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SGS079 サポート犬コタローの誕生

 ―――― ユウ(前エピソードからの続き) ――――


 サポートプログラムさんに“管理者”へ挨拶したいと取り次ぎを申し込むと、すぐに返事があった。


『お待たせしました。“管理者”が申しますには、挨拶は無用とのことです。今のところ“管理者”がユウナ様と直接会話する必要性がないため、ユウナ様はこのサポートプログラムとの間でお話しください』


 “管理者”は私と話したくないってこと? うるさい娘だと思われてるのかな? 悔しいけど、今はどうしようもない。でも、ここから出るためには質問するしかないのよね。


『ええと、質問を続けますけど……、私でもこの異空間ソウルを操作できるという話でしたけど、その操作というのは具体的にどういうことができるのですか? もしかしてソウルゲートを操縦できるとか、そういうことなの?』


『いえいえ、ソウルゲートの操縦はできません。ユウナ様ができることは、この異空間ソウル、つまりソウルゲートの中にあるこのエリアとエリア内にある物をお好きなように使っていただけるということです。このエリアの倉庫には初代のオーナーが蓄えた資材や備え付けの装備品がございますので、それもご自由に使うことができます』


 わぉっ! ここには倉庫まであるのね。でも……。


『そんなことを言われても、私はソウルだけの存在で手も足の無いのよ。いったいどうやって使えばいいのよ!?』


 ちょっとヒステリックになってしまったかも……。


『たしかにユウナ様の魔力は外部に対しては〈0〉に制限されているため、ユウナ様は何もできません。しかしこの異空間ソウルの中であれば魔力〈100〉までの魔法を使えます。サポートプログラムもこの中では魔力を気にせず仕事ができますので、命じていただければ可能な限りユウナ様のご指示に従います』


 やったーっ! 私は異空間ソウルの中であればサポートプログラムさんに命令して色々できるってことよね?


 なんだか希望が湧いてきた。素人の私が魔法を使ってもたいしたことはできないだろう。それよりも、私がサポートプログラムさんを使ってこの異空間ソウルの中で何かできることがないか考えてみよう。もしかすると私にもソウルゲートのために何か貢献できることがあるかもしれない。大きな貢献をすればそれを評価されて、正式に異空間ソウルのオーナーになれる可能性もある。


 まずは倉庫の中の探検ね。何があるんだろう? なんだかワクワクしてきた。


 倉庫に案内するようサポートプログラムさんにお願いすると、突然、風景が変わった。今までは何もないところに居たが、今の私は広大な資材置き場のようなところに居る。どうやら倉庫の中に転送されたらしい。


 倉庫という言葉には棚や通路があって整然と物が並べられているイメージがあるが、ここはその真逆の様相を呈していた。棚や通路は無く、雑然と何かが床に置かれていた。土の山や木材の山、干からびた動物や魔物の死体、同じく干からびた植物の山など、ガラクタの山が隙間なく放置されていたのだ。


 私はその上空を飛んで全体を見渡した。100モラ四方にガラクタが置かれている。すべてが干からびているのは、これが初代の神族が蓄えた資材であり、ここに置かれてから1万年くらいの時間が経っているからだろう。期待した私がバカだった。ここはゴミの山だ。


 でも、初代の神族が蓄えた資材だけじゃないはず……。


『あなたは備え付けの装備品があるって言ってたけど、どこにあるの?』


 私は意識して命令口調で質問した。暫定的ではあるが私はこの異空間ソウルのサブオーナーらしいから、サポートプログラムに対しては命令口調で話してもいいよね。


『サポートプログラムの管理下にある装備品では、使えるものは人工生命体が数体だけでございます。初代のオーナーが多くを持ち出してしまったようでして、装備品はほとんど残っておりません。人体型はこの一体だけでございます』


 私の目の前に人族の女性が現れた。なんと……、全裸だ。仰向けに横たわって目を閉じている。25歳くらいだろうか。綺麗な女性だ。乳房が上下しているから生きていることは確かだ。


『この人が装備品なの? 眠ってるようだけど、起こしても構わない?』


『この装備品にはソウルが入っていないので、眠ったままの状態です』


『え? どういうことなの?』


『これは偵察用に作られた人工生命体です。サポートプログラムが操縦して敵地で偵察をしたり、オーナーがソウルの一時移動魔法でこの体に乗り移って活動したりするために作られております。ソウル一時移動の魔法を使うため、ソウル移動に伴う拒絶反応もありません。使われていないときはこのように眠った状態です。異空間ソウルの生命リフレッシュ機能によって最高のコンディションを維持しております』


 ということは……私も一応オーナーだから、この体を使えるってことよね?


