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SGS094 兵士たちに囲まれる

 森から現れた兵士たちが駆け寄ってくる。距離は200モラくらいになった。


『あいつらが遠距離からの攻撃を仕掛けて来ないのは、こちらを捕らえて取り調べるつもりかもしれないね』


『ケイ、おとなしく捕まるつもりなの?』


 ラウラは挑発的な目を向けてくる。その目は闘志に溢れている感じだ。


『捕まるつもりはないよ。話し合うか、戦うかだけど……。どっちにしても、まずは相手の戦力が知りたいよね』


『コタロー、あのロードナイトだけど、どうにかして魔力が分からない?』


 ユウ、ナイス! オレもそれを聞こうと思ってた。


『もっと近寄って、相手が気付かないくらいの微弱な魔力を当てて調べれば分かるかもしれないにゃ』


『分かった。魔力で調べるのはコタローに任せていい?』


『任せろにゃん!』


『ケイ、それであたしたち、どうするの?』


『近寄るためにも、まずは彼らと話し合ってみるよ。もし彼らが戦いを仕掛けてきたら反撃する。でも、コタローの調査結果を聞いて、ヤバければ逃げるかもしれない。戦うときはわたしがロードナイトの相手をするから、ラウラは残りの兵士たちを相手して。ユウとコタローはいつものようにわたしのサポートをお願い』


『『『りょーかい(だわん)』』』


 オレたちが立ち止ると、兵士たちが周りを取り囲んだ。


「おまえたちはアーロ村の者か?」


 ロードナイトが質問してきた。兵士全員が同じデザインの革の鎧を身に着けているが、ロードナイトの男だけが少し凝った作りになっている。このロードナイトは50歳を超えていそうだ。鼻の下から立派なカイゼル髭が八の字に跳ね上がっていて、胸を張った立ち姿からは威厳が滲み出ている感じだ。しかしどこか滑稽に見えてしまうのはオレの感性がひねくれているのだろうか。


 それにしても、このカイゼル髭の男はどうしてオレたちを警戒していないのだろうか? あぁ、そうか。思い出した。探知魔法では神族や使徒は普通の人族として認識されるのだった。だからこのカイゼル髭はオレやラウラのことを魔力〈1〉の一般人として捉えているのだろう。


 さっき、この男はアーロ村と言ったようだが……。オレたちはそこの村人と間違われたみたいだ。この近くにそういう村があるってことだろうか。


「アーロ村? いえ、違います」


 オレが臆することなく答えたから、カイゼル髭は少し驚いた顔をしている。


「では、どこの者だ?」


 カイゼル髭はオレをじろっと睨んで低い声で言った。


「ええと、クドルの大ダンジョンを探索していたら、ここに飛ばされてしまったのです。ここはどこですか?」


 オレはわざと、時間稼ぎのためにカイゼル髭のロードナイトに向かって質問した。こいつの魔力はオレより高いらしいから要注意だ。


「なんと! ダンジョンの探索とな? それにしては貧相な装備だの? 剣は腰にぶら下げておるが、ソウルオーブも持たずに、女だけで探索とはのう……」


 そう言いながらオレの胸やお尻をジロジロ見ている。カイゼル髭の視線がイヤらしい。さっきの威厳はどこへ行った?


「えーっと、ここに飛ばされたときに仲間と逸れてしまって……」


 ジロジロ。視線が気持ち悪い……。


「それにしては、汚れておらぬの。ふーむ。怪しいのう……」


「それより、みなさんはどこの国の戦士さまですか?」


 オレはカイゼル髭のロードナイトに近付きながら聞いた。コタローから魔力を調べるためにもっと相手に近寄ってほしいと言われたからだ。


 兵士たちはオレの問い掛けを無視している。


「この女たちはどうも怪しい。連行して取り調べるかのぅ」


 そのとき、コタローから待っていた報告が来た。高速思考だ。


『相手の魔力が分かったわん。このロードナイトの推定魔力は〈320〉だにゃ。そのうちの半分がバリアに使われてるからバリアの防御力は〈160〉だわん。残りの魔力は〈160〉だけどにゃ、今は使ってないみたいだわん。こちらをタダの女二人だと見て油断してるようだにゃ』


『こいつの魔力は〈320〉もあるのか……。こっちは魔力が〈240〉だから勝てそうにないよね。逃げようか?』


『逃げる必要はないと思うぞう。魔力だけ比べたら相手が格上だけどにゃ、発動している魔法は魔力〈160〉のバリアだけだわん。相手は油断してるからにゃ、残りの魔力を使わせないようにすれば勝てるはずだぞう。とにかくにゃ、呪文を唱える余裕を与えないように攻め続けることが肝心だわん』


