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SGS069 オークロードとの戦い

 オークの集団が近付いて来ている。しかもオークたちはソウルオーブを装着していて、その中の一頭はオークロードらしい。それを聞いただけでオレの思考力は停止した状態になった。


『コタロー! ケイにアドバイスしてあげてっ!』


『まず、すぐに隠れるべきだわん。森の奥へ逃げると足跡が残るにゃ。川沿いに逃げてもすぐに見つかってしまうわん。頭上の枝に隠れるしかないぞう』


 ユウとコタローのアドバイスはありがたい。


『分かった。ラウラ、今から浮遊魔法を使うから手を繋ぐよ』


 ラウラの手を取って、オレたちは浮遊魔法と風魔法で頭上15モラの太い枝の上に移動して身を潜めた。


『ここなら見つかる心配はないよね』


『でも、オークは臭いに敏感よ。あたしやケイの臭いに気付くかもしれないわ。女や血の臭いには特に敏感みたいだから』


『そっか……』


 ラウラの言うとおりだ。オレは急いで自分たちに清浄の魔法を掛けた。でも、これでも見つかってしまうかもしれない。さっき解体した虎の肉や皮を置いて来てしまったから、間違いなくオークたちはそれを見つける。そうすれば、虎を解体した者が近くにいると考えて周辺を捜すだろう。


 それならどうするか……。迷っている時間は無い。


『ラウラはここで隠れていて。わたしはオークたちをこの場所から引き離すから』


 ラウラの返事を待たずにオレは枝から飛び降りた。浮遊魔法でゆっくりと下降する。着地と同時にオークとは反対方向へ走り始めた。もうすぐオークたちが森から出てくる。


『ケイ、オークたちが出てきたわん。こちらを見つけたにゃ。ありゃ。オークとの距離が離れて探知できなくなったぞう』


 オレが走って逃げたからオークたちは探知範囲から外れてしまったようだ。


 少し走ってからオレは立ち止った。振り返ると十頭以上のオークたちがオレを追ってくるのが見えた。距離は300モラくらいだ。


 虎を解体したところにも十頭くらいのオークが残っている。そこからオレまでの距離は400モラくらい離れている。


『追手が近付いてきたわん。距離240モラ。オークの数は十三頭。この中にはオークロードはいないにゃ』


 オークたちがオレに迫ってくる。


 これは現実か? さっきまでは感じてなかった恐怖が頭の中に生まれて、全身が震え始めた。


 オレは再び河原を走り始めた。いや、怖くて本気で逃げているのだ。


『コタロー、ケイは勝てそうなの? 逃げた方が良いの? 助言を早くっ!』


 ユウからの念話だ。助言とか悠長なことを言ってないで、直接助けてほしい。


『ユウかコタローがオークたちを攻撃してよ』


 走りながら念話を飛ばす。


『ユウもオイラも異空間ソウルの摂理で敵への攻撃はできにゃいぞう。代りに防御や回復にゃんかの魔法でケイをサポートするのだわん。本当にゃらオイラたちが助けなくてもにゃ、ケイ一人でオークたちに余裕で勝てるはずだぞう』


『わたしが余裕で勝てるって? どうして?』


『ケイの魔力は〈240〉。オーク一頭の魔力は〈5〉でソウルオーブを装着しているから〈15〉だにゃ。オークロードの魔力も〈100〉しかにゃい。魔力を使って戦えばケイが余裕で勝てるわん。ただしにゃ、魔法で一斉に攻撃を受けたり、囲まれて一斉に打撃を受けたりしたら危ないからにゃ。一対一の戦いになるように戦場を駆け回りながら戦うべきだぞう』


 コタローが説明してくれたが、こんなときに数字で色々言われても理解が追い付かない。勝てるって言ってたから大丈夫なのだろう。こわくない、怖くない……と念じてみるが、怖いものはどうしようもない。


『実はにゃ、オイラとユウはケイの魔力を共同で使っているのだわん。今のケイは魔力が〈240〉だからにゃ、その魔力を少しずつ攻撃や防御、強化、回復にゃんかの魔法に割り振っていくことになるのだわん。その配分はオイラに任せろにゃん。オイラが敵の状態に合わせて魔力を最適に配分するからにゃ。ケイは攻撃に専念してくれれば良いぞう』


