1発1万円のお買い得な値段設定で挑んだ恋愛戦争負け戦
「ん、今日もご苦労さま。んじゃ1発1万ね。今日は3発とあとオプション込みだから5万、かな」
「はぁ......。はい、どうぞ」
「1、2、3、4、5っと。うん、ちょうど〜。今週もまいどあり。まぁこんな格安で呪いは弱められて、しかもこのボクの身体で気持ちよくなれるんだから安いもんだよね。破格だよね?」
「いや、普通に高いよ。全然高すぎる」
「......は?」
「最近は心依さんの締まりも悪くてあんま気持ちよくないし」
「は? は? は?」
「そのせいで前より時間かかるようになってるし。俺にも自分の予定あるのに都合つけるの大変だしさぁ」
「ん? ん? ん?」
「しかも儀式の最中なんて、心依さんだけ1人で好き放題よがって愉しんでるし。ちょっと飽きてきたっていうか。なんならほとんど俺がサービスしてるようなもんじゃん。その分安くならないの......?」
「え、え、え。よくわからないんだけど。え、いまなんてゆった? ボク聞き間違えちゃったかもしれないから、もっかいゆってもらえる?」
「だから、心依さんのユルユルの穴を俺が一方的に気持ちよくしてあげてるんだから、その分のサービス料分の値引きがあってもいいんじゃないのって話」
「っ!? ......言うに事欠いて、ボクの締まりが悪いとか、花のJKに言う言葉じゃないよね? え、あんなにボクのお胎の中にすきほーだいぶちまけておいて? お金払わずに帰りたいってこと? 値下げしろとか、命の恩人に向けてそういうこと言っちゃう?」
「いやまぁそうなのかもしれないんだけどさ。さすがにそろそろお金払えなくなってきたし、時間もキツイから。せめて1回に2、3時間くらいだったらまだなんとかなるんだけどさ。毎週1日ずっとコレに取られるのはちょっと......」
「あ゛ぁ゛っ? 駆真、ボクのことなめてんのか!?」
「威圧されてもなぁ。心依さんに圧かけられてもいまさらあんま怖くないっていうか。ベッドの中でもかなり俺色に染まってる感じっていうかさ。発情期のケモノみたいになってる姿知ってるからなぁ」
......この男、ほんっと相変わらずのらりくらりと。いくら恋愛は戦で、正々堂々も卑怯もないって言ってもさぁ。さすがにもうちょっとフェアプレー精神発揮してもよくない?
ボクがここまで譲歩してるんだからそっちも譲歩してプロポーズの1つや2つくらいしてこいよ。
ボクのハジメてはとっくの昔に何もかも駆真にあげたし、いっつも身体の隅々まで使わせてあげてる上に、いろんなワガママきいて、タトゥーやらピアスやらスプリットタンやら全身好き放題改造させたげてるってのにさぁ。
別にこっちは金が欲しくてこんなアホなことヤってるわけじゃないんだわ。駆真が駆け引きしだしてアホ可愛すぎるからノってあげてるだけなんだわ。年上お姉さんの余裕を見せるためにわがまま聞いてあげてるだけなんだわ。
駆真がボクのこと好きだってのはとっくに明らかなんだから告白くらいはさすがにそっちからしろよ。いつまで駆け引きやらせんだよ。
こっちは堕胎も経験してんだわ。最初にからかったりし始めたのはボクの方ではあるんだけどさ。男ならそのくらいのことはサラッと流して今を生きようよ。
なんだよ呪いを弱めるための儀式としてヤるって。ありえねぇでしょそんなん。ボクが言い出したことなんだけどさぁ。いつまで騙されたフリしてんだっつの。明らかな嘘なんだから早く指摘してよ。
だいたい、誰が駆真色に染まってるって? 染まってないわ! ただたまたまボクらの相性が良すぎるだけなんだよっ!
