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SGS071 ゲームみたいにスキルがあるらしい

 オークたちと戦った場所から1ギモラくらい進んだ。川を挟んで反対側の断崖絶壁に落差20モラくらいの滝があった。断崖の岩壁に幅5モラくらいの洞窟が開いていて、そこから水が轟々と流れ落ちている。


『隠れ家の場所はこの近くにしようよ。滝が目印になって分かりやすいから』


 オレはラウラと一緒に森の中へ入っていった。この辺りの樹も高さが80モラくらいで、その幹の太さは直径10モラくらいある。まっすぐ天井に向かって伸びている。どの樹も根元には洞が空いていた。


 ラウラは浮遊魔法を使えないから隠れ家の出入り口は樹の高い位置には作れない。樹の洞を利用するしかなさそうだ。どの樹にも洞があるが、最終的にオレが選んだのは空洞の開口部が森側にあって奥行きが深い樹だ。


 「木工」のクラフト魔法を使って、その空洞の奥から少し斜め上に傾斜を付けて樹の内部を刳り抜いて通路を作った。水が万一溢れてきた場合にも浸水を防ぐためだ。この作業が一瞬でできるのだからクラフト魔法はすごい。


 今度はその一番奥から斜め下方向に階段を付けながらクラフト魔法の「木工」と「土工」を使って掘り進んでいった。コタローが言うには、掘削魔法でも同じように地面に穴を掘ることができるが、その工事に掛かる時間も出来栄えも格段にクラフト魔法の方が上らしい。


 掘り起こした土はすべて固めて壁面の強化剤として使っている。石造りの壁と同じで崩れることはない。このクラフト魔法はそういう機能が組み込まれた便利な魔法なのだ。


 地下15モラくらいまで途中に2カ所の踊り場を設けて幅2モラの階段を作った。ここまで掛かった時間は5分くらいだ。オッケー。これなら思い描いているような隠れ家は簡単に作れそうだ。よし、ここに部屋を作ろう。


 作ったのは台所兼リビングと寝室、倉庫、冷凍庫、作業室、トイレ、風呂場だ。それと貯水タンクと下水用の浄化槽も設けた。ちなみに、貯水タンクの水は魔法で作った飲料水だ。


 台所の流し台は陶器魔法で作り、貯水タンクから水を引いた。パイプやコックも強化した陶器製だ。風呂場には大きなバスタブを設置した。その隣に水と湯を溜めておくタンクも設けた。これもすべて陶器で作った。お湯は水を魔法で加熱して温める。もちろんシャワーも付けた。トイレは手動の洋式水洗で、コックを捻れば水圧で水が浄化槽に流れていく仕組みだ。


 最後に、樹を刳り抜いたときにできた木材を使って「木工」の魔法でテーブルや椅子、それとベッドと戸棚を作った。階段には手すりを付けて、入口には「土工」の魔法で石の扉を取り付けた。これで隠れ家は一応完成だ。ここまで作り上げるのに2時間ちょっと掛かった。クラフト魔法はすごく便利だ。コタロー、ありがとう。


 隠れ家が完成したので、その後は荷物の整理をした。冷凍した虎の肉やオークから没収した食材はすべて冷凍庫に運び入れた。冷凍庫は魔法で部屋全体を凍らせたから当分の間は大丈夫だろう。キャンプ道具の中から鍋や食器、調味料を取り出して台所に並べた。これで完了だ。


「ケイ、あなたの魔法が凄いことは分かっていたけど、ここまで凄いと声も出ないわ」


 オレが魔法で隠れ家を作っている間、ラウラは呆気に取られながら眺めていたのだ。


「うん、自分でも驚いてる。でも、そんなことより、今はお腹が空いて死にそうだよ」


 とにかく早く隠れ家で飯にしよう。闇国に来てから6時間以上が経っている。考えてみれば、オレは昨日の朝から何も口にしていない……。


 ………………


「やっと落ち着いたね」


 ラウラが満足そうに言う。オレたちは「調理」のクラフト魔法で虎の肉をステーキにして塩を掛けて食べ終わったところだ。天井近くには照明魔法の灯りが浮かんでいて、10モラ四方の台所兼リビングを隈なく照らしている。


「うん。お腹一杯になったから、次は風呂だね」


 そう言いながらラウラの姿を見て、着替えが無いことに気が付いた。今のオレたちは二人とも薄汚れたブラと腰巻だけのゴブリンスタイルだ。


「風呂に入る前に着替えが欲しいよね。それと毛布も」


『それならクラフト魔法で作ったらどうかにゃ?』


 そっか。クラフト魔法の「縫製」で作ればいいんだ。即実践しよう。


 まず、ワンピースを作ってみた。材料は虎の皮だ。


 ラウラは目の前に現れるワンピに目を丸くしていた。何が凄いかって、魔法でワンピが縫製されていく様子にも驚いていたが、それよりも完成したワンピの個性的なこと! 作ったオレ自身が驚いている。なんて表現したらいいんだろうか。幼稚園児がクレヨンで画用紙に描いたトラ柄のワンピース!