『分かった。攻め続けて、相手に魔法を発動させないってことだよね?』


『そういうことだにゃ』


『それとユウ、もし戦いになってこっちのバリアが破れたら、この前みたいにリカバリをよろしく』


『まかせて』


 ユウからの力強い返事。


『ユウのバリアも破れたらオイラがリカバリするわん』


『ありがとう』


 もしバリアを破られたら10秒間のロスタイムが発生して、その間は魔法を発動できない。普通ならその間に殺されてしまうだろうが、オレの場合はユウやコタローがバリアを張ってくれる。二人ともオレのロスタイムに影響されないから、そのバックアップがあるのは本当に心強い。


『今のケイの最大魔力は〈240〉だわん。そのうちバリアに〈120〉を使って、筋力強化に〈50〉を使っているからにゃ。残りの魔力は……』


 またコタローの悪い癖が始まった。戦いの前に色々と数字を使ってアドバイスをしてくれるが、そんなことを言われても頭の中に入って来ない。


『コタロー。アドバイスは有難いけど、要点だけを言って』


『相変わらず頭が悪いにゃ。ケイの強みは残りの魔力を無詠唱ですぐに発動できるってことだわん。相手に勝つためにこの魔力をケイがどう使うかってことが肝心だにゃ』


『ケイ、そんなの簡単よ。まず腰から剣を抜いて……』


 ユウのアドバイスで作戦が決まった。長々と会話をしているように見えるが、これはすべて異空間ソウルの固有魔法である高速思考を使ってオレとユウ、コタローの間で会話をしている。だから一瞬だ。


 オレは高速思考を解除して、カイゼル髭の男にニコッと微笑んだ。男もニッと笑い返してくる。あれ? 勘違いさせたかも……。


「うむ。では、この女たちを砦に連れ帰って取り調べを行うことにするかの。こいつらを捕らえろ!」


 カイゼル髭がイヤらしい目つきでオレとラウラを交互に見ながら兵士たちに命じた。


「イヤだと言ったら?」


 カイゼル髭の頬がピクピクと震えた。抵抗するとは思ってなかったみたいだ。


「逆らうとな? それなら痛い思いをすることになるぞ。殺してしまうかもしれんが、それでも逆らうかの?」


「殺せる?」


 思わず挑発的な言葉を返してしまった。オレもカイゼル髭の言動にちょっと頭に来ていたのだ。


 兵士の一人が挑発に乗って、オレの腕を掴もうと手を伸ばしてきた。だが、オレの体はバリアで守られているから触れるはずがない。兵士の手はオレの体にあと10セラくらいのところで弾かれてしまった。


 周りの兵士たちはオレのバリアに気付いたようだ。剣を抜く者、叫び声をあげる者など兵士たち全員が身構えて、殺気が膨らんでいく。


「痛めつけろ。殺してもかまわん」


 カイゼル髭の声に真っ先にオレの正面の兵士が反応した。「死ねっ!」と声を上げながら剣を打ち込んできた。


 それを自分の剣で弾き返したいがグッと堪える。オレは両手をだらり下げたまま身動き一つせずに打ち込んでくる兵士を睨み付けた。


 オレのバリアが兵士の剣を難なく弾き返した。バリアが無ければオレは明らかに斬り殺されていただろう。


「こっちは無抵抗なのに、それを斬り殺そうとするなんて、あんたたちは最低だね」


 そう言いながら最低なのは自分の方だと思った。オレが無抵抗だったのは反撃する理由が欲しかったからだ。この兵士たちを殺してしまうかもしれないが、自分を納得させる正当な理由が欲しかったのだ。小狡いと思うが、そうでもしないとオレはこの兵士たちを殺せそうにない。


「お、おまえは……? そうか。おぬしはようまじんか? 妖魔人だな?」


 妖魔人だって? たしか、意識を持った浮遊ソウルが人族の体を乗っ取って、人族に敵対するヤツを妖魔人と呼ぶのだったな。


 カイゼル髭たちはオレのことを妖魔人だと考えて警戒しているようだが、ちゃんと否定しておくべきだろう。


「バリアで体を守っているけど、わたしは妖魔人じゃないよ」


「そのバリアは明らかにソウルオーブのバリアとは違う。おぬしは普通の人族にしか見えぬが、高い魔力を隠しておるようだ。間違いなく妖魔人であろう?」


「いや、違うから」


「隠さずともよい。我が皇帝は妖魔人を捜しておられる。どうだ、我らに味方せぬか? 味方になれば、おぬしたちが望む物は皇帝が何でも与えてくださるぞ。金、身分、領地、なんでも欲しいままだ。見栄えの良い男どもでも構わぬぞ?」


「何か勘違いしてるようだけど、わたしたちはあんたたちの皇帝が捜してる妖魔人じゃないよ」


「むむっ! では、仕方ない。捕らえて調べるしかないのぉ。皆の者、この者たちを捕らえよ。できるだけ殺さぬようにして捕らえるのだ。かかれっ!」


 兵士たちに命令を出して、カイゼル髭はオレに剣を打ち込んできた。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈180〉。


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