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SGS098 兵士たちを殺せるのか?

 アドミンとの話し合いが終わり、オレは高速思考を解除した。そして、ラウラにアドミンと話した内容を説明して、自分やユウたちの魔力が本来の〈400〉になったと話した。


『えーっ! 天の神様を捜すって、本気なの!? そんなことができるなんて思えないけど……』


『本気だし、心配しないで大丈夫。マスターの捜索は自分ができる範囲でやるし、他の優先しなきゃいけないことがたくさんあるからマスターの捜索は後回しになるって、アドミンへハッキリと宣言したからね。それに、捜索がムリそうなら諦めるということも言っておいたから』


『ふーん。あたしはいつでもケイの味方だから、ケイがやるって言うなら、一緒にやるよ』


『うん、ありがとう。ラウラが一緒なら心強いよ』


 オレの言葉にラウラはにこやかに頷いている。天の神様を捜すなんて話は途方もないことだから真剣に受け止めてないのかもしれない。


 ラウラは兵士たちに目を向けた。地面にはカイゼル髭のロードナイトとオレが治療した三人の兵士たちが横たわっている。


『ケイ、この兵士たちはどうするの? 生かしたまま解放すると、バーサット帝国にケイのことが伝わるかもしれないわよ。殺した方が良いと思うけど?』


 ラウラってあっさりと怖いことを言うよな。この世界ならそれが当り前なのだろうけど。


『ラウラの言うとおりだわん。このロードナイトや兵士たちは今すぐ殺すべきだぞう』


 コタローも過激なことを言う。コタローはソウルゲート・マスターが定めた戒律によって自己防衛以外で人族を攻撃するのを禁止されているそうだが、発言は何も制限されていないようだ。


『でも、ロードナイトたちを殺したりしたら、バーサット側に警戒されるよ。だから、殺すんじゃなくて暗示魔法で別の記憶を植え付けようと思ってるんだけど……』


 できればオレは人を殺したくない。それが本音だ。でも、今は自分が言ってることに自信が無かった。だから、つい弱気の口調になってしまった。


『ケイ、それは甘いにゃ。偵察隊の大半をすでに殺しているからにゃ。暗示を掛けて生き残った者たちを解放したら余計にバーサット側に警戒されるわん。それとにゃ、暗示魔法は完全じゃにゃい。偶然に解けることもあるのだぞう』


『それに、ケイ。よーく考えて。この兵士たちはあたしたちを殺そうとした敵なのよ。敵に情けは無用だわ。殺すべきよ』


 コタローやラウラが言ってることは理解できるが……。


『ケイ、私もラウラさんやコタローの意見に賛成よ。私も日本で育ったからケイが人を殺したくないっていう気持ちは分かる。でも、この世界は日本のように甘くないわ。法律や道徳で守られてる世界じゃないのよ』


 ユウの言ってることが正しいと頭では分かっていた。ここは弱肉強食の世界だ。それは種族間だけでない。人族の間でも弱い者は殺されたり奴隷にされたりする。油断すればすぐに命を失う世界だ。街壁を一歩出れば、自分の身は自分で守るしかない世界なのだ。


『それに……』


 ユウが言葉を続けた。


『さっきもラウラさんが言ってたけど、バーサット帝国がこのロードナイトたちを調べてケイの特殊な能力のことを知ったら、ケイを捕らえようと狙ってくるわよ。帝国には多くのロードナイトがいるらしいから、真正面で敵対して戦うのは難しいわ。やっぱりラウラさんやコタローの助言に従うべきよ』


 たしかにユウの言うとおりだ。今のオレでは大勢のロードナイトを敵に回して戦うなんてムリだ。捕まれば何をされるか分からない。もっと自分の能力を高めて十分に戦える力を持つまでは、敵となりそうなヤツらにオレのことを知られてはならない。


 でも、オレに人が殺せるだろうか。相手は自分の目の前で眠っている兵士たちだ。もしかすると家では奥さんや子供たちが帰りを待っているかもしれない。そんな兵士たちを殺せるのか?


 いや、そんな弱気ではダメだ。以前にオークと戦ったときにオレは心に決めたはずだ。相手が魔族であろうが人族であろうが、オレたちを攻撃しようとするならオレは反撃するし、必要なら殺すと。それが今なのだ。


『分かった。わたしが殺る』


 オレは決意を籠めて言った。


『ケイが人を殺すのがイヤなのなら、あたしが殺るよ?』


『いや、今はわたしが……、しなきゃいけないと思う。ラウラの気持ちは嬉しいけど』


 オレは魔力剣を出した。


『この前みたいに活性化の魔法を掛けようか?』


 ユウが聞いてきたのは、オレがオークたちと戦ったときに掛けてもらった魔法だ。あのときは怖くて体が震えていた。ユウが気を利かせてオレに活性化の魔法を掛けてくれたから、勇気が湧いて来て震えが止まったのだ。しかし、これはオレの心の問題だ。活性化の魔法に頼ってはいけないと思う。