くっそ。なにポケ〜っとした表情してんだよ。こっちは怒ってんの。まるで何も考えてなさそうな顔しちゃってさ。ホントはボクを落とすために頭の中ではいろいろ策を弄してるくせに。
可愛すぎるしズルいでしょっての。
......ねぇ、ボクはそろそろ心身ともにわりと限界なんだよ。両想いってわかってても中途半端な関係のままじゃツライよぉ。
このままじゃボク、ただのセフレじゃん。いや、もはやほぼお便所かも。うぅ、いい加減告白してよぉ。ボクの身体に飽きたとか言わないでよぉ......。
ヤバ、泣きそう。
ボクが大人しく告白すればいいのかもしれないけどさぁ。でもさぁ。いまさらボクから告白するとかありえないからぁ。これまでの努力が全部ムダになるってことだしぃ。
それに......友達の弟の、それも3つも年下の男の子に告白するとか......ハズカシいし。
うん、やっぱどう考えても駆真のフェアプレー精神が足りなすぎる! 戦術がゲスすぎる!
ボクは駆真のそんなゲスなストラテジー、ゲストラテジには絶対に屈しないよっ。そっちが泣いて結婚をせがんでくるまで彼女にもお嫁さんにもなってあげないからねっ。
うんうん、そうだそうだ。優位性はまだまだボクにあるんだ。お金もこれまで3桁万円は搾り取ってる。なのにまだ払い続けてるなんて、どう考えてもボクのことが大好きじゃないとできないはずだ。そう、駆真は明らかにボクのこと大好き。落ち着いていけ、ボク。
「ふぅ」
頭の中で色々葛藤したらちょっと落ち着いてきた。
危うくこの恋愛戦争、ボクの負け戦になるところだった。ここまでやってあげたんだから、さすがにボクが主導権握る形で勝たないと割に合わなすぎる。
「まったく駆真は物わかりが悪いなぁ。いい? 君色に染まってるとか、お金がないとか関係ないの。ボクにはなんの得もないけど、友達の弟が可哀想だから仕方なく、妊娠のリスクを背負ってまでキミを助けるために穴ポコ捧げてあげてんの。相応の対価は支払わないとオカシイよねって話をしてるわけ。わかった? それともやっぱりボクのことなめてんの?」
「なめてません」
いちいち反論すんな!
「舐めただろ! ボクの全身! ベロベロって! 顔中ベトベトになるまで舐め回しただろ! うそつくな!」
「............心依さんが、儀式には絶対必要だって無理矢理ヤらせてくるんじゃん......」
「なに。まさか今また文句ゆった? まるで自分は舐めたくなかったみたいな言い草だね? ホントは嬉しいくせに。ボクに責任転嫁しないでくれるかな?」
「いや俺は舐めたくないよ。剛毛すぎて口の中にめっちゃ入ってきて凄いことなるし、匂いもヒドいし......。俺はもうバチがあたってもいいからやめたいって言ってるのに無理やりやらせるのはそっちじゃん!」
「うーわっ、うーーーわっっ! この男、とうとう開き直っちゃったよ。自分の命と快楽のためにボクの身体を無責任に貪ってるくせに。ボクはキミのためを思って端金でヤらせてあげてるっていうのに。ボクで童貞捨てたくせに。ボクでパパになりかけたくせに! ねぇ、ボクが一発受け止めるたびにどんな気持ちなのか想像つく? すっごく怖いんだよ。また孕んだらどーしよーってさ。わかってるのかって聞いてんだよ!」
「いや、勢いでなんとかしようとしないでよ。俺はいつも薬飲んでいいよって言ってるのに飲まないのは心依さんじゃんか」
「だ、だからこの儀式だと薬を飲んじゃいけなくて......」
「うん、そう言ってたね。でもさっきも言ったけど俺はもういいんだってば。いままでしてくれたのはありがとうだけどさ。これ以上、父さん母さんと姉さんに迷惑かけるくらいなら、俺にバチ当ててもらった方がいいよ......。うん、もっと早くそうしてればよかった」
は? は? は? こいつ何言ってん?
