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50 ドライブデート

 ついに、桜井先生の教育実習期間が終了した。

 当初は生徒から「冷たい人なのかな」と思われていた節があるけれど、何だかんだこの一か月で慕われていったらしい。最終日にはクラスの皆が別れを惜しみ、教壇に立つ桜井先生の目には涙が浮かんでいた。

 校外デートできる機会はまだあるとはいえ、僕も寂しかった。ただ、さすがに学校内では人目もあるので、一般陰キャラ以上に目立つ行動は取れない。さりげなく感謝を伝えるのみに留めた。


「心配するな、井上。また会えるさ」


 人だかりが引いたタイミングを見計らって声を掛けると、先生はニコッと微笑んで励ましてくれた。そして、小声で付け足す。


「貴様とのデート、今後とも楽しみにしているぞ」



 そう、問題はそのデートなのであった。僕たちが住む県はいかんせん田舎すぎて、デートスポットにも事欠く。市内の主要なスポットはもう行き尽くしてしまっていて、これから先のデートでどこへ行けばいいのやらと途方に暮れていたのである。


「いやいや、いくら田舎だからといっても、デートできる場所くらいあるでしょ!」とお思いかもしれない。そういう方のために出血大サービスで、今まで伏せていた情報を開示しよう。僕が住んでいるのは四国だ。もう少し正確に言うと、四国四県のうち、左上にある県だ。

 これまでは「中四国の地方都市に住んでいます」程度のぼんやりした表現にとどめ、想像の余地を残していた。実在の地名は極力出さないよう努めてきた。「広島、岡山がやや都会」との認識を示したことはあり、瀬戸内海に面していることも明かしていた(じゃなきゃセトナイカイオーなんて思いつかない)ので、山口県とかに住んでいるのかな~とか、どこか山間部に住んでいるのかな~とか、そんな風に思っていただけていれば御の字。

 要するに僕は、四国という田舎に住んでいると悟られたくなくて、どうとでも取れるようなことばかりを述べていたのだ。改めてごめんなさい。



 なぜ四国在住だと悟られたくないのかというと、恥ずかしさに似た感情があったからだと思う。日本国内には様々な創作物が溢れている。そのうち、現代日本を舞台にしたもののほとんどは関東圏でストーリーが展開され、他の地域は阻害されている感が強い。まあ、それでも大阪や京都を舞台にした話なんかはたまに見かけるけど、四国なんて絶滅危惧種だ。

 我が県――ああもう面倒くさい、はっきり名前を出そう、愛媛県を舞台にした創作物で、パッと思いつくものだと夏目漱石の「坊つちゃん」か。あれ、話自体は面白いんだけど、内容は基本的に愛媛県と愛媛県民をディスってるからな……。今でこそ「文学の街」として観光産業に力を入れているけれど、地元をディスってる文学で観光を盛んにしていることには正直だいぶ複雑な気持ちになる。もうちょっと他になかったのかよ。

 文豪・夏目漱石にまでディスられる愛媛県に住んでいることは、僕にとって一種のコンプレックスだった。だからなるべく隠していたのはある。



 住んでいる県名を伏せてきた理由は、まあこんな感じだ。では次に、「なぜ愛媛県のデートスポットは少ないのか」という話に移ろう。ズバリ、田舎だからである。僕が車の免許でも取ってドライブに行ければ話は別なのだけれど、電車と自転車のみが移動手段である現状、市内の主要なスポットは行き尽くしてしまった。

 あと行ってないところと言えば、道前温泉くらいかな。3000年前から存在する日本最古の温泉とされ、観光名所になっている。あの聖徳太子も入浴したと言われている。ただ問題は、ここに行ったとしてもヒロインたちはヒロインたちで一緒に女湯に入り、僕は男湯で一人で過ごすだけで、あんまりデートっぽくならないことだ。せいぜい、お風呂上がりに道前の街並みを楽しみながら散歩するくらいだろうか。

