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SGS091 ニド、守護神アロイスを探る

 ―――― ニド(前エピソードからの続き) ――――


 もしかすると守護神アロイスは天の神様かもしれない。ミレイ神様も興味をお持ちになるだろう。ちゃんと探っておくべきだ。


 おれは散歩から戻ってから、アロイスという守護神が本当にいるのであれば会わせてほしいとケビンに頼んだ。だが、あっさりと拒否された。守護神は余所者とは会わないからダメだと言う。それなら守護神についてもっと詳しく教えてほしいと頼むと、それも村の掟に背くことになるからムリだと断られた。


 しかしケビンはニンマリと笑って言葉を続けた。


「おれっちにヨ、地上のことを教えてくれたらナ、お返しに守護神様のことを教えやってもいいゼ。おれっちが話したことはヨ、もちろん内緒だけどナ」


 この子はちょっと小ずるくて好奇心旺盛なところがあるようだ。そんな子供心に付け込み、しかも助けてくれた恩人に村の掟を破らせるようなことをするのは心苦しいが、これも任務のためだ。


 おれがその条件で頼むと、ケビンは堰を切ったように知っている限りのことを教えてくれた。


 おれの期待に反して守護神アロイスは天の神様ではなかった。


「村長さんから聞いた話だけどナ、アロイス様は一万年前に天の神様からクドル・ダンジョンの底で妖魔や魔獣を退治するように命じられたんだってヨ」


 ケビンが色々と話してくれたので、アロイスについての概略は分かった。


 アロイスは天の神様がクドル・ダンジョンに配置した戦士だそうだ。その役割はダンジョンで生まれる妖魔や魔獣を退治することだ。アロイスの体形は人族と同じだが、身長は2モラ以上あって筋骨逞しく、天の神様が特別にお造りになったという。神族ではないと思われるが、神族と同じように年を取らないそうだ。しかも一万年もの間、妖魔や魔獣の退治を続けてきた結果、魔力は〈3000〉になっているという超人だ。


 守護神アロイスが本当にそれほど強い魔力を持っているのであれば、地上の国々はアロイスによって征服されてしまうかもしれない。おれは自分の懸念をケビンに率直にぶつけてみた。しかしケビンは絶対にそれはないと言って笑った。なぜならアロイスは天の神様からクドル・ダンジョンの中だけで魔獣を退治するよう命じられていて、ダンジョンの外に出ることは禁じられているからだと言う。


 それはアーロ村の住人たちも同じらしい。住人たちは全員がアロイスの家臣であるため、彼らもまた主人に遠慮してダンジョンの外には出ていかない。魔闘士が多いのも、アロイスの方針で村で生まれた者は成人になれば男女を問わず誰もが魔獣退治をするからだ。そのために地上の人族よりもロード化したり魔力を高めたりするチャンスがずっと多いのだろう。


「この場所がクドル・ダンジョンの底だってことは分かったけど、地上への出口はあるだろ? 出口がどこにあるか教えてくれるかい?」


 おれが問い掛けると、ケビンは「地上への出口なんかねぇヨ」と言いながら落ちていた小枝を手に取った。その小枝で地面に絵を描きながらアーロ村があるこの谷間について色々と教えてくれた。


「村長さんから教えてもらったンだけどヨ。おれっちが住んでいるアーロ村はナ、ダンジョンの地下深くできた谷間の底にあるんだってサ。この谷間はナ、上から見るとこんな輪っかになってぐるっと続いているらしいンだヨ」


 ケビンは小枝で地面に円を描いた。


「この線が谷間だヨ」


 ケビンが小枝で描いた線は細いが、実際の谷間は幅が1ギモラ、高さが1ギモラほどある。その谷間の底にアーロ村はあった。ケビンの言うことを信じるとすれば、この谷間は馬車の車輪を横倒しにしたように環状になっているようだ。だから谷間を岩壁に沿って歩いていくと、一周して元の場所に戻ってくるということだ。谷間はどこまで行ってもほぼ同じ幅と高さで、一周するとその距離は120ギモラくらいあるようだ。


