SGS083 オレがやらなきゃいけないこと
言われてみたら、ミレイ神を懲らしめる力なんてオレは持っていない。
『たしかに、そうだよね……。もっと自分に力を付けなきゃダメだと思う』
『それに、ミレイ神を懲らしめる前に、ケイがやらなきゃいけないことがもっとあるわよ』
オレがやらなきゃいけないこと?
ユウに言われてオレがやらなきゃいけないことを考えてみた。
『ええと、ユウにこの体を返して、わたしは本来の自分の体を取り戻すってことだよね』
『ケイがそう考えてくれるのは嬉しいけど、それが実現できるかどうかは微妙よね。まず、ケイの体がどうなっているのか分からないし、仮にケイの体が無事に保管されていたとしてもソウル交換はすごく危険な魔法らしいから、成功するかどうか分からないのよ』
『ミレイ神に会って、元の体が保管されているか確認するしかないよね。もし、体が無くなっていたら……』
『そのときはケイと私でこの体を共有しましょ。ソウルを一時的に交換する魔法は安全らしいから、早くその魔法を使えるように頑張ろうね』
そのときコタローが会話に割り込んできた。
『そのとおりだわん。魔力が〈500〉以上あればソウルを一時交換する魔法の成功率は100%になるのだわん。だからにゃ、まずはケイの魔力を高めるべきだぞう。そのためにはソウルリンクを太くすることが必要なのだわん。ソウルリンクの太さを魔力が〈500〉以上流せるように太くするってことだにゃ』
アドバイスは有難いが、相変わらず難しいことを言う。
『ソウルリンクを太くするって言うけど、どうやって?』
『ソウルリンクを太くする方法は二つあるにゃ。一つ目の方法は年齢だわん。神族のソウルリンクの太さは1歳毎に魔力が〈40〉ずつ増加して20歳で〈1000〉になるんだわん。今のケイのソウルリンクは魔力〈400〉を流せる太さがあるからにゃ。後3年すれば自然に魔力が〈500〉を超えるということだぞう。どうするかにゃ? 3年待つかにゃ?』
『いや、3年も待ってられないよ。二つ目の方法は?』
『二つ目の方法はにゃ、妖魔か魔獣か魔人を殺すことだぞう。ケイも知っているだろうけどにゃ、ソウルリンクというのは亜空間を通っている細長いパイプのような物だわん。妖魔や魔獣や魔人を殺したらにゃ、亜空間を通っていたパイプが1本消えるということだわん。するとだにゃ、亜空間はソウルリンクの太さの1%くらいを倒した者にフィードバックしてくれるのだぞう。つまりにゃ、妖魔や魔獣や魔人を殺した者のソウルリンクが少しだけ太くなるってことだにゃ。これはソウルリンクの特性と言うか摂理なのだわん』
さっぱり分からない。
『もうちょっと分かり易く教えてよ』
『例えばだにゃ、ケイがオークロードを殺したとするにゃ。オークロードのソウルリンクの太さは魔力〈100〉だから、その1%、つまり魔力〈1〉がケイのソウルリンクの太さに還元されるってことだわん。ケイの魔力が〈400〉だとすればにゃ、魔力が〈401〉に高まるということだぞう』
なんだかややこしい言い方だな。もっと簡単に言えばいいのに。
『つまり、妖魔か魔獣か魔人を倒し続ければ、わたしの魔力はどんどん高まっていくってこと? どんどん強くなれるってことだよね?』
これが本当だとすれば、まるでゲーム機のRPGみたいだ。
『単純に言えばそういうことだわん。ただしにゃ、魔力が高まる度合いは次第に小さくなるらしいけどにゃ、今はそんなことを気にしなくていいわん。妖魔か魔獣か魔人を殺したらにゃ、相手の魔力の1%くらいをゲットできると考えておけばいいぞう。今のケイは魔力が〈400〉だからにゃ、魔力〈100〉のオークロードを一頭殺したら〈401〉になるってことだにゃ。オークロードを百頭殺せば〈500〉になる計算だわん』
簡単に言ってくれるけどな、コタローよ。それこそ取らぬ狸の皮残用だろ。
『百頭もオークロードはいないだろ!』
『にゃに言ってる。この闇国はクドル・ダンジョンの最下層で妖魔や魔獣が生まれる場所だぞう。地上よりはずっと多くの獲物がいるはずだわん。つまりにゃ、今がチャンスってことだぞう』
なるほど。そういうことか。
