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30 下手の考え、否決

「下手の考え休むに似たり」。

 下手な者が長考しても時間を浪費するばかりで、何の効果もないという意味の言葉だ。元々は、囲碁や将棋で相手が考え続けるのを嘲笑する意で使われたらしい。

 一見すると正しいように思われるこの言葉だが、しかし、18年間生きてきて社会のことが少しずつ分かり始めた今の僕からすれば、暴論のようにも聞こえる。


 たとえば、営業マンという職種の人間。営業ノルマさえ達成していれば、彼らは仕事中に休憩していてもおとがめなしである。カフェでまったりしていようが、パチンコに熱中していようが、サボりが認められている。営業マンは仕事中に休んでも良いし、何ならそれすらも仕事のうちだったりする。

 ところが、僕の場合はどうだ。立花先生、栞、桜井先生、あと一応星加さんの4名のヒロイン候補たちとどういう関係性を続けていくべきか、考えても考えても答えが出ない。そんなことをしているうちに、気づけば2日も経ってしまった。


 なるほど、2日熟考しても正解を導け出せない辺り、僕は上手か下手かで言えば下手なのかもしれない。「下手の考え休むに似たり」なのかもしれない。けれど、二日間必死に知恵を絞った僕が「休むに似たり」、つまり休んでいる、仕事をしていないと認定されて、業務時間内にサボりを決め込んでいる営業マン(ノルマ達成済み)が仕事をしていると認定されるのは、何かがおかしいと言わざるを得ない。世の中には、僕一人の力では決して覆すことのできない理不尽な運命があるのだ。


 そんな理不尽に対して不満は色々あるけども、要は何が言いたいかというと、僕は2日間頑張ったけれど特に何も成果を出せなかったということだ。アイデアは二つほど出たが、ヒロインたちに提案してみたところ速攻で却下された。

 あの後、僕と立花先生、栞、桜井先生の四人のトークルームをメッセージアプリ内に作成し、アイデアを提示したのだ。

 以下は、そのトークルームでのやり取りである。



僕「桜井先生と星加さんの案を折衷して、こんなのはどうでしょう。四人と僕が一回ずつデートをして、その上で、誰が一番かを決めるというのは」

桜井「ちょっと待て。確かに私は、接触頻度を均等化すべきではと主張した。星加曰く、愛情の大きさと接触頻度は比例しないとのことだが、それもまた真理だろう。……だがな、井上。立花先生と貴様はもう幾度となく会っているのだろうが、私や湯川は、校外で二人きりで貴様と過ごすのは初めてなのだぞ。たった一回のデートですべてを判断されるなど、たまったものではない!」

栞「そうよ。せめて2,3回は会いたいわ。べ、別に、私とだけちょっぴり多く会ってくれても良いんだからね!」


 ちなみにこの二人、僕のメッセージに既読を付けるのに十秒もかかっていない。返信も超速だった。もしかしたら、めっちゃ焦らせてしまったのだろうか。



僕「デートする頻度を毎週末に一人ずつとして、桜井先生の教育実習期間も考慮すると、一回ずつのデートでも正直ギリギリ期間内に終わるかどうかってところなんです」

桜井「何を言う。校外でのデートならば、実習が終わった後でも何ら問題ないだろう。長期戦でもどんと来い、耐久力には自信がある!」

僕「それがあるんですよ……」


 教育実習期間が終わるのとほぼ同タイミングで、うちの高校の文化祭も終わってしまう。そうすると三年生の参加する行事はほぼ全部終わりで、あとは受験に向かって一直線に走るだけとなる。僕の成績的にも、学校の空気的にも、毎週末にデートしようって感じではなくなるのだ。その時期になっても遊んでばかりいると、両親からもかなり印象が悪くなるだろう。最悪、デートに出かけるのを許可してもらえなくなる可能性もある。