もしかしてボクにトドメ刺しに来てる? 儀式とかいう茶番終わらせてボクに駆真の繋がりをなくさせて焦らせることでボクにプロポーズさせようとしてる? 卑怯すぎん?
「あーそう、へーそう。そーいう態度でくるわけ。なるほどなるほど。ふーん。あっそう。駆真がそういうつもりならボクももう知らないよっ。知らないったら知らないよ。あとで泣きついてきても遅いからね。いま謝るんだったらまだ許せるかもしれないけど、今を逃したらもうないからね」
「えっ、マジで終わり?」
ほれみろ。なんだかんだ言って、ボクに引き止めてもらうの待ちなんじゃないか。でも今回はさすがのボクもたいそう傷ついたからね。反省するまで許してあげない。そっちがそういう卑怯な手を使ってくるなら、こっちも今日でトドメ刺しにいくもんね。今更後悔しても遅いんだから。
「ふーんだ。駆真が謝らない限りは、ホントに辞めるもんね。もう二度と挿れさせてあげないし、お祓いの儀式もしてあげないからね」
おらっ、涙流して謝れ! また抱かせてくださいって懇願してプロポーズしろっ!
「うぉー! まーじかっ! あーよかった。もう金も時間もホントもうカツカツだったから。ギリ耐えたわ。まぁお祓いなくなったらバチあたるかもしれんけど、俺のところに落ちてくるだけならしょーがないよな。俺は余生を全力で満喫するわ! 心依さん今までありがと! んじゃまた!」
「....................................え?」
*****
「ちょっと泉珠。キミの弟、まったくボクにプロポーズしてこないどころか、ものすごい喧嘩ふっかけてくるし、煽ってくるし。しかも自分の負け全然認めようとしないんだけど。一昨日もいい加減ボクにプロポーズしてもいいところでへそ曲げてボクを置いてどっか行っちゃうし。どういう育て方してるの!」
「えー? どういう育て方って言われてもなぁ。うちの駆真は結構素直ないい子に育ってると思うけどなぁ。っていうか、まだ付き合ってなかったの〜? ん? でも昨日はデート行ってたんじゃないの? 駆真、昨日彼女とデート行くって言って出てったし、帰ってこなかったよ? 一緒にいたんじゃないの?」
............?
「なにそれボク知らないんだけど。昨日は一日ベッドで独りでシてたんだけど? 駆真には用事があるからって断られたし。え、どゆこと?」
一昨日の夜にわかれてから駆真から謝罪の連絡があるかと思ったけど何の音沙汰もなかった。
拗ねちゃって気まずくて連絡できないのかと思って、昨日の朝にボクから駆真に『今日中ならまだ許してあげるよ。駆真がどうしてもって言うなら今日デートしてあげてもいいよ』って連絡いれたのに、半日後に『いや大丈夫! あと今日は用事あるからごめん!』って返ってきてた。
レスが遅いのもその返事の内容にもムカついたけど、予定があるならしょーがないかって思ったんだけど......。デート? 誰と? は? は? は? ちょっと意味がわからないかな、うん。
..................いや、まさかこれも駆け引きのつもりか?
ボクが泉珠に愚痴って、デートの話が間接的にボクの耳に入るのを見越して、泉珠に『デートに行ってくる』と伝えたんじゃないか。別の女の気配をボクに知らせて焦らせることでボクに告らせるために。そう考えるとしっくりくる。
こんなにもすべてを捧げた女というものがありながら他の女の気配を漂わせるとか、いくらボクが駆真を愛してるとはいえさすがに擁護しきれないくらいには漢らしくなさすぎるぞ!
..................だけどボクは最高にイイ女だ。多少のタマの小ささくらい目を瞑ってあげようじゃないか。
「ありゃあ。駆真ってば、罪作りな男の子に成長してるんだぁ〜」
ボクのリアクションを見ていろいろ悟ったのか、泉珠が訳知り顔でほのぼのした反応を返してくる。
姉の泉珠がそんなんだから、弟の駆真があんなんになるんじゃないの?
