えてる」


「ウソつけ。俺、もう“映ってない”んだよ」


「違う……消えないで。古くん、消えないでよ……!」


声が震えていた。

涙が溜まって、有翔の目が潤んでいた。


「ぼく……君のことが大事だった。君がそばにいるの、当たり前だった。なのに、今みたいに……名前が呼べなくなるなんて……そんなの、やだよ……」


「……だったら、思い出せよ。ちゃんと、俺のことを」


「思い出してる……思い出してるのに……!」


「なら、“名前”で呼べよ。お前が呼んでくれたら、俺はここにいられる気がする」


「……神……凪……こ……さ……」


有翔の喉が震えた。


だけどその先が、声にならなかった。


まるで、名前そのものが、“この空間から削除された単語”みたいに、

口に出すことを拒まれている。


「……っ……!」


「ほらな」


古は、静かに目を伏せた。


「俺の名前は……もう“落とされた”んだ」



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