表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/382

SGS089 使徒の契約と家族の絆

 ラウラはまだ夢を見てるような、どこかぼんやりした顔をしている。戦いの余韻が続いているのか、それとも自分が魔力〈180〉のロードナイトになったことがまだ信じられないのかもしれない。


 たぶんオレも同じような顔をしてるのだろうな。もしかすると死んだのは魔獣猪ではなくてオレだったかもしれない。今の戦いはそれくらい危うかったのだ。


 ともかく、みんなにお礼を言わなきゃ。


『ユウ、コタロー、さっきは助かったよ。危うく魔獣猪に殺されるところだったから』


『何があったの?』


 ラウラが問い掛けてきた。普段の表情に戻っている。オレはさっきの出来事を簡単に説明した。


『そんなことが……。あたしのために無茶な戦いをしたせいよね。危険な目に合わせてしまって、ごめんなさい』


『ラウラのせいじゃないよ。気にしないで。わたしが無謀だっただけだから』


『とにかく、ケイ。ありがとう。それから、ユウちゃんとコタローちゃんも。信じられないわ。あたしの魔力が〈180〉になったなんて。レングランでも魔力が〈180〉に届くロードナイトはほとんどいないと思う』


 ラウラの喜びに溢れる気持が念話を通して伝わってくる。なんだかオレも嬉しくなってきて思わず顔がほころんだ。


『いや、わたしの方こそお礼を言わなきゃ。あのとき、ラウラが勇気を出してダンブゥの後ろから攻撃してくれなかったら、わたしはあの魔獣に殺されてたと思う。それにユウのバリア魔法とコタローのバリア回復魔法がなかったら、わたしは確実に死んでた。ホントにありがとう』


『ケイ、私たち、良いパーティーになれそうね』


 ユウの言うとおりだと思う。


『うん、これからもよろしく。それと、今の戦いでラウラの魔力が〈100〉を超えたから、ラウラは色々な魔法が使えるようになるよ。浮遊魔法や敏捷強化、探知魔法、魔力剣とかね』


『そんな高度な魔法が使えるようになったなんて、夢みたい』


『それだけじゃにゃいぞう。ラウラは亜空間バッグの魔法も使えるようになったはずだにゃ。今までクメルンバッグに入れてた荷物をそっちに移したら移動が楽になるわん』


『亜空間バッグって?』


『無知なケイに説明してあげるにゃ。亜空間バッグというのはにゃあ……』


 コタローの説明によると、ロードナイトは誰でも亜空間の中に自分専用の収納場所を確保できるそうだ。これを使えば大きなバッグを持ち歩く必要がなくなる。亜空間というのは異空間同志の狭間にある空間であり、ソウルリンクのパイプもここを通っている。この亜空間の一部を収納場所にする魔法が亜空間バッグだ。魔力の強さでその亜空間バッグのサイズは決まるようだ。


 さっそくラウラは自分が持っていたクメルンバッグをそのまま亜空間バッグに移した。


『亜空間バッグって便利ねぇ。楽になったわーっ。うれしーっ!』


『ラウラ、いいなぁ……。わたしも亜空間バッグの魔法って使えないの?』


『ケイは神族だからにゃ、亜空間バッグは使えにゃい。でもにゃ、神族は異空間倉庫の魔法が使えるのだわん。亜空間バッグよりもずっと大きいサイズで便利にゃのだ』


『ホント? じゃあ、早く教えて!』


『だけどにゃ、異空間倉庫の魔法を使うためには魔力が〈500〉以上必要なのだわん。だからにゃ、今のケイにはムリだぞう』


 聞いてがっかりした。早く魔力が〈500〉を超えるように頑張ろう。


 ………………


 倒した魔獣猪をわざわざ最初の隠れ家に持って帰るのは面倒だ。ラウラの亜空間バッグにも入らない。だから、戦った場所の近くに第2の隠れ家を作ることにした。隠れ家に相応しい場所は割と簡単に見つかった。森の中を流れている川の近くで、直径10モラくらいある樹とその地下だ。


