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SGS080 死体置き場で目覚めた経緯

 ―――― ユウ(前エピソードからの続き) ――――


『ユウ、何かヘンだわん。ケイからの生体情報が弱くなってるぞう』


 コタローから警告が発せられたとき、私はケイの異変に気付いてなかった。夜はケイとの五感共有のスイッチを切っているからだ。


 スイッチを入れたとたん強烈な痛みが圧し掛かってきた。背中からの痛みで息ができない。胸を締めつけるような痛みだ。この感覚はケイが感じていることをそのまま受け取っているだけだ。痛みで息ができないのはケイだが、こんな痛みを共有していたら私も正常な判断ができない。すぐにスイッチを切った。


 今は真夜中だ。ケイは眠っていたはず。ケイの身に何が起きたのだろうか。今はケイの意識が無くなっているので状況が掴めなかった。さっきの痛みは心筋梗塞かもしれない。ともかく今のままではケイが死んでしまう。そのときは私も死ぬということだ。


『コタロー、なんとかしてっ! ケイを助けて! おねがいっ!』


 私が必死に叫ぶ。


『ソウルリンクの制限を一時的に解除してもらえるようアドミンにお願いしてみるにゃ』


 なんだか緊張感が無くて、私はちょっとイラッとした。しかしこの語調とは違い、このときコタローはアドミンに対して強く迫ってくれていたのだ。瀕死の状態にあるケイに対してアドミンがソウルリンクの制限を続けることは、ケイを見殺しにするということであり、それはアドミンが間接的に殺人を犯すことに等しい。後から知ったことだが、コタローはそう言ってアドミンを説得してくれたらしい。アドミンはソウルゲート・マスターから殺人を禁止されているから、この説得に渋々応じてくれたようだ。


『一時的に魔力が〈400〉まで使えるようになったわん。何があったのか魔法で調べてみるにゃ』


 コタローの対応は迅速で数秒後に報告が返ってきた。


『何があったか分かったわん。寝込みを賊に襲われたようだにゃ。ケイは背中側から胸を刺されているけどにゃ、心臓は外れているぞう。刺されてから15分くらい経ってるにゃ。大量に出血しているからにゃあ、今のままでは間違いなく死んでしまうわん』


『それなら早く治療してっ! コタロー、おねがい』


 コタローは短い尻尾を振りながらヒール魔法でケイの治療を始めた。


『大丈夫だわん。じきに治るから心配いらにゃい』


『よかったー。ありがとう、コタロー』


 あっ! マードとセリナはどうなったのだろう? ケイを救うことに必死だったからマードやセリナのことを忘れてた。


『マードとセリナは大丈夫かな? コタロー、ケイの治療をしながら調べることできる?』


『マードはケイの隣に倒れているぞう。――可哀そうだけど死んでるにゃ。手遅れだわん』


 ケイのことを心から愛していたマードが死んだ。私は暫く言葉が出なかった。ケイがマードを愛していたように私もマードが好きだったから……。


『セリナは……、セリナはどうなの?』


『セリナはどこにも居ないにゃ』


 ケイたちはいつも三人で一緒に寝ているから、セリナがこの部屋に居ないということは逃げることができたのかもしれない。それとも盗賊に拉致されたか、別の場所で殺されてしまったのか……。


『コタロー、周囲を探知してみて』


『周囲にも居ないにゃ。襲われてから15分以上になるからにゃあ。探知エリアの外へ連れ出されてしまったかもしれないにゃ。あるいは殺されているのかもしれないわん。もしそうなら探知魔法では区別できにゃいぞう』


 セリナのことが心配で堪らないが、どうしようもない。今はケイを回復させることしかできない。


『にゃにゃっ!? 人族たちの集団が家に近付いてくるわん。十人ほどだぞう。全員がソウルオーブを装着してるから王都の警ら隊だろうにゃ。それか賊が戻ってきたのかもしれないけどにゃ』


 十人もの賊が戻ってくる可能性は低いだろうから、たぶん警ら隊だと思うけど。どっちにしても、今はケイの治療中だからマズいかも……。


『コタロー。警ら隊か賊かは分からないけど、この部屋に入ってくるかもしれないわよ。ケイの体を調べられたときに今のまま治療を続けて大丈夫なの?』


『そうだにゃあ。治療しているところを誰かに見られたらマズいわん。ケイの能力を詮索されるからにゃ。異空間ソウルとの関係まで知られてしまうかもしれないぞう』


『コタロー、どうしよう!?』


『治療を中断するしかないけどにゃ。治療を中断すると死んでしまうわん。今は出血箇所を半分くらい治療したところで、まだ半分残ってるからにゃあ』


『じゃあ、どうするのよ!? このまま治療を続けるしかないの?』


『一時的にケイの心臓や呼吸を止めてにゃ、死んでるように見せかけるしかないにゃ』


『そんなことをしたら本当に死んじゃうよ?』


『大丈夫だわん。仮死状態になってるだけだからにゃ。オイラが魔法で血流と呼吸を操作して脳や内臓にダメージを与えないようにするから心配いらにゃいぞう。周りに人が居なくなったら治療を再開するのだわん』


 その直後に人族たちが部屋に入ってきた。やはりパトロール中の警ら隊だった。夜中なのに魔法屋のドアが開いたままになっているのを不審に思ったようだ。


 警ら隊はケイとマードが殺されていると判断して、二人を王都防衛隊の死体置き場へ運んだ。セリナは盗賊に拉致されたようだ。隊員たちの会話からそれが分かった。


 死体置き場で誰も居なくなってからコタローは治療を再開した。治療はすぐに終わり、私は念話でケイに呼びかけた。しかしすぐに念話は途切れた。コタローに原因を尋ねると、ケイの治療が終わったからソウルゲートの全体管理者であるアドミンがソウルリンクの魔力パイプをまた閉じたのだと言う。以前のようにケイの魔力をまた〈0〉に制限したそうだ。


 コタローに魔力の制限を外してほしいと抗議したが、その制限はアドミンが判断しているらしい。コタローは何の権限も持っていないようだ。


 ………………


 ケイは死体置き場で目覚めた。どうやら記憶を無くした振りをしているらしい。だが様子が変だ。ちゃんと自分の体を制御できていないように見える。もしかするとコタローが治療したときに何かミスをしたのかもしれない。


 コタローに詰問すると、自分のミスではなくてソウルの問題だろうとコタローは言う。


 なるほど。ケイのソウルはミレイ神によって色々と処置が行われているから、殺されかけたことで何か影響が出たのかもしれない。コタローが言うには、仮にソウルに問題が出ているとしても魔法で回復することは不可能だそうだ。こちらとしては今はケイを見守ることしかできない。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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