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SGS073 入れ替わりの真相その1

 ―――― ユウ(前エピソードからの続き) ――――


 女性だと思っていた相手から「私の子供を産んで」と言われたら誰でも驚いて混乱するだろう。私もその言葉で唖然としてしまった。


 これは間違いなくドッキリ番組の収録よね。突拍子もないことを言って、私を驚かそうとしているだけだろう。


 だけど、いくらなんでもこんなトンデモナイことを言いだすのはちょっと変だ。もしかしたら本当に私を犯そうとしているのかもしれない。


「あ……あの、あなたは男なの?」


「何を言ってるの? 私は見てのとおり女性よ」


「姉さん、この娘は勘違いしてるわよ。代理出産をしてほしいって、ちゃんと言わないと」


 ああ、なるほど。そういう意味だったのね。この二人は姉妹で、私に姉の方の代理出産をさせようとしているってことらしい。話の展開が私の想像を遥かに越えてるのだけど……。ドッキリにしては話が複雑すぎるのよ。


「ごめんなさい。勘違いさせちゃったわね。妹が言ったとおりよ。あなたに私の代理出産をお願いしたいの。これから私の卵子を使って人工授精を行う予定よ。その受精卵をあなたのお腹に入れるから、私の代りに子供を産んでくれる?」


 姉の方が平然とした顔で言った。トンデモナイ頼み事なのに「消しゴム忘れたから貸してくれる?」くらいの軽いノリだ。


 その後、妹の方が申し訳なさそうにしながら色々と事情を説明してくれた。神族がどうとかこうとか言っていたが、私にはさっぱり分からなかった。妊娠期間が2年とかあり得ないもの。


 でも、話を聞いているうちに、これはドッキリ番組ではなくて本当の話らしいことが分かってきた。だって、彼女たちの話し言葉は私が知らない言語なのに、それを理解できるって、どう考えてもおかしいもの。


「ええと、一つ教えてください。どうして私はお二人の言葉が理解できたり、自分でも同じ言葉を話せるようになったのでしょうか?」


「それは私が知育魔法を使ってウィンキアの共通言語と一般知識をあなたのソウルと頭脳に植え付けたからよ。ウィンキアでは人族だけでなく亜人や魔族も共通の言葉を使うの。だから、あなたがウィンキアで生きていくときに言葉や常識で困ることはないわよ」


 唖然とした。これは現実なの? ここは地球ではなくて、どこか知らない世界なの? この二人は私のお腹に本気で卵子を移植しようとしてるの?


「いやっ! いやですっ! ぜったいに、イヤですっ!」


 私はパニックになって叫んでしまった。二人は顔を見合せながら何かを話しているようだが、私には理解できない。分かりたくもなかった。


 姉が私の方に顔を向けた。口角を少し上げているのは、パニクっている私のことを呆れているのだろうか。それとも嘲っているのだろうか。


「少し落ち着きなさい。あなたが拒否をしても、私たちにはあなたしかいないのよ。世界中を探したのだけど、私の赤ちゃんを産める体を持っているのは、ユウナさん、あなただけだったの。ウィンキアの世界を全部探してみたけれど、代理出産の適合者を見つけることはできなかったのよ。それで一旦は移植を諦めようと思ったんだけどね。そのときに思い付いたの。異世界を探せば私の魔力特性と適合する者がいるんじゃないかってね。召喚魔法を使ってみたら、運よくあなたを見つけたの。あなたの魔力特性は私と同じなのよ。私の受精卵を移植したら、あなたはちゃんと体の中でその子を育てられるの。安全に出産できるのよ」


