表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/87

54 夢は夢のまま?

「先に言っておきますけど、『どうすれば湯川栞を完全犯罪で殺害できるか』はなしですよ」

「井上君は私と湯川ちゃんの関係を何だと思ってるの~⁉」

「えっ? 奴隷と主人じゃないんですか?」

「心底驚いたような表情で言わないで!!」


 まあもちろんジョークなんだけど、全力で否定された。少なくとも、二人の関係が「殺したいほど憎い」レベルには達していなかったことが判明して、僕はほんの少しだけ安堵する。


「聞きたいことって言うのはねえ。……湯川ちゃんによると、井上君、私たちヒロイン皆とキスを経験済みらしいじゃん?」

「そ、そうですが何か?」


 まずい。まさか、嘘がバレたのか? 平静を取り繕うのに苦労する。


「あ、鹿之島のときは、本当にごめんね~。立花ちゃんにも悪いことしたなって思ってるよ。私、これでもめちゃくちゃ反省したんだよ?」


 でもさ、と星加さんは、違う角度から切り込んできた。



「井上君がキスをしたことがあるのは分かったけど、女の子の胸を触ったことはあるの? そこのところ、どうなの~?」

「……む、胸? 馬鹿にしないで下さいよ、星加さん。胸くらい、触ったことあります」


 内心ではとんでもなく動揺していたけれど、僕は嘘を貫き通した。それはもう、わざとらしいくらいに。


「本当かなあ~?」


 ジト目で見られた。

 星加さんから疑いの眼差しを向けられている。この人のこんな顔、初めて見たかも。けど、ここで嘘を認めて引き下がるわけにもいかず、僕は徹底抗戦する覚悟を決めた。

 湯川さんがキス経験豊富の設定を考えてくれたのは、この恋愛バトルにおける星加さんの優位性をなくすためだ。ここで僕が「おっぱいを揉んだのはあなたが初めてです!」と自白すれば最後、星加さんは再びリードを築いてしまう。それはすなわち、あのときの湯川さんの努力が無に帰すということだ。

 だから僕は、嘘を嘘で塗り固めるしかない。僕は湯川さんの努力を無駄にしないために、湯川さんたちの胸を揉んだことがあることにする! ……あれ? 自分で言ってて思ったけど、僕ってもしかして、湯川さんを守るために湯川さんのおっぱいを揉みしだいた設定を作り出してないか? 何という破廉恥な矛盾だろう。


「じゃあ井上君、皆のカップサイズを言える?」

「当然です!」


 さもありなんといった風に頷き、僕は架空の設定をそらんじてみせた。こういうのは、おどおどしながらやると必ず失敗する。自信たっぷりに、堂々と演技するのが肝心なのだ。



「立花先生はC、湯川さんはE、桜井先生はBですよ」


 紛れもない当て推量なのだけれど、僕は断言した。


「ブッブー、不正解! 立花ちゃんは、実はBなのでした~!」


 そして、両手で大きなバツを作ってみせた星加さんに愕然とした。


「ば、馬鹿な! 何で立花先生のサイズを星加さんが知ってるんですか⁉」

「鹿之島で水着に着替えたとき、彼女の胸を揉ませてもらったんだ~。同性同士のスキンシップってやつだねえ」


 ばちこーん、と得意げにウインクしてくる星加七海。え、ああいう女の子同士のお触りって、ちょっとエッチな少年漫画の世界だけに存在する幻じゃなかったの? 現実にあるの……? え、本当に?


「立花ちゃん、いい声で鳴いてましたよ~。エロ可愛かったですねえ」

「羨ましい! じゃなかった、純粋な立花先生に何てことを!」

「建前より先に本音が出てるよ⁉」


 しまった。僕としたことが、つい先走ってしまった。まあ、こればっかりは、想像をたくましくさせるようなことを言った星加さんに非があるだろう。健全な男子高校生の想像力を舐めてもらっては困る。

 僕の建前と本音が入れ替わってしまったのはともかく、立花先生のカップサイズを正確に把握できていなかったとなれば、僕の嘘は見破られたも同然だ。湯川さんには申し訳ないけれど、やむを得ない。僕は両手を膝の上に置き、星加さんに頭を下げた。



「――ごめんなさい。揉んだことあるというのは嘘です。星加さんだけです、触ったことがあるのは」

「ふっふっふ。やっぱりね~」


 にまにま微笑んで、彼女は僕の頭をぽんぽんと撫でた。


「あ、ちなみに、私が立花ちゃんのおっぱいを揉んだことがあるっていうのは嘘で、サイズを知ってるのも嘘だよん。引っかかってくれてありがとね、井上君♡」

「だ、騙しましたね!」


 すべては、僕から本音を引き出すための壮大なフェイントだったのか。何て奥深い、高度な謀略なんだ。やはり、女の子同士のちょいエロなスキンシップは空想の産物だったのか。

 夢は夢のままだからこそ、美しい。


「これでも一応、年上だからね~。腹の探り合いには慣れてるんだよ」


 湯川さんにやり込められているイメージがすっかり強くなってしまったけれど、出会ってすぐの頃なんかは僕の恋愛相談に親身になって乗ってくれていたんだよな、この人。一見それっぽく的確な助言をくれているようでいて、でもあわよくば自分がちゃっかり有利に立ち回ろうとするしたたかさも兼ね備えていて。猫のようにしなやかで自由に生きる彼女を、僕は少なからず魅力的に感じたのだった。

 今ではそんな印象も変わりつつあるけれど、それでも完全に消えたわけじゃない。時折、こうして思い出して再認識させられる。



「けど、僕が星加さんの胸を触ってしまったのはぬいぐるみに躓いたからであって、言ってみれば事故みたいなものですよね?」


 湯川栞の努力に僅かでも報いようと、星加さんの優位性を少しでも崩そうと、僕は足掻いた。


「不慮の事故ですから、ノーカンでお願いします」

「え~? 女の子の大事なところを触っておいて、ノーカンはいただけないなあ」

「触りたくて触ったわけじゃないですよ!」


 頬を膨らませた星加さんは、おもむろに席から立ち上がった。


「ついてきて、井上君」

「は、はい?」


 言われるがまま、僕はコンビニの外の駐車場へ引っ張って行かれた。その奥まった部分、自転車が一、二台停めてあるだけの日当たりの悪い場所で立ち止まり、僕と向かい合う。

 通行人の姿はなく、誰に見られているということもない。



「――これなら」


 不意に、星加さんが僕の右手を取った。すっと持ち上げ、何の前触れもなく、自らの胸へと強く押し当てる。


「! なっ……」


 何するんですか、と抗議しかけるも、星加七海は揺るがない。ぎゅっと握った僕の手を、己の双丘の片側へ沈み込ませて離さない。否が応でも、柔らかく温かい感触がタンクトップ越しに伝わってくる。


「ノーカンにならないんじゃない? 井上君」


 ああ、何てことだ。シュレーディンガーのタンクトップ問題を二回も証明してしまうなんて。この感触、今回もパッド付きのノーブラだ。しかも、心なしか前回よりもパッドが薄く、胸の弾力がダイレクトに伝わってくる気がする。狙ってやっているのだとしたら相当な策士だぞ、星加さん。

 もにゅっとさらに僕の手が沈んだ瞬間、彼女は「んっ……」と艶めかしい吐息を漏らした。そんな色っぽい表情もできることを、僕は初めて知った。


「や、やめて下さいよ!」


 凄まじい展開になってしまった。慌てて手を引き剥がし、後ずさる僕。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