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SGS082 必ず懲らしめてやる!

 ユウから聞いた話を頭の中でもう一度整理してみた。


 オレやユウナは5年前にミレイという神族によってこのウィンキアに召喚されてきた。召喚の目的は体外受精したミレイ神の受精卵をユウナの体に入れて、代理出産させるためだ。ユウナが代理出産の母体として選ばれた理由は、彼女の魔力特性がミレイ神と同じであったからという話だった。


 魔力特性というのは人によって異なっていて、個人を識別するのに使えるらしい。しかしミレイ神とユウナの魔力特性が同じであったということは、指紋認証や顔認証ほどの精度は無いのだろう。


 頭の中で整理してみたが、どうにも分からないことがある。ミレイ神が彼女と同じ魔力特性の女性を探した理由が分からないのだ。なぜ魔力特性が同じでなければならないのか。その理由をコタローに尋ねてみた。


『ちょっと難しい話になるけどにゃ、聞きたいのかにゃ? 別にこんなことを知らなくても生きていけるけどにゃ』


『もったいぶらずに早く教えてよ』


『まず神族の受精について知っておいてほしいんだけどにゃ。ソウルゲートは神族の卵子が成長すると一時的にソウルリンクをその卵子に割り当てて、そのリンクを使って受精したかどうかを監視しているのだわん』


『それはアドミンが監視しているってこと?』


『そうだにゃ。ソウルゲートの管理者であるアドミンの命令で監視が行われているのだわん。その卵子が受精した場合にはにゃ、アドミンは念のために母体の魔力特性を調べて母体が神族かどうかをチェックしているのだぞう。このチェックをするのは代理出産を防ぐためだわん。どういうことかと言うとだにゃ、これはオイラの推測だけどにゃ……』


 コタローが推測を交えて説明してくれたのだが、この1万年の間に多くの神族がこれまでにも数えきれないほど人工授精と代理出産を試みてきたらしい。神族の精子と卵子ではほとんど妊娠できないが、人族の精子を使って人工授精と代理出産を行えば出産の成功率が格段に高まると考えられていたからだ。しかしこの方法を許せば神族はあっという間に増えすぎてしまう。神族が増えすぎると、ソウルゲート側は最大六十人の神族しかサポートできないからキャパオーバーとなってしまうのだ。早い時点でそのリスクに気付いたアドミンは対策を講じていた。それが母体の魔力特性のチェックだ。神族の魔力特性は全員がソウルゲートに記録されているから、魔力特性をチェックすれば母体が神族かどうかを判別できる。この方法で代理出産を防げるのだ。アドミンはソウルゲートの機能を保持するために母体が神族でなければ代理出産と判断して流産させるようだ。だからこれまでに神族が試みた代理出産は初期の数件を除いて、その大半が失敗に終わっていた。


 ミレイ神も今までに何度か人工授精と代理出産を試したのだと思われる。そしてミレイ神は気付いたのだろう。代理出産の母体が自分と同じ魔力特性であれば上手く出産できることに。


『そういうことでだにゃ、母体の魔力特性がソウルゲート側の記録と一致すれば母体を神族だと判別できるからにゃ、その受精卵にもソウルゲートとの正式なソウルリンクを割り当てるのだわん。そういうプロセスがあって神族として無事に生まれてくることができるのだぞう』


 丁寧にコタローは説明してくれた。なんとなく分かったように思ったが、すぐに忘れてしまいそうだ。


 ともかくミレイ神が彼女と同じ魔力特性の女性を探した理由は分かった。それが偶然にもユウナだったということだ。


 それにしても腹立たしい。ミレイ神が召喚したかったのはユウナだけで、オレやほかの者たちは巻き込まれただけなのだ。ミレイ神の身勝手さといい加減さには呆れるばかりだ。腹が立って仕方がない。だが今はそれを言ってもどうにもならない。


 ちょっと冷静になって、頭の中での整理を進めよう。


 ユウナが代理出産を拒絶したために、ユウナの体にオレのソウルが移植されてしまった。オレのソウルが選ばれたのは体外受精でオレの精子が使われたため、受精卵の父親だから生まれてくる子供との相性も抜群だろうとミレイ神が判断したからだ。なんといい加減な理由だろうか。


 ミレイ神はオレのソウルを移植しただけではなかった。暗示魔法でオレのソウルにケイという架空の女性の人格と記憶を作り込んで、その女性の意識が常に表に出るようにした。だから、オレは自分がこの5年間にどのように生きてきたのか何も知らなかったのだ。この5年の間、オレはケイという女性として生きて、マードという男性と結婚し、セリナという神族の子供を代理出産で産んでいたのだ。


 その間、オレの本来の意識や記憶はミレイ神の暗示魔法によってソウルの奥深くに押し込められてずっと眠らされていた。


 ところがあの事件が起こった。死体置き場で生き返ったときに、ソウルの表面に書き込まれていた女性の意識や記憶が破れて、オレの本来の意識と記憶が眠りから目覚めたのだ。


 そして今は真実を知ることができた。ユウやコタローから教えられて、なぜオレがこの異世界に連れて来られたのか、ようやく知ることができたのだ。


 くそっ!


 オレはまた無性に腹が立ってきた。ミレイ神に対してだ。異世界の女性を拉致して来て自分の子供を代理出産させるという、そんな身勝手な理由で大勢の幸せを奪ってしまったのだ。オレやユウだけでなく、あのバスに乗っていた人たち全員を巻き込んだのだから。


 ミレイ神には必ずこの報いを受けさせてやる! オレは心に誓った。


 幸運なことにオレには神族と同じように異空間ソウルのオーナーという特権が与えられた。暫定オーナーで魔力の制限があるけれど……。


 さて、これからどうすればいいのだろう。みんなと一緒に相談しよう。その前に……。


『まずお礼を言うよ。ユウ、コタロー、ずっと助けてくれてありがとう。拉致されたのが5年も前のことで、そのときにユウの体に自分のソウルが移し替えられていたなんて全然知らなかった。それに君たちがずっと守ってくれてたことも知らなかったんだ。本当にありがとう』


『そんな……。お礼なんて言われると困っちゃうな。私は自分が浮遊ソウルになりたくないから自分の体を守っただけなの。自分を守るということはケイを守ることと同じだけどね』


『うん。とにかく、これからは三人で力を合わせてやっていこうよ。わたしとユウとコタローは一心同体のようなものだからね』


 でもなんだか恥ずかしい。ユウやコタローにずっと見られてたなんて……。


『ねぇ、ユウ。もしかして、わたしがボドルと……してたところや、ラウラと……してたところなんかも見てた?』


 そうなのだ。知らなかったけど、ユウやコタローに自分の恥ずかしい姿を見られていたかのだ。それを考えると顔が真っ赤になって、オレは思わず身悶えした。


『なに言ってるの! 見るも見ないも元々は私の体よ。男のくせに私の体を見たり触ったり、イヤらしいことしてるのはケイのほうでしょ!』


『あっ! そだね……。ごめん。体をお借りしてますぅ……』


 謝りながら、オレはこの腹立たしさを言葉にせずにはいられなくなった。


『でもね、ユウ。こんなことになったのは、すべてミレイっていう神族が悪いんだ。そいつの身勝手のせいだから。絶対に許せない。ミレイ神を必ず懲らしめてやる!』


『その気持ちは私も同じよ。でも、ミレイ神を懲らしめるなんて私たちにできるのかな?』


 そう言われて、オレは『うっ!』と言葉を詰まらせてしまった。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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