 逃げるのに必死で、コタローの説明が頭に入って来ない。


『筋力はオークの方が圧倒的に強いからにゃ。ケイも筋力強化と敏捷強化の魔法を掛けておくべきだわん。と言うことで、にゃん、にゃん、にゃんと。これでオッケーだぞう。バリアと筋力強化、敏捷強化を掛けておいたからにゃ。いつでも戦えるぞう。オークと一対一で戦うにゃら、魔力剣をお勧めするわん』


 コタローに言われて、自分にバリアなどの魔法が掛かっていることが分かった。


『ケイ、立ち止まって。あまり遠くへ逃げると、ラウラが危険になるわよ』


 ユウの言うとおりだ。離れすぎると、オークたちがラウラの存在に気付くかもしれない。

 

 オレが立ち止まると、オークたちが追い付いてきた。虎の解体場所から距離が800モラくらいのところだ。


『ケイ、早くオークたちを攻撃しろにゃん! 今のままだと囲まれるぞう!』


 そんなことを言われても体が動かない。恐怖で自分の体が強張っているせいだ。


 さっきから何かの魔法がオレに撃ち込まれているようだ。コタローが張ってくれたバリアがその攻撃を弾いている。


『オークたちが撃ち込んで来てるのは眠りの魔法だわん。ケイのバリアは十分に余裕があるから大丈夫だけどにゃ。それより……』


 コタローの念話と重なるようにオークの声が響いた。


「人族の女。抵抗するな。抵抗すれば、おまえを殺す」


 低い声だ。オレを攻撃してこないのは、こちらを女だと侮っているからだろう。オークたちは10モラくらい離れてオレを取り囲んだ。


 オークたちの身長は250セラくらい。ガッシリした筋肉質。革の鎧を身に着けていて、その下に革のシャツとパンツを穿いているようだ。顔立ちはゴリラのような鼻の鬼顔で、2本の角がある。それぞれが手に棍棒や剣を持っている。


 オレはぐるりを取り囲まれてしまった。数は十三頭。その迫力に圧倒されて、オレの心臓はバクバクしている。怖くて今にもオシッコをちびりそうだ。


「オ……オークたち。それ以上近付けば……こ、ころす。し……死にたくなければ立ち去れ」


 体が震えて声がうまく出ない。


「おもしろいことを言う女だ。この女であれば隊長も気に入るだろう」


 一頭のオークがゆっくりと近付いてきた。しかたない。戦って、殺す……。


 でも、今のオレにこのオークたちが殺せるだろうか。怖くて怖くて、手足が竦んでいる。体がうまく動かない。これで本当に戦えるのか……。


 オークといっても人間と同じような姿で知性もある。こいつらにも家族がいるかもしれない。でも、やる! 殺るしかないんだ!


『ケイ、大丈夫よ。コタローに活性化魔法を掛けてもらったから体の震えは止まるはずよ』


 ユウと体の五感を共有しているから、オレが怖がって震えていたことが分かっていたのだ。


 自分の震えが完全に止まるのが分かった。魔力がオレの体を活性化させていく。アドレナリンが体中を駆け巡っている感じだ。体が一気に軽くなる。


 オレは魔力剣を出した。相手のオークが驚いたように目を見開く。


 そうだ。驚け。


 近付いてくるオークの胴体にオレは飛び込んだ。擦れ違いざまに魔力剣を打ち込む。オークのバリアは紙のように破れた。そのままの勢いでオークの胴体を切断。即死だ。オークは崩れ落ちた。


 オレの動きにオークたちは付いて来れない。オークたちがスローモーションで反応するのを横目で見ながら続けざまに三頭のオークを倒した。一瞬でオークたちの囲みを破った。


 弱い。このオークたち、見掛けの割に弱過ぎる。いや、オレとの魔力差があり過ぎるのか。


 さっきまでオレは何を怖がっていたのだろう。たしかに、オークの見た目も怖かったが、それよりも人を殺すことが怖かったのだ。オークは人間ではないが、オレの本能が人間と同じような生き物だと感じているのだと思う。考えてみれば人間と本気で殺し合いをしたのはこれが初めてだった。


