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SGS095 戦闘とケビンとの出会い

 カイゼル髭はこちらを殺すつもりがないのか手足を狙っているようだ。


 オレは右手に剣を持って、その打ち込みを弾いた。オレが使っている剣は以前にオークから奪った物で、カイゼル髭の剣よりも明らかに質が悪そうだ。打ち合いを続けると、こっちの剣が折れてしまうかもしれない。


 周りの兵士たちも剣で攻撃してきた。それも剣で弾き返しているが、完全には防ぎきれない。何度か打撃を受けてオレのバリアが光った。さすがに何人もの兵士たちから同時に攻撃されたらそのすべてを防ぐのは難しい。だが今のところ問題はない。オレのバリアの回復力が勝っているからだ。


 ラウラにも兵士たちが群がっているが大丈夫そうだ。ラウラは電撃剣を使って一撃で兵士たちを倒していく。さすがはラウラだ。


 カイゼル髭は兵士たちに攻撃を任せて自分は後ろに下がろうとしている。だが逃しはしない。まず倒すべき相手はカイゼル髭なのだ。


 とにかくオレはカイゼル髭に食らい付いて剣で打撃を加えていく。カイゼル髭も必死の形相で剣を使ってオレの打撃を防いでいる。


 重要なのはカイゼル髭に魔法を発動する余裕を与えないことだ。ヤツが発動しているのは魔力〈160〉のバリア魔法だけだ。もしヤツが残りの魔力を使って筋力強化や敏捷強化を発動すればオレの勝ち目はほとんど無くなるだろう。


 オレは右手に持った剣で連続攻撃を繰り出しているが、実はそれはオトリだ。本命の攻撃は無詠唱で発動しているバリア破壊魔法だ。さっきから左手でこっそりとカイゼル髭に撃ち込み続けている。バリア破壊魔法を撃ち込まれると普通はその音で気付くはずだが、剣撃の音にごまかされてヤツは気付いていないようだ。これも作戦どおりだ。


 カイゼル髭のバリアが灰色に変わってきた。ヤツもそれに気付いて、顔には焦りの色が浮かんでいる。剣の打撃は全部防いでいるはずなのに何故だと必死に考えているに違いない。だがパニックになった頭ではオレが無詠唱でバリア破壊魔法を撃ち込んでいることなど思いもよらないようだ。


 やがて「パリン」という音がして、カイゼル髭のバリアが消えた。


 では、おやすみ。オレは眠りの魔法をカイゼル髭に撃ち込んだ。


 ラウラも兵士たち全員を倒したようだ。


『ケイ、200モラ先の低木の中に人族が一人隠れているにゃ』


『うん、分かってる。ソウルオーブも持っていないみたいだから無害だと思うけど、調べたほうがいいよね。ラウラ、捕まえて来てくれる? わたしは兵士たちを調べておくから』


『了解。兵士のほとんどを殺したけど、何人かはまだ生きていると思う』


 見ると、兵士たちの大半が地面に血だまりを作って倒れ伏していた。死んでいるようだ。中には腕や脚を切断されて、這いずりながら逃げようとしている兵士もいた。見ているだけで気持ち悪くなってきた。


 オレは地面に転がっている兵士たちを見て立ち尽くしていた。


『これが、この世界の現実なのね』


 オレの思いを察したのか、ユウが高速思考で話しかけてきた。


『うん。ラウラは兵士たち全員を殺そうとしたんだろうね。こっちの世界では敵は殺すというのが常識だから……』


 オレは深く考えずに「攻撃されたら反撃する」と言っていたが、この世界での反撃とはそういうことなのだ。


『生き残っている兵士たちをどうしよう?』


『トドメを刺す?』


『とんでもない! わたしにはそんなこと、できないよ!』


 オレよりもユウの方が冷静なのか、血を見ることに慣れているのか……。


 生き残っている兵士は三人だった。オレはその生き残りたちに強力な眠りの魔法を掛けた。その後、一人ひとりを丁寧にキュア魔法で治療していった。


 キュア魔法より神族固有のヒール魔法の方がずっと早く治るが、1日に使えるヒール魔法には回数の制限がある。コタローに聞いたところ、今のオレの魔力なら5回が限度だそうだ。だからヒール魔法は万一の事態に備えて大切に取っておかねばならない。


