25 ランチ・ミーティング
成人。
「人」に「成る」と書いて、成人。逆説的に言えば、成人していない未成年の若者は、人に成る以前の別の何かなのかもしれない。
僕はまだ高校生ではあるけれど、もう18歳だ。日本の法律に基づけば、成人している。成人しているということは、羽目を外しすぎない限り、異性とお近づきになっても問題ないということだ。
あれから三人のヒロインとどう向き合うべきか考えた結果、僕は今日、栞と桜井先生をここに、つまりいつもの中庭に呼び出したのだった。
「ねえ、井上。あたしがわざわざ早起きして手作りしてきてあげたお弁当、どうしても食べたいって言うのなら、分けてあげてもいいわよ!」
僕の左に座っているのは、ご存知、湯川栞。まだまだツンデレムーブが抜けていないけれど、これでも素直になってきた方ではないだろうか。
「ああ、ありがとう。いただくよ」
笑顔で差し出された弁当箱を、ありがたく受け取る。ずしりと重いのは、愛情が詰まっているせいか。いや、思ったよりだいぶ重いな。一部とはいえこれを食べなきゃならないのか、僕は。食べきれるかな。
「湯川にばかりデレデレするなよ、井上。今日は私も、お菓子を手作りしてきたのだからな」
右隣の桜井先生が、やや拗ねたように紙袋を差し出した。
「先生もありがとうございます」
中を開けてみると、クッキーが入っていた。おそらくシンプルなプレーンクッキーだろう、型抜きで様々な形に作ってあり、眺めるだけで楽しくなってくる。
「料理は不得手なのだが、私も立花先生や湯川に負けていられんと思い、一念発起してな。昨夜、レシピを見ながら焼いてみたのだ。良かったら、食べてみてくれ」
「は、はい、ぜひ! 後でいただきます!」
照れたように視線を逸らし、髪の毛の先を指でくるくる弄っている先生。普段のクールな表情とのギャップが素晴らしかった。こういうのをギャップ萌えと言うんだろうな。
桜井先生も自分のお弁当を取り出し、三人仲良く手を合わせていただきます。ある程度食べ進めたところで、先生が本題に入った。
「……それで、今日私たちを呼んだ理由は何なのだ? 大事な話がある、ということだったが」
「あ、はい。そのことなんですけど」
栞から頂いたお弁当のおかずを咀嚼し終えてから、僕は答えた。
まさか、お昼ご飯にレバニラを食べることになるとは……。重量だけじゃなくて、内容的にも割と重い。あの湯川栞のことだから、僕に精力をつけてほしいと考えている可能性がなきにしもあらずなのが怖いな。
「この前、立花先生も含めて四人でファミレスで話し合ったじゃないですか」
「うむ。立花先生が一歩リードしている現状を鑑みて、私と湯川は貴様との接触頻度を挙げて前提条件を揃える必要があるという話だったな。だからこうして、クッキーを作ってきたわけだが。なあ井上、気が変わったらいつでも言ってくれよ。積立おっぱいでもヒモになる契約でも、私はどちらでも大歓迎だ」
「そんなすぐに気が変わったりはしませんよ⁉」
いつまで積立おっぱいとかいうパワーワードを引っ張るつもりなんだ、この人は。
「……まあとにかく、ファミレスでの話し合いで、先生や湯川さんとも接触頻度を上げる、つまりデートとかをする機会を増やすと決まったわけですよね。ただ、僕も受験生である以上、週に2,3回の立花先生の授業に加え、週末の立花先生との『やりたいことリスト』、そこへさらに二人とのデートを組み込むと、勉強時間の確保が難しくなると思うんです」
二人の表情を窺いながら、続けた。
「だから、デートではなく勉強会にするというのはどうでしょうか。その場合、立花先生とだけお出かけするのは不公平感があるので、お出かけの頻度は減らします」
「勉強会か……」
「勉強会ね……」
ううむと考え込む、桜井先生と栞。数秒後、先生がパッと顔を上げ、「却下だ」と凛として告げた。
「デートでなく勉強会という体裁を取るなら、なるほど、貴様との接触頻度は上がるかもしれん。が、親密度を上げるのに限界がある。勉強会ではイチャイチャできん。私の胸を好き放題に揉みしだいてもらうこともできん。これでは、真に前提条件を揃えたとは言えないぞ」
「胸を揉みしだいてもらう前提で話を進めないで下さいよ!」
「しかも井上、貴様は確か私立文系志望で、受験に必要な科目は国・英・社のみだったはずだ。となると、数学しか教えられない私では、あまり力になれない。それどころか、本来ならば国・英・社の勉強に充てることもできた時間を数学に充てれば、貴様のメイン3科目の勉強時間が削られてしまう。むしろ逆効果だ」
「それに、立花先生や桜井先生はともかく、あたしに先生役をやれって言われても無理よ」と栞も口を挟む。
「成績だって、せいぜい中の上くらいだし。あんたに質問されても答えられないどころか、逆に教えてもらうことになるかもしれないわよ。……ま、まあ、教え合いっこするっていうのも、悪くはないけどね!」
本音がダダ漏れだ、本音が。
前回、桜井先生が積立おっぱいという名の強力なカードを切ったとき、立花先生は焦って自分も脱ごうとしていた。しかし、栞は全然動じていないように見える。三人のヒロインの中でおそらく一番恋愛経験が豊富な彼女には、そんな小細工は通用しないのだろうか。あるいは、自分のむちむちボディーに絶対の自信を持っているとか。いずれにせよ、胸を僕に揉みしだかせようとしてくる桜井先生とは対照的だった。
「二人の言うことも、もっともだと思う」
僕は首を縦に振った。
「代替案として、『学校内で一緒に過ごす時間を増やす』のはどうかな?」