だが、オレの魔力は制限されている。本来のオレのソウルリンクは魔力〈400〉を流す太さがあるらしいが、異空間ソウル側がオレへ供給する魔力を〈240〉に制限しているのだ。これは文句を言っておくべきだろう。
『コタロー、今がチャンスって言うけどね。わたしが一生懸命頑張ってソウルリンクの太さを〈500〉にしたとしても、コタローがわたしの魔力を制限してるから意味が無いよねっ!』
『ケイ、そんなことを言ったらコタローが可哀そうよ。魔力の制限をしてるのはコタローじゃなくてアドミンの判断だよ』
おっと、ユウの言うとおりだ。オレに制限を掛けているのはコタローではなくてアドミンだった。
『それなら、アドミンさんに制限を解除してくれるようにお願いできないかな? コタロー、アドミンさんと話がしたいんだけど、都合を聞いてみてよ』
『ちょっと待ってにゃん。……。アドミンは話す必要は無いと言ってるわん』
『やっぱりダメか……』
ちょっとがっかりした。
『ケイ。アドミンが魔力の制限を掛けてるくらいのことでケイは自分が強くなることを諦めてしまうの? アドミンに制限を解除してもらえる機会はきっとあるはずよ』
さすがはユウだ。この5年間ずっと諦めずに頑張ってきたのだから、こんなことくらいでは挫けないだろう。それはオレも同じだ。簡単に諦めるつもりはない。
『コタロー、八つ当たりしてごめん。わたしは諦めないし、頑張って強くなりたいと思ってる。だから、これからも色々と教えてください。お願いします』
オレは心の中で頭を下げた。
『そんなに謝らなくても大丈夫だぞう。ケイはオイラのご主人様だからにゃ、言われなくてもサポートするわん』
『ありがとう、コタロー。まず、この闇国で自分を鍛えて、それからミレイ神を捜すことにするよ。ユウにこの体を返して自分の体を取り戻すためにね。
体が元に戻ったらミレイ神に地球へ送り返してもらおうよ。わたしたちが行方不明になって家族は死ぬほど心配してると思うんだ。地球へ早く帰って、家族に無事な姿を見せてあげたいよね』
オレはなんとなく嬉しくなってきた。信頼できる仲間ができて、このウィンキアでオレがやるべきことが分かってきたのだから。
『何を言ってるの。ケイはさっきミレイ神を捜し出せたら懲らしめるって言ってたでしょ?』
ユウが呆れたように言ってきた。
『うん。まずは自分に力を付けて、ミレイ神にギャフンと言わせる。罪を認めさせるんだ。その上で、こんな事態になったのはミレイ神のせいだから、罪の償いをさせるんだよ。償いの一つが体を元に戻すことや、地球へ送り返すってことだね』
『ミレイ神に地球に送り返してもらうのはムリだにゃ。ミレイ神は魔法で地球から人族を召喚することはできるけどにゃ、送り返すことはできないのだわん。送り返す魔法が無いからにゃ』
『地球から召喚する魔法があるのに、地球へ送り返す魔法が無いって? そんな理不尽な……』
『でも心配いらにゃいぞう。ケイやユウは地球生まれだから自分のワープ魔法で地球との間を行ったり来たりできるのだわん。ただし魔力が〈1000〉以上必要だけどにゃ』
『えっ!? それってホントのこと?』
『本当のことよ、ケイ。大切なことなのに言い忘れていてごめんなさい。私は異空間ソウルで魔法の研究をしていたから知ってたんだけど……。
実験はできてないけど、理屈上では魔力が〈1000〉以上あればウィンキアから地球へ成功率100%でワープできるわ。もちろん、地球からウィンキアへのワープもできるようになるの。ただし、地球での魔力はウィンキアの半分になるみたいだけどね。でも、地球でも魔法が使えるってことよ。だから、ケイ。魔力〈1000〉を目指して一緒に頑張ろうね!』
『ユウとコタローの説明で、俄然、ヤル気が出てきたよ。でも、ちょっと待ってよ……。ええと、もしかすると、成功率は低いけど、今でもワープ魔法が使えるってことなの?』
『使えるけど、失敗する可能性が高いにゃ。失敗すると浮遊ソウルになるか、時空の狭間を漂って、どこに飛ばされるか分からないわん』
『それって、失敗すると死ぬか戻って来れなくなるってことじゃん』