 兵士たちの死体や転がっている腕や脚は分解魔法できれいに消した。分解できない武器や防具の始末は後で考えよう。兵士たちが持っていた多数のソウルオーブやお金は没収した。


 死体の処理をしていると、ラウラが男の子を捕らえてきた。


『逃げようとしたから魔法で眠らせて運んできたけど、怪我はさせてないよ』


 浮遊魔法で空中に浮かせて念力魔法で引っ張ってきたようだ。ラウラも魔力が高くなったから安心して任せられる。


『ありがとう。先にこのロードナイトを尋問するから、その子はそのまま眠らせておいて。それと、ラウラとコタローで周りの警戒をお願い』


 オレは平静を装っていたが、兵士たちの凄惨な姿が頭から離れなかった。だが、そんなことも言ってられない。このカイゼル髭のロードナイトには色々と聞かねばならないのだ。


 尋問は暗示魔法を使って行った。魔法が掛かるまで何度も失敗して時間は掛かるが、確実な情報が得られるし、オレの命令に逆らえないようにできる。


 カイゼル髭への尋問で、この兵士たちはバーサット帝国の偵察隊だと分かった。


 バーサット帝国というのは初めて聞く名前だったし、ラウラも国の名前くらいしか知らなかった。この闇国にバーサット帝国の砦があって、偵察隊はそこから来たらしい。まずはバーサット帝国とその砦のことを尋ねた。闇国のことやアーロ村のことなども尋問して色々と知ることができた。


 尋問が終わりカイゼル髭を再び眠らせた。


『この闇国についてはコタローの言うとおりだったね。ここはクドル・ダンジョンの最下層で、上から見たら直径が40ギモラくらいの車輪のような形をしてるだろうと推測していたからね』


 オレは高速思考を発動せずに全員へ語り掛けた。ラウラにも伝わるようにと考えたからだ。それに答えたのはユウだった。


『それよりも気になるのは車輪の内側にも別の大空間があるってことよ。そこには魔獣を何倍も大きくしたような大魔獣がウロウロしていると言ってたけど……。コタローは知らなかったの?』


 ユウの念話には恐れの感情が混じっている。


『知らなかったわん。オイラが使っているのはソウルゲートの情報バンクでにゃ、そこに登録されているのは1万年前の情報だからにゃ』


『1万年前の情報!? コタローは何でも知ってると思ってたのに……』


 ユウだけでなくオレも驚いてる。


『初代の神族が死に絶えてからはソウルゲートに情報が入って来なくなったからにゃあ』


 コタローの話では、1万年前の地上のマップはあるが、ダンジョンの中のマップは無いそうだ。と言うか、ダンジョンの構造が大きく変わっているようで、1万年前のダンジョンマップは役に立たないらしい。


『さっき聞いた話だと、魔族や魔物が妖魔や魔獣に変異するのは車輪の内側にある大空間だと言ってたよね。今度からはその大空間へ行って狩りをしようと思うんだけど、どうかな?』


『でも、ケイ。大魔獣とか、あたしにはムリっぽいけど……』


『いや、ラウラだけじゃなくて、わたしにもムリだから』


『でもね、ラウラさんもケイも、ムリだとか言ってられないわよ。地上へ戻るためのワープゾーンは大空間の中にあるそうだから。そのワープゾーンを探し出さなきゃいけないのよ』


 たしかにユウの言うとおりだ。ワープゾーンの位置はカイゼル髭に聞いたから、だいたいの見当は付いている。


『そうね、ユウちゃん。内側の大空間を横断せずに、外側の車輪部分を通れば危険は少ないと言ってたから、そのルートで行けばいいわね。こちら側から大空間へ通じる洞窟はたくさんあるそうだから』


