第五話 集落の危機
「敵襲!化け物が攻めてきたぞ!」
急に外から大声が聞こえて僕はかなり驚いた。化け物が攻めてきてしまった。「間に合わなかった」という無念な気持ちでいっぱいになった。もし僕が早くこの日記を読んでいたらギリギリ…いや、今は悔やんでいる場合じゃない。てかなんでこのことをオムニは言ってくれなかったんだ?僕はオムニに近づいて問いただした。
「オムニ!なんでこの本のこと言ってくれなかったんだ!」
<その本はダジャレの本と間違えて取ってしまっただけなので読んでいませんよ>
「あー、そうなのか、すまない」
ついカッとなって強よめに問いただしてしまった。自分が情けない。
<主君、どうしたのですか?>
「実は…」
僕がこの日記のことについて話そうとしたとき、
「お客さん!大丈夫……ってなんでその鏡使ってるの?」
「あー、これはね、」
<主君、とにかく避難を最優先に行いましょう>
オムニがそう言うとオムニが鏡から映し出されなくなり、しかも映し出されていた鏡が手のひらサイズに小さくなってしまった。僕とテーちゃんは「ゑゑ!?」と驚いた。しかも小さな鏡が僕に向かって飛んできた。僕はすかさず鏡をキャッチした。
「と、とりあえずその鏡を持ってついてきて」
テーちゃんがそう言うとまた僕の腕の裾を掴んで走り出した。外を見ていると強そうな男のマーサ族の人達が弓や剣とかの武器を持って走っている。みんなとても焦っていてかなりまずい状況なのが分かる。走っている途中、ビルガンさんに出会った。
「おぉ、テービンと客人、大丈夫か?」
「私たちは大丈夫!今から避難所に行くつもりなんだ。ところでビルガン、他の狩人とは逆の東に行こうとしてたけど、どうしたの?」
「あぁ、実はな、この集落は今西と東のニ方向から襲撃してきてるみたいなんだ。だから、俺は今東に向かってるんだ」
まさかかと思うがビルガンさん、東側の化け物を1人で相手するつもりなのだろうか?日記には魔法師のガーテルンさんですら苦戦するくらいの化け物らしいし、いくら強いビルガンさんでも無茶だ。
「ビルガンさん、流石に1人はヤバいんじゃ、」
「そうよビルガン、いや、お兄ちゃん。いくら強くても1人は無茶よ!」
僕はテーちゃんがビルガンさんのことを初めて「お兄ちゃん」と呼んだことに少し驚いた。テーちゃんの言葉を聞いて尚ビルガンさんは「大丈夫だ!俺はこの集落1の狩人だ!」と僕たちに笑みを向けた。そして、ビルガンさんは颯爽と東に向けて行ってしまった。テーちゃんが止めようとしていたけどビルガンさんが速すぎて間に合わなかった。そしてテーちゃんは涙目になってしまった。
「お兄ちゃん……」
「だ、大丈夫だよ、ビルガンさんはめちゃくちゃ強いんだし負けるわけないよ!」
僕はテーちゃんを慰めるためにいつもより明るめのトーンで言った。
「そ、そうだよね、お兄ちゃんが負けるわけないよね、」
こう言うとテーちゃんは自分の頬を両手でペシペシと叩いた。見た感じ涙も引っ込んでるしもう大丈夫そうだ。
「とりあえず、私たちは避難所に行こうか!」
テーちゃんがこう言うとまた僕の腕の裾を掴んで走り出した。数十秒走っていると他の人も同じ方向に走っているのが見えた。そして目の前を見てみると一つの小さめの小屋に他の人が次々と入っている光景が見えた。僕は「あのちっさい小屋にみんな避難してるのか?」と僕が思っていたらテーちゃんが話してくれた。
「あの小屋の中には地下に続く階段があるんだよ。地下はここにいるみんな入るくらいに大きいんだよ」
「なるほど、あえて目立たない小さい小屋に隠れて避難所分かりにくくするのか」
「正ッ解ッ!」
そして僕だちは小屋についた。小屋の隣には護衛の人が2人いて、みんな順番ずつ速やかに小屋に入っている。僕たちもすぐに並んで順番ずつ小屋に入っていった。小屋に入ると2人ずつ降りれるくらいの階段と階段の隣に1人のマーサ族の人がいた。
「さぁ早く!」
