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SGS074 入れ替わりの真相その2

 ―――― ユウ(前エピソードからの続き) ――――


 受精卵を移し終わったと言っていたが、自分の体には何も異常は無い気がする。本当だろうか……。


「厳選した中から私と相性が良い浮遊ソウルを選んだから、間違いなく良い子が生まれてくるわね」


「でもね、姉さん。本当にこの二人のソウルを交換するつもりなの?」


 二人のソウルを交換するって? いったいどういうことなの? 


 私は姉妹の会話に耳を澄ませた。


「ええ、ソウルを交換するしかないのよ。私がこの娘に一生懸命にお願いしても、あれだけ強く反発するのだから。代理出産の母体にこの娘のソウルを使うのは危ないわ」


「姉さん、それはやっぱりダメよ。ソウルの交換は止めるべきだわ。ソウル交換の魔法は失敗することが多いのよ。分かってるの? 危険な魔法なの。それに、この娘が気の毒すぎるわ。目が覚めたら男の体になっていたなんて、あたしなら絶対にイヤだもの」


「アイラ、あなたの言うことは分かるけど、もう受精卵はこの娘のお腹に入れてしまったのよ。それに、この娘にはどういう訳か私の暗示魔法も効かなかったから、方策は尽きたわ。私たちにできる手立てはソウル交換しかないのよ」


「姉さんの得意な暗示魔法がこの娘に効けば、暗示で別の意識を作って代理出産をさせることができたのだけど、何度やってもダメだったものね」


「代りにこの男に暗示魔法を掛けたら一回で成功したのよ。この男のソウルの表面に女性の意識を作れたんだからね。しかも、この男は精子の提供者なのよ。受精卵のお父さんだから、子供とのソウルの相性も抜群なはずよ」


「でもね、姉さん。実の父親なのに、この娘の体にソウルを移し替えられて母親をやらされるなんて、この男性が気の毒すぎるわよ。暗示を掛けられて自分が母親だと思っているとしても……」


「いい加減にしなさい、アイラ。あなたは受精卵の移植は素直に手伝ってくれたのに、ソウルの交換になってからクドクドと文句ばかり言って! あなただって分かっているでしょ。これしか方法が無いのよ。早くしないと私の集中力が切れてくるわ。生体間のソウル交換はただでさえ成功率が低いのだから」


「姉さん、お願い。どうかソウル交換だけは止めて。失敗したらこの娘は浮遊ソウルになってしまうわ。他のことならなんでも手伝うから……」


「うるさいわね! アイラ、あなたは黙って見てればいいわ。あなたがうるさく言えば言うほど失敗する可能性が高くなるのよ。分かったわね!」


「姉さん……」


「黙って! ソウル交換を始めるから」


 やだっ! どうしよう。抵抗するなら今しかないよね。


 私は体を動かそうとした。


 あれっ!? 全然動かない。体がマヒしてるみたいだ。


 呪文が始まった。その呪文を聞いていると、なんだか体が引っ張られる感じがしてきた。いや、体じゃなくて私の魂が何かに引っ張られているのだ。今のままだと体から自分の魂が抜き取られて誰だか知らない男の体に移し込まれてしまう。そんなの絶対にイヤだ。


 どうしよう、どうしよう……。


 あらっ? 引っ張られているのとは違う方向に小さな明かりが見える。


 なんだろう? もしかすると天国の入口かな? 死んじゃうのかな?


 でも、自分の魂が男の体に移し替えられるくらいなら、天国の方がいいわ。


 私は自分を引っ張る流れに逆らいながら、明かりが漏れている窓に近付いていった。窓は丸い形で大きくなったり小さくなったりして不安定な感じだ。ここに入って大丈夫だろうか? でも、勇気を出して入るしかない。


 入ったと思ったとたんに自分がフワッと浮き上がる感じがした。そして、いつの間にか自分が明るくてすごく広い場所に居ることに気が付いた。


 ここはどこだろう? 天国なの? でも、何も無いし誰もいない。


 そして私は重大なことに気が付いた。自分には手も足も体も無い。もしかすると私は魂だけになって、自分の体から離れて、どこか違うところに来てしまったのかもしれない。体は無いが目は見えている。音はしないが耳も聞こえている気がする。不思議だが、魂にはそういう働きがあるのだろうか。


 自分の体はどこだろう? どうなったのだろう? 考えていると、どこからか声が聞こえてきた。


「アイラ、終わったわ」


「え? 姉さん、ソウル交換は終わったの? こっちの男の体の方にはソウルの反応が無いわよ。あの娘のソウルがちゃんと移せてないんじゃないの?」


「魔法の途中でね、あの娘のソウルが消えてしまったのよ。たぶん、入替の途中で外に解放されてしまったのね。あの娘に運が無かったのよ。ソウル交換魔法の成功率は低いのだから、仕方ないわよ」


「よくまぁ、そんなことが平然と言えるわね。あの娘を浮遊ソウルにしちゃったのよ! 姉さんがあの娘を殺したようなものよ!」


「アイラ、人族の一人が浮遊ソウルになったくらい、たいしたことじゃないわよ。そんなことよりも、これで私の血を引いた子供が生まれる可能性が高まったのよ。2年後の出産が楽しみね。生まれた子供が立派な神族になれば第一夫人のジルダ神様に勝てるわ」


