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SGS081 魔力が少しずつ高まった訳

 ―――― ユウ(前エピソードからの続き) ――――


 あの事件があってからケイの生活は一変した。これまでの平和な生活からハンターの従者としての生活に変わり、死が身近になった。何度も死にそうになって、その都度、ケイの魔力は少しずつ高まっていった。その経緯を説明しておこう。


 私はコタロー経由で魔力の制限解除を何度もアドミンへ働きかけた。今のような魔力〈0〉ではケイが自分の身を守ることもできないからだ。でもアドミンは制限解除の許しを出さなかった。そんなとき、あのゴブリン事件が起こったのだ。


 ケイは原野への狩りに加わり、ゴブリンと戦うことになった。先輩のラウラと一緒にゴブリンに追いかけられ、一人で藪に逃げ込んだ。今のままではケイが殺されるかもしれない。その事態に直面したとき、コタローがアドミンに働きかけて一時的に魔力を〈200〉に設定してくれた。私はすぐに念話でケイに話しかけて、魔法を使うようアドバイスした。


 ケイはそれを理解したのか、ゴブリンを魔法で撥ね退けたようだ。しかし事態はさらに悪化した。ケイが崖から転がり落ちたのだ。コタローはすぐに魔法で助けようとしたが、少し遅れたためにケイが重傷を負ってしまった。


 あのときにケイが助かったのは本当にゴブリンのおかげだった。あのゴブリンが命がけでケイを救ってくれたからだ。


 コタローはこの事件を反省して、ケイの普段の魔力を引き上げるようアドミンを説得してくれた。その結果、ケイの魔力は〈0〉から〈60〉に変更となった。


 ケイは自分が魔法を使えるようになったと分かると無茶をし始めた。魔力〈60〉では発動できないような高度な魔法を使うようになったのだ。ケイが無茶をした典型が暗示魔法だ。ケイは何十回も何百回もしつこく失敗を繰り返しながら辛うじて成功させた。


 コタローはそれを知って驚いたようだ。


『信じられにゃい。ケイが暗示魔法を発動できるはずがにゃいのだわん』


 コタローの話によると、どの魔法にも発動条件が設定されているそうだ。その発動条件を満たさないと魔法は発動しないと言う。


 暗示魔法の発動条件は、術者の魔力が〈500〉以上であることと、術者が暗示スキルを保有していることだ。暗示スキルは難易度が極めて高くて、その保有者は皆無に近いらしい。だからケイに暗示魔法を発動できるはずがないのだが、ケイは失敗を繰り返しながら魔法を成功させてしまったのだ。


 コタローが言うには、魔力が〈500〉以上という発動条件はケイのように何百回も失敗を繰り返せば稀にその発動条件を突破できる場合もあるらしい。しかし暗示スキルの保有という発動条件は絶対に突破できないそうだ。


『つまりケイが暗示魔法を成功させたということはにゃ、ケイは暗示スキルを保有しているということだわん。どうしてケイが暗示スキルを持っているのかは謎だけどにゃ』


 いつの間にケイが暗示スキルを保有したのか、コタローもその理由は分からないようだ。だが理由は必ずあるはずだと言う。


 しかし、仮にケイが暗示スキルを持っていたとしても、魔力についても不可解な点がある。それをコタローに尋ねてみた。


『ねぇ、コタロー。暗示魔法を使うには〈500〉以上の魔力が必要なのでしょ。それなら魔力〈60〉のケイは暗示魔法を使えないはずよ?』


『それはユウの誤解だわん。魔力〈500〉というのは暗示魔法を発動させるための条件だけどにゃ、実際に暗示魔法が必要とする魔力は〈1〉とか〈2〉とかのごく小さな魔力なのだわん』


 コタローが言うには、魔法の発動条件と実質的に必要な魔力は異なるそうだ。それは暗示魔法に限ったことではなく、様々な魔法がそういう仕組みになっているらしい。


 なぜ魔法がそんな仕組みになっているのか尋ねると、コタローは『これは推測だけどにゃ』と言いながら教えてくれた。今の魔法体系を発明して整備したのはソウルゲート・マスターなのだが、悪用されたときに影響の大きな魔法ほど発動条件を厳しくして、そういう魔法を安易に発動できないように制限したのではないか。そういう考えでソウルゲート・マスターは魔法体系を整備したのではないか、というのがコタローの推測だ。