「ありがとうガルンさん!」
テーちゃんが階段の隣の人にお礼を言った後、僕たちは颯爽と階段を降りていった。階段は思った以上に短くてすぐに地下に着いた。地下の避難所はかなりの広さで多分現時点で100人以上はここにいるけど、まだペースにけっこう余裕がある。
「けっこう広いんだね」
「うん!ここはね、さっき階段の入り口の隣にいたガルンさんが作った避難所なんだよ。詳しくは座って話そっか」
そして僕たちはあまり目立たない隅の方に座った。隅から他のマーサ族の人たちの顔を見てみると、みんな浮かない顔をしていたり、中には泣いている人もいた。まぁ、急に化け物が攻めていたんだし怖いに決まっている。正直僕もちびりそうなくらいビビってる。
「3年前にね、ここから少し離れたところに魔王四天王、直属の配下ジン=マコモっていう変な名前の人が城を建てたんだ。なんで建てたのかは分かんないけどね」
ガーテルンさんの日記通りのことをテーちゃんが言った。でも、なんでここに城を建てたのか本当に謎だ、あんまりここを悪くは言いたくないけどこの森は金銀財宝とか価値のあるものがあまりないようには見える。それなのになぜここに城を建てたのだろうか?
「そして、もし化け物が攻めてきたとしても大丈夫なようにここに避難所を作ったんだ。発案者はさっきも言った通りガルンさんなんだ。でも、なんで今更ここに攻めてきたのかな?」
「あー、そのことについてなんだけどさ、」
僕はガーテルンさんの日記の一部始終を話した。ガーテルンさんが化け物を3年間抑えていたこと、そしてみんなを避難させるためにジン=マコモに挑んで時間稼ぎをし、結果亡くなってしまったこと、最後にみんなにとても感謝をしていたこと。テーちゃんがこの話を聞いた後、悔しそうに涙をこぼした。
「ガーテルンさん…「私は死なない」って、言ってたのに…」
「ごめん、僕があの日記を少しでも早く読んでいれば、」
「いや、お客さんのせいじゃないよ…私たちが3年間も気づかなかったのが悪いんだよ…もっと、早く気づいてたら…」
他のマーサ族の人の視線がこちらに向いている。テーちゃんが他の人の前で泣くなんて初めてなのだろう。僕も正直テーちゃんが泣く姿なんて想像もできなかった。てか待て、なんかマーサ族の人の視線が俺に向いている気がする。しかも冷たい視線が……もしかして、僕が泣かせたって思われて…いや、あながち間違ってはないけど、
「おい客人!なんでテーちゃんが泣いてるんだ!?お前が泣かせたってなら、客人でも容赦しないぞ!」
1人のマーサ族の男性がこちらに向けて怒鳴ってきた。男性といっても見た感じまだ子供で10歳くらいだろうか?ていうか、ここには女性や子供しかいない。女 子供は戦わせないってことだろうか、やっぱりここの人たちはとでも優しいみたいだ。だがらテーちゃんが泣いているのを見て許せなくなったのだろう。
「あ、いや、ザールト君、違うよ…」
テーちゃんは泣くのを堪えながらさっき僕が言った日記のことを要約しながら他の人に話してくれた。テーちゃんの話を聞いたみんなは驚いたり、泣いたり、考え込んだりといろんな反応を見せた。さっき僕に怒鳴ってきたザールトって子はとても悔しそうにしていた。このみんなの反応からしてガーテルンさんはマーサ族みんなからとても信頼されていたのだろう。そして各々の反応の後、ザールト君が声を上げた。
「化け物め、俺がぶっ殺してやる!」
そう言うとなんと、ザールト君が床に置いてあったナイフを持って避難所の出口に向けて走ろうとした。しかし無論近くにいたこの子の親が止めた。化け物にあんな子供が挑むなんて無茶だ。
ドガッ、
外から地面になにか落ちてきたような音がした次の瞬間、
「ギァァァ、助けてくれぇぇ!」
外から叫び声が聞こえた。多分、化け物にやられてしまったのだろう。とても急でビックリしたし、ここにいたみんなも動揺を隠せていない。さっきまで意気込んでいたザールト君も怖がっている。