 今回の隠れ家は最初の隠れ家の進化型だ。頭上15モラに樹の幹から太い枝が出ている。その付け根に出入り口を作って、幹を刳り抜いて地下まで伸びる立坑を作った。ラウラが浮遊魔法を使えるようになったから、出入り口を見つかりにくい位置に配置したのだ。地下は最初の隠れ家と同じような作りだ。


 オレたちは第2の隠れ家に魔獣猪を運び込んで解体した。まずは魔獣から大魔石を抜き取った。魔獣や妖魔の大魔石はどれも同じ大きさで、売値も同じらしい。この大魔石も1個でソウルオーブ2個分の価値がある。日本円に換算すれば4百万円くらいだ。魔獣と戦って命を落とすロードナイトやハンターも多いらしいから妥当な価格なのだろう。


 ………………


 解体作業も終わって、隠れ家でみんなと雑談をしていると、コタローが変なことを言い始めた。


『ケイにアドバイスがあるんだけどにゃ。ラウラをケイの使徒にしたらどうかにゃ。使徒にするにはラウラの魔力はちょっと物足りないけどにゃ。今のうちにケイの配下を作っておいた方が良いぞう。ラウラは信頼できるしにゃ、魔獣と戦えるくらいには魔力がアップしたからにゃ』


 また、コタローが訳の分からないことを言う。


『コタローちゃん。使徒って、なーに?』


 ラウラがコタローに質問をぶつける。念話に殺気が籠もっているのは仕方がないだろう。


『神族との間で〈使徒の契約〉を結んでにゃ、神族から直接に命令を受けて動く配下を使徒と言うのだわん。使徒になったらにゃ、どこからでも自分の主人と念話ができるようになるんだぞう。神族と同じように生命リフレッシュ機能の対象になるから年を取らなくなるしにゃ、理想的な体形を保つことができるのだわん。属性が相反する魔法も使えるようになるしにゃ、呪文も省略形が使えるようになるわん。それに主人のワープ魔法で一緒に転移できるようになるしにゃ。使徒にはメリットがたくさんあるのだわん』


 なるほど。使徒になるメリットは分かったが、使徒の定義が気に食わない。


『神族の配下という定義がイヤだよね。配下じゃなくて、ラウラとわたしが対等の立場で、ラウラに使徒と同じようなメリットがある契約はないの? 例えば〈家族の契約〉とか、〈姉妹の契約〉とか――』


『そういうのは無いにゃ』


 困った。どうしよう……。オレはラウラと対等の契約を結びたいのだけど……。


『私はケイとラウラさんの間で〈使徒の契約〉を結べばいいと思う。だって、ラウラさんを自分の配下と思うか家族と思うかはケイの考え方次第だもの』


 ユウってば、いいこと言うやん!


『そっか! そうだよね。〈使徒の契約〉を結んで、ラウラが本当に自分の家族になった、姉妹になったと考えればいいんだよね』


『ケイがそれでいいなら、あたしはケイと〈使徒の契約〉を結ぶわよ。ありがとう、ユウちゃん、コタローちゃん』


 そういうことで、オレとラウラは〈使徒の契約〉を結んだ。


『あたしは、これからもずっとケイと一緒にいてケイを助けるからね』


『わたしもラウラをずっと守る。ラウラを幸せにするって誓う』


 そう言いながらラウラを抱きしめてキスをした。


『ケイ、あたしは嬉しいけど、なんだか結婚の宣誓みたいよ』


 たしかに……。言われて顔が赤くなるのを感じた。


 でもそれがオレの正直な気持ちだ。


 ………………


 その日。夕食を終えて、フロに入る前にオレはラウラに声を掛けた。


「ラウラ、お願いがあるんだけど……、わたしの髪を切ってもらえる?」


 オレはそう言いながら鋏を取りだした。クラフト魔法で作った鋏だ。思うように作れなくて、布を切るような大きな鋏になってしまった。でも、機能的には髪の毛を切ることもできるはずだ。