「あの娘が可哀そう……。こんなことになるなら手伝いにくるんじゃなかったわ……。それに、こんな無理をして代理出産で子供が産まれてきたとしても、その子が神族になるかどうか分からないでしょ?」


「アイラ、あなたも心配症ね。神族の卵子から生まれる子供は必ず神族になるから大丈夫よ。心配なら10か月後にどうなるか見ていればいいのよ。普通の人族の子供であれば10か月後に産まれるはずだし、神族であれば2年後に産まれるのだから。神族かどうかは嫌でも分かるわ」


「そうね……。でも、まだ問題はあるわよ。妊娠中の2年間と子育てをする間、この娘をどこかに住まわせないといけないわね。姉さんのダンナ様や第一夫人に見つからないようにしないといけないのよね? どうするつもりなの?」


「そんなことはもう考えてるわよ。レング神様やジルダ神様に見つからないように、レングランの街で普通の人族として生活させるつもりよ」


「よく知らないから聞くけど、妊娠期間中にはお腹が大きくなるから周りから2年間も生まれないと変な目で見られるわよ?」


「大丈夫よ。神族の女性が妊娠したときはお腹が大きくなるのは2年目だけらしいの。だから人族と一緒に暮らしても妊婦として見られるのは2年目だけよ」


「結婚する相手や住む家はどうするの?」


「それも用意してあるわ。レング神様やジルダ神様に気付かれないように手配したから大丈夫よ」


「でもね、姉さん。これが一番大きな問題だけど、子供のことをレング神様やジルダ神様にずっと内緒にしておくことはできないわよ。姉さんの狙いはレング神様の跡継ぎを産んで、レング神一族を自分が牛耳ることでしょ? もしそうなら、いつかは子供のことをレング神様やジルダ神様に説明しなきゃいけないわよ。しかも、その子のことをレング神様の子供だって言うつもりなんでしょ?」


「もちろんよ。その説明も考えてあるわ。一番肝心なことだからね」


「どう言って、その子のことをレング神様の子供だと説明するのよ?」


「ふふふ、そんなウソは言わないわ。ありのままを話すつもりよ。異世界から男と女を召喚して来て、その男の精子を使って私の卵子に人工授精したってね。召喚してきた女に代理出産させて、内緒で育てたこともちゃんと話すわ」


「ええっ!? そんなことを話したら、大変なことになるわよ?」


「大丈夫よ。異世界の男の精子を使って人工授精したのはレング神様の精子が弱くて千年以上も子供が生まれなかったから仕方なくやったことだし、内緒で代理出産をさせて子供を育てたのはジルダ神様にその子を殺されるのを防ぐためにやったことだもの。何もかもレング神一族の跡継ぎを作るためよ。もし責められるとしたら、それは私じゃなくてジルダ神様よ。すべての元凶はジルダ神様が嫉妬して、ナナニ神のお腹の子を殺したことが原因だもの」


「でも、でも……。ジルダ神様が第三夫人の……、ナナニ神様のお腹の子を殺したのなら、今度も同じことをするかもしれないわよ。姉さんが子供のことを告白したら、その子は密かに殺されてしまう可能性が高いのよ?」


「そんなことは絶対にさせないわ。昔ね、ナナニ神の妊娠が分かったときに、ジルダ神様はナナニ神にお腹の子を堕ろすように命じたの。ナナニ神は泣きながらその命令に従ったけれど、私は違うわよ。子供が殺されないように、私が必ず子供を守るからね」


「ジルダ神様と戦うってこと? いくら姉さんでも、ジルダ神様には勝てないわよ?」


「戦ったりしないわよ。神族の戒律に違反するもの。私が自分の子供を守るのも、その戒律を上手く使って、子供が殺されないようにするつもりよ」


「神族の戒律って……。神族は、他の神族やその使徒を攻撃してはならないっていう、あの戒律のこと?」


「そうよ。レング神様やジルダ神様に子供のことを打ち明けるときは、それと同時に、子供の存在を他の神族にも大々的に公表するつもりよ。そうすればジルダ神様も子供を殺したりできなくなるから」


「ああ、そういうことね。レング神様とジルダ神様だけに打ち明けたなら、その直後に密かに殺されるかもしれないけれど、大々的に公表していればジルダ神様も子供を殺すことなんてできないものね」


「そういうこと。それにね、レング神様たちに子供のことを打ち明けるのは子供が生まれてから20年以上経ってからにしようと思っているの。そのときは子供も20歳を超えているから魔力も〈1000〉になっているだろうし、使徒たちも大勢いるはずよ。その子はレング神一族の跡継ぎになる可能性が高いし、一人前の大人として私の味方をしてくれるだろうから、レング神一族の中で私はジルダ神様の権勢に負けないくらいの力を持てるはずよ」


「でもね、姉さん。その目論見が上手くいかなくて、レング神一族から追い出されるかもしれないわよ?」


「そんな心配は要らないわよ。今回のことは間違いなく成功するから。でも万一追い出されたら、そのときはアイラ、あなたを頼らせてもらうかもしれないわ。アイラが支配しているカイエン共和国はあなた一人で大変なんでしょ?」


「そりゃ、カイエン共和国の神族はあたし一人だから、姉さんや姉さんの子供が来て手伝ってくれたら助かるけど……」


「でしょ。そのときはよろしくね」


「相変わらずね、姉さん」


「私は自分が良いと思ったことをやってるだけよ」


「奔放なんだから……」


 呆れるほど身勝手な話が続いている。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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