 栞だって、学校や家庭内で同じような状況に置かれるはずだ。リスクを冒して、自分たちの将来を危険に晒してまで逢瀬を重ねるのは、賢明な判断だとは言えない。

 こういった事情を説明してから、僕は切り返した。


僕「桜井先生だって、そろそろ卒論とかあるんじゃないですか?」

桜井「うっ……卒論……字数にして三万字近い……」



 それからしばらく、チェリーブロッサム・グッドケージもとい桜井伊織は大人しかった。最近は卒論代行サービスもあるらしいけれど、バレたら十中八九退学になるので、やっぱり自力で書き上げるしかないのだろう。僕がゼミだか何かに入って卒論を書くときは、卒論がないところや字数が短くてもOKなところを選ぼうと思った。


栞「あんたが色々考えてくれたのはありがたいけど、一回のデートで全部決まっちゃうのには、あたしも反対かな。何ていうか、ちょっと強引な気がするわ。急いで話を終わらせて、いきなり最終回が来るみたいじゃない」

立花「私たちの戦いはまだまだ続くぜっ! みたいな?」 

僕「それは話が終わってない例ですよね⁉」


 おお、ここでようやく立花先生も参戦してきた。打ち切りになった漫画の最終回みたいなテンプレ台詞付きで。



僕「安心して下さい、皆さん。こんなこともあろうかと、僕はもう一つ、別のアイデアも用意してきました」

立花「おおーっ! どんなのかなっ? わくわく」

僕「前回、星加さんがした指摘は覚えてますよね? 彼女の言ったことは、僕はあながち間違ってないと思うんです。ただ、もし星加さんの主張を全面的に受け入れてしまうと、立花先生たち3人ないし4人の中で喧嘩が勃発する可能性がある。皆が僕を取り合って争うような事態は、絶対に避けたい。だから、あの場で星加さんの案を即採用とはしなかったんですけど」

立花「うんうん」

僕「ただ、よく考えてみると、要は喧嘩が起こらなければいいんじゃないかなって」

栞「……? つまり、何が言いたいのよ」

僕「喧嘩が起こらないためには、皆が仲良くなればいい。そう、つまり、僕とヒロイン候補が仲良くなるだけでなく、ヒロイン同士で仲良くなれば良かったんです。ああ、こんな簡単なことになぜ今まで思い至らなかったんでしょう。解決策は実にシンプルじゃないですか」

栞「嫌よ!」


 おい、嘘だろ。渾身のアイデアを三秒で否定された僕の気持ち、湯川さんは分かってるのか?



栞「これまで何人もの男を攻略してきたけど、あたしの魅力に靡かない男はあんただけだったわ。あんたはあたしにとって、何としてでも攻略したい特別な存在なの。他の女には渡さないし、あたしから井上を奪おうとする奴は誰であろうと皆敵よ!」

僕「清々しいまでの悪役ムーブだな……」


 おかしい。僕が今までに読んだラブコメ漫画によれば、ヒロイン同士がいちゃついている回は軒並み読者から評判が良く、誰もが求めている展開のはずなのだけれど。

 いや、僕と栞では読んできたラブコメの系統が違い、考え方が異なるのか。彼女はもっとこう、男がハーレム状態になる系ではなくて、ちょっと強引でワイルドな王子様に主人公が見初められる系が好きなんだろうな。もっと言えば漫画を現実に応用すること自体に無理がある気はするけど、そんなことを言い出したらキリがないのでこの辺にしておこう。


立花「湯川ちゃん、皆で仲良くするのは大事だよ! たとえ私が井上くんを奪っちゃったとしても、湯川ちゃんと私の友情は永遠だからねっ!」

栞「最悪な結果になることが前提の友情⁉」


 そもそもこの二人、仲が良いかと言われたら微妙なんだよな……。大体いつも、立花先生のちょっとズレた発言に、栞が呆れ気味にツッコんでいる感じ。

 色んなアニメや漫画について言えることだが、キャラ同士の食い合わせって結構大事だ。メインキャラクター同士で性格や考え方が嚙み合わないとどうしてもギスギスするし、ストーリー進行がスムーズにいかない場合もある。その点、僕を取り巻くヒロインたちは相当微妙だ。今は黙り込んでいる桜井先生にしたって、言い方がきつく感じることが多々ある。

 まあこんな感じで、僕が出した二つのアイデアは見事に否決されたのであった。



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