「コタロっ! こ、これはなにっ!?」


『それはケイが不器用なのだわん。前にも教えたけどにゃ、クラフト魔法では術者のセンスや技能がそのまま反映されて物が作られるんだぞう』


 たしかにコタローからそんな話を聞いていた。クラフト魔法ではデザイン性や品質は術者のセンスや技能に左右されると。でも、機能性は異空間ソウルの変換器を使うので保証されるらしい。つまり、オレがクラフト魔法で作ったワンピはデザイン性は皆無で縫製の品質などは最悪だが、頭と両腕、両足を出す穴が空いていて、服として着ることはできる……。そういうことだ。


「うっ……」


 自分が作ったワンピだが、そのあまりのユニークさに言葉が出てこない。


『質が高いものを作りたいのにゃら、もっと自分の技を磨いてスキルに登録すれば良いのだわん。スキルを使えば縫製の質や丈夫さはずっと良くなるのだぞう。デザインを良くすることはできにゃいけどにゃ』


『スキルって?』


『異空間ソウルやソウルオーブには術者の技をアシストする機能があるのだわん。それをこの世界ではスキルと呼んでるのだぞう。だからにゃ、スキルを使えばケイの動きがアシストされて、技のスピードや精度がグンとアップするのだわん』


『え? 何を言ってるのか全然分からないけど、要はそのスキルを使えば、もっと品質が高いワンピが作れるってこと? しかも素早く作れるって?』


『そういうことだにゃ。スキルを使うのはワンピースを作るときだけじゃにゃいのだ。スキルには剣のスキルとか魔法のスキルとか色々なスキルがあるのだわん。技が必要になる動作にゃら何でも異空間ソウルやソウルオーブにスキルとして登録できるんだぞう。スキルとして登録しておけばにゃ、異空間ソウルやソウルオーブがその技をアシストしてくれるのだわん。スキルや魔力が高いほどスキルを使ったときにスピードや精度、成功率が高まるからにゃ。どんどんスキルを登録して、スキルを高めておくことが大切なのだわん』


 うー……、やっぱりコタローの説明は分からない。でも、スキルというのが大切だと言ってるから聞いておこう。


『よく分からないんだけど……。どうやってスキルを登録するのか、ちゃんと説明してほしいんだけど』


『スキルの登録方法はにゃ、スキル登録の魔法を使って自分が身に付けている技をスキルとして登録するのが普通の方法だわん。スキル複写の魔法を使って死んだ人からスキルを複写する方法もあるけどにゃ、その方法が使えるのはその人が死んだ直後だけなのだわん』


『なんか漠然としていて分からないんだけど……。とにかくスキルを登録すれば、凄い技がばんばん使えるようになるってことだよね?』


『ばんばんかどうかは分からないけどにゃ。スキルを登録できたとしてもにゃ、そのときのスキルは低いからにゃ。スキルを高めることが必要だぞう』


『どうやって?』


『スキルを高めるための方法は二つあるんだわん。一つは訓練や実戦をどんどんやって自分自身の技の習熟度を高めることだにゃ。もう一つはスキルの登録数を増やすことだわん。登録したスキルの数が多いほどスキルは高まるのだぞう』


 うーん、分からない。


『習熟度を高めたらスキルが高まるのは当たり前だから分かるけど、スキルの登録数を増やせばスキルが高まるっていうのが分からない。どうして?』


『異空間ソウルもソウルオーブもそういう仕様になっているとしか言えないにゃあ。スキルの登録は簡単にはできないからにゃ。頑張ってスキルの登録数を増やした人にはご褒美をあげようという天の神様のご慈悲かもしれないわん』


 スキルの話は聞けば聞くほど分からなくなる。


『じゃあ、わたしが仮にスキルを登録したとすれば、何ができるようになるって? 分かるようにもう一回説明してよ』


『例えばだにゃ――、魔法の火砲で使う“乱れ撃ち”という技をケイが自分のスキルとして登録したとするにゃ。実戦の中で、ケイが“乱れ撃ち”のスキルを発動すればだにゃ、登録された手順を参考にしながら異空間ソウルのスキル制御機能が魔力を使ってケイの体の動作や魔法をアシストしてくれるのだわん。そうするとだにゃ、敵が大勢いても何発もの火砲が速射されて、敵一人ひとりに正確に飛んで行って命中させることができる、というようなことだにゃ』


『それ、すごいじゃん! ねぇ、コタロー。すぐにその“乱れ撃ち”を登録してよ』


『オイラ、そんな技は知らにゃいわん。今のは頭の悪いケイに分かりやすく説明するための例え話なんだにゃ。それににゃ、技を登録するのはオイラじゃダメなんだぞう。ケイ自身が頑張らにゃいと登録できないのだわん。ケイがその技の訓練を毎日続けてにゃ、自分でスキル登録の呪文を唱えることが必要なのだわん』


 なんだ、そういうことか。それにしても、この犬、オレのことを頭が悪いとかって、言いにくいことをハッキリ言うなぁ。


『コタロー、ケイに失礼よ! 頭が悪いとか、そういう人を傷付けるようなことを言ってはダメなの。頭が悪いと思ったとしても、それは口に出さずに、心の中にしまっておきなさい』


 ユウが注意してくれたが、オレは余計に傷付いた気がする。


『オイラはケイを発奮させようとしただけだわん。それににゃ、ユウもスキルのことは理解してにゃいと思うぞう』


『え、そうなの?』


 オレはユウに問いかけた。


『わ、私のことはどうでもいいのよ。それより、ケイは言ってみればまだ初心者なんだからね。スキルのことを理解するなんて、まだ早いのよ。このウィンキアにはゲームみたいにスキルという機能があるらしいって、今はそれくらいの理解で十分なの。それをコタローが訳の分からない細かいことをタラタラ説明して、おまけにケイに頭が悪いとか言うから、話がややこしくなるのよ。コタロー、反省しなさい!』


 ユウの言葉にオレはまたちょっと落ち込んだ。でも、ユウも「訳が分からない細かいこと」と言ってるから、オレと同じで、スキルについてはほとんど理解していないようだ。なぁんだ、そうなのか。オレはちょっと安心した。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。

 ※ 現在のラウラの魔力〈50〉。


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