 この女は何を訳の分からないことを言ってるのだろう。自分勝手なことばかり。


「そんなの、自分で産めばいいじゃない!」


 私の言葉を受けて姉妹は顔を見合わせた。二人とも悲しそうな顔をしている。


 姉の方がこちらを向いて口を開いた。


「私たち神族の女性が受精できるのは数百年に一度くらいなの。排卵は数年か十数年に一度で不定期だし、神族の男性の精子は活力が弱いからほとんど受精しないのよ。稀に受精してもほとんどが流れてしまうの。それに、仮に私が受精できたとしても、それが第一夫人に知れたら間違いなくお腹の赤ちゃんは殺されてしまうわ」


「姉が勝手なことを言ってごめんなさい。でも、少しだけ説明させて……。姉は第二夫人なの。第一夫人は恐ろしい人で自分の権力を守るためには何でもする人なのよ。一族には子供がいないから、姉に子供ができたことを第一夫人が知ったら、たぶん、生まれる前にその子はお腹の中で殺されるわ。過去にも第一夫人は同じことをしたのよ。第三夫人の妊娠が分かったときにね」


 妹が補足する。そんなことはどうでもいい。あなたたちの事情でしょ!


「だからと言って、関係のない私たちを引きずり込まないでください。仮にその話が本当だとしたら、人工受精をしても成功しないわよ。もし人工受精に成功して、私のお腹に受精卵を移植したとしても流産してしまうのは一緒でしょ」


「いいえ、それが違うのよ。母体はあなたの体を使わせてもらうし、精子もあなたの世界の男性のものを使うから大丈夫なのよ。あなたの世界の生命体やソウルは、このウィンキアのものよりずっと安定していて丈夫なの。だから確実に受精するし、流産せずに安全に出産できるはずよ」


 姉の方が私の顔を覗き込みながら説明をしている。懸命に私を説得しようとしているのは分かるが、だからと言ってイヤなものは絶対にイヤだ。


 私が嫌がっていることが分かったのだろう。姉の方がさらに言葉を続けた。


「それにね、精子はあなたの恋人のものを使ってあげる。恋人の精子で受精させて、あなたのお腹に入れるの。だから、あなたもお腹の赤ちゃんを育てがいがあるでしょ?」


 開いた口が塞がらなかった。なんて身勝手なことを言うんだろう。


「ぜったいにイヤです! 代理出産もイヤだし、あなたの卵子に大輝の精子を使うなんてもっと許せない。大輝の精子は私だけのものよっ!」


 あまりの怒りに恥ずかしい言葉を口走ってしまった。思わず顔が赤らんだ。


 私の強い口調に驚いたのか、二人は顔を見合わせて黙ったままだ。しばらくして姉の方が口を開いた。


「妊娠を成功させるためには、私の受精卵と母体となるあなたの体が絶対に必要なの。それともう一つ。母体には受精卵を受け入れて育ててくれる従順なソウルが欠かせないのよ。私が一生懸命にあなたへ説明しているのはそういう理由です。もう一度聞くけど、ユウナさん、あなたは代理出産をしてくれるの?」


「いやです! 断固としてお断りします」


 私はきっぱりと言い切った。私の拒絶の言葉を聞いて、妹のほうが困惑顔で話しかけてきた。


「でも、ユウナさん。あたしたちがムリなお願いをしているのは分かっているけど、あなたしかいないの。ここであなたに断られると、姉が何をするか……」


 そのとき姉のほうが何かの呪文を唱えているのに気が付いた。抵抗する間もなく一瞬で意識が薄れていった。


 ………………


 何やら呪文が聞こえる。私の意識が戻ったのは、その声に込められた気迫のせいだろう。でも、何をされるのか分からないから気を失った振りを続けよう。だけど、いざとなったら暴れて抵抗してやる。そうすれば卵子の移植などできないはずだ。


 ずっと呪文が続いていたが、ようやく終わったみたいだ。


「姉さんが用意していた浮遊ソウルを受精卵としっかり結合させることもできたし、その受精卵をこの娘の体へ無事に移し終えることもできたわ。今のところすべて順調よ」


 ええっ!? 受精卵を移し終わったって?


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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