SGS084 正直にラウラへ話す
ラウラから問われてオレは一瞬言葉に詰まった。ラウラに自分のことをどのように説明すればいいのか迷ったからだ。でも、ラウラはこれからもずっと支え合っていく仲間だし、自分の家族同然だ。やはり正直に話すべきだな。
『ラウラ、ごめんよ。ホントは死体置き場で目覚めたときに、昔の自分に戻っていたんだ。そのときは、この世界で女性として5年間生きてきたことなんて全然憶えてなくて、違う世界の人間に自分の魂が乗り移ったと考えてしまった。しかも女性の体になってた。そんなことを説明しても誰も信じてくれるはずがないよね。そう考えて、自分が記憶喪失になってしまって何も憶えてないことにしたんだ。だから、サレジ隊に連れて来られたときも自分は記憶喪失だと言ったし、ラウラにも今まで言い出せなかった……。本当にごめんなさい』
オレは念話で話しかけながら、目の前にいるラウラに頭を下げた。そして、頭を下げたまま『それと……』と言って言葉を続けた。
『この体の中に男のソウルが入ってるなんて、気持ちが悪いと思うだろうけど、どうか今までどおり接してほしい。お願いします』
そう言ってから、ゆっくりと頭を上げた。
『なんて言ったらいいのか分からないけど……、ケイが今までと同じようにあたしの姉妹として一緒に話したり接したりしてくれるなら許してあげる。
元のソウルが男だったとか女だったとかは関係無いよ。死んだらみんな転生するんだから。半数は別の性に生まれ変わるんだからあたしは気にしない。大切なのは、今のケイがあたしと家族になるって約束してくれたこと。そして、あたしの妹になったということよ。でも……』
ラウラはいったん言葉を切って、辛そうに顔を伏せた。そして、また顔を上げてオレを真っすぐに見つめた。
『でも……、心配なのは、元の体を取り戻したら、ケイがあたしを置いて異世界に帰ってしまうんじゃないかってこと。そんなのは絶対にイヤ!』
ラウラの気持ちは痛いほど分かった。ラウラを残して地球に帰ってしまうなんて、今のオレには考えられない。
『ラウラ、そんな心配はいらないよ。もし、元の世界にワープできるようになったとしても、こちらの世界と向こうの世界を行ったり来たりするだけだよ。向こうに帰ったまま戻らないとか、そんなことは絶対にしないから安心して。
でも、もし元の体を取り戻せたら男に戻るってことだから、ラウラの妹じゃなくて弟ということになるけどね……』
そこまで言って、今の言葉が間違いだと気付いた。
『こっちの世界へ召喚されたときにわたしは33歳だったから、元の体が生きていれば今は38歳くらいになってるかな……。だから見た目はラウラの弟じゃなくて、ラウラのオヤジさんになるって感じだね。ハァ……』
話をしながら、しだいに元の体に戻りたいという気持ちが失せてきた。
『ケイ、さっきも言ったけど、ケイさえよければ二人で体を共有するということで私はかまわないのよ。でも、そのときはケイという女性として振る舞ってね』
『ありがとう、ユウ。この先、自分が元の体に戻れるかどうかも分からないし、正直言って自分が元に戻りたいのかどうかも分からなくなってきたんだよね。でも……、この体でいるかぎり女性らしく振る舞うように努力するよ』
『それでいいんだけど、その話し方がすでに男っぽいよね。私がケイの体に戻ったらそんな話し方はしないわよ』
『あ、ヤバ! ……ええと、ごめん。わたしが女性らしく話すのはちょっと自分の気持ちに抵抗があって難しいと思うけど、男っぽくならないように気を付けるから。もし変なところがあったら遠慮せずに注意してもらえる?』
『ええ。一緒に頑張ろうね』
その言葉と同時にユウから暖かい抱擁の感覚が伝わってきた。念話は言葉だけじゃなくて気持ちも伝えることができるようだ。
『ケイ、あたしも良いんだけど……』
ラウラからは戸惑っているような感情が念話で伝わってきた。
『ケイが元の性別を気にし過ぎてあたしを遠ざけたり、おかしな振る舞いをしないでほしいの。今までと同じでいてほしいの……。おねがいだから』
『ええと、わたしは今までにラウラを抱いたりキスをしたり、もっとイヤらしいことをしようとしたり、色々したけど、それも含めて同じでいいのかな?』
『ええ。それもあたしがケイを好きな理由の一つよ』
オレがラウラの目をじっと見つめると、恥ずかしそうにラウラは目を伏せた。
『でもね、ケイ。あなたがラウラさんにイヤらしいことをしようとすると気を失って眠ってしまうよね。戦闘中にそうなると危ないよ』