『ユウ、ありがとう。でも、今はその魔法に頼ったらダメな気がするから』


 そう言いながらも、また自分の体が震え出しているのが分かった。胃の奥から吐き気が込み上げてきたが、ぐっと堪えた。別に震えていても吐き気がしても構わない。それが、ありのままの自分なのだから。


 オレは一人の兵士の前に立った。その髭面の兵士は地面に横たわって目を閉じている。眠っているのだ。何か楽しい夢でも見ているのか、目尻を下げている。この男にも家族がいるのかもしれないな……。


 またそんな思いが頭をもたげてくるが、オレは唇を噛んで雑念を振り払った。


 天の神様、あなたが本当にいるのならオレに勇気を与えてください。


 オレは心から祈った。なんとなく体が暖かくなったような気がして、不思議だが震えが止まった。祈りが通じたわけではないだろうが、自分の気持ちがスッと落ち着いていくのが分かった。


 オレはしゃがんで兵士の肩を掴んだ。そして心臓を狙って一気に魔力剣を突き立てた。兵士は「ウッ!」と声を立てて痙攣した。血が噴き出してオレに掛かるが、バリアがそれを防いだ。


 オレはその兵士が死んだことを検診魔法で確認した。なんだか自分の心が冷たく凍っていくような気がしたが、その気持ちを振り払って次の兵士のところへ移った。


 こうしてオレは兵士たち三人を殺した。最初の一人目は自分の気持ちに大きな抵抗があったが、二人目と三人目は何も考えず剣を突き立てるという作業になった。いつの間にか自分の体の震えは止まり、吐き気も消えていた。


 最後はカイゼル髭のロードナイトだ。オレはその前に立った。


『ケイ。待つのだわん。そのロードナイトを殺すのはラウラに譲るべきだわん。ラウラがその男を殺したらにゃ、ラウラの魔力を一気に〈320〉まで上げることができるからにゃ』


 自分より魔力が高いロードナイトを殺すことができれば、そいつのロードオーブからソウルを奪い取って自分のロードオーブに格納できるのだ。そうすれば、自分の魔力を倒した相手と同じ魔力にまで高めることができる。カイゼル髭の魔力は〈320〉だから、ラウラも同じ魔力になるってことだ。


『じゃあ、ラウラ』


 オレが場所を譲ると、ラウラは頷き剣を構えた。そして、躊躇う様子を少しも見せずに、カイゼル髭の心臓に剣を突き立てた。相手が死んだことを確かめると、すぐにソウル格納の呪文を唱えた。


『探知魔法で確認するからにゃ……。たしかにラウラの魔力は〈320〉になってるわん』


『みんな、ありがとう。自分の魔力が〈320〉になるなんて夢みたい……』


 ラウラは本当に嬉しそうだ。


『よかったね』


 オレはそう言ったものの、気持ちは沈んでいた。敵を殺したことを後悔はしていないが、人を殺したことに何とも言えないような後味の悪さを感じているのだ。


 ラウラがカイゼル髭を殺したときに大きな木箱が地面に現れていた。


『ロードナイトが死んだからにゃ。亜空間バッグに保管されていた箱が出てきたんだぞう』


 木箱を開けると剣や防具、衣類、食料、旅のキャンプ道具などが出てきた。それと、新品のソウルオーブが10個、大金貨が100枚入っていた。大金貨1枚は1万ダールだ。円に換算すればソウルオーブ1個が200万円、大金貨1枚が20万円くらいだから、総額で4000万円ということになる。


 今までの戦いで魔物や魔族、兵士たちから得た戦利品をオレはクメルンバッグに入れて担いできたが、ラウラの亜空間バッグに移し替えて入れてもらうことにした。ラウラの亜空間バッグがぐっと大きくなったからだ。


 オレはクメルンバッグから解放されてホッとした。その代わりにウエストポーチを腰に巻いた。さっきの木箱の中から可愛いウエストポーチが出てきたので、オレはその中にタオルなどの小物やソウルオーブ、大金貨などを少しだけ入れて持つことにしたのだ。このポーチなら狩りや戦いの邪魔にならないだろう。


 すべての死体を土に分解して、使えそうにない剣や防具も埋めた。これで戦いの痕は綺麗に消えた。


 では、さっきの子供を起こそう。たしか子供の名前はケビンだったな。


 ケビンに案内してもらってアーロ村へ行き、守護神アロイスが天の神様かどうか確かめるのだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈400〉。

 ※ 現在のユウの魔力〈400〉。

 ※ 現在のコタローの魔力〈400〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈320〉。


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