「こ、これ、ピンダグさんの声じゃ、」
テーちゃんが震える声で話した。多分、知り合いだったのだろう、テーちゃんが黙り込んでしまった。この声が聞こえて以降、ここの空気が更にどんよりしたように感じた。しかも更に雷が落ちるような音もしてみんな怖がっている。そして、テーちゃんがなにか考え事をしている。そして沈黙が数分続いた後、テーちゃんが立ち上がった。
「ど、どうしたんだ?」
「お客さん、みんな、ちょっと行ってくるね、」
この言葉を聞いた後、血の気が引くのを感じた。テーちゃんも魔法師の才能があるとはいえ、流石にガーテルンさんですら苦戦する化け物相手には流石に厳しいと思う。他の人も同じ気持ちだろう、みんな「行っちゃダメよ!」や「そんなことしたら死んじゃうわよ!」など必死に止める声で溢れた。あれ?、ちょっと待て、テーちゃんのお母さんはどこにいるんだ?見た感じ、ここにはいなさそうだ。テーちゃんも今そのことに気づいたようだ。
「あれ?、お母さん…お母さんは!?」
テーちゃんがこのことに気づいてかなり焦り出した。まずい、今にでも走り出してしまいそうだ。今1人で行ってしまうのはかなりまずい、今テーちゃんは冷静じゃない、ふとしたことですぐに死んでしまうかもしれない。それに、止めるとしてもテーちゃんは魔法師の才能があるし多分魔法も使えるだろうし、無理矢理止めることもできない。こうなったら、
「テーちゃん、今の君は冷静じゃない。このまま行ってもすぐ死んでしまうと思うよ」
「お客さん…分かってるけど、お母さんを助けないと、」
「助けるのは止めはしないよ、ただ、僕も連れていってくれ」
「え?」
テーちゃんと他のマーサ族のみんなが驚いた表情をする。そりゃそうだ、いきなりこんなことを言ったからね。なんでこんなことを言ったのか?それはもちろんテーちゃんが心配ってことが一番だけど、他にも理由がある。それは、この人たちへの恩返しだ。よそ者の僕を心よく受け入れてくれたし、ビルガンさんに関しては命を救ってくれた。僕はここに来て一日も経ってないし、こんなことをする義理までないかもしれない。でも、僕はここにいる人みんなに死んでほしくない。だから僕はこの提案をした。
「い、いや、お客さんを危険な目に遭わすことはできないよ、」
「大丈夫、僕はこう見えて案外運動できるんだぜ?」
「でも、ダメだよ、お客さんが死んじゃうよ、」
予想はしてたけど、やっぱりダメって言われるよな。他の人も反対しているし、でも僕の決意は折れない。
「大丈夫だよ、僕は死なないよ」
「…(ガーテルンさんと、同じこと言ってる…)」
「それに、僕はテーちゃんを悲しいを更に気持ちにさせちゃったし、それの償いも兼ねてさ」
「そうだ!お前はテーちゃんを泣かせたんだからな!サポートくらいしやがれ!」
さっきまで震えていたザールト君が僕に向けて大声でこう言ってきた。この子立ち直るの早いな、将来大物になりそうだな(?)あ、そうだ、鏡にヒビとか入ったらオムニが起こりそうだし、鏡はここに置いておこう。
「お客さん、危なくなったらすぐここにもどってよ、」
テーちゃんが僕に根負けして、ついて行くのを許可してくれた。でも許可してくれたとはいえ、ここから出ること自体許してくれている人はこの中にいない。どうやって出ようか考えているとき、僕の腕の裾をテーちゃんが掴んだ。「お客さん、ちょっと目をつぶって」とテーちゃんが言ってきた。そして、僕が即座に目を瞑ると
「みんなごめん、瞬間移動、」
テーちゃんが言った魔法、基礎魔法にはなかった魔法だ。他のマーサ族のみんなの声が一瞬聞こえたがすぐ聞こえなくなった。「目を開けていいよ」とテーちゃんの声が聞こえた。そして目を開けると、なんと外にいた。僕が混乱してるとテーちゃんが話してくれた。
「この魔法はね、一瞬で指定の移動できるんだ。まぁ、まだ使いこなせてないから場所にズレはあるけど、」
「凄いな、テーちゃん」
