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39 セトナイカイオー

 初めて会ったときの彼女は、「え、好き」と、思わず本音が出る形で想いを伝えてきた。小テストで居残りさせられたときに真意を問いただすと「そのままの意味だ、将来的に私のヒモになれ」と言われた。

 だから、桜井伊織からこうしてストレートに、真っ向から愛を伝えられたのは、今回が初かもしれない。


「ありがとうございます、先生。僕のことを真剣に想ってくれて」


 せめて、その想いにできる限り応えようと、僕は深く一礼した。


「いつか必ず、答えを出してみせます。先生の想いにも、皆の想いにも」

「うむ。焦らしプレイも嫌いではないぞ。多少待たされることくらい、どうということはない」

「告白の返事を待つのは、焦らしプレイのうちに入るんですかね……?」


 嬉しそうに言う桜井先生を見ていて、ちょっと不安になってしまった。



「やめて下さいよ。ただでさえ立花先生の『やりたいことリスト』を達成するのに手一杯なのに、桜井先生の『やりたい性癖リスト』が追加されたら、時間がいくらあっても足りませんよ」

「心配は無用だ。私の性癖は全て、広義ではSMのMの方に分類されるからな」

「少しだけほっとしましたけど、誇らしげに言うことではないですよ!」


 ふと、壁にかかった時計を見る。まずい、もう昼休みが残り半分を切っている。ついつい長台詞ばかり喋ってしまって、時間をロスするのは僕の悪い癖だ。


「すみません、先生。僕まだお昼を食べてないので、そろそろ失礼しますね」

「む、そうか。ではまたな」


 こくりと首を縦に振る先生。


「桜井先生はもうお昼食べたんですか? もし先生もまだなら、前みたく中庭で一緒に食べます?」

「私はもう済ませたよ。何を食べるでもなく、中庭で一緒に過ごしたいのもやまやまなのだが、生憎、次の授業の準備があるのでな。悪いが、今日の逢瀬はここまでとしよう」

「逢瀬って……」


 表現がいちいちエロい。少なくとも、進路指導室で教師の口から飛び出していいワードではないだろう。

 指導室を出ようとしたとき、僕のズボンのポケットの中でスマホが振動した。トークルームに新規通知が来たらしい。



「井上。校則は知っていると思うが、原則として校内でスマホはマナーモードに設定しておくように。使用を許可されているのは、緊急時に保護者と連絡を取るなど、やむを得ない場合だけだ。今回は見逃すが、次はないぞ。没収だ」

「は、はい。すみません」


 さすが桜井先生、こういうところはきっちりしている。僕は平謝りに謝った。


「あの、今来た通知だけ、チラッと見ても良いですか? もしかすると、例のトークルームかもしれないので」

「……そういうことなら、一瞬だけ許可する」


 微妙に間を開け、答えるチェリーブロッサム以下略。星加さんのことが頭をよぎったのだろう。彼女が次にどう動くかは、桜井先生にも予想がつかないようだ。

 はたしてスマホの画面には、こう表示されていた。


星加「秋祭りかあ~。うむむ、人混み苦手なのでパスで! ごめんなさい~」


 ご丁寧に、可愛らしい顔文字付きである。散々待たせた末の返信がこれか。

 まあ元々、部屋に高そうなゲーミングパソコンやモニターを用意して、ネットで配信しているくらいにはインドアな人なのだ。アウトドアに付き合わせる方が無理というものか。

 でも、人混みを避けてデートするとなると、行き先が結構限られてくるな。それこそ、立花先生と行った島とか、この間の松浦城の裏登山口とか。



「どうした? 星加七海は何と言っている?」

「彼女、秋祭りには行きたくないそうです。人混みが苦手らしくて」

「そうか。では、代わりに私と行こう」

「しれっと誘わないで下さいよ! 一応これ、立花先生と星加さんと僕とで出かけようって企画なんですけど!」


 僕の日常に平穏が訪れるのは、まだずっと先の話になりそうだ。



 昨今、日本全国でご当地ヒーローが制作されている。某ウイルスによる外出自粛をきっかけにアニメや特撮を見るようになった僕、井上悟としては、全国的に特撮ヒーローもののかっこよさがある程度認知されてきているようで、とても嬉しい。

 けれども、それでもあえてご当地ヒーローの物足りなさを挙げるとするならば、それは「あくまで等身大特撮にとどまっている」という点だ。つまり、巨大なロボやスーパーマシン等がほとんど出てこないのである。


 さすがに制作費の都合もあるだろうし、仕方ないとも思う。だが、僕は巨大ロボが大好きだ。ロボの合体シークエンスも好きである。「合体」とはすなわち、仲間と力を合わせることの象徴であり、男のロマンだ。できればロボを出してほしい……と願うのは、無茶ぶりと言うものだろう。

 現実的に可能かはともかく、僕の頭の中で好き勝手に、自由気ままに妄想するだけなら問題ないはずだ。日本国憲法は思想・良心の自由を保障している。


 ご当地ヒーローの舞台はここ、中国・四国地方と仮定しよう。1号ロボ、すなわち戦隊の初期メンバー5人が乗るロボットと、追加戦士の専用ロボ(=2号ロボ)はまず欲しい。ついでに、その2機が合体してパワーアップし、敵幹部を倒す回とかがあれば最高だ。で、合体ロボでも勝てない強敵には、完全新規造形の3号ロボ(6人乗り)で対抗する。

 3号ロボの名前は「セトナイカイオー」でどうだろう。瀬戸内海をカタカナにして末尾にオーを付けただけで、なんかロボっぽくなるから不思議である。ちなみに、僕のイメージでのセトナイカイオーは青い鎧兜を装着していて、武器は薙刀。かつて瀬戸内海で暴れ回ったという村上海賊っぽい意匠を、要所要所に入れてみたい。


 セトナイカイオーは3号ロボだから、もし玩具が発売されるとしたらクリスマス商戦の時期だろうな。売り上げを伸ばすため、番組内でも活躍するシーンをいっぱい貰えそうだ。やっぱり、クリスマス前に「ザ・総力戦」的な派手なバトルを繰り広げて、これまでに登場した武器やロボを全部登場させて販促するのが王道。うん、良い感じだ。もしかすると僕には商才があるのかもしれない。

 だとしたら参ったな。桜井先生のヒモになるどころか、むしろクリスマス商戦で大儲けして養ってあげるまである。いや、養って欲しがってるのは星加さんの方か。



 前置きが長くなってしまった。何について話そうと思っていたんだっけ……そう、セトナイカイオーだ。じゃなくて、瀬戸内海だ。

 瀬戸内海には多くの島々がある。以前立花先生を島へ海水浴に連れて行ったときのように、人混みが苦手な星加さんのため、僕は星加さんと立花先生を他の島へまた連れて行こうと考えたのである。それが今回のデートだ。


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