「ホント、ちゃんと教育してよ。あー、やっぱいいや。これからはもうボクが直接教育するから。いいよね?」
「えー? うーん。まぁほどほどにねー」
のほほんとした性格の泉珠に任せてたんじゃいつまで経っても矯正されないことはもう嫌ってほどわかる。
ボクらが出会ってからかなり時間経ってるからね。それくらいいい加減わかるってもんさ。
駆真が小学校4年、ボクが中学1年のときにボクと泉珠がクラスメイトになった。
それでボクが水禊家に遊びに行ったときに駆真と遭遇。
あのとき一目みてビビビってきた。その瞬間わかったね、運命の人だって。同じことをあっちも思ってるってのもわかったね。
それから3人でよく遊ぶようになって、駆真が可愛いからボクがからかうようになって。
最初はされるがままだった駆真も段々お年頃になってきて、一方的にからかわれるのを嫌がるようになったんだよね。
ボクのこと好きなくせに、全然好きじゃないふりしたり。お姉さんの魅力満点のボクの身体に興味津々なクセに、興味ないふりしたり。
付かず離れずって感じで2年くらい。
そんな日々が過ぎて、駆真が小学校を卒業するころ、つまりボクが中学を卒業するころに、駆真は満を持してボクに恋愛戦争を仕掛けてきた。
そのときのことは今でも忘れない。3人で恋バナしてるときに『俺、献身的な女の子が好きっぽい』とか『ダラシない身体の子がタイプかな』とか『退廃的な雰囲気あるといいよね』とか言いだした。
駆真のことを盛大にいじって誂ってたあたり献身的どころか利己的な人間だと思われただろうし、自慢だけどボクの身体は当時からすでにかなり抜群のプロポーションを誇っていてダラシない身体とは無縁だった。それに、ボクは割と真面目でキッチリしてたから退廃さとも真逆。
他にもボクを構成する全部の要素と真逆の属性ばっかりタイプとして挙げてきた。
ボクのこと大好きなのは間違いないはずなのに、女性のタイプで真逆のことばかり。こんなん完全にボクに対する煽りでしかない。
そんな中で最後に、『そういえば友達が、全然好きじゃなかった相手でもキスしたり、いろいろイヤラシいことしてたら段々好きになっていった、とか言ってたなー』とか宣って締めくくった。
そう、つまりは『俺と付き合いたいなら性的なご奉仕をしろ』という暗示をしてきたわけだ。しかも、献身的に、ダラシない身体になって、退廃的な雰囲気の女になれっていうおまけ付きで。
温厚なボクもさすがにキレちゃったね。ボクに告わせようだなんて、人生数回分は早いんだよ。
絶対にそっちから告わせてやる。その宣戦布告、受けて立つよ。駆真のタイプの女にはなってあげる。その代わりメロメロになってプロポーズするのはアンタだ! さぁ、恋愛戦争の開幕だよ!
