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SGS087 オレは時として無茶をする

 3年後には魔力が〈500〉を超えるから、それを待ったらどうかというコタローの助言にオレは心を動かされた。たしかにその方が安全であり、楽ができる。


 いや、ちょっと待て。


 昔、これも子供のころに親父から言われていた言葉を思い出した。


「人生で大事な分かれ道に出くわすときがある。どっちへ進むか迷ったら、そのときは険しい道を選べ」


 いつも面倒事から逃げて楽な方を選ぶという息子の性格を親父はよく分かっていた。だから子供だったオレにそういうアドバイスをしてくれたのだ。


 今がそのときかもしれない。自分を変えるチャンスかもしれないのだ。


『コタロー、助言はありがたいけどね。わたしはこのダンジョンの最下層で妖魔や魔獣を相手にして訓練を続けようと思う。昨日の自分に負けないだけじゃなくて、どの妖魔にもどの魔獣にも負けない自分になりたいと思うんだ』


『死ぬかもしれにゃいぞう?』


『死なないように頑張る、としか言えないけどね』


『ケイがそのつもりにゃら、いくつかアドバイスをしておくわん』


『妖魔とか魔獣とかを相手に戦うときのアドバイス?』


『そうだわん。自分よりも格上の相手と生死を賭けて戦って訓練を続けようと思うのにゃら、相手のことを十分に調べてから戦うのだわん。どんな相手でも必ず弱点があるはずだからにゃ。力や技だけじゃにゃくて、知恵をふり絞ることが重要だぞう。力や技では勝てそうにない相手でもにゃ、知恵を使ったら勝つことができるかもしれないわん。格好が悪い勝ち方でも気にするにゃ。どんな勝ち方でも生き残った方が勝者だからにゃ』


『うん、分かった』


『それとにゃ、必ず事前に逃げ道を用意しておくのだわん。一つの失敗が致命傷に繋がることもあるからにゃ。無理だと思ったらにゃ、迷わず逃げ出すことも大事だぞう。どんなことをしても生き残ることが一番重要なことだからにゃ。無茶なことは絶対にしないことだにゃ』


『分かった。ありがとう……』


 コタローのアドバイスを聞き終わったときに、また親父から言われた言葉が頭に浮かんできた。さっきのとは別の言葉だ。


「おまえは臆病なようで、時として無茶をすることがある。あまり親に心配を掛けるな」


 親父からこの言葉を言われたのは、道路の真ん中で立ち往生していた子犬を危機一髪で救い出したときだ。中学3年のオレは子犬に迫ってくる車の前に飛び出した。子犬を抱き上げて前にジャンプした。車は急ブレーキを掛けて止まった。車には接触しなかったが、オレは足を怪我して救急車で運ばれた。子犬は無事だった。両親が病院に飛んできた。医者から「捻挫だけですから、息子さんはこのまま家に帰れますよ」と言われて、親父は「おまえは時として無茶をする」と呆れ顔でオレに言ったのだった。


 親父がそう言ったのには理由があった。剣道の大会でオレが無茶をしたところを見ていたからだ。同じく中学3年のときで、子犬を救ったときよりも少し前のことだ。大きな試合で優勝候補と言われていた相手と当たり、オレは無茶をしてその相手に勝ってしまった。今考えると、親父が試合を見に来ていたからカッコいいところを見せたかったのだと思う。普通なら絶対に勝てないような相手に勝ったのは後にも先にもその1回だけだった。


 どうやらオレは時として無茶をする性格なのかもしれない。気を付けよう。


 ………………


 それからは毎日、隠れ家を拠点にして狩りと闇国の探索を行った。狩りは食料を得るだけでなく自分たちの訓練も兼ねていた。探索の狙いは地上への出口を見つけることだ。それとニドの捜索だ。今のところどちらも見つかっていない。


 探索したエリアはコタローが正確なマップを描いてくれた。必要なときはいつでも自分の頭の中にマップをイメージできるから便利だ。


 オレたちが狩りで狙っているのは魔獣だ。しかし、毎日探しているのに全く見つからない。魔獣の密度が濃いはずの闇国なのに、どうなっているのだろう。魔獣ではないが、闇国へ来た初日にオークロードを倒せたのはラッキーだったのかもしれない。


