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SGS088 決死の魔獣戦

 オレは回り込みながらラウラから150モラ以上の距離を取った。


『魔獣猪までの距離、190モラ』


 コタローが知らせてくる。


 よし、この辺りでいいだろう。ホントに勝てるのか? オレ……。


 魔獣猪を相手にオレがどこまで戦えるのかは分からない。今ごろになって少し心配になってきた。まぁ、なんとかなる。いや、なんとかするのだ。


 オレは熱線魔法を使って、遠距離からヤツを狙撃することにした。そのために必要な魔法とスキルを発動する。


 立ち上がりながら右手の人差し指を魔獣猪に向けた。オレの体にはバリアと筋力強化、敏捷強化、高速思考の魔法が掛かった状態になっている。


 高速思考というのはコタローに教えてもらった異空間ソウル固有の魔法だ。ソウルゲートの補助人工頭脳を使って思考が100倍速くなり、自動的に並列処理も行ってくれるらしい。オレが何かを考えている間に、別タスクで必要な計算を瞬時に行ったり、オレの体を素早く正確に動かしたりしてくれるってことだろうと勝手に解釈している。それはともかく、地球生まれのソウルを持つ神族だけが使える魔法だそうだ。


 魔獣猪はまだこちらに気付いていない。土を掘り起こしていたが、突然に頭を上げてこちらを見た。オレに気付いたようだ。


 それで良い。こっちをじっくり見つめてくれ。


 狙撃スキルを使ってヤツの左目に狙いを付けた。


 そうなのだ。魔法を長距離から確実に的に当てるために、遠視魔法や敏捷強化、念力、高速思考などの魔法を組み合わせて必死で訓練を続けて、数日前に「狙撃」というスキルの取得に(正確に言えば、異空間ソウルへのスキル登録に)成功していたのだ。


 スキルを異空間ソウル(またはソウルオーブ)に登録するのは簡単ではないが、もし登録することができれば、異空間ソウル(同)が術者の技をアシストしてくれるのだ。スキルを発動すると、異空間ソウル(同)のアシスト機能によって技のスピードや精度が格段に増強されることになる。


 コタローが言うには神族であってもこんなに早くスキルを登録できないそうだ。オレが初代の神族に相当する存在であることが大きなアドバンテージとなっているとのことだ。


 狙撃スキルによって敵の動きがスローになり、オレの目には魔獣猪の左目が大きく拡大されて見える。ちょうどライフルスコープを覗いているような感じだ。


 狙撃スキルのアシストで手振れが一瞬で補正され、照準がピタッと合った。


 今だ! 熱線を放つ。その間の魔力配分はコタローがやってくれている。バリアと狙撃スキルの魔力は必要最小限に絞り、残りの魔力はすべて熱線魔法に回しているはずだ。


 魔獣猪の左目に着弾!


 ヤツは瞬時に反応して頭を振った。熱線は左目を焼いた後、頭の体毛を少し焦がしただけで、大半は体毛の反射で逸らされてしまった。だが、ヤツの左目は確実に潰すことができた。


 オレが狙っていたのは、熱線を魔獣猪の目から入れて脳まで貫くことだったが、ヤツの反応が速くて脳までは届かなかったようだ。残念!


 ヤツは毛を逆立てた。と思ったら何か黒い物が一斉に飛び出てきた。


『針毛だわん!』


 最初は蜂の集団かと思った。空中をこっちへ向かって飛んでくる。目を凝らすと、それが十数本の太くて長い針だと分かった。


 あれが針毛か。長さは50セラ以上ありそうだ。針毛は誘導ミサイルのようにオレの方へ軌道を修正しながら飛んでくる。コタローが忠告してくれたとおりだ。


 散弾のように広がりながら、そのすべてがオレに向かってくる。


 かわせるか!?


 敏捷強化や筋力強化を使ってもオレの動きは思考に追い付いていない。体の動きは自分でもイヤになるくらいスローだ。


 針毛は射出から2秒弱で着弾。その着弾エリアからギリギリで逃れた。だが1本がオレのバリアに着弾した。爆発の衝撃でオレは一歩後ずさった。一気にバリアが削られたようだ。


 針毛が何本か当たっていたらバリアは瞬時に破れて、オレは死んでいたと思う。ヤツの片目を潰せていたから狙いを狂わせることができたのだろう。


 魔獣猪はオレが生きていることを察知した途端、こちらへ向かって突っ込んできた。鉄骨満載の大型ダンプのように見えた。そいつが牙を剥いて猛スピードで突進してくる。途轍もない圧力だ。途中の低木を一気に薙ぎ倒して数秒で猛烈な殺気がオレに迫ってきた。


 オレは体勢を崩しながら横に跳んで辛うじて避けた。その間にコタローがオレにバリア回復魔法を掛ける。バリアは全回復。ダメもとで眠りの魔法を放ったがヤツには効かなかった。マヒ魔法は失敗する可能性があるから使うのは危険だ。


 ヤツがまた針毛の誘導弾を射出した。距離は50モラほど。一瞬で着弾。オレは逃げるが2本命中。衝撃で弾き飛ばされた。転がって次々と飛来する針毛を避ける。バリアの耐久度は半分以下に落ちているだろう。コタローがバリア回復魔法を掛ける。だが回復は不十分だ。


 また敵が突進してきた。立ち上がってギリギリで避ける。これではキリがない。ヤツの体で熱線が通りそうなところはどこだ?


