SGS072 ユウの身の上話
コタローからスキルの説明を受けているが、なんだか難しい。ユウはスキルのことを理解するのはまだ早いと言ってるが、オレはもう少しスキルについて知りたい。なんと言っても、スキルの取得ってのは男のロマンだ。
手っ取り早くスキルを何か登録してみれば、もっと理解が早まるかもしれない。
『スキルのことは、ちょっとだけ分かったと思う。これから必要になるだろうから、何かのスキルを試しに登録してみたいんだけど、どうすりゃいいの?』
『ケイ、甘いにゃ。さっきも言ったけどにゃ、スキルの登録はそんなに簡単ではにゃいのだわん。初めてスキルを登録しようとするだけでもにゃ、毎日5時間ずつ必死に訓練して1カ月くらい掛かるのだわん。1個目は1カ月だけどにゃ、2個目は3カ月、3個目は半年というようにだにゃ、登録するスキルの数が増えていくほど登録が成功するまでに時間が掛かるのだわん。スキルを10個も登録しようとしたらにゃ、訓練を毎日続けたとしても30年くらい掛かるのだぞう』
『えっ、スキル登録ってそんなに時間が掛かるの!? それならスキルを持ってる人は少ないんだろうね』
『そうだにゃぁ。スキルの数は神族や使徒で10個から20個くらいだろうにゃ。普通の人族なら大半の者はスキルを持ってにゃくて、ロードナイトや技を極めた職人が1個から5個くらい持ってるかもしれないにゃあ』
『神族や使徒の方がスキルの登録数が多いのはどうして?』
『それは神族や使徒は数百年から数千年生きているからにゃ。それににゃ、神族や使徒は普通の人族よりもスキル登録の難易度が少し低いらしいぞう』
『ふーん……』
スキルのことを聞き始めるとなんだかキリが無さそうだ。
『スキルの詳しいことは後で色々教えてもらうとして、それよりも今は着る物を早く作ってしまおう』
………………
よし、これでオッケー。下着やソックス、ブーツ、それと小物を入れる袋、毛布も作った。デザインは個性的だが、サイズや肌触り、耐久性などは問題なさそうだ。ラウラとオレの分を作り上げた。
「ラウラ、着てみて」
オレたちが今まで着ていたのはゴブリン仕様のブラと腰巻だけだった。それよりは今作ったワンピや下着を身に着ける方がずっと良い。良いに決まってる……。
ラウラは嫌がりもせず下着とワンピに着替えた。
「わーっ! 可愛いね」
思わず声を上げてしまった。この虎柄ワンピは左右がアンバランスで変なデザインだと思っていたが、ラウラが着たらすごく似合っているのだ。パンツとブラのサイズをクラフト魔法で微調整して、ワンピもラウラの体形にフィットさせた。身動きがし易いように膝上20セラの超ミニにする。合わせてソックスとブーツもラウラのサイズに調整した。
「見た目よりも着心地は良いし、暖かいわね」
ラウラも気に入ってくれたようだ。
今度は自分の分を調整した。
「ケイ、すっごく似合ってるわよ。この姿を見たら男たちがうるさいかもしれないわね」
それは困るけど……。
コタローが言うには、一回作り上げたオリジナル作品があれば、コピーするのは複製魔法ですぐにできるらしい。そう言われてすぐにやってみた。複製魔法は神族だけが使える異空間ソウルの固有魔法だそうだ。たしかに一瞬でコピーが出来上がった。とりあえず予備は一つずつあれば良いだろう。
次は風呂だ。2モラ四方のバスタブに魔法でお湯を入れた。考えてみると、ウィンキアに来てからは蒸し風呂だけだった。ラウラに聞くと、バスタブのある風呂を持っているのは貴族か王族くらいだそうだ。
「これで準備できたから、お風呂に入るよー」
そう言いながらワンピを持ち上げて脱ごうとしたところでオレは固まった。
ちょっと待て。ラウラと一緒に風呂に入って大丈夫だろうか。例の病気が出たら、オレは自分の体をコントロールできなくなってしまう。もしそうなったら、この場所でも危険だ。隠れ家に居ても妖魔や魔獣が襲ってくるかもしれない。
「ラウラ、先にお風呂に入って。わたしは後で入るから」
ちょっと残念だが、仕方ない。
ラウラはブラに手を掛けて外そうとしていたが、不思議そうな顔でオレを見た。
「ええと、ほら、ラウラの裸を見て例の病気が出たら、今は困るから……」
「あ、そうね。それなら先に入らせてもらうね」
ラウラは裸になって少し大きめのお尻を振りながら風呂に入っていった。その後ろ姿をちらっと見ただけで気を失いそうなんですけど……。
………………
時間ができた。今ならユウと落ち着いて話ができるだろう。
『ユウ、話を聞かせてもらえる? あなたが誰なのか教えてほしいんだけど』
『私は……、あなたが入っている体の持ち主よ』
「えーーーーっ!!」
オレは思わず叫び声を上げてしまった。
この体の持ち主がユウだって? 本当なのか?