ってわけで今に至る。
ボクももうすぐ大学受験。気づけばもう3年も経ってるんだよね。
思えば甘っちょろいやり方せずに、あの頃からしっかり教育してればもっと早く駆真は告ってきてたはずなんだ。いろいろ捧げて満足するような生ぬるい関係に甘えてきたのがいけなかった。身体もすっかりダラシない。商売女でもなかなかこうはならない。
まったく。駆真も相当だけど、ボクも相当駆真のことが好きらしい。
でも今度という今度は確実に仕留める。この恋愛戦争、もう終わりにするよ。
姉や親御さんに替わって、ボクが手ずから叩き直してあげるしかないらしい。
よし、差し当たってはまず、昨日の話を駆真に聞かないとね。
けど、ボクから質問したら、まるでボクが駆真のこと気になってるみたいだ。それじゃあ恋愛戦争の主導権を駆真に渡しちゃうことになる。それだけは避けないとね。
「とりあえず、駆真と話してくるよ。お・義姉・ちゃ・ん♪」
「うんー、わかったー。駆真によろしく〜」
............ボクの意図、伝わってんのかな。
いやはや、この姉にしてあの弟ありって感じだ。
*****
授業を終えてすぐ移動して、駆真の中学の校門前で待つことしばらく。ようやくお目当てが出てきたのが目に入る。
駆真も部活はもう引退してるけど、毎日学校の図書室でちょっと勉強してからでてくるのは知ってる。だからボクが高校を出てからでも間に合うってわかってたわけだしね。それにしても今日は予想より遅い。おかげで2時間も校門前で待つことになったじゃないか。まったくもぉ。
「おーい、駆真〜。遅いよ〜」
「あれ、心依さん? なんでいるの?」
くそー、キョトンって顔しやがってぇ〜。相変わらずかわいいなぁおい。
そこは「なんでいるの?」じゃないでしょ。「喧嘩してたのにきてくれたの!? ありがとう! 待たせちゃった?」くらい言いなよね。まぁいいけどさ。
「なんでって。うん、駆真がボクに話したいことがあるんじゃないかって思ってさ」
あくまでもボクが話を聞きたいってスタンスじゃなく、駆真が話したいって気づいてますよっていう体裁を保つ。これで主導権はボク側。いろいろ策を弄してたみたいだけど残念だったね。
年下は大人しく年上の色香に惑わされてればいいんだよ!
「話したいこと......。うーん、なんかあるかな......? 特に思いつかないんだけど」
こいつ......。この期に及んでまだ白を切るつもりか。ほんとにわかりませんって感じの表情しやがってからに。
普段のボクならここで『昨日誰かとどっかに出かけてたんだって?』とか言って助け舟をだしてあげるところだけど、今日のボクは一味違う。駆真を甘やかさない。
どうせ他の女とデートした話をほのめかしておいて、ボクがその話に触れたら『あれ? 嫉妬してる?』とかって煽りに煽る算段なんでしょ。その手には乗らないからね。
そっと駆真の頬を撫でながら......。
「駆真? 素直になっていいんだよ。ボクは怒ったりしないから」
どうだい。これが大人の女性の色香ってやつだ。参ったか!
「えーっと、いや、ほんとになんのこと? マジで心当たりが......『水禊くーん! お待たせー! ......って、あれ、なにやってるの! 浮気!?』......え、媛!? い、いや違うって! この人は姉さんの友達の雷鳥心依さん! 前にちょっと話したでしょ......『あぁ例のお世話になってた人! なぁんだ、浮気してるのかと思っちゃった♪』」
ボクと駆真の楽しい楽しいやり取りの間に突然知らない女が割り込んできた。腕まで組んで。駆真の趣味に合わせて躾けられて垂れきった今のボクにはないハリのある胸も押し付けてやがる。何だこの女。ぶっ転がされたいのかな。
「............だれ?」
「はじめまして、雷鳥さん。私は横鳥媛です」
「あぁ、なるほど! 心依さんに話したいこと! そっかそっか、まだ言ってなかったね! この子は同級生で俺の彼女の横鳥媛。つい先週から付き合い始めたんだよ。このこと報告するの忘れてたってことね! でもわざわざそれを聞くために学校まできてくれるなんてやっぱり心依さんはいいヒトだね!」
「..............................昨日一緒にデート行ったっていうのも、その子? え、彼女って、つまりお付き合いしてるっていう意味で言ってる?」
「あ、姉さんにデートの話聞いたの? そうそう、昨日は商店街行ってね。そりゃもちろん、お付き合いしてるって意味の彼女だよ。だから朝帰りだったし」
「もうっ、余計なこと言わないでよっ!」バシッ
いやいやいやいや。駆け引きっていってもこれはさすがに一線どころか何線も超えすぎでしょ。そういうやり方はいくらなんでも最悪すぎる。
匂わせくらいならまだお仕置きするくらいで許せなくもなくもなくもない。でも、しっかり付き合ってるとかって、さすがにダメでしょ。
「え、ごめん、ちょっと意味わかんない。どゆこと?」
「ん? なにが?」
「ボク以外の女と付き合うとか......どういうことだって聞いてんの。なに、ボクとは遊びだったの?」
「んちょ!? 彼女の前で人聞き悪い言い方しないでよ! からかうのもいい加減にしてくれって!」
「から......かう?」
「あぁ、そうなんだろ? 心依さんは昔っからいっつもさぁ。でもこういう悪質なのはホントやめてくれよ。マジで誤解されちまうじゃん」
........................ナニヲイッテルンダコノオトコ?