 再び敵がこちらを向いて迫ってくる。ヤツのブタ鼻に目掛けて熱線を放つ。命中! 魔獣猪は熱線を避けて、オレの横を通り過ぎた。


『ラウラ、今から動ける?』


 オレは念話でラウラに問いかけながら、通り過ぎた魔獣猪の後ろに一気に迫る。ヤツのシッポが邪魔だ。魔力剣で根元から一太刀で切り落とした。


『ええ、大丈夫よ。そっちへ移動するね』


 敵はこちらに頭を向けた。鼻が焼けただれ、シッポを切り落とされて、ヤツはオレの目の前で怒り狂っている。2モラもある頭を上下左右に振り、口と鼻からは体液を飛ばしながら牙を剥いてオレを威嚇してくる。


 ラウラに危険なことをさせるけど、今のままではオレも危ない。


『ラウラ、このまま戦いを続けるよっ! 作戦どおり攻撃をお願いっ!』


 オレは必死に防戦しながらラウラに指示を出した。コタローがその間にオレのバリアを全回復させた。


 魔獣猪はオレのバリアに何度も牙を突き立ててバリアを突き崩そうとしている。衝撃で体が揺さ振られる。バリアがあっと言う間に削られていく。コタローがバリア回復魔法を掛け続けているが追い付いてない。


 この状態ではジリ貧だ。オレが敵を引き付けておくなんて悠長なことは言ってられない。


 オレも魔力剣で牙を弾きながら敵の潰れた鼻に更にダメージを与えているが、致命傷には程遠い。


 透明だったオレのバリアに色が付き始めた。


 牙の衝撃でバリアがまた削られていく。やばい! やばい!


 「パリン」という軽い音がしてオレのバリアが破れた。


 バリアが破壊されると10秒間はすべての魔法を発動できない状態となる。それまでに自分に掛けていた魔法もすべてキャンセルされる。魔力剣も消えてしまったから、魔獣猪の牙攻撃を弾き返すこともできない。オレは完全に無防備な状態だ。


 逃げ出しても背中から牙に貫かれて死ぬだけだ。頭の中が真っ白になって、オレは棒立ちになってしまった。


『ケイ、しっかりしてっ!』


 ユウが高速思考で語り掛けて来ている。


『ケイのバリアと敏捷強化、筋力強化は掛け直したからね。魔力剣は私からは発動できないから、ロスタイムの10秒間は逃げに徹して!』


『分かった。ありがとう。何とかやってみる』


 助かった。オレが魔法を失敗してロスタイムに入っている間も、ユウとコタローは魔法を発動できるらしい。確認すると、たしかに自分のバリアが張り直されていて、色も透明に戻っている。


 よし。戦闘再開だ。オレからの依頼でユウが高速思考を解除すると、目の前の魔獣猪が動きを取り戻した。


 オレが棒立ちになっていたせいで回避が間に合わない。ヤツの牙攻撃がオレのバリアに直撃した。またバリアにうっすらと色が着き始めた。


 魔獣猪は牙でオレを突き殺そうと執拗に攻撃してくる。オレはそれを体さばきだけで必死にかわし続ける。防戦一方の状態だ。


 オレのバリアの色は淡い灰色に変わってしまった。また今にも破れそうな状態になってしまった。


 ラウラが魔獣猪の背後に忍び寄ってきた。ヤツはオレに対して逆上しているから、ラウラには全く気付いていない。


 ラウラっ! 早く! 早く攻撃してくれっ! オレは心の中で叫んだ。


 魔獣猪は突然に「ブヒヒィィィーッ!」と悲鳴を上げて突進を始めた。


 オレは慌てて横に飛び退いた。


 振り返って魔獣猪を見ると、ラウラの電撃剣が肛門に突き刺さっている。


 さすがはラウラだ。作戦どおりに狙い違えずヤツの肛門に電撃剣を突き刺すことに成功したのだ。何しろ魔獣猪の体で柔らかそうな場所と言ったら限られているからな。シッポが邪魔だったから事前にオレが切り落としておいたし。


 魔獣猪は剣を肛門に突き立てたまま300モラほど走ってドウと倒れた。魔力〈100〉の電撃をずっと浴び続けて体がマヒしたのだ。


 オレは魔獣猪のところへ走り寄って念のためにマヒの魔法を撃ち込んだ。マヒ魔法は一発で成功した。これでヤツは体が完全にマヒしたから動けない。横たわったまま荒い息をしているだけだ。


 魔獣猪の腹側に回り込んで、胸の体毛を掴みながら魔力剣で切り落とす作業を始めた。腹や胸の体毛は細いから魔力剣でも切り落とすことができた。思ったとおりだ。これでコイツの心臓に剣が通るはずだ。


『ラウラ、とどめを刺してっ!』


 ラウラは魔獣猪の尻から剣を抜きとって、その剣をコイツの心臓に突き立てた。


 魔獣猪は「ブヒィィーーーーッ」と深い息を吐いて動かなくなった。


「お、終わったーっ! 勝てたーっ! 生き残ったーっ!」


 オレは声を上げてラウラに抱きついた。二人で飛び跳ねながら喜んだ。


 ラウラは自分のロードオーブに魔獣猪のソウルを格納して、ソウルを入れ替えた。これまではオークロードのソウルが入っていたから、このソウル入替でラウラの魔力が〈50〉から〈180〉に一気に上がった。


 元の魔獣猪の魔力は〈360〉だったから、そのソウルをオーブに格納すると、魔力は半分になるのだ。つまりラウラの魔力が〈180〉になったということだ。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈180〉。


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