 ラウラもユウに賛成のようだ。だが、大魔獣がウロウロしているような場所で地上へ通じるワープゾーンを探して歩くのは今の自分たちでは危険すぎる。


『ルートはそれで良いけど、すぐに地上に戻るんじゃなくて、わたしはこのクドル・ダンジョンの最下層で訓練を続けたいと思ってる。内側の大空間には妖魔や魔獣がたくさんいるらしいから、そいつらを狩って魔力や体力を高めておきたいんだ。今の自分たちでは大魔獣に勝てそうにないからね』


 オレはこの最下層にいる間に自分の魔力を〈500〉以上にしておきたい。そのためには車輪の内側にあるという大空間へ行って魔獣や妖魔を倒すしか方法が無いのだ。大魔獣が徘徊しているらしいから、それには注意が必要だが。


『じゃあ、それで決まりね。当分の間はケイの案で訓練を続けましょ』


 ユウがそう言うと、ラウラやコタローも賛成してくれた。


 次は男の子への尋問だ。見た感じは12歳くらいで可愛い顔をしている。


 目覚めさせて色々と尋ねると、素直に答えてくれた。この子はケビンという名前で、アーロ村の住人らしい。なんと、ニドのことを知っていると言う。


「おれっち、ニド兄からケイ姉への伝言、預かってるヨ。ケイという美人が村に来たら伝えてくれって頼まれてたのサ。でもナ、村で待ってても来ねぇからサ、捜しに来てやったわけヨ」


 面白い子供だ。目がキラキラしていて賢そうだ。言葉遣いがちょっとアレだが、このくらいの年頃の男の子は誰もがこんな感じなのかもしれない。


「それは、ありがとう。で、ニドはわたしにどんな伝言を残したの?」


「言うヨ。おれはご主人のミレイ神様のところへ戻る。ケイがミレイ神様より強くなったら尋ねて来い。ニド兄からの伝言これだけサ」


 そうか。ニドはミレイ神の使徒だったのか……。レングラー王に直属する密偵だろうとオレは勝手に思い込んでたが、それは間違いだったようだ。


『ニドがミレイ神の使徒だということは、ミレイ神の命令でケイを見張っていたということよね』


 ユウの念話にはミレイ神に対する不信感が籠っている。


『うん。でも、どっちかって言うとニドに守られてた気がするけど……』


 ミレイ神はニドにオレを守るように命令してたってことか? どうしてオレを守ってくれたんだろう? オレがミレイ神の子供を代理出産したからだろうか?


 考えても分からないから、とりあえずニドのことは置いておいて、ケビンにアーロ村のことを教えてもらった。


 村にはアロイスという守護神がいることはカイゼル髭から聞いていたが、ケビンはもっと詳しく話してくれた。


「おれっちの守護神様はナ、聞いて驚けヨ! なんと1万年も生きておられるのサ。しかもヨ、魔力は〈3000〉もあるんだゼ!」


「ほんと? ……ちょっと考えるから、あなたは少し眠ってて」


 ケビンとの会話でオレの頭に閃くものがあった。オレはケビンを魔法で眠らせて、高速思考を使って考え始めた。


 高速思考とは自分の脳は使わず、代りに異空間ソウルの補助人口頭脳を使うのだ。自分のソウルと補助頭脳で通常の100倍以上の速度で思考できる。それに、オレだけじゃなくて、ユウやコタローとも高速思考のスピードで念話ができるから超便利だ。ただし、残念ながらラウラは高速思考での念話はできない。


 それはさておき、この守護神のことだ。こいつは、もしかするとソウルゲートの関係者かもしれない。伝説には1万年前に天の神様が姿を消したとあった。天の神様とはソウルゲート・マスターのことだ。そしてここに1万年くらい生きているらしい守護神と呼ばれる超人がいる。


 もしかすると、この守護神というのは行方不明になっているソウルゲート・マスターかも。その可能性は十分にある。そして、ソウルゲート・マスターをアドミンは捜しているはずだ。これはオレにとってすごいチャンスだ。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈180〉。


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