ユウがオレの病気のことを指摘してきた。自分でもそれは気になっている。
『そうだよね。ユウにさっき聞いた話から分かったんだけど、あの病気はミレイ神がわたしに掛けた暗示魔法が原因だと思う。恥ずかしいことを言うけど、男の気持ちでムラムラすると暗示が発動するらしいんだよね。そうなったときは、男だった元の意識が戻ってきたってことだから、強制的に女性の意識に戻るようにミレイはわたしに暗示魔法を掛けたと思うんだ』
『強制的に女性の意識に戻るって、どういうことなの? あたしに抱かれたときにはケイは気を失ってたよ?』
『たぶん、ミレイ神の暗示魔法が中途半端に掛かっているんだと思う。最初に症状が出たときは、自分では体のコントロールができなくなって、誰かが勝手に体を動かしているような感じだったんだ。その誰かっていうのが、わたしのソウルに上書きされたっていう女性の人格じゃないかな。それがどういう訳か分からないけど、2回目からは気を失うようになった。わたしが強く抵抗したせいかもしれない。最近は自分でも体のコントロールを奪われないように気を付けているからね』
『もしかしたら、その状態をわざと作って、もっとその状態に慣れれば暗示魔法が解けるかもしれないわよ。これからあたしとやってみる?』
ラウラがシナを作って色っぽい目つきでオレを見る。
『挑発しないでよ、ラウラ。本気になっちゃうから』
オレはラウラの手を取った。思わず抱き寄せようとしたのは本能的な行動だ。
『たぶん無駄だにゃ。偶然か何かで暗示が解けることもあるらしいけどにゃ。可能性は低いぞう。基本的には暗示魔法を解くことができるのは、その魔法を掛けた術者だけなのだわん。だからにゃ、ミレイ神に会って暗示を解かせるのが一番確実だぞう』
理屈はそうかもしれないが、人を動かすのは理屈だけではないのだ。コタローにはそれが分からないらしい。
『どうしてあたしたちの邪魔をするの? コタローちゃん』
ラウラが殺気を込めた念話をコタローに送る。
『それと、ケイ。前にも言ったと思うけど……』
ユウがラウラの殺気をかわすように割り込みを掛けてきた。
『私もコタローも魔法を使ってケイのことを助けるけど、相手を攻撃するような魔法は使えないからね』
『ユウが言うように攻撃魔法は使えないけどにゃ、ケイを守ったり強くしたりする魔法は使えるし、探知魔法も使えるわん。具体的に言えばだにゃ、使えるのはバリアやヒール魔法、筋力強化の魔法とかだぞう。だけどにゃ、ユウやオイラが使う魔法はケイの魔力を使っていることを覚えておくのだわん。オイラたちはケイのソウルリンクを共同で使ってるからにゃ』
『えっと、そんな説明があったことは覚えてるけど……』
『まだちゃんと理解してないのかにゃ? 分かりやすく言うとだにゃ、1本のパイプの中に流れる魔力をケイとユウとオイラで分け合いながら魔法を使ってるということだわん。だからにゃ、もしケイが攻撃魔法にすべての魔力を使ってしまうとにゃ、オイラとユウは魔力が足りなくて何もできなくなるってことだわん』
『なるほどね。三人でバランスを考えながら魔法を使わなきゃいけないってことだね』
『それとだにゃ、ユウもオイラも守護精霊とは違うからにゃ。ソウルの状態でケイの体の外に出ることはできないんだぞう。ユウもオイラも異空間ソウルの中からケイを助けるだけだからにゃ』
そう言えば、以前に守護精霊のことをラウラから教えてもらったことがある。ロードオーブの中に閉じ込められた妖魔や魔獣のソウルはずっと眠った状態になっている。眠ったままでもウィンキアソウルにリンクは繋がった状態だから、オーナーに魔力は供給される。でも、まれに眠らないソウルがあって、守護精霊となって体の近くに現れてオーナーを助けるそうだ。
『守護精霊なら体の外に出て、オーナーを助けるそうだけど、知ってる?』
『ロードオーブの中に妖魔のソウルが閉じ込められているときは極まれに体の外に現れるらしいにゃ。それを守護精霊と呼ぶらしいけどにゃ、どんなふうにオーナーを助けるのかは知らにゃいぞう』
ユウとコタローは守護精霊ではないから、ソウルの状態では体の外に出られないのは仕方がない。でもまぁ、異空間ソウルの中からでもオレを助けてくれるなら、それで十分だ。
『ケイ、それともう一つお願いがあるんだけど……』
遠慮がちにユウが語り掛けてきた。
※ 現在のケイ+ユウ+コタローの合計魔力〈240〉。
(三人で1本のソウルリンクを共有しているため)
※ 現在のラウラの魔力〈50〉。