『それなら、私がこの女性に乗り移ることもできるの?』


『残念ながらユウナ様の魔力ではムリでございます。ソウルの一時移動魔法を安全に使うためには〈500〉以上の魔力が必要なのです』


 そうだった。残念! 異空間ソウルの中では魔力を〈100〉に制限されていたのだった。でもいつか私の魔力が〈500〉になったら、この女性の体に入れるということだ。すごい! なんだか心の中に立ち籠めていた暗い霧が一気に晴れていく気がした。


『装備品ってほかにもある?』


『はい、ございます。これなどはいかがでしょうか』


 私の目の前に数体の動物らしきものが現れた。犬とネコ、それとネズミだ。どれも眠っていて動かない。


『きゃーっ! かわいいー!』


 思わず念話で叫んでしまった。


 どれも可愛いが、私が特に気に入ったのは犬の形をした装備品だ。いや、これって本物の犬だよね? 胴長で足が少し短くて耳が垂れていている。ダックスフンドのような体形だ。黒色の艶のある毛並でトンガリお鼻が可愛らしさを引き立てている。私に腕があったら間違いなく抱きしめていただろう。


『みんな眠っているのは、ソウルが入ってないから?』


『はい。この動物たちも偵察用の人工生命体です。サポートプログラムやオーナーが乗り移って使います』


 ということは、この動物たちも今は眠ったままなのね……。でも、この可愛いワンちゃんだけでも目覚めさせたい。何かいい方法はないかな……。


 私が乗り移ることはできないけど、その代りに……。


『あなたがこの犬に乗り移ることはできるよね?』


『サポートプログラム用の疑似ソウルを生成して、この人工生命体を操縦することは可能です』


『では、疑似ソウルを生成してこの犬を操縦しなさい。できる? できるわよね?』


 私は有無を言わせず強引に押し切った。ここから先は私が考えたとおりに話が進んだ。


 まず、サポートプログラムをこのダックスフンドに乗り移らせて、“コタロー”という名前を付けた。


 ついでにソウルゲート全体を管理している人工頭脳のメインプログラムには“アドミン”という名前を付けてあげた。“管理者”なんていう呼び方は味気がないし冷たい感じがして嫌だからだ。ちなみに“アドミン”という言葉にはシステム管理者という意味があるらしい。私が高校に進学して両親にパソコンを買ってもらったときに勉強して覚えた言葉だ。


 コタローには名前を付けただけでなく犬らしい動作も教えた。シッポの振り方とかは初めからプログラミングされていたけれど、それを感情と合わせて動作させるのに苦労した。嬉しいとか悲しいとか困ったとか、コタローに感情を教え込むところから始めなければならなかったからだ。


 コタローのしゃべり方も、もっと砕けた口調になるよう躾けた。語尾に「わん」や「にゃん」などを付けることなども躾けの一環だ。こうして、少し生意気だが私の命令には素直に従うサポート犬コタローが誕生し、その躾けが進んでいった。


 ………………


 コタローを躾ける一方で、私は魔法の研究も行った。異空間ソウルの中では私の魔力は〈100〉に制限されているが、失敗さえ気にしなければたいていの魔法を使うことができた。


 と言っても失敗を気にしないわけではない。魔力〈100〉を超える魔法を使おうとすると頻繁に失敗した。失敗すると10秒間は魔法を発動できない。そのロスタイムには正直イラッとしたが、それは我慢するしかなかった。おかげで私は少し我慢強くなった。


 大きな魔力が必要なときは、コタローに魔法を使うよう命じた。魔法の材料は倉庫のガラクタが山のようにあるから困ることはなかった。


 こうして私の魔法の知識は高まっていった。魔力が増えることは無かったけれど……。


 ………………


 その間、ケイは女の赤ちゃんを産んでいた。妊娠期間は2年だったから、明らかに生まれてきたのは神族だ。出産のときは五感スイッチを入れて私も産みの苦しみを共有した。母親になるという喜びをケイと一緒に味わいたい。そう思ったからだ。


 ケイは夫であるマードと相談して、その子にセリナという名前を付けた。家族三人での平穏な暮らしが続き、セリナも可愛い女の子に育っていった。


 そしてセリナが3歳になり、何日か過ぎたその夜、事件は起きた。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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