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SGS099 ガキの扱いは難しい

 目覚めたケビンの反応は早かった。


「バーサットの兵士たちは?」


 ケビンはキョロキョロと辺りを見回した。


「殺したンだネ? おれっちを誤魔化すことはできねぇヨ!」


 刺すような視線でオレを見上げている。


「どうしてそう思うの?」


 男の子に興味を持ったらしいラウラが聞き返した。


「一人の敵を殺したら、敵は全員を殺さねぇと自分たちが危なくなるからネ。それ、常識だもんナ」


 この子はラウラが大勢の兵士を斬り倒していくところを見ていたのだ。賢そうだが、口が軽いな。


「その全員の中に、あんたも入ってるって考えないの? あたしが兵士たちを殺していくのを見てたでしょ?」


「おれっちも殺すって? 大丈夫サ。おれっちは敵じゃねぇヨ。ケイ姉たちの味方だ。ニド兄の言ったとおり二人とも美人だもンねぇ。おれっちが美人を敵に回すはずねぇサ」


 ケビンはオレとラウラをジロジロと見た。


「ケイ姉、おれっち、あんたの味方だヨ。よろしくナ」


 ケビンが手を差し出した。生意気に握手か? オレはその手を握り返した。


「こっちの美人の姉さんは? 名前、教えてくれっか?」


 今度はラウラの方を向いてケビンは手を差し出した。


「あたしはラウラ」


 そう言いながら、ラウラもケビンの手を握ろうとした。ケビンはその手をサッと動かした。


「キャッ!」


 ラウラが悲鳴を上げた。ケビンがラウラのお尻を触ったのだ。可愛い顔をしているが、とんだ悪ガキだ。


「なにすんのよ! この、くそガキ!」


「いてッ!」


 パシッという音がしてラウラがケビンの頭を思いっ切り叩いたのだ。


「へへっ。中まで触れた。ラウラ姉、油断は命取りって聞いたことあっか?」


 そのひと言でまたラウラに頭を叩かれて、ケビンは頭を抱えた。その口をラウラは右手で摘まんだ。


「この口は軽そうだけど、あんたのソウルも軽そうだね。余計なことを言ったり、悪さをしたりすると、あんたのソウルは体から離れることになるよっ!」


「いてててっ……。わかった……、分かったって言ってるだろっ!」


 ラウラが手を離すと、ケビンは一気に20モラくらい走って逃げた。


「ばーかっ! 凶暴な尻デカ女にゃあ捕まらねぇどっ!」


 振り返ってそう言うと、また逃げ始めた。脚が速い。あっと言う間に100モラくらい離れた。だが、このまま逃がすわけにはいかない。


 オレは念力でケビンを捕らえて、そのまま空中に持ち上げた。高さは100モラほどだ。魔力が高まったから、100モラ離れていても余裕で制御できる。


「うわーん。たすけてーっ! もう悪さしねぇからヨー」


 ケビンが泣き叫んでいる。地面に雨粒のようなものがポツポツと落ちてきた。


「あいつの涙? 大げさな泣き方ね」


『ラウラ、成分を見ると小水のようだにゃ』


「おしっこ!? どこまでもふざけたヤツ!」


 ラウラは完全に頭に来ているようだ。でも、オシッコはオレたちには掛かっていない。オレもラウラもバリアを張り直しているからだ。さっき、ケビンと握手したときはバリアを一瞬だけ外したから、ラウラはお尻を触られてしまったけど。


 オレたちの油断を誘ったケビンが悪賢いと言うべきだな。


「おろせーっ! おろさねぇと、アロイス様に言い付けるどーっ!」


 ケビンの喚き声が上空から聞こえてくる。この子にはもう少し反省させないとダメだな。


 高度を少し上げて、高さ200モラからのバンジージャンプを楽しんでもらおうか。ハーネスもゴムロープも無くて、オレの念力で掴んでいるだけだが。


 オレが念力を緩めると、ケビンの体はゆっくり落ち始め、どんどん加速した。


 上空で点のように見えていたケビンの姿が急速に近付いてきた。何か喚いているが何を言ってるのか分からない。その声も途中から聞こえなくなった。気絶したようだ。


 オレは念力を強めてケビンをゆっくり地面に降ろした。


『ねぇ、ケイ。この子は口が軽そうだから、余計なことをしゃべらないように暗示魔法を掛けたほうが良いわよ』


『その方が安心だね、ユウ。で、どうしようかな……』


 オレたちの秘密を誰かにじゃべろうとしたりオレの命令に逆らったりしたら、その場で立たせてやろう。


 暗示で立つときは直立不動で両手には水バケツの重みを感じるようにする。頭だけは動かしてよいが、口は痺れて動かない。その状態が1時間続くってことにしよう。秘密とは何か。それは、オレがケビンに対して秘密だと指定したことだ。そのすべてが秘密の対象となるのだ。


