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SGS093 ニド、ミレイ神の副官になる

 ―――― ニド(前エピソードからの続き) ――――


 ゆっくり移動していた大魔獣サソリが止まった。尾を高く上げて、「シューシュー」と音を出し始めた。300モラ離れたおれたちにもその威圧感が伝わってくる。この大魔獣が固有に持っている威圧魔法かもしれない。


 案の定、兵士たちはその威圧感で体が痺れて動けなくなったようだ。大魔獣サソリは岩陰に潜む兵士の一人に近付き、前脚のハサミを振り上げた。遠くでハッキリとしないが、ハサミを見上げた兵士の顔が恐怖で歪んだように見えた。


 ソウルオーブのバリアくらいでは全く役に立たないようだ。大魔獣サソリはハサミでバリアごと兵士を摘み上げて脚から食べ始めた。兵士が泣き叫ぶ声が聞こえていたが、サソリの口元にある大きな牙で体を真っ二つにされると息絶えたのか静かになった。大魔獣サソリは兵士の上半身を咀嚼すると、またすぐに別の兵士を摘み上げた。


 そのとき、横から大魔獣サソリの尾に熱線が撃ち込まれた。この大魔獣サソリの尾も魔物のボンジャスピガ(火毒サソリ)と同じように尾の先が毒砲針と火砲針に分かれている。これを潰そうと狙ったのだろうが、そのどちらにもダメージは通っていないようだ。


 大魔獣サソリはハサミで持ち上げていた兵士を放り投げた。兵士の体が二つに別れて遠くへ飛んでいった。


『熱線を撃ったのはロードナイトのようね。魔力〈120〉のロードナイトが二人いたけど、それくらいの攻撃力ではあの大魔獣には全然歯が立たないわ。あの大魔獣がどれくらいの魔力があるのかは私でも感知できない。ということは、あいつの魔力は私の魔力を超えているということよ』


 おれは黙って頷いた。自分はミレイ神様の使徒だから魔力はそれなりにあるつもりだが、この大魔獣には絶対に勝てないだろう。


 大魔獣サソリは尾を高々と持ち上げて、周りの兵士たちに向けて毒砲と火砲を次々と放ち始めた。毒球と火球が各兵士に向かって誘導されながら飛んでいく。あっと言う間に全員が殺されてしまった。二人いたロードナイトもバリアを一撃で破壊されたようだ。


『見たいものは全部見たわ。さ、帰るわよ。早く帰って、レング神様に分かったことをお話しするの。これで、あのジルダ神様に……。ウフフフッ』


 ミレイ神様は第一夫人のジルダ神様のことを恐れているだけでなく、どうやら対抗心もお持ちのようだ。


『レングランへの知らせはどのようにいたしますか?』


『そうねぇ……。レングランには精鋭部隊を編成させて、大至急でここへ送り込まなきゃいけないわね。ここに拠点を作らせるのよ。レング神様にそれをお願いするわ。バーサットがここでロードナイトの育成を加速させるなら、レングランもここに拠点を作って対抗する必要があるものね』


『バーサットから兵士を送り込んでくるためのワープゾーンも潰さないといけませんよ』


『ええ、そうね。それと、バーサットの砦を監視させることも必要ね』


 ミレイ神様はこの刺激的な情報を主神のレング神様に報告することで、ご自分の有能さをレング神様に認めていただこうとしているのだ。この報告と対策の具申が上手くいけば、第一夫人のジルダ神様へももう少し強気で接することができるようになるかもしれない。だからミレイ神様は張り切っているのだろう。


『色々と忙しくなりそうねぇ……。ニド、あなたを昇進させて、その任務を変更します。今後は私のそばに付き従って、副官として私を補佐しなさい。いいわね?』


 ミレイ神様の副官か……。これは昇進したことを喜ぶべきだろうか。いや、仕事がキツクなることを嘆くべきだろうな。今までは単独で長期間遂行する仕事が多かった。自由に動けたが、これからはミレイ神様とずっと一緒に動くことになる。それに、ミレイ神様は我儘だし、裏でこっそり動くことを好まれるからなぁ。何をやらされることになるやら……。


『はい、畏まりました。ところで、ケイの監視と護衛はどうしますか?』


『ケイはこのダンジョンから簡単には出られないわよ。そうなると、ケイはアーロ村を見つけて腰を落ち着けるでしょうね。だから、ケイについては放っておいて構わないわ。このクドル・パラダイスにいる限り心配はいらないから』


 心配するなと言われても、ケイのことは心配だ。しかしミレイ神様が言われるようにケイはこのダンジョンからは簡単には出られないだろう。おそらくケイはこの地で留まって自分を鍛えるに違いない。


 ケイと出会ったころ、おれはケイのことをアイラ神様の隠し子だと思っていた。今ではそれが自分の大きな勘違いだったと分かっている。ミレイ神様はケイに対して冷淡だが、おれは違う。どうにかしてケイを庇ってやりたい。


『守護神のアロイスやアーロ村への監視も必要と思いますが?』


『そうねぇ……。監視を置くほどでも無いわねぇ。アロイスもアーロ村の魔闘士たちもこのダンジョンから出られないわけでしょ。それなら脅威でもなんでもないからね。でも、時々アーロ村には様子を見にきたほうがいいかもしれないわね。ケイの様子を見るためにもね』


