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SGS077 ソウルゲートで滞在できる訳

 ―――― ユウ(前エピソードからの続き) ――――


 どうやら訳アリで、私はソウルゲートの個人用エリアでの滞在を許されているようだ。


 サポートプログラムさんの話によると、その訳というのは私の体に神族の受精卵が移植されたときのメカニズムが関係しているらしい。私がここに滞在できるのは極めて特殊な経緯があって、特例だと言われたので、私は知力をフル回転させて、サポートプログラムさんの説明を理解しようとした。その話はこういう内容だった。


 一般的に受精すると、その近くに漂う浮遊ソウルが受精卵と結合することで生命体となる。神族の場合は、このとき同時にソウルリンクの形成が始まる。魔力の源泉であるソウルゲートと受精卵のソウルが亜空間を通るパイプで繋がるのだ。


 しかし、このソウルリンク形成には受精卵の母体もソウルゲートとリンクしていることが必須条件だった。その条件のことをミレイ神は知らないまま私の体に受精卵を移植したようだ。


 ミレイ神がケイの精子を使って人工授精したときに、受精卵に新たなソウルが宿りソウルゲートとのリンク形成が始まっていた。その受精卵が私の体に移植されたときに、ソウルゲートの人工頭脳である“管理者”は魔力特性と照らし合わせて母体がミレイ神であると認識した。本当は私の体なのだが、ミレイ神と魔力特性が同じなので“管理者”は私の体をミレイ神だと誤認したのだ。


 そして同時に“管理者”はこの母体がソウルゲートとリンクできていない異常な状態であることを察知した。本来はこの母体はソウルゲートのミレイ神のための個人用エリアとソウルリンクしていなければならない。


 “管理者”は母体のソウルリンクに何らかの事故が発生したと判断した。母体のソウルリンクに支障があると、受精卵のソウルリンク形成に忽ち支障を来すことになる。そこで“管理者”はまず母体とミレイ神用のエリアをソウルリンクしようと試みた。しかし上手くリンクできなかった。そこで急遽、この母体のために臨時の個人用エリアを新たに用意して、母体との間でソウルリンクを形成しようとした。


 この異常な状態の間に、母体(ユウナの体)にケイのソウルを移し替える魔法が開始された。その魔法から逃れるために私のソウルが偶然にもソウルリンクのパイプを通って、臨時に用意されていた個人用エリアに入り込んでしまった。このとき、私のソウルは母体とリンクしたままだ。そこへ母体にケイのソウルが移し替えられてきた。臨時の個人用エリアは母体に移し替えられたばかりのケイのソウルとソウルリンクを形成したのだった。


 “管理者”は母体のソウルリンクに何らかの事故が発生したと考えて、臨時の個人用エリアと母体(正確には母体に定着したケイのソウル)をリンクしたのだが、“管理者”はこの間違いに気付かなかった。この暫定処置は受精卵のソウルリンク形成を正常に行うためと、この事故の内容を調査するために行ったものであり、事故の調査が終われば母体は本来の個人用エリア(ミレイ神の個人用エリア)に再リンクされるはずだった。調査に掛かった時間は10分程度だ。この間だけが異常な状態だった。


 ソウルゲートの人工頭脳である“管理者”は事故調査が終わって初めて何が起きたのかを把握した。つまり、神族ではない体に受精卵の移植が行われて、その母体に臨時の個人用エリアを割り当ててリンクしてしまったことに気付いたのだ。


 “管理者”は慌ててケイに割り当てた臨時の個人用エリアとソウルリンクを外そうとした。だが、それができないことが判明した。臨時の個人用エリアには私のソウルが入り込んでいて、母体(正確には母体に定着したケイのソウル)とソウルリンクしていることが分かったからだ。どうしてそのソウルリンクを外せないのか。それは……。


 もし“管理者”が個人用エリアとケイとのソウルリンクを外してしまうと、私のリンクも切れてしまって、私のソウルは個人用エリアの中で浮遊ソウルとなってしまう。これは“管理者”が殺人を犯すこととと同じだ。“管理者”は自己防衛以外では人族や神族を殺すことはできないのだ。このことはソウルゲート・マスターがソウルゲートの人工頭脳である“管理者”に対して戒めた戒律であった。このルールに“管理者”は絶対逆らえないのだ。私が“管理者”を攻撃しない限り“管理者”は絶対に私を殺すことはできないということなのだ。


