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27 刺さる人には刺さる

 その後、一週間ほどはプラン通りにことが進んだ。校内で一緒にお昼を食べたり、図書室で静かに本を読んで過ごしたりというだけだが、十分に楽しかった。それに、謎の背徳感もある。秘密の関係的な。

 チェリーブロッサム・グッドケージ、もとい桜井伊織に関しては、進路指導室に僕を連れ込んだかと思うと「貴様の進路は私のヒモだ」「私の専業主夫になってくれ」などと、熱烈にアプローチしてきたこともあったっけ。さすがに断ったけれど、あれは強烈だったな。

 僕はアルバイトでさえ長続きした試しがなく、学生なんだから当然だけど、ましてや正社員として働いたことはない。働いたことがないから世のサラリーマンの気持ちはよく分からないが、仕事で精神を病んでしまう人の話をよく聞くし、働いてお金を稼ぐ、妻と子供を養っていくというのは本当に大変なのだろうと思う。そう考えると、女性に養われ、家事手伝いだけをして暮らしていくのは、魅力的な選択肢ではある。


 ただ、養ってもらうにしても、僕を養う相手が必ずしも桜井先生でなければならないのか。万が一専業主夫でなくなった場合、職歴に長いブランクができている状態の僕を雇ってくれる会社はあるのか。その辺を考慮すると、やはり二の足を踏んでしまう。

 桜井先生の脳内に、僕をヒモにせずに普通に付き合うという選択肢はないのだろうか。いつか聞いてみたい気もする。



 第2、第3ヒロインが現れたときは、さすがの僕も今後の展開を危ぶんだ。けれども、結果的には何とか上手く、ギリギリのところで収まっている。

 もちろん、皆が納得できる関係性を維持していくのは楽ではないし、たまに立花先生が他二名にやきもちを焼いてしまうこともあるけれど、少なくともこの関係は破綻してはいない。

 しかし物語のセオリーとしては、ある問題が解決して一段落したところで、新たな問題が浮上してくるものである。この場合、第4のヒロインが登場する可能性がある。


 だが、いつだったか説明したように、僕には幼馴染もいなければ妹もいない。栞以外には、学校で話す女子もいない。受験まで残すところあと数か月というタイミングで、よもや転校生がやって来ることもないだろう。その転校生が、巨大ロボットのパイロットだという可能性もないだろう。

 教育実習生として桜井先生が来たのは予想外だったけれど、もう時期も時期だし、今後また実習生が来ることもないはずだ。よし、大丈夫。フラグはすべて回収済み。これ以上、ヒロイン候補が増えてたまるか!



「すみませ~ん」


 と、自室で一人テンション高く勉強していると、インターホンが鳴らされた。


「お届け物です~」

「あ、はーい。今行きます!」


 そうだった。今日は両親ともに帰りが遅くなるとのことで、「出前でも取って夜ご飯食べてて」と言われていたのだった。30分ほど前に頼んだ弁当が、今届いたらしい。最近は出前を注文できるアプリの数が増えて便利になった一方、配達員さんも大変だろうな。


「どうもです~。ご注文のお弁当のお届けです」


 玄関ドアを開けると、そこにいたのはやけに緩い格好の配達員さんだった。若い女性。髪は明るい、むしろ明るすぎるくらいの金髪で、肩と胸が大きく露出した黒いシャツを着ている(僕は女性のファッションに無知なので、こういうデザインの服に正式名称があるのだとしても分からない)。下半身に履いているのは……ジャージ? ジャージなのか、これは。いや、どう見てもジャージだ。ファッションに無知な僕でも分かる。いくら何でもラフすぎやしないか。

 どこかで見たことある顔だなと思ったら、そうか、思い出したぞ。この人、だいぶ前に立花先生と一緒に年齢確認がガバガバなカラオケに行ったとき、店で受付をやってたフリーター風の女性だ。あのときは髪がどぎついピンク色だったから、パッと見では同一人物だと分からなかった。カラオケ店のときは制服を着ていたけど、私服だとこんな感じなのか。バイトを複数掛け持ちしているのかもしれない。



「あ、ありがとうございます」


 会釈し、代金と引き換えに弁当を受け取る僕。視線を感じて顔を上げると、フリーター風の女性が僕の顔をじっと見ていた。


「うーん。何だろうな~。私、どこかでお客さんに会ったことあるような気がするんだけど、思い出せないですなあ。あの、もしかしてお客さん、前世で私と家庭を持ってたりします?」

「いや、たぶん持ってないと思いますけど……」


 僕は引き気味に答えた。


「だよね~。前世のことなんて分かんないですよねえ」


 じゃあ何で聞いたんだよ!

 このお姉さん、話し方がゆるふわ系に近い感じだな。話を聞いているうちに、余計な力が自然と抜けてしまいそうだ。にへら~と笑うと目が細くなるのもチャーミングだ。



「僕の記憶が正しければ、配達員さんって以前、カラオケ店で働いてませんでしたっけ? そのときに会った気がします」

「あっ、そうだね~。あのときはあそこでバイトしてたんだよね、もう辞めちゃったけど。そして、私も今思い出しましたよ。背の高い男子大学生風のお兄さんが、女子高生らしき人物をカラオケの個室に連れ込んで、いけない密会をしている場面を!」

「誤解です!!」


 さすがに誤解されたまま帰られるのは後味が悪かったので、僕は財布から学生証を出し、自分が現役の高校生であるという身分証明を行った。つまり、高校生であるところの僕が女子高生と一緒にカラオケの個室に入っても、何ら問題ないと主張した。

 まあ、実際にはその女子高生の正体が、女子大生なわけだけれども。


「そっかあ~。ごめんなさいねえ。お姉さん、お客さんのことやばい人かと誤解してたよ」

「いえ、傍から見ればそういう風に見えるのは仕方ないです。僕、身長だけは無駄に高いんで、よく大学生と間違われるんです」

「いいじゃないですかあ、背が高くて。私なんか、女子の平均身長ぴったしなんですもん」


 と、そこで、お姉さんはスマホを取り出して「おっと~」と呟いた。


「ごめんね~、お客さん。新しく注文が入っちゃったから、私、そろそろ行かなくちゃです。めんごめんご」


 立花先生のバッチグーほどじゃないかもしれないけど、めんごめんごも相当な死語じゃなかろうか。



「いえいえ、配達して下さってありがとうございました。また機会があればお願いします」

「おけおけ~。私、基本的に夜行性で、夕方から深夜にかけてこのエリアをメインにやってるからさ。弁当でも何でも頼んで下さいまし~」


 そう言って手をひらひら振って、お姉さんは帰って行った。

 落ち着け、僕。まさか、あのお姉さんが第4ヒロインになるわけがないじゃないか。相手は二十代後半(推定)、桜井先生よりもさらに年上、歳の差恋愛になってしまうんだぞ。ちょっと現実的ではないんじゃないか。フリーターだと、桜井先生のように養ってくれるわけにもいかないだろうし。


「でも、あの何とも言えない緩い感じ、刺さる人には刺さりそうだな……」


 僕はそんなことを独り言ちながら、唐揚げ弁当を食べたのだった。


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