『それなら、おれが様子を見に来ますよ』


『いえ。私がワープで時々様子を見にくるわ。そのときはあなたも同行しなさい』


『分かりました、ミレイ神様』


 ミレイ神様は頷くと、おれを連れてレング神様の神殿へワープした。


 おれはケイのことを考えていた。どうか無事でいてくれと。ケビンにケイへの伝言を託したが、上手く伝えてくれるだろうか……。



 ――――――― ケビン ―――――――


 ニド兄が村を出て行ってから7日が過ぎちまった。おれっちは、あの兄ぃのこと、好きだナ。なかなか気持ちがいい兄ちゃんだったから、おれっち、タダでニド兄から伝言をあずかったわけヨ。イヤなヤツだったら絶対に断るけどナ。


 近いうちにケイっていう名前のキレイな女が、ニド兄を捜してこの村へ来るかもしれないって言うのサ。もし来たら彼女へ伝えてくれって兄ぃから頼まれたわけ。伝言の中身? それはナイショ。


 とにかく、もうすぐその美人さんがこの村を訪ねてくるって話だったから、おれっち、心待ちにしてたわけヨ。


 だけど、おれっちの密かな期待は潰れちまった。このアーロ村にやってきたのはその美人さんじゃなくて、厳つい顔のオッサンたちだったのサ。男ばっかりのむさくるしい集団でヨ。数えたら三十人いたゾ。レングランていう国から急いでここに来たんだと。このクドル・パラダイスがバーサットから侵略されるのを防ぐために来たとか言ってたけどヨ。ウソ言うなっつうの! こいつらバカか? たった三十人で何ができるんだヨ?


 人数だけじゃねぇヨ。バーサットの砦にいる兵士たちと比べたら、このオッサンたちは好き勝手やってるしナ、装備や服装も全部バラバラじゃん。こいつら、兵士じゃないってことだナ。


 村長さんと話をしてた男が隊長らしいけどナ。自分はサレジだとか名乗ってヨ、でかいツラしてやがんの。村長にオドシをかけてたヨ。魔闘士が五人もいるんだゾ、だと。笑っちまうよナ。やっぱりこいつらはバカだネ。知らないんだナ。こっちには守護神様がいるしナ、魔闘士だって七十人いるンだゾ。


 それにヨ、あんたがオドシかけてる村長さんは少し年を食ってるけど偉大な戦士だからナ。一人でクドル・インフェルノへ行って魔獣を何十頭も倒したことがある人がおれっちの村長なのサ。顔がデカイだけのオッサンが怖くて、この村の村長をやってられっかっつうの!


 サレジとかいうヤツは、この村に三十人のオッサンたちを住まわせろとか言ってきたらしいけどヨ、村長さんはオドシを屁とも思わず、キッパリ断ったと。そりゃそうだ。こんなオッサンたちが村をうろつき回るとうっとうしいよナ。


 サレジってヤツはしつこかったってヨ。村に住むのは諦めるから、代りにクドル・パラダイスとクドル・インフェルノを案内しろだと。どーして、案内なんぞしなきゃいけねーの! おれっちには関係ねぇーゾっ! これも村長さんは突っぱねたって。さすが村長は偉いってナ、村の連中はみんな褒めてたゾ。


 それでどうなったかって言うとナ、オッサンたちは村長さんに追い出されるようにして村から出てったヨ。


 バーサットの連中と戦うのは勝手にヤレばいいけどヨ、もし戦うなら村から離れた遠いとこでやってくれよナ! 村長さんはオッサンたちにそう言ったって。


 いやぁー、さすがだナ、おれっちの村長はっ! って感心してたら、おれっち、村長さんから呼び出されたんだ。


「おまえが余所者に色々喋ったんじゃねぇのか?」


 そう言って村長さんはおれっちのことを疑ってんだヨ。そりゃ、ニド兄に喋ったけどヨ。だけど、おれっちはなーんも言っとらんて、しらばっくれたサ。兄ぃと秘密にするって約束したもんナ。


 ………………


 村長さんがオッサンたちを追っ払ってから3日か4日が過ぎたナ。おれっちは村から少し離れたところまで偵察に出ているところだヨ。兄ぃが言ってた美人さんがなかなか村へ来ないからナ。これはもしかするとナ、ニド兄が倒れてたみたいにヨ、その美人さんも倒れているかもって、ちーっと心配になったからネ。


 今日はおれっち一人サ。いつも一緒に遊んでる連中はいないヨ。おれっちが村長さんから目ぇ付けられてることを知ってサ、今日は用があるとか、忙しいとか言い始めたわけヨ。ふん! 情けない奴らだよナ。


 あれっ? 遠くで誰かが戦ってるゾ。あれはバーサットの兵士たちだナ。二十人くらいだから、いつもの偵察隊みたいだナ。相手は女が二人だけ。マジかっ?


 ともかくヨ、おれっちは見つかるとマズイからナ。茂みに隠れるべ。



 ――――――― ケイ ―――――――


 間違いなく相手が先にこちらを見つけていた。いつものようにコタローから警告があったときには、すでに相手側が動いていて、こちらに向かって来ていたのだ。


『人族が二十人。距離240モラ。全員がソウルオーブを装着。ロードナイトが一人いるぞう。にゃにゃっ! ロードナイトの魔力が計測できにゃい。これは、ケイより相手の魔力が高いってことだわん。兵装がそろっているから、どこかの国の兵士だにゃ』


 目の前には1ギモラ四方の草原がある。オレたちはいつでも森の中に身を隠せるように、草原の縁を森に沿って歩いていた。


 その兵士たちが森の中から走り出てきたのは突然だった。こちらが気が付かないうちに回り込まれていたようだ。


 くそっ! どうすればいい? 逃げるか。戦うか。話し合うか……。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈180〉。


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