プロローグ
「はい、井上くん。あーんっ」
「あ、あーん……」
カフェのテーブル席で、向かい合って座る男女。そのうち女性の方が某私立高校の制服を、つまりブレザーと丈の短いスカートを着ていて、男性の方が良く言えば渋く落ち着いた、悪く言えば地味なファッションに身を包んでいたら、あなたはどう思うだろうか。
「どう? 美味しい?」
「は、はい。美味しいです、先生」
ヒントが少なすぎるかもしれない。もう少し説明を足そう。女性の方は小柄で童顔、髪色は明るい茶。今まさに、いちごパフェをスプーンで一掬い、にまにましながら男性へあーんしている。チョコパフェを注文している男性は、かなりの長身だ。おそらく身長180cmはある。黒々とした髪を短めに刈っていた。
普通の人は、こう考えるはずだ。「女子高生と男子大学生が付き合ってるやつじゃね?」と。
実際、店内にいる他の客から僕たちへ投げかけられる視線の多くには、そういったニュアンスが込められているように感じる。あくまで興味本位、ゴシップ程度という具合に。
「良かった~。じゃ、次は、井上くんのチョコパフェを私にあーんしてほしいなっ!」
「勘弁して下さい」
「もしかしなくても恥ずかしいの? うりうり~」
「小突かないで下さいよ。ま、まあ、恥ずかしくないと言ったら嘘になっちゃいますけど……」
しかし、事実は逆である。僕たちの会話をよくよく聞けば、気づいた人もいるかもしれない。何せ、彼女は僕を「くん」付けで呼んで可愛がろうとしてくるし、僕は彼女を「先生」と呼んでいるのだから。
結論を言うと、「女子高生と男子大学生が付き合っている」のではなく、「男子高校生と女子大生が付き合っている」のだった。具体的には、背が高くて大学生にも見える男子高校生と、なぜかJKの制服を着ている女子大生が付き合っている。
あーんされた恥ずかしさに顔を赤くしながら、僕は「どうしてこんなことになったんだっけな……」と束の間、回想に逃げることにした。
瀬川弘毅です。約4年ぶりの投稿になります。
できる限り、毎日投稿してみようと思っておりますので、よろしくお願いいたします。