 その前にまずケビンを綺麗にしてやろう。顔が涙と鼻水でグショグショになっていたのと、オシッコで股ぐらがグッショリ濡れていたので、魔法で体を綺麗にして温めてやった。それから10分ほどで暗示魔法を掛けて、ケビンを起こした。


「ケビン、起きなさい」


 オレが声を掛けるとケビンは目を開けたが、まだぼんやりしている感じだ。やがて何があったか思い出したのか、オレとラウラを見て、それから空を見上げた。


「おれっち、ぜったい死ぬって思ったゼ……」


 ケビンはオレたちを睨んだ。


「ケビン、わたしたちがバーサット帝国の兵士たちをここで殺したことは秘密にしなさい。さっきここで見たことや聞いたことは全部秘密にすること。分かった?」


 オレが言うと、ケビンはずる賢そうにニヤリと笑った。


「おれっち、ケイ姉の味方だからヨ、よろこんで協力するサ。でもヨ、タダで協力するちゅうのはナァ……」


 ケビンは遠慮なくオレをジロジロと見て、言葉を続けた。


「そのプニプニのオッパイ。それ、触らせてくれたら……」


 そう言いながらオレのオッパイに手を伸ばしてきた。オレが後ろに下がって、その手をかわすと、ラウラがケビンの頭をパシッと叩いた。


「このスケベ悪ガキ! ケイ、もう一回、空の散歩をさせてあげたら?」


「いや、それよりせっかく暗示魔法を掛けたから何か命令を出して罰を与えようよ。何がいいかな?」


「えーっと……、四つ足歩行の罰はどう? 手も使って四つ足で歩かせることにするのよ」


「じゃあ、それで」


 オレはケビンに命令した。


「そんな命令、おれっちが従うはずねぇだろっ!」


 ケビンは鼻を穿りながら笑い飛ばした。だが30秒が経つと、その場にピンと手足を伸ばして立った。両腕は重そうに痙攣している。自分の体に何が起こったのか分からずに、泣きそうな顔をしてオレを見た。


 オレはケビンに暗示魔法を掛けたことを話した。そして、オレが無詠唱で魔法を使えることや、暗示魔法を使うことなどオレの特殊な能力のことは秘密にするように命じた。


「分かった?」


 オレが問い掛けると、ケビンは直立したまま頭だけを何度も動かして頷いた。


 直立の罰を解いてやると、また生意気な口を利く。そして30秒経って命令どおり動かないから直立の罰が始まる。それが何度も繰り返されて、やっとケビンも命令に従う気になったようだ。ゆっくり四つ足で歩き始めた。