「それとナ、この輪っかの中には大空洞があるんだけどナ」


 ケビンは小枝の先で輪っかの内側を全部塗りつぶした。この絵が本当だとすれば、輪っかの内側には直径が40ギモラくらいある大空洞があるということになる。その大空洞の天井までの高さはどこもだいたい同じで300モラくらいだそうだ。巨大な岩の柱が何本も地面から天井まで伸びて、その大空洞を支えているらしい。


 その大空洞とアーロ村がある谷間とは長さ1ギモラほどの洞窟で繋がっていて、そんな洞窟が数えきれないほどあるとのことだ。


「おれっちは行ったことがネェけどナ、この大空洞は恐ろしい場所なンだワ。地上の魔族や魔物がナ、この大空洞の中へワープして来てヨ、妖魔や魔獣に化けるンだゾ。それだけじゃねぇ。大魔獣もウヨウヨしてるからナ」


 ケビンの話から分かったが、この大空洞の中で魔族や魔物が妖魔や魔獣に変異するらしい。ケビンが大空洞を恐ろしい場所だと言っているのは、妖魔や魔獣の数が多いだけでなく、体長が10モラを超える大魔獣が何頭も徘徊しているからだ。大魔獣は魔獣がさらに変異した化け物で、通常の魔獣より体が大きいだけでなく、何倍もの魔力と筋力を持っている。


「村長さんでもナ、若いころに大魔獣に追いかけられて小便をちびったと言ってたゾ」


 そう言いながらケビンは笑っているが、それほどに大魔獣は恐ろしいということだろう。人族を見つけるとすごい速さで襲い掛かってくるそうだ。


 大空洞へは村の魔闘士たちも妖魔や魔獣を狩りに出掛けるが、もし大魔獣に襲われそうになったら洞窟の中に逃げ込むしかないと言う。それは魔族や魔物たちも同じで、大魔獣に襲われそうになると洞窟に逃げ込むらしい。


 アーロ村の村人たちはこの大空洞のことを大魔獣が棲んでいる恐ろしい場所であることから「クドル・インフェルノ(クドル地獄)」と呼んでいる。それに対してこのアーロ村がある環状空間は村人たちが魔物狩りをしながら穏やかに暮らしていける場所であることから「クドル・パラダイス(クドル楽園)」と呼んでいるそうだ。


 ちなみに大空洞と環状空間は数多くの洞窟で繋がっているが、体の大きな魔獣や大魔獣は洞窟に入ってくることができない。そのため洞窟を通ってクドル・パラダイス側に出てくるのは魔族や魔物が大半で、たまに体格の小さな妖魔や魔獣が姿を表すくらいのようだ。


「変異した妖魔や魔獣たちはどうやって地上へ帰っていくんだ? クドル・インフェルノのどこかに地上へ通じる洞窟があるのか?」


「そんな洞窟はねぇヨ。だけどナ、地上へワープできる場所があるンだってサ。おれっちはあまり知らねぇからナ。村長さんに聞いたらもっと教えてくれるかもしれねぇゾ」


 ケビンからそう言われて、おれは村長を訪ねて話を聞いた。


 クドル・インフェルノで望みどおりに変異できた妖魔や魔獣たちと、変異できないまま生き残った魔族や魔物たちは、地上へ戻るために大空洞の中に点在するワープゾーンへ移動するらしい。このワープゾーンを利用することが地上へ帰るための唯一の方法だと村長は教えてくれた。


 ワープゾーンへ一歩踏み込むと地上か表層ダンジョンへワープするのだそうだ。このワープゾーンというのは一方通行で同じ経路を戻ることはできない。


 では、魔族や魔物たちが地上からどうやってこちらへ来るのか。それは分かっていないらしいが、地上のどこかにクドル・インフェルノ行きのワープゾーンがあって、そこからワープしてくるのではないかと村長は考えているようだ。


 なお、地上の人間がクドルの大ダンジョンと呼んでいるのは、この表層ダンジョンのことだ。10層構造で各層が複雑な迷路状になっていて、突然に魔族や魔物が現れて探索者を襲う。運が悪ければ妖魔や魔獣にも遭遇する。これまで、その魔物たちがどこから現れるのか謎であったが、村長の話からその謎が解けたと思う。ダンジョンの最下層にあるクドル・インフェルノからワープで転送されていたのだろう。


 おれは村長との会話からさらに重大な情報を入手することができた。レングランにとって大きな脅威となる情報だ。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈180〉。


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