「えへへ、ありがとう。ここからだと西の方が近いね、お兄ちゃんの方も行きたいけど、とりあえず西の方に助けに行こうか」
「分かった」
そして僕たちは西に向けて走った。化け物と周りを見ると戦っている人を見かけた。さっきの悲鳴で分かってはいたけど、もう侵入されてしまってるみたいだ。でも、侵入してる化け物はまだあんまりいないみたいだ。更に侵入されないように僕たちは更に急いで西に向けて走った。
そして数十秒後、武器を持ったマーサ族のみんなが戦っているのが見えた。見た感じ倒れて怪我をしてる人もいる。更に近づいたとき、化け物にやられそうになっている人がいた。すると、テーちゃんがすかさず
「燃やせ!炎!」
テーちゃんが手を化け物に向けてこう言うとてから炎が放たれた。化け物がこの炎に当たった瞬間、一瞬で体が炎に包まれた。数秒後、炎が消えたときには化け物は黒焦げになり絶命していた。
「この魔法、もしかしてテービンか?」
「ザンドさん、後で説明するからお客さんと一瞬に怪我をしてる人を避難させて!」
そう言うとテーちゃんは他に戦っている人を助けるために走り出した。とりあえず僕はテーちゃんの言われた通り怪我人を安全な場所に避難させよう。怪我をして倒れてる人みんなガタイがよくて重くて運ぶのに苦労すると思ったが、さっきテーちゃんが助けたザンドさんという人も一緒に運ぶのを手伝ってくれた。どこに避難させるか迷ったがとりあえず近くにあった家に怪我人を運ぶことにした。
そして怪我人を丁重に寝かした後、ザンドさんが話しかけてきた。
「あんた、客人だろ?なんで手伝ってくれるんだ?」
「よそ者の僕にみんなはとても優しく接してくれた。理由はこれだけで十分だよ」
「…あんた、いい人だな」
少しキザなセリフを言ってしまって恥ずかしくなってきた。ま、まぁ、とりあえず他の怪我してる人を避難させよう。僕たちはもう一度さっきの場所に行った。あの場所に着いたとき、複数体の化け物が絶命してるのが見えた。今他のところで戦っているテーちゃんのおかげだろう、本当に魔法師は凄いな、おっと感心している場合じゃない、僕たちは怪我人を安全な場所に運ばないと。
そして数十分後、僕たちは倒れている怪我人のほとんどを安全な家に避難させることができた。それに、テーちゃんやマーサ族の人のおかげで西側の化け物はほとんど全滅させることができたみたいだ。テーちゃんは他のマーサ族の人と話しているみたいだ。どうやら怒られているように見える。
「この集落のルールで20歳未満の者、そして女性は戦わないというルールがある。それを破ったのは感心できないな」
「ご、ごめんなさい、ヒュールドさん、」
「でも、危険を犯してまで俺たちを助けてくれたのは本当に感謝するよ。ありがとう」
そう言うとヒュールドさんという人はテーちゃんの頭を撫でた。テーちゃんは照れくさそうにしてる。そしてヒュールドさんはこちらに向けて歩いてきた。
「君は客人でありながら協力してくれていたね、君にも感謝しかないよ。本当にありがとう」
ヒュールドさんがこう言うと僕にお辞儀をしてきた。ヒュールドさんがお辞儀をすると他の人も僕に向けてお辞儀をしてきた。なんだか、ちょっと照れくさいな
「僕は自分がしたいようにやっただけだよ。それより、東側に行ったビルガンさんに加勢しないと」
「そうだったな、確かビルガンは今1人で東側を抑えてくれてるんだったな。ここと同じくらいの数がいるとなると流石のビルガンも、」
ヒュールドさんが話していた次の瞬間、東側に爆破音が響いた。驚いて東側を見てみると黒い煙が上がっていた。みんなかなり動揺している。それに、テーちゃんの顔が青白くなっている。ていうか東から爆破音がしたってことは、まさか
「な、なんだ、今の爆破音は」
「この爆破って、まさか、」
テーちゃんはこう言った瞬間にはもう東に向けて走り出していた。僕やヒュールドさんもテーちゃんに続いて走り出した。なんだか凄く嫌な予感がする、急がないと