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第4話(全36話) 二周目の始まり

 奇妙な夢を見た。

 アルチュールが殺されて、ベルナールが出てきて、アルチュールにキスした夢だ。

 最近、疲れているのかな。

 アルチュールが夢に出てくるのなんて久しぶりだった。夢でだって会いに来てくれない、薄情な奴だよ、お前は。あんまり気持ちのいい夢ではなかったけど、会えてうれしかったよ。

 と、寝起きのまどろみに浸ったあとで、奇妙なことに気づいた。ここはどこだ?

 あたしは寝台から飛び起きた。ここはあたしの部屋じゃない。必要なもの、不必要なものが雑然と置かれていたあたしの部屋じゃない。殺風景な宿屋の部屋だ。

 落ち着け、あたし。昨日の夜、何があった?

 あたしは自分を落ち着かせるために顔を洗うことにした。洗面器に水を注ぎ、水面を覗くと、そこには懐かしい自分の顔があった。

「ぎょえーーっっ!!」

 あたしは言葉にならない悲鳴をあげた。あれは夢じゃなかったんだ。


 えーと、整理しよう。昔のパーティ仲間だったアルチュールが魔王を倒して新しい魔王になって討伐されて、一緒のパーティだった魔法使いベルナールがやってきた。ベルナールはアルチュールを助けてくれと言って、あたしがアルチュールにキスをした。いいだろう。ここまではいい。で?

 あたしは部屋を見渡した。これといって特徴のない部屋だ。もう一度洗面器で顔を見た。若い。それに化粧をしていないせいか、肌もつるつるだ。自分荷物をあさって、ようやく理解した。ここは十年前、あたしが冒険者になるために王都にやってきて初めて泊まった宿屋だ。

 あたしは荷物の中から手鏡を取り出して確かめた。うん、間違いない。六九歳の肌艶だ。手で自分のほっぺたをペタペタした。懐かしい感じがした。

 ベルナールが魔法で時間を戻したんだろう。すごいな。そんな魔法、聞いたこともない。

 前はどうしたんだっけ? そうそう、「遠い日の思い出」亭を探して、そこでアルチュールたちと出会って、冒険に行くことになったんだった。

 で、今回は? アルチュールを魔王にさせないためにはどうしたらいい? 側にいればいい? それともあたしがパーティに入らなきゃ早々に冒険者を廃業する? どうすればいいんだろう?

 まとまらない考えは置いておいて、あたしは自分の身体を観察することにした。

 十年で耳はちょっと垂れたかな。

 肌は、このころはほとんど化粧していなかったからツヤがある。やっぱり化粧をするようになると肌は荒れるね。

 胸は? お尻は? 太ももは? 二の腕は? といろいろ見てみたけれどあんまり変わらなかった。トールマンじゃあるまいし、エルフはたった十年じゃあんまり変わらないか。いつもジョギングしているからか筋肉もあんまかわんなかった。

 たった十年か。あたしの身体はあんまり変わってないけど、いろいろあったな……。とりあえず、十年前の王都を見に行こうか。

 

 部屋で身支度を整え、冷たい朝食を食べた後、街へ出てみた。

 宿屋は南門広場近くにあった。しばらくこちらには来てなかった。だから違いがわからない。やはり、昔に戻ったのは夢なんじゃないかと思ったけど、自分のほっぺたを触ってみた。確かに冒険者になろうとして、王都にやってきたころのあたしだ。

 王都を歩いてみる。南門広場は「女神様の首飾り」街道を通って世界中のものが集まるところだ。南方の国からはお茶や木綿の布やなんかが、それより南の島からは香辛料なんかがやってくる。広場で開かれる市にはいろんな珍しいものがある。

 王都は街道からちょっと北にずれた所にあって、南門からは街道を通ってやってきたものと、王国の南部からやってきた油やワインなんかもある。あたしは見たことないけど、絹っていう光を反射して輝く綺麗な布が王国南部で作られていて、それを貴族たちに売っている商人もここにはいるということだ。

 南門広場はいろんな商人たちが店を開いている場所だけど、処刑の行われる場所でもある。人通りの多い所、城壁の境界に近いところで罪人の処刑が行われる。みせしめとかエンターテインメントとして、王都ではここ、南門広場で罪人の首が落とされるのだ。そしてアルチュールの首もここでさらされた……。アルチュールの首がさらされた場所を探したけど、当然そこには何もなかった。


 南門広場をしばらく北に進むと中央広場に出る。ここは南門からの道と、西門からの道、そして東側の河の港からの道が交わるところで、王都で一番ものが集まっている所だ。河は王都の北を西から東へ流れていて、王城のある丘を回り込むようにして南に進路をかえる。王城はいわば河に突き出たミサキの上にある。油とかワインとか小麦とかの重いものは、北からはこの河の流れに乗って、南からはやはり河を通って風を使ったり、沿岸から人や馬が引いて、この王都にやってくる。陸の上だと馬やロバで運ぶんだけど、それらが運ぶ量なんかタカが知れている。重いものを大量に運ぶには船が一番なんだって客の商人が言っていた。だからここでは南門広場で商っている、馬車で運ぶ少量の高級なワインよりも、ずっと安い大量のワインが集まっている。商人たちはここで品物を売買し、またどこかへ運んでいく。