 つまり、暗示魔法は実質的に必要な魔力は小さいが、悪用されたときに影響が大きい魔法なので発動条件を極めて厳しくしたということだ。おそらく神族しか使えないような極めて高度な魔法にしたのだろうとコタローは言う。


 話が横道に逸れてしまった。ケイの魔力が高まった経緯に話を戻そう。


 次にケイの魔力が高まったのは、闘技場で王子の護衛と戦ったときだ。王子や護衛の魔力は弱かったが、その隣にいたゴルド将軍やテイマーのバハルは魔力が〈100〉を超えるロードナイトだ。もしケイが歯向かって戦いになったら殺されてしまうかもしれない。危険だと考えたコタローは再びアドミンに働きかけた。こうしてケイの魔力は〈120〉まで引き上げられた。


 そして今回の闇国への流刑だ。闇国とはクドル・ダンジョンの最下層で妖魔や魔獣が生まれる場所のことらしい。闇国はこれまでの原野とは比べ物にならないくらいに危険だ。その予防策としてケイの魔力は〈240〉まで引き上げられた。


 ちなみに、現在のケイと異空間ソウルのソウルリンクは魔力〈400〉までを通すことができる。つまりケイの本来の魔力は〈400〉ということだ。アドミンはそれに制限を掛けて、わざわざ〈240〉の魔力に絞っているのだ。


 コタローから教えてもらったことだが、通常、神族と異空間ソウルの間のソウルリンクは年齢とともに自然に太くなっていく。受精卵に浮遊ソウルが定着したときに異空間ソウルとの間でソウルリンクが形成され、2年間の妊娠期間でソウルリンクは魔力〈200〉までを通すことができる太さになり、赤ちゃんとして生まれてくる。その後もソウルリンクは1歳毎に〈40〉ずつ増加し20歳で魔力〈1000〉までを通す太さに成長する。それ以降は年齢を重ねても魔力は増加しない。


 ケイのソウルリンクも年齢とともに自然に太くなっている。ケイが神族のようなソウルリンクを持って5年が経つ。神族の5歳児と同じで、魔力〈400〉を通すことができるまでに成長している。これからも毎年〈40〉ずつ増加するから、ケイのソウルリンクが普通の神族と同じ魔力〈1000〉になるためには後15年の時間が必要ということだ。


 私の話もそろそろ終わりだ。


 現在のケイの魔力は〈240〉だ。〈200〉を超えたから、ソウルゲートが神族のために用意した基本的な魔法をようやく使えるようになった。その一つがソウルリンク念話だ。ソウルリンクを通して念話ができるようになったから、ケイは私やコタローといつでも話ができるようになった。ほかにも色々できるようになったことがあるが、それは徐々に説明していこう。


 あっ、いけない。うっかりして忘れていたが、ケイの魔力が〈240〉に引き上げられたことで、私もコタローも魔力〈240〉で魔法を使えるようになった。


 いや、この言い方はちょっと違う。ケイと私とコタローは1本のソウルリンクを共有しているのだから、もっと正確に言わなければいけない。ケイと私とコタローは三人で魔力〈240〉を分け合って魔法を使うことができるようになったということだ。


 魔力が〈200〉を超えたことで、異空間ソウルの中だけでなく、私とコタローはケイやその周辺に対しても魔法を使うことができるようになった。ソウルゲートの制約があって攻撃系の魔法を使うことはできないが、探知や回復など支援系の魔法でケイを助けることができる。これはすごく意義のある能力アップだ。これからはケイと私の二人が連携して色々なことに対処できるようになるのだから。

 

『ユウ、オイラを忘れたらダメだわん』


『そうね。ケイと私とコタローの三人で連携できるものね』



 ――――――― ケイ ―――――――


 ユウの長い話が終わった。オレもラウラも言葉が出なかった。


『ごめん。ちょっと驚いちゃって……。気持ちを整理するから少しだけ時間をもらえるかな』


 オレは自分が大きな勘違いをしていたことにショックを受けていた。ユウの話を聞くまでは、自分がケイの体に乗り移ったのは死体置き場で生き返ったときだと思い込んでいた。しかしそれは勘違いで、オレは5年も前からケイの体に入っていてたのだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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