 遭遇の頻度は少ないが狩りをしていてオーク以外の魔族とも出くわした。ゴブリン(魔力3)、リザードマン(同4)、そしてスプリガン(同6)だ。どの魔族も20頭以上の小隊を組んでいた。


 リザードマンとスプリガンはどちらも相手が先にこちらを見つけて襲い掛かってきた。オレの探知魔法はせいぜい半径200モラちょっとが有効範囲だから、それより遠いところにいる相手は探知できない。こちらが見通しの良いところを歩いていると、相手から襲われることになるのだ。


 どの魔族にも知性があるし、人族と同じように家族や仲間を思いやる心を持っている。だから魔族とは極力戦いたくなかったが、相手が襲ってきたら話は別だ。生き残るために止むなく応戦した。


 リザードマンは2足歩行のトカゲだ。身長は2モラ程度。革の鎧を身に纏い、槍などの武器を装備していた。初めてその姿を見たときは驚いたが、トカゲ顔のごつい印象の割にはオークよりも弱かった。


 スプリガンは筋骨隆々で、ずんぐりした体形をしていた。体には堅い樹の皮を纏っていて身長は人族と同じくらいだ。オレたちを襲ってきたときは森の中で潜んでいたらしく、樹林から現れるまで全く気付かなかった。戦うとスプリガンはオークよりも力が強く、おまけに素早かったが、オレたちの敵ではなかった。


 ゴブリンの小隊はこちらが先に見つけた。三十人くらいの小隊だった。このダンジョンの近くにあるゴブリンの国はレブルン王国だから、たぶんそこから来た小隊だろう。もしかすると顔見知りのゴブリンもいるかもしれない。絶対に戦いたくないから、オレたちは身を潜めてやり過ごした。


 どの魔族もおそらく自分の仲間をロード化させて妖魔に変異させることと、他種族の妖魔や魔獣を倒してロードオーブを手に入れるために、ダンジョンの最下層まで下りて来ているのだと思う。そのため、オレたちが倒したリザードマンやスプリガンたちもソウルオーブを数多く持っていた。これを売ることができたら大金持ちになること間違いなしだ。


 魔族との遭遇はその程度だったが、魔物のほうは多種多様で頻繁に出くわした。その魔物は、スロンエイブ(飛礫猿:魔力10)、シュドマーブ(水砲魚人:同11)、ボングガルブ(火炎狼:同12)、ジャドアンガ(毒砲蟻:同13)、ジャドブンガ(毒砲蜂:同14)、ジャドネイガ(毒砲蛇:同15)、ケングダンブゥ(針猪:同18)、ヒュドレバン(風刃豹:同19)、ライグダイガ(雷虎:同20)、ブンガドンガ(蜂熊:同22)、ネバグパイダー(酸糸蜘蛛:同23)などだ。


 魔物の特徴や戦いの内容を書き始めると切りがないのでここでは省略する。今のオレから言えばこいつらは雑魚だった。ただし、集団で襲ってくる猿や狼、蟻、蜂との戦いは注意が必要だ。ラウラの魔力は〈50〉しかないから、常にラウラのバリアに気を付けながら戦うことになったからだ。ラウラの魔力をもっと高めることが必要だった。


 ………………


 この場所を闇国と名付けたのは地上の人族たちだ。おそらく地中深くには真っ暗で恐ろしい国があると想像して、そのように名付けたのだろう。しかし実際は真っ暗ではなくて地上と同じくらいに明るいし、魔族や魔物は多いものの、それほど恐ろしい場所でもなかった。今のところ住民は見当たらないし、国のようなものがあるかどうかも分からないが、広さはそれなりにあると思われる。


 コタローの推測では、この闇国は上から見ると馬車の車輪のような形をしているらしい。


 オレはその推測を聞いて、車輪というよりもタイヤのチューブを連想した。ただしチューブの断面は円ではなくて幅1ギモラ高さ1ギモラの正方形だ。チューブの内円の直径は40ギモラくらいあるだろう。そのチューブが地下深くに水平に埋まっていて、オレたちはそのチューブの中にいるわけだ。