ラウラが裸のまま風呂から飛び出してきた。オレの声を聞いてビックリしたのだろう。
「ケイ、どうしたの? 叫び声が聞こえたけど」
真っ裸のラウラの体がまぶしい。
「ラウラ、とにかく先に何か着てくれる?」
「あっ、ごめんなさい」
ラウラは顔を赤らめながらブラとワンピを身に着けた。ユウと話を続けたいが、ラウラを外して話をするのはマズイだろう。どんな話が飛び出してくるのか分からないが、ラウラを念話に加えた。
『この体のことだけど……』
オレは自分自身を指さして話を続けた。
『ユウがこの体の持ち主なんだって。今、その話を聞いてビックリしたとこ』
ラウラも驚いて口をポッカリ開けている。
『え……? それって、どういう意味なの?』
『ラウラさん、意味が分からないよね? どうして体が入れ替わることになったのか、今からその話をしようと思うの。ケイと一緒に聞いてくれる?』
それから始まったユウの身の上話はオレの想像を越えるトンデモナイ話だった。
――――――― ユウ ―――――――
話は5年前に遡る。そのとき、私は大輝と一緒にバスに乗っていた。
私は笹木優羽奈、高校3年生。彼は夏川大輝、大学2年生。私の二つ先輩で恋人だった。そういう関係になって3年近くになる。家族のように大切な人、私のすべてを許した人になっていた。
その日。私の大学合格が決まり、彼と一緒に映画を見てその帰りだった。バスの座席に並んで座って何か話をしていた。突然、凄いブレーキ音がして、私たちの体が宙に浮いて何かに引っ張られる感じがした。大輝が私の左手をぎゅっと掴んでくれたところまでは覚えているけど、そこから先の記憶はない。たぶん気を失ってしまったのだと思う。
………………
気が付くと大輝が隣に寝ていた。彼は眠ったまま私の左手を掴んでいる。頭がぼんやりして最初は何があったのか分からなかった。でも、繋いだままの左手を見てバスの中の出来事を思い出した。
「大輝、起きて。ねぇ、大輝……」
私は寝ている大輝を起こそうとしたが、彼は目覚めない。胸がゆっくりと上下に動いているから眠っているだけのようだ。
ここは、どこ?
部屋の中だ。かなり広い。私は体を起こした。
周りには大勢の人たちがいて、絨毯敷きの床に寝かされていた。三十人くらいいるだろうか。たぶんバスに一緒に乗っていた乗客たちだろう。事故があって病院かどこかに運び込まれたのかな?
どうやら目覚めているのは私だけのようだ。この部屋は体育館くらいの広さがあるが、不思議なことに窓が無い。でも、天井一面が柔らかい光で満たされていて、部屋の中は明るい感じだった。
どこかの扉が開いて、女の人が二人入ってきた。二人とも煌びやかなワンピースを着ている。ひとりが私に何か話しかけてきたが、何を言っているのか全然分からない。英語でもないし、今までに聞いたことがない言葉だ。顔立ちは日本人とよく似ているが、日本語を話せないということは外人なのだろう。二人とも凄い美人だ。意味が分からない言葉を聞いているうちに、急に眠くなって私は目を閉じた。
………………
次に目覚めたときも同じ場所に寝かされていた。大輝やほかの人たちも眠ったままのようだ。私のそばにさっきの女性たちがいた。
「ユウナさん、気が付いたわね」
あれ? 今度は言葉が分かる。日本語ではないのに、どうして言葉が分かるようになったのだろう……。それに、この人たちはナゼか私の名前を知っている。
「ここはウィンキアという世界よ。あなたが住んでいたところとは別の世界なの。私があなたを魔法で召喚したのよ」
えっ!? その話に驚いた。でも、そんな現実離れしたことが起こるわけがない。これはきっと質の悪いドッキリ番組だ。どこのテレビ局だろうか?
「えーーーっ! 困ります。早く元の世界に戻してください」
私は驚いた表情を装って周りを見た。ドッキリに引っ掛かった振りをしてあげよう。カメラはどこ? 隠し撮りをされているはずよね。
「悪いけど、元の世界に戻す方法は無いのよ。一方通行なの。帰すことはできないけれど、あなたには素晴らしいものをプレゼントするわ。この世界での永遠の命と最高の魔法技能よ。素敵でしょ?」
本当に質の悪い番組だ。まるでお伽噺だもの。でも、引っ掛かった振りを続けるしかないかな。番組を面白くするために……。
「本当に永遠の命と最高の魔法技能をいただけるんですか?」
「そうよ。その代わりに、私の願いを一つ叶えることが条件よ」
あはっ。なに? この陳腐なシナリオは。
「条件ってなんでしょう?」
「私の子供を産んでちょうだい」
「……」
驚きで声が出ない。目の前にいる女性は、実は女ではなく男だったの? そして、私を犯そうとしているの?
※ 現在のケイの魔力〈240〉。
※ 現在のラウラの魔力〈50〉。