『そういうことだにゃ。だから、ワープ魔法は成功率100%の魔力になるまでは絶対に使っちゃだめだわん。ついでに言っとくけどにゃ、このウィンキアが存在する空間の中だけでワープするにゃら、魔力は〈500〉あれば成功率100%でワープできるわん』
『今のわたしはワープ魔法を使っちゃダメだってことは分かったけど、それならミレイ神に頼んで地球へ行ってもらえばどうかな? ミレイ神なら魔力が〈1000〉に達しているはずだから、ワープで地球へ行けるよね? 家族への手紙を書いて、それをミレイ神に預けて日本で出してもらうんだよ。そうすれば自分たちが無事なことを家族に知らせることができるよね』
『それもダメだにゃ。ミレイ神もほかの神族も地球へはワープできないのだわん。ソウルがウィンキア生まれだから地球の世界では不安定になって存在できないのだぞう。無理して地球へワープしようとしたら、どこの時空に飛ばされるか分からにゃいし、ウィンキアへは戻って来れないだろうにゃ』
『つまり、わたしが頑張るしかないってこと?』
『そういうことだにゃ。魔力が〈1000〉を超えるまでケイが自分で頑張るしかにゃいのだわん』
『分かった。ともかく、まずは魔力が〈500〉になるように頑張るよ。そうすればソウルを一時的に交換する魔法も使えるようになるし、ワープも使えるようになるからね。それと、アドミンにも魔力の制限を解除してもらえるよう説得を続ける。ええと、ミレイ神を捜し出して、自分の体を取り戻すのは自分の魔力を〈1000〉以上に高めた後になるね』
『でも、ケイ。ミレイ神を捜し出す前に、やらなきゃいけないことがあるよ』
『え? なんだっけ?』
『ケイは完全に忘れてしまってるのね? 自分の子供のこと』
自分の子供? ええと、記憶にはないけど、オレが代理出産で産んだという子供のことか? 名前は……。
『セリナのこと?』
『そうよ。セリナを行方不明にしたまま忘れてしまうなんて私は絶対にできない! あなたがセリナを産んだとき、その痛さも抱いたときの温もりや匂いも私は一緒に感じたの。絶対に忘れられないわ。私もセリナを自分の子供として見守ってきたのよ。私も自分は母親だと思ってる。そして、あなたも母親なのよ!』
オレが母親……。ユウの気持ちは痛いほど伝わってくるが……。
『ごめん。セリナの顔も声も……抱いたときの感触も……何も憶えてないんだ。だから、自分が産んだ子供だとか自分が母親だとか言われても正直なところピンと来ない。ユウの気持ちはすごく分かるけどね』
『ねぇ、お願い。見つけてあげて。おねがい……』
念話を通してユウの気持ちがダイレクトに伝わってくる。それを拒むことなんてできるはずがない。
セリナを捜し出すための方法が何か無いだろうか。セリナは神族のはずだから……。
『アドミンさんにセリナの捜索をお願いしたらどうかな? ソウルゲートと神族はソウルリンクで繋がっているのだから、もしかすると簡単にセリナの居所を捜し出せるかもしれないよ』
『そう言えば、そうよね。ねぇ、コタロー。アドミンにセリナを捜してって、お願いしてみて』
『聞いてみるわん。ちょっと待ってにゃ……』
期待できそうだ。そう思っていると、すぐにコタローから返事が来た。
『……ダメだったわん。アドミンの話によるとにゃ、ほかの神族の情報は教えられないらしいぞう。マスターが定めた戒律に反するというのが理由だわん』
ソウルゲート・マスターが定めた戒律か……。自分が産んだ子供の情報も教えてもらえないようだ。仕方ない。セリナの行方は自分たちで捜すしかなさそうだ。
あまり気乗りはしないがオレはユウと約束した。セリナを捜し出すために全力を尽くすと。
『ケイ、聞きたいことがあるんだけど……』
それまでずっと黙って話を聞いていたラウラが話しかけてきた。
『ケイはユウちゃんの話を聞いて、昔の自分を思い出したの? 5年前までは違う世界で暮らしてたのでしょ。そのときの記憶や意識を取り戻したの? それで自分の体を取り戻して、元の世界に帰ろうとしてるの?』
うっ! なんて答えよう。正直に言うか、それともとぼけるか……。
※ 現在のケイの魔力〈240〉。
※ 現在のラウラの魔力〈50〉。




