SGS070 ラウラがロードナイトになる
オークロードが振り回した短剣でオレのバリアは予想外のダメージを被った。 棍棒よりも短剣のほうが攻撃力が高いみたいだ。短剣には何かの付呪が付いているのかもしれない。
オークロードは棍棒を振りかざしてオレに向かって投げつけてきた。とっさにそれをかわす。その隙を狙って短剣を打ち込んできた。素早い動きをするオレに対しては重い棍棒よりも軽い短剣のほうが効果的だとオークロードは気付いたようだ。
短剣で打ち込んでくる回数が棍棒の3倍くらいに増えている。オレはそのすべてを右手の魔力剣で弾き返して、左手で相手の足元にバリア破壊魔法を撃ち込んだ。
「パリン」という音とともにオークロードのバリアが消えた。
ヤツもそれに気付いたのだろう。必死で短剣を打ち込んでくる。だが、こうなったら抵抗しても無駄だ。オレは左手で電撃マヒの魔法を撃ち込んで、相手をマヒさせた。ヤツは崩れ落ちた。念のために魔法で眠らせた。これでオークロードは確保できた。
残りは虎の解体現場にいるオーク四頭だ。全員が今の戦いを見ていたが、オークロードが負けたのを見て一斉に森へ逃げ込んでいった。
森の中は下草や藪が生い茂っていて捕まえるには手間がかかる。オレは面倒になって、すぐに追跡を諦めた。
ラウラのところへ戻ろう。心配してるだろうな。
浮遊魔法で樹の枝に飛び上がると、ラウラが抱きついてきた。
「ケイ……、しんぱいで……、しんぱいで……。死にそうだったのよ……」
泣きながらオレに頬を寄せてくる。
可愛いな。思わずギュッと抱きしめた。
「ごめん、心配を掛けて。でも、もう大丈夫だから」
オレはラウラにオークロードを眠らせたことと、ラウラが止めを刺せばロードナイトになれることを話した。
『ケイ、ラウラさんに急いでもらって。さっき逃げていったオークたちが仲間を連れて戻ってくるかもしれないし、血の匂いで魔物たちも寄ってくるから』
ラウラを急かしてオークロードのところに連れてきた。近くに倒れているオークたちの持ち物を調べて、持っていたソウルオーブを集めた。
妖魔や魔獣のソウルをソウルオーブに封じ込めるには契約魔法が必要となる。ラウラはその魔法は知らないと言うので、その魔法をコタローに教わった。
『ええと、これで準備はできたから、あとはラウラがオークロードに止めを刺すだけだよ』
『でも、武器はどうするの?』
そうだった。オレなら魔力剣があるからすぐにオークロードを殺せるが、ラウラは武器を持っていない。オークたちが使っていた棍棒や剣が周りに転がっている。だが、オークの棍棒や剣は重くてラウラは使いこなせないだろう。
あっ、そうだ! オークロードが使っていた短剣があったはず。
捜すと横たわっているオークロードの下敷きになっていた。壊れてはいないようだ。短剣だと思っていたが、それはオークロードが持っていたから小さく見えただけで、拾い上げると長さ70セラくらいの普通の剣だった。鞘もオークロードがぶら下げていたので没収した。
『この剣は電撃魔法〈100〉が付呪されている魔具だわん。この剣で攻撃するとにゃ、魔力〈100〉の電撃魔法で相手に追加ダメージを与えることができる優れ物なのだわん。この剣にはソウルオーブが20個使われてるにゃ。それだけの価値がある剣なのだぞう』
なんとっ! ソウルオーブが20個というと日本円に換算したら4千万円だ。でも、ともかく今はこの剣しか無いのだから、これを使って止めを刺すしかない。
ちょっと戸惑いながらラウラに剣を渡すと、ラウラはほほ笑んだ。
『ケイ、そんな心配そうな顔をしないで。これでも、あたしはこの15年ずっと魔物や魔族と戦って殺してきたんだからね』
そうだった。オレよりもラウラのほうがずっと実戦経験は長いし、ハンターとしての技量は抜群だったと聞いてる。
ラウラはなんの躊躇いもなく剣をオークロードの心臓に突き入れた。
『オークロードは死んだにゃ。次はロードオーブを作るのだわん』
コタローに促されて、ラウラは頷いた。ラウラがソウルオーブを手に持ってロードナイトになるための契約呪文を唱えると、オーブが光を放ち始めた。ソウルオーブの中にオークロードのソウルが格納されたようだ。
この契約呪文によって、ラウラだけが装着できるロードオーブが完成したことになる。そのオーブはラウラの手のひらで金色に輝いている。
ラウラがこのオーブを装着すると、魔力はオークロードの半分になるが、魔力はいつでも使えるようになるはずだ。
魔力が半分になる理由についてはコタローが教えてくれた。妖魔や魔獣は体内に大魔石と呼ばれている器官を有していて、ウィンキアソウルから亜空間のソウルリンクを通して供給される魔力はこの大魔石に蓄えられるそうだ。妖魔や魔獣はこの大魔石に蓄えられている魔力を使っているのだ。大魔石に蓄えた魔力を使うことで、妖魔や魔獣はウィンキアソウルから供給されている魔力の最大2倍までの魔力を出力できるらしい。なぜ最大2倍なのか尋ねると『そういう摂理なのだわん』とコタローは言っていた。