 しかし10分ほど歩かせたところで何となくケビンが可哀そうになってきた。


『ケイ、もうそろそろ許してあげたら?』


『あたしも、そう思う』


 ユウもラウラもオレと同じように感じていたようだ。


『そうだね。相手は子供だからね……』


 オレは命令を解除してケビンを立ち上がらせた。疲れ切ったのかオレたちの後をトボトボと歩き出した。


『子供の扱いって難しいよね』


 ケビンには聞こえないように念話でみんなに語りかけた。


『そうね……。こんな罰を与えたって、この子はあたしたちを恨むだけよね。なんだか空しくなるわね』


『ラウラが子供にお尻を触られたくらいで怒らなきゃ良かったんだよ』


『ケイだって、ぷにぷにのオッパイを触らせてあげたら?』


 オレとラウラは顔を見合わせて同時に溜息を吐いた。


 ………………


 それから1時間ほど歩くと遠くに村が見えてきた。あれがアーロ村だろう。


 ここまで来る間にケビンが萎れたようになっていたので、手を繋いで優しく話しかけてあげた。するとケビンは見る見る元気になって、素直に色々と話し始めた。


 守護神アイロスについてもケビンはよく知っていた。12歳そこそこの子供にしては本当に頭の良い子だ。


 守護神アロイスは天の神様ではなく、ダンジョンの妖魔や魔獣を退治させるために天の神様がこのダンジョンに送り込んだ戦士だとケビンは説明してくれた。


『コタロー、1万年前に天の神様がそんな戦士をこのダンジョンに送り込んだって知ってた?』


『いや、知らないわん。アドミンに頼んで、1万年前の記録を調べてもらうからちょっと待ってにゃ』


 数秒で答えが返ってきた。


『それらしい記録が見つかったわん……』


 1万年ほど前にソウルゲート・マスターが各ダンジョンに自律型の戦闘用人工生命体を配置していたことが分かった。ダンジョン毎に一体ずつ配置したようだ。それぞれが暗示魔法で行動を制約されたソウルを植え付けられて、制約の範囲内で自分で考え判断して動くことができる。姿も人間と同じだそうだ。


『守護神アロイスはその戦闘用人工生命体の一体だろうにゃ』


 詳しいことは分からないが、戦闘用人工生命体の使命はダンジョンで変異した妖魔や魔獣を退治することと、神族のために戦闘スキルを編み出して磨くことだったらしい。編み出したスキルは人工生命体を訪ねてきた神族にスキル複写という機能を使って与えることができるようだ。


 この戦闘用人工生命体は異空間ソウルとリンクしていない。その代りにそれぞれがロードオーブを装着しているロードナイトタイプだった。各ダンジョンの拠点に独立型の生命リフレッシュ装置を備えていて、それを定期的に使って自らの生命と若さを維持するように設計されていたとのことだ。


『人工生命体に植え付けられたソウルって、人族のソウルでしょ? 暗示魔法を掛けられて、このダンジョンの中で魔獣退治することだけを自分の使命だと考えて、ずっと戦い続けてるの? なんだか気の毒と言うか、可哀そうね……』


 ユウの言うとおりだ。オレもそう思う。おそらくアロイスは自分の使命に忠実に1万年の間ずっと一人で戦い続けてきたのだろう。本当に可哀そうだ。


『コタロー、どうしてアロイスは1万年も放っておかれたんだろ?』


『それはだにゃ、戦闘用人工生命体に指示や連絡できるのはマスターだけだったのだわん。ところがにゃ、人工生命体が各ダンジョンに配置されて暫くしてからマスターが行方不明になったのだにゃ。それで、ソウルゲートと戦闘用人工生命体との連絡が途絶えてしまったのだわん』


『でも、連絡が途絶えたら捜索くらいはするでしょ?』


 ユウも少し怒っているようだ。


『連絡が途絶えてから百年ほど後ににゃ、初代神族の一人が戦闘用人工生命体を見つけようと捜索を行ったらしいわん。何体かは見つけたらしいけどにゃ、そのすべてが破壊されていたと記録に残ってるにゃ。それ以降は捜索の記録は無いわん。神族の世代交代が進む中で戦闘用人工生命体の存在は忘れ去られてしまったようだにゃあ』


『と言うことは、このクドル・ダンジョンに配置されていたアロイスはソウルゲート側が忘れ去った間も戦い続けていたってことなのね。独立型の生命リフレッシュ装置があったとしても、今まで1万年もこの最下層で生き残って来れたなんて驚きね』


『たしかに……。とにかく、そのアロイスという守護神に会って話を聞けば、色々分かるはずだよ。特にマスターの行方については何か知らないか聞いておきたいからね』


 ケビンの話では、守護神アロイスは余所者とは絶対に会わないそうだ。ニドも守護神と会おうとしたらしいが、会わせてもらえなかったとケビンは言っていた。


 アロイスに会うことを許されているのは村長と長老級のロードナイト数人だけらしい。ケビンも守護神の姿を見たことは無くて、村長や長老たちから話を聞いているだけのようだ。だからオレたちがアロイスに会おうとしても村長たちに拒まれる可能性が高いだろう。その場合はアロイスの住居に直接押し掛けて行って、直談判するしかないと思う。


 アロイスの住居は岩壁を刳り貫いて作られていて、村では「神殿」と呼ばれているそうだ。村長や長老たち以外は入れないとのことなので、直談判する場合はオレたちはその場所にこっそり行って忍び込むつもりだ。


 しかし相手は魔力が〈3000〉もある守護神と呼ばれている男だ。忍び込んだりしたら盗賊と間違われて瞬殺されるかもしれない。どうしようか……。


 アーロ村を遠望しながら不安な気持ちが広がってくるのを感じていた。


 ※ 現在のケイの魔力〈400〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈400〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈400〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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