 “管理者”はこの事故を調査して、ミレイ神が別の女性に代理出産をさせようとしていることを知った。本来であれば直ちにその受精卵とのソウルリンクを解除して、流産させるところであるが、それをすれば母体であるケイのソウルリンクへも影響が出て、私を殺す可能性が高くなる。それはできないため、この受精卵へのソウルリンクはそのまま維持し、母体の中でそのまま生かしておくことにした。つまり神族として生まれてくることを“管理者”は容認したということだ。


 “管理者”はケイへの対処も検討した。その結果、臨時の個人用エリアはケイにそのまま暫定的に割り当てるが、ケイの魔力は〈0〉に制限することとした。


 後で分かったことだが、どうやらソウルゲートから供給される魔力が制限されているだけでなく、ケイの脳内で生成されているはずの魔力もなぜか制限されてしまったらしい。つまりケイは一切の魔法を使えなくなってしまったのだ。


 これは私の魔力も〈0〉に制限されているということを意味する。ソウルリンクの魔力パイプは完全に閉じられているということだ。ソウルゲートの内部では“管理者”の恩情で私は魔力〈100〉までの魔法を使うことができるらしいが、ソウルゲートの外に対しては魔法を使うことができないということであった。


 そのため私はケイに対して念話を送ることもできないし、魔法でケイを手助けすることもできない状態になっていた。


 私がソウルリンクを通してできることは、ケイが感じている五感を共有することだけだったのだ。


 ただし、神族としての基本機能である生命リフレッシュだけは機能した。生命リフレッシュとは神族を一定の若さに保つための機能だ。


 実は当初、“管理者”はこの生命リフレッシュ機能も制限しようとしたらしい。この機能が働かなければケイは普通に年を取るから、放っておいても年老いて死ぬことになる。“管理者”は冷酷にもそれを狙ったようだ。自分が相手を殺すことは禁じられているが、相手が年老いて死ぬことは自分の責任ではないと考えたのだろう。


 ところが、その考え方に文句を付けた者がいた。サポートプログラムさんだ。生命リフレッシュ機能を制限したことによってケイが年老いて死んでしまうと、それと同時に私のソウルリンクも切れる。それは私がソウルゲートの中で浮遊ソウルになってしまうことを意味する。“管理者”はそのことを容易に予測できるのに、敢えて生命リフレッシュ機能の制限を続けるということは、間接的に“管理者”が殺人を犯すことと同じである。サポートプログラムさんはそう主張したらしい。“管理者”はその主張が正しいと認めて、生命リフレッシュを機能させることを認めたそうだ。


 サポートプログラムさんはケイと私の命を守ってくれたのだ。命だけでなく、若さも。恩人、いや大恩人と言って良いだろう。そういう経緯があって、ケイの体は18歳の若さをキープしているのだ。


 サポートプログラムさんが説明してくれたのは以上のようなことだったが、私はその説明を聞いて頭の中がくらくらしていた。頭は無いのだけれど……。


『難しいことを色々言われても、ちょっとね……』


『今の説明をユウナ様が理解されたかどうかは別といたしまして、ソウルゲートのこの個人用エリアは暫定的にケイ様に割り当てられており、その間はケイ様が暫定オーナーということでございます。ユウナ様についても暫定的にサブオーナーということで、オーナーと同様のサービスをご提供いたします。これは、この異常な状態へ対応するために“管理者”が特別に配慮した待遇でございます』


『ケイが暫定オーナーで、私が暫定サブオーナーなの? その暫定というのは、どういうことなの……ですか?』


『それはユウナ様がソウルゲートのこの個人用エリアの中に居る間だけの期間という意味でして、ユウナ様のソウルが完全に当エリアの外に出て行かれた場合は、この個人用エリアの割り当ては解除されることになります』


『つまり、その場合はケイと私はソウルゲートのサービスを受けられなくなるということ? そう理解していいんですか?』


『そういうことでございます』


『でも、言い換えれば私は自分の意志でここから外へ出ることができるってことですよね?』


『はい。ユウナ様はご自身の意志で外に出ることができます。ただしそれはユウナ様が自殺されることを意味します』


 えっ!? 自殺することになるの?