 でも今はもう怖くない。相手が魔族であろうと人族であろうと、自分たちを傷付けようとするならオレは戦う。必要なら殺す。


『ユウ、コタロー、ありがとう。さっきはホントに怖かったから……』


『だいじょうぶ。私たちはいつも一緒よ。しっかりケイを守るからね。でも、今は戦いに集中して』


 そうだった。今はまだ戦いの最中だ。そして気にしなければならないのはオークロードの存在だ。虎の解体現場の方に目を向けると、オークが五頭か六頭、こちらに走ってくるのが見えた。たぶんあの中にオークロードがいるはずだ。ここで早く勝ち過ぎると、あいつらが逃げ出してしまうかもしれない。だから、あいつらが来るまでの数分間はゆっくりと戦うのだ。


 オレはまた走り始めた。剣を交えるが今度はすぐには殺さない。混戦に見せかけるためだ。


『コタロー、助っ人の中にオークロードがいるか教えて』


『一番後ろから走ってくるのがオークロードだわん。あと100モラだにゃ』


『分かった』


 オレはそう返事をすると、スピードを上げて残りのオークを倒し始めた。オレの動きに付いてこれるヤツはいない。全員を倒して助っ人の方向へ向かう。助っ人たちは驚いて立ち止ろうとしている。オレはその中に突っ込んでいった。たちどころに五頭を殺した。


 残りはオークロードだけだ。よく見ると普通のオークよりもひと回りデカイ感じがする。


 やれるのか、オレは?


 大丈夫。オレの体は軽い。もう怖くない。


『ケイ、このオークロードを仕留める機会はラウラさんにあげるべきよ』


『あ、そっか。そうだよね』


 ユウの言うとおりだ。これはラウラがロードナイトになるチャンスなのだ。でも、オレが相手を魔力で圧倒していても安心はできない。こちらは戦いの経験がほとんど無いからだ。


 オレは右手に魔力剣を構えた。オークロードは右手に棍棒、左手に短剣を持ち下段に構えている。距離は10モラ。


「おれの部下を殺したくらいでいい気になるな。報いを受けてもらうぞ」


 お! 意外なことに相手のほうから話しかけてきた。


「そんなことを言わないで降伏しませんか?」


 一応、聞いてみたが、棍棒を振り上げて迫ってくる相手には無駄だったようだ。オレは瞬時に横へ動いて攻撃をかわそうとした。が、相手はそれを読んでいた。太い棍棒がオレの頭に向かって振り下ろされた。


 ひゃぁーっ!


 声が出たかどうかは定かではない。バリアが無ければ確実にオレの頭は潰れていただろう。その精神的なショックでオレの動きは単調になってしまった。


 それを見たオークロードは一瞬で態勢を変えた。動きが緩慢になったオレに何度も棍棒を叩きつけた。が、バリアが難なく弾き返した。バリアの自動回復が勝っている。オレのバリアは全く消耗していない。体もダメージは受けていない。


『ケイ、大丈夫?』


『うん、こっちは戦いの経験が足りないから殴られてしまったけど、大丈夫。もう、怖くないしね』


 経験が足りなきゃ、これから経験すればいい。今の魔力はこっちが勝っているのだ。足りない経験は魔力でカバーするしかないよな。


 オークロードは突然に向きを変えて走り始めた。逃げ出したのか?


 今の戦闘ではオレが一方的に叩かれたが、相手はこちらのバリアを破れないことに気付いたようだ。


 魔力の差が大きい場合はムリをせずに逃げる。そういうことか。


 オレは気持ちを切り替えてオークロードを追い始めた。距離は15モラ。


 虎の解体現場まで100モラのところで追い付いた。オークロードの背中側を魔力剣で払った。相手のバリアが半分くらい削れた。が、体までは届かない。


 オークロードは振り向いて反撃に移った。だがその棍棒は空を切った。と思ったら、左手の短剣がオレのバリアに当たって火花を散らした。衝撃で少しフラつく。オレのバリアが一気に削られたことが分かった。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。


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