 もしその推測が当たっていれば、このタイヤチューブの中を壁に沿って約120ギモラほど進めば元の場所に戻ってくるはずだ。


 オレたちは5日間で隠れ家を中心に30ギモラくらいの範囲を探索した。そして、チューブの内円側の岩壁に数多くの洞窟を見つけた。岩壁沿いを歩くと数ギモラ毎に洞窟があった。どの洞窟も地面と岩壁が交わるところに口を開けていて、その直径は3モラくらいある。まるで入って来いと誘っているようだ。地上への出口かもしれないが、オレの直観は違うと言っている。


 洞窟の探索は後回しにして、オレたちは隠れ家を増やしながらこのチューブの探索を続けることにした。


 そして、探索を始めてから6日後、オレたちは初めて魔獣に遭遇した。


『にゃにゃっ! ダンブゥの魔獣だわん』


 オレたちは森を抜けて低木と雑草が生い茂る草原に出ようとしたところだった。魔獣は低木帯の向こうにいて、しきりに土を掘り起こしているようだ。遠目で見るとダンブゥに見えるが、周りの低木と比較すると体長は5~6モラくらいありそうだ。コタローが警告したとおりダンブゥが魔獣化したものだろう。コタローからこの魔獣に関する情報が送られてきた。


『敵はケングダンブゥロード(魔獣猪)。魔力は〈360〉。距離230モラ。ほかには情報は無いにゃ』


 なんだ? 情報はそれだけ?


 200モラ以上離れている。こちらは身を潜めているから、まだ気付かれてはいない。少しだけなら攻略方法を考える時間を取れそうだ。


 オレの魔力は〈240〉だ。今はそのうちの魔力〈120〉を使ってバリアを張っていて、残りの魔力〈120〉を自分の体強化や攻撃に充てることになる。


 一方、敵は魔獣だからバリアを張らない。魔力〈360〉すべてを攻撃に使ってくるはずだ。つまり、まともに攻撃を受け続ければオレのバリアはあっという間に削られてしまうだろう。


 こいつがロード化する前の魔物(ケングダンブゥ;針猪)とは数日前に戦った。あのときの魔物は針のようになった硬い体毛を飛ばしてきた。それがロード化しているとしても、その特性は同じはずだ。攻撃力や攻撃方法は格段に進化しているだろうが、あいつの攻撃方法はなんとなく想像できる。


『ケイ、念のために言っとくけどにゃ、魔獣の遠距離攻撃には注意するんだぞう。魔獣が撃ってくるのはすべて誘導弾なのだわん。それに着弾したら爆発するぞう。今まで戦ってきた魔物とは格段に破壊力が違うわん。油断するにゃ』


『魔獣猪が撃ってくる針毛も爆発するのかな?』


『針毛に魔力が封じ込められていてそれが一気に解放されるからにゃ。一発当たれば小さな家がぶっ飛ぶくらいの爆発力だわん』


 ダイナマイト並みの爆発力があるということか……。お、おそろしい……。


 ここは相手が気付く前に攻撃を仕掛けて、一気に片を付けたいところだ。


 こちらからどうやって攻撃を仕掛けるか。普通に物理攻撃や魔法攻撃を当てても、あの硬そうな体毛に跳ね返される可能性が高い。それならば……。


『ラウラは作戦どおりここで待機して』


 魔獣に遭遇したときの作戦は予めみんなで相談して決めていた。今のラウラでは正攻法で魔獣に戦いを挑むのはムリだ。だから、敵が気付いていないならばラウラには隠れて待機してもらう。


 まず、オレが魔獣を攻撃してみて上手くいくか確かめる。もし上手くいかなかったなら、オレはラウラが隠れている場所とは反対方向へ逃げて魔獣を引き付ける。その後、ラウラとは隠れ家で落ち合うことになっている。


『じゃあ、行ってくるよ』


『うん。ケイ、ぜったいにムリしないでね』


 オレは隠れながら少しずつ移動していった。


 ※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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