『自殺って、どうして?』


『ユウナ様のソウルが自ら進んでここから外に出た状態というのは、ケイ様とのリンクが完全に切れて、ユウナ様が浮遊ソウルになった状態ということです。浮遊ソウルというのはソウルが体から完全に離れてしまった状態であり、その状態になると普通は意識も記憶もリセットされて消えてしまいます。それは死んだ状態になるということでございます』


 そんなの絶対にイヤッ!


『私は自殺なんかしません! ということは、ずっとここから出られないってことですか? やっぱり、出られないのね……』


 その後のことはほとんど覚えていない。たぶん、絶望感で何も考えられなくなって泣き続けたのだと思う。涙は出ないけれど……。


 ………………


 放心状態の日々が過ぎていった。それでもサポートプログラムさんと会話することで、こんな状態にも少しずつ慣れてきた。ともかく私の話し相手はサポートプログラムさんしかいないのだから……。


『ねぇ、サポートプログラムさん。この場所がソウルゲートという巨大な宇宙船の中の個人用エリアの一つだってことは理解したけど、何だかややこしいと思うの。この場所のことは“異空間ソウル”と呼んだ方が簡単で分かりやすいと思うんだけど? ウィンキアの人たちはここを異空間ソウルって呼んでるのだから、そう呼べば?』


『ユウナ様のお好きなように呼んでください。異空間ソウルという言葉はソウルゲートのことなど知らない者たちが作った言葉ですが、この個人用エリアが異空間ソウルと同じようなものと考えてよろしいかと存じます』


 後でサポートプログラムさんが異空間ソウルの定義を調べて教えてくれたのだが、それによると“神族は自身のソウル以外にそれぞれが異空間の中に補助ソウルを持っている。この異空間にある補助ソウルは天の神様が作ったもので、異空間ソウルと呼ばれている”となっていたそうだ。


 ということで、今後はサポートプログラムさんとの会話でも異空間ソウルという言葉を使うことにした。


 そんな会話を重ねるうちに私の気持ちもちょっとずつ前向きになってきた。


 今のままで良いはずがない。この状態を打開する方法がきっと何かあるはずだ。


『あのー、サポートプログラムさん。私が浮遊ソウルにならずにこの異空間ソウルから出る方法を教えてもらえませんか?』


『――、少々お待ちください』


 何をしているのだろう? “管理者”と相談しているのかな? 20秒くらいしてから念話が入ってきた。


『ユウナ様……、その方法はございません』


 がくっとなった。期待させておいて、その答えなの? いいえ、きっと何か方法はあるはずよ。


『ええと、たとえば私の体に入り込んでいるケイのソウルを私のソウルと入れ替えることはできませんか? 本来は私の体なのだから、それを返してもらうのは当たり前の話だと思うんです。間違っているでしょうか?』


『いいえ、ユウナ様のご要望はごもっともです。しかし、今はケイ様のソウルが体に定着しておりまして、完全にケイ様の体になっております。したがって、ソウル交換はできません』


『え? でも、ミレイ神は私とケイのソウル交換を行って成功させたのよ?』


『いいえ、成功とは言えません。ユウナ様がこの異空間ソウルの中に逃げ込まれたので浮遊ソウルになっておりませんが、もし逃げ込まなかったならば浮遊ソウルになっていた可能性が高いと考えられます。ソウル交換魔法は失敗する可能性が高く、大変危険な魔法なのです』


『つまり、安易にソウル交換魔法を掛けると私かケイが浮遊ソウルになるってことですか?』


『正確に申し上げますと、ソウル交換魔法には完全交換と一時移動がございます。ユウナ様のソウルを元の体に戻して完全交換しようとするのであれば、ケイ様が浮遊ソウルになる可能性が高いということです。そして、それは許されない行為なのです』


『それならソウルの一時移動は? 一時移動するだけなら問題ないでしょ?』


『はい。体とソウルとのリンクを維持したままソウルを一時的に移動することになりますので、安全に行うことができます。しかも、一時移動であればソウル移動に伴う拒絶反応もなくスムーズに移動することができます。しかしその間は相当の魔力を消費することになります。それに加えて〈500〉以上の魔力がないとソウルリンクを維持できません。また、ケイ様の同意も必要になりますから、現時点ではソウルの一時移動は不可能でございます』


 なるほど。サポートプログラムさんは不可能と言うけれど、条件を満たせば可能性があるということよね。こうやってどんどん質問していけば何か方法が見つかるかもしれない。うん、きっと見つかるはずよ。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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