オークロードの魔力は一般的には〈100〉と言われているが、これはオークロードの大魔石に蓄えられている魔力の最大出力の値であり、ウィンキアソウルからオークロードに常時供給されている魔力は〈50〉ということなのだ。だからオークロードは大魔石の魔力を使い切ってしまえば魔力は〈50〉になってしまうということだ。
話が長くなってしまったが、そういう訳でラウラの魔力はオークロードの半分、つまり魔力〈50〉となる。魔力はウィンキアソウルからソウルリンクを通して常時供給されるため、どれだけ使っても魔力が尽きる心配がないということだ。すごい能力アップと言えるだろう。
『ラウラ、ロードオーブを使ってみて』
ラウラは頷きながら呪文を唱えた。ラウラの右手から熱線が川面に向かって放たれた。水が沸騰して水蒸気が上がった。
『すごいわ。あたしが15年ずっと憧れてきたことが、今、実現できたのよ。突然のことで、まだ信じられないけど……。夢じゃないのね』
ラウラはそう言いながら泣いていた。ラウラの嬉し涙を見ていると、オレのほうも幸せな気持ちになってくる。ともかくこれでラウラは念願のロードナイトになった。
『ええと、ラウラ。そのロードオーブはラウラの体に埋め込んでおこうよ。無くすと大変だから』
その手術はあっと言う間に終わり、ロードオーブはラウラの体の中に埋め込まれた。ヒール魔法で処置したから手術の痕は残っていないし痛みもないはずだ。
それからは戦いの後始末をした。まずは解体魔法を使ってオークロードから大魔石を取り出した。大きさはビー玉くらいだ。大魔石という名前なのに大きさはそれほどでもない。魔物から取れる魔石と大きさはあまり変わらないようだ。
これもコタローから教えてもらったことだが、妖魔と魔獣は種族に関わらず大魔石の大きさと魔力容量は同じだそうだ。ただし種族によって体内に有する大魔石の個数が違う。強い種族ほど体内の大魔石の数が多くなるということだ。
なぜ大魔石の大きさと魔力容量が種族に関わらず同じであるのかコタローに尋ねてみた。
『それはウィンキアソウルに聞いてみないと分からにゃいけどにゃ。魔族や魔物を妖魔や魔獣に変異させるときの手間を少しでも省いたのかもしれないわん。大魔石を一律の大きさと魔力容量にしておけば大量生産してストックしておけるからにゃ。種族ごとに異なる大魔石を用意するのは大変だからにゃあ』
『なるほど。大魔石も一種の工業製品みたいなものってことだね?』
『そうだにゃ。そのおかげで人族も大魔石を便利に使えてるわん。魔力の保管だけでにゃくて、高額通貨の代わりにもなるからにゃ』
大魔石の用途は普通の魔石と同じで魔力を蓄積することだが、大魔石は魔石に比べると魔力容量も耐久性も格段に優れていて、そのため高価だそうだ。大魔石はソウルオーブ2個と交換できるとのことだ。円換算で言えば、ソウルオーブは1個が2百万円くらいだから大魔石は1個が4百万円ということになる。
オークたちから使える物を没収して、死体は掘削魔法で穴を掘って埋めた。埋める前に分解魔法で死体を土に戻してから埋めたから、死体を見つけられる心配はない。
オークたちから没収したもので一番価値があるものは例の電撃剣と大魔石、それとソウルオーブだ。ソウルオーブは大半が新品で全部で45個あった。すごい金額になる。
電撃剣はラウラに使ってもらうことにして、オレもオークたちの剣の中で状態が一番良いものを使うことにした。
それとクメルンバッグを6袋ゲットした。これがあれば重さを20分の1に軽減してくれるから、荷物の運搬が楽になる。それぞれのバッグにはキャンプ道具や食材が入っていた。逃げた四頭もバッグを背負っていたから、歩荷をしていたオークが十頭いたのだろう。
虎を解体して得られた肉や皮もクメルンバッグに詰め込んだ。余った虎の肉や骨はオークの死体と一緒に分解して土に埋めた。戦いの痕跡も水と風の魔法で消し去ったから、これで後始末は完了だ。
さて、早く隠れ家を作らないといけないし、腹も減った。でも、この場所はオークたちが戻ってくるかもしれないから避けた方がいいだろう。
そういうことで、オレたちは空き腹を抱えたまま川に沿って滝とは反対方向へ歩き始めた。クメルンバッグはオレが念力で空中に持ち上げて引っ張っている。重さが20分の1になっているから楽なものだ。ちなみに、ラウラは念力魔法は使えない。魔力が〈100〉以上必要だからだ。
隠れ家を作れば、そこで落ち着いてユウから話を聞けるはずだ。ユウは日本人だが今は精霊のような存在となっていて、オレの異空間ソウルの中にいると言っていた。いったい何が起きているのか、ユウから話を聞かねばならない。
※ 現在のケイの魔力〈240〉。
※ 現在のラウラの魔力〈50〉。