「で、でも駆真はずっとボクと恋愛戦争をしてきて......」
「恋愛戦争? なにそれ、どういうこと?」
う、嘘だ......。駆真のこの表情、マジで言ってるの......?
「え、ごめん、ボク今ほんとに混乱してる。意味がわからない。え、じゃあボクはなんなの? 彼女はボクなんじゃないの? あんなに毎日のようにヤリまくってたのに?」
「だからそういうこと彼女の前で言わないでくれってば。いやまぁ確かにお祓いしてくれてたのはありがたかったよ?」
「そ、そうだろ? ありがたかったんだろ? ボクの身体、好き勝手に改造してさ!」
「人聞き悪いって。心依さんが『どうせすぐに変わり果てる身体だから好きにしていい』って言うから、普通の女の人相手じゃできなそうな過激なこと試させてもらっただけじゃん」
..................ほんとに、恋愛戦争とかって思ってたの、ボクだけ......だったの?
「で、でもでもっ、ボクは駆真のタイプの女性像ドンピシャ、でしょ?」
「あー、うーん、まぁ確かに属性的にはかなりいいかもね」
「ちょっと、水禊くん?」
っ! やっぱりボクのことイイと思ってるんじゃないか! びっくりさせんなよ!
「いやいや誤解しないでよ媛!? あくまで『属性的には』だって!」
「ホントォにぃ?」
余計な口挟んでくんなよ売女がっ。ってか、駆真も。いい加減にしないと、ボク、キレちゃうよ?
「ホントだって。確かに心依さんの属性は割と俺のタイプだよ? でもねぇ」
......? でも、なんだよ。
「心依さんって、金さえ払えば誰とでも寝る感じでしょ? 身体も全身エグいしさ。さすがに、彼女にするとかはないじゃん?」
プッチン。
*****
「さて駆真。キミがお付き合いしてたとかいってたビッチは、今、大人のお風呂でクスリ塗れでケモノになってるね。稼ぎもいいらしいじゃないか」
「......はい、そうらしいですね」
「駆真に内緒でクスリやって。そのために借金して。返済のための金を泡風呂で稼いで、そこでさらに大量のクスリをヤって。うん、ズブズブじゃないか。駆真も、裏切られて可哀想に」
「......いえ、俺の自業自得です。見る目がなかったんです」
「うんうん、そうだね。駆真の見る目がなかったんだ。最初からボクにしておけばよかったのに、余計な回り道をするから失敗するんだ」
「はい、心依さんの言う通りです」
「いいかい? あぁいう女は必ず駆真のことを裏切るんだ。わかるでしょ?」
「はい」
「駆真のことを裏切らないのはボクだけ。そうだね?」
「はい」
「いい子だ。それで、駆真にとってボクはなに?」
「はい、心依さんは俺だけにすべてを捧げてくれる女神です」
「うん、そうだね。ボクは駆真の女神だ。なら、これからは1発1万円なんてケチくさいことは言わないね?」
「......はい。これからは俺人生をすべて主上に捧げます」
「..................いい子だ♡」
雷鳥心依、17歳。まもなく18歳。
これが後に【献身洗脳の伝道師】の異名で知られることになる天才臨床心理士の初仕事であった。