 魔物や魔獣と戦うようになって、自分の髪が長すぎることが気になりだした。今はポニーテールのように髪の毛を後ろで括っているのだが、髪の手入れが面倒なのだ。それに、括っていないときに戦いが発生したら長い髪がジャマになる。とにかく髪の毛が目に掛からないようにしたい。


「ショートヘアにしたいんだけど、どうかな?」


 オレはショートヘアの髪型を言葉で説明して、その理由も付け加えた。


「ケイが髪を切るのなら、あたし、ケイの今の髪形を真似したいんだけど?」


「ポニーテールにしたいってこと?」


 恥ずかしそうにラウラが頷いた。ラウラも髪が長かったから頭の後ろで括っているのだが、その髪の毛を括る位置がオレと違っていたのだ。オレはポニーテールを意識して耳よりかなり上の位置で括っているのだが、ラウラはうなじの辺りで括っていた。ウィンキアの女性たちの大半が同じような髪型だったが、なんとなく地味なのだ。


 オレが髪を括って、これがポニーテールだとラウラに教えたとき、初めて自分の髪型が地味だったと気付いたらしい。そのときからオレを真似てポニーテールにしたかったのだが、言い出せなかったそうだ。


 そういうことで、お互いに髪型の直し合いっこをした。オレはラウラの髪をポニーテールっぽく括り直し、ラウラはオレの髪を鋏で切ってくれた。クラフト魔法で作った鏡を前に、あーだこーだ言いながら、なんとかお互いに納得がいく髪型になった。


「これで髪型はすっきりしたけど、あたし、着る物も増やしたいな」


 今、着ているのは二人とも虎柄のワンピだ。超ミニで動きやすい。でも、二人はいつも同じような服装だからラウラの気持ちも分かる気がする。


 素材として豹の皮が手に入っているから、これを使って何か着る物を作ろう。


「ええと……、これでどう?」


 オレが作ったのは豹柄の半袖シャツと8分丈くらいの細身のズボンだ。ラウラに着てもらってサイズを調整した。ついでに豹柄のワンピも作った。


「うん、いいわね! 豹柄って可愛い! ケイも似合ってるよ」


 ラウラがデザインを気に入ってくれたので、虎柄で同じようなシャツとズボンも作った。組み合わせが増えたから、当分はこれで大丈夫だろう。


『いいなぁ。私も可愛いブラウスやパンツがほしいな』


 ユウの気持ちが痛いほど分かった。


『ごめんね、ユウちゃん。あたしたちだけで、はしゃいでしまって……』


『魔力が〈500〉になったら体を交換するから、楽しみに待ってて』


『うん。ケイやラウラさんが喜ぶ気持ちはすごく分かるから、私も嬉しいのよ。魔獣を倒せるようになったし、ラウラさんとの家族の絆も強くなったしね。

 家族とか仲間とか、いいよね。こうやって何でも話すことができるって、すごく幸せなことだと思う』


 異空間ソウルの中でずっと独りで過ごしてきたユウの言葉は身にしみた。


『ユウ、さっきはラウラと家族の絆を誓い合ったけど、わたしはユウとコタローに対しても同じ思いだよ。ユウとコタローは異空間ソウルの中からずっとわたしを守り続けてくれたんだよね。今度はわたしがユウたちの期待に応える番だと思ってる。契約とかは無いみたいだけど、ユウとコタローに対しても家族の絆を誓うよ』


『ええと、あたしも誓うわ。ケイとユウちゃん、コタローちゃんは、みんな、あたしの家族よ』


『ありがとう、ケイ。ラウラさん。私はずっと前からケイとは一心同体だと思っていたけど、ラウラさんと新たに家族になれて嬉しい。あらためて、これからもずっとよろしくね』


『ユウとも姉妹の関係になったということだよね。年齢で言えば、ユウが一番下の妹になるね』


『オイラは?』


『コタローは犬だからね。ペットとして家族の一員になったってことかな?』


 こうしてみんなで話をしていると、家族って何だろうなと思ってしまう。血は繋がってなくても、心から信頼し合えるというのはなんて素敵なことだろう。


 何があっても必ずみんなを守る。それが家族の絆だから。オレはもう一度心の中で誓った。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈180〉。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