 ヒロインたちとの関係は秘密だから、まさか両親に話して車を出してもらうわけにも行くまい。こうなったら、松浦城のときみたく、桜井先生に運転をお願いして遠出するしかないかもしれない。愛媛は田舎だが自然豊かで、海沿いをドライブしたら絶景を楽しめること間違いなしだ。いや、何も桜井先生に限定する必要はないか。立花先生や星加さんが免許を持っているのかどうか、一度聞いてみよう。

 思い立ったが吉日。桜井先生の実習が終わった日の夜、僕はメッセージアプリのトークルームを開いた。



僕「……というわけで、正直、市内の主要なデートスポットを制覇するのは時間の問題です。そこで、ドライブデートを検討してみたいと思います。桜井先生以外で、車の免許を持ってる人は教えて下さい」

栞「あたしは持ってないわよ」


 逆に持ってたらすげえよ。受験勉強しながら自動車学校に通うような器用な真似、僕には到底無理だ。

 自動車学校、僕も将来通わないといけないんだろうか。嫌だなー。噂によると、自動車学校のおっさん教官ってチクチク嫌味言ってくる人も多いと聞くし。でもそういう教官に限って、女子大生が相手だとめっちゃ優しかったりするんだとか。うーん、この世の不平等の縮図。


星加さん「持ってます~。けど、全然運転しないので、ほぼペーパードライバーですねえ」


 うん、星加さんは何となくそんな気がした。


立花先生「持ってるよっ! 仮免許だけど!」

僕「それは運転したらダメなやつですよ!」


 現在進行形で自動車学校に通っている人もいた。立花先生を助手席に座らせて路上教習とかできちゃう教官のことが、ちょっと羨ましい。



僕「つまり、今運転できるのは桜井先生だけってことですね。桜井先生の都合がつくときであれば、またレンタカーで遠出したりも可能、と」

桜井先生「すまん、井上。そのことなんだが、教育実習の成果をレポートにまとめて提出しなくてはならなくてな。締め切りも近いから、今週出かけるのは難しそうだ。来週以降でも構わないか?」

僕「全然大丈夫ですよ!」

桜井先生「うむ、心得た。結婚式は来週以降、と」

僕「そんな予定はありません!」


 僕を車でどこへ連れて行こうとしてるんだよ。愛の逃避行でもするつもりか。

 やはりと言うべきか、実習を終えたことで「先生」としての立場から解放された桜井先生は、今まで以上に自由奔放になりそうだ。先が思いやられる。


桜井先生「冗談だ。……で、どうする。今後、私がデートに行けそうなときは、可能な限りレンタカーを手配した方が良いか? もっとも、毎回空車があるとは限らないが」

僕「全部のデートでとは言いませんけど、そうですね、できればお願いしたいというか……」

栞「ふーん。てことは、桜井先生。先生が運転してる間は、あたしが井上と後部座席でイチャイチャしてて良いんですね? その様子をルームミラーで見てるだけで良いんですね? やったあ!」

桜井先生「な、何を言うか、湯川! 井上の指定席は私の隣だ。貴様は大人しく後部座席で寝ていろ!!」

栞「寝てたら景色が楽しめません!」



 あーあ、また始まった。せめて、もう少し仲良くしてくれたら助かるんだけどなあ。

 ヒロイン同士の交流を深めることで険悪な雰囲気になるのを防ごうと、僕なりにここしばらく頑張っている。が、やっぱり湯川さんが一番の問題児だ。


立花先生「えーっ⁉ 私も井上くんの隣がいい!」

星加さん「私もです~。井上君には先日失礼を働いてしまったので、お詫びをしなきゃと思ってましたし。体で」

僕「最後の二文字で台無しですよ! 途中までは殊勝なこと言ってるなと思ってたのに!」


 星加さんは栞に「キスくらい皆経験済み」と嘘を吹き込まれた影響で、さらにその先へ進もうと勇んでいる。ただでさえ桜井先生からのアプローチをかわすので精一杯なのに、頼むからこれ以上僕の貞操を危機に晒さないでほしい。


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