 また中央広場では魚も売っている。新鮮な魚は貴族たちの食卓を飾るためにすぐに姿を消し、残っているのは塩漬けのものがほとんどだった。あたしは嫌いじゃないけどね。


 中央広場から東に向かうと貴族たちの邸宅があり、その奥に王宮がある。西に向かうと西門になる。あたしは西門に向かった。西門からは王国の北部からの産物が入ってくる。乳製品・毛織物・食料品……。広場みたいにはなっていないけど、道沿いにいろいろな店がならんでいる。多くは商人同士の商売の店だけど、ところどころにあたしでも入れる店がある。羊の毛を織った布の店だとか。でもあたし、毛織物はチクチクするから木綿の服がいいな。でも毛布やコートは毛織物がいいな。

 この近くに職場があったから、見知った客を何人も見つけた。十年たってもエルフやドワーフはあんまり変わんないけど、トールマンは十年たつと全然違うね。若々しかったり、まだ子供だっりしている。むこうは十年前のあたしのことなんか知らないから、あたしが見つめていたら、怪訝そうな顔をしたり、てれて恥ずかしそうにうつむいたりしていた。悪いことをしたな。


 ついでだから十年前の職場を見に行くことにした。人は変わっていたけど、街自体は変わらない。込み入った路地を抜けるんだけど、迷わずに着いた。同じ業態だけど、なんかケバケバしい感じがした。あたしが入った三年前にはまだ店を開いて間もないって言っていたから、マダムがこの店を手に入れてから相当手を入れたのだろう。改装前の姿を見て、あらためてマダムの趣味の良さを感じた。見上げるとあたしの部屋だった窓から綺麗なお姐さんが空を眺めていた。


 王都でブラブラしたあと、西門を抜けて城壁の外に出てみた。目指すのは西の森だ。途中、城門近くでいる遊んでいる子どもを見た。リュカだ。面影がある。西門の衛兵の顔にもリュカの面影がある。父か? いや兄だろう。王都の衛兵が家業なんだろう。見知っているトールマンの十年前の姿を見て、あたしは時間を遡ったことを改めて実感した。

 西の森というのは王都の建設の際に残された森で、元々は王様たちの狩猟の場だった。昔々、このあたりにはエルフが住んでいて、今の王宮の奥、王城のある所が聖地だったらしい。その後、エルフたちが去ったあとにトールマンたちがやってきて……、という話だが、トールマンがエルフを追い出したんだろう、きっと。それは置いておいて、トールマンは森の中では生きられないから森を切りひらき、城を築き、街をつくったんだ。その時残されたというか、残ってしまったのが西の森だ。今は入口付近と中の湖周辺が開放されていて、王都のゴミゴミしたのに飽きた人たちが自然を求めてやってくる。大半は未だに王家のもので、王家の食卓にのぼる動物たちが飼われていたり、木々が燃料として使われているそうだ。以前ここでジョギングしていたことがあるんだけれど、狩猟場を管理しているゲームキーパーにクロスボウを持って追いかけられたことがあって、それ以来ここには来ていなかった。

 自然はかわらないな。森は十年前もかわらない。

 でも、やっぱりここは「今」じゃない。さっき通り過ぎた女性は十年前のマダムだ。

 この森は貴族たちが馬車でやってきて、散歩を楽しむ場所でもある。趣味のいい服を着た貴族と談笑しながら通り過ぎていった。十年前はまだ現役だったみたい。綺麗だった。金離れの良さそうな客をつかまえる手腕もさすがだなと感心した。そんなんじゃなきゃ、女一人で娼館経営なんかできないんだろうな。


 その後、城壁の中に戻って、大通りからはずれた、いつも行く市場に行ってみた。活気はかわらない。見知った顔はいないが、いつもの雰囲気だ。リンゴを買ってみた。うんいつもの値段だ。市場の生活感に浸っていると、今朝からのことは単に寝ぼけていただけのようにも思える。噴水に近づいて顔を写してみる。そこには十年前の、化粧っ気のない顔が写っている。化粧を忘れた? いやいや、そんなものをしたことのない、田舎から出てきたばかりのエルフの顔だ。信じられないけれど、昔に戻っているんだ。


 いつも走っていた北の城壁に行ってみる。なじみがあるはずなんだけど、やはり違っていた。衛兵が立っている。塔も崩れているようには見えない。この時はまだ現役の防衛施設だったようだ。

「これじゃ忍び込めないな」

 つい口に出してしまったようだ。通り過ぎの女性が、こちらを警戒するような目で見て、足早に通り過ぎていった。

 このあたりにきて、十年前に戻ってきたという実感が高まった。


 さて、問題を先送りにするのはここまでにしよう。お腹も空いたことだし、あたしは目的地に向かうことにした。

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