SGS068 知育魔法ってすごい
ちょっと迷ったが、ラウラへはやはり本当のことを話すべきだ。
自分がウィンキアとは違う異空間にある星、つまり地球で生まれたこと。なぜか分からないが、この体にソウルが乗り移っていて、死体置き場で目覚めたことを話した。
『ラウラ、黙っていてごめん』
『いいのよ……。でも今日は色々ありすぎて、頭の中がちょっと混乱してるけど……』
『そうだよね。混乱してるのはラウラだけじゃなくて、わたしも同じだけど』
オレがそう言うと、ユウが『ええ、分かるんだけど……』と割り込んできた。
『ケイもラウラさんも色々と質問したいことがあると思うけど、この場所は危ないから……』
ユウは、とにかく今はサバイバルに必要な魔法を修得して、少しでも早く隠れ家を作れと言う。
『でも、新たな魔法を修得するなんて簡単にはできないよね?』
『いいえ、それは大丈夫よ。知育魔法を使えば一瞬で必要な知識を植え付けることができるから』
ユウが言うには知育魔法というのは神族だけが使うことができる特殊な魔法らしい。それが本当ならメチャ便利な魔法だが。
『オイラが知育魔法を使ってケイに必要な知識を植え付けるのだわん。何度か魔法を失敗するかもしれにゃいけど、副作用とかにゃいから心配いらないぞう』
『ええっ!? それって、ホントに大丈夫なのか?』
オレがそう言っている間に知育魔法での知識の植え付けが始まっていたらしい。
『成功、失敗……、失敗……、成功、失敗……、成功』
知識の植え付けに成功した場合は頭の中がちょっと熱くなった気がする。それも数秒だけだ。失敗した場合は10秒間の待ち時間が発生するが、そんなことは全然問題ない。これで知識の修得ができるとすれば、これほど便利な魔法はない。
あっという間に「解体」と「土工」、「木工」の魔法を修得できた。
コタローが言うには解体や土工、木工などはクラフト魔法の一種らしい。クラフト魔法というのは職人が手作業で行う工程を魔法化したもので、異空間ソウルの魔法ライブラリの中に初めから色々と登録されているそうだ。サバイバルに必要だからということで、ついでに「石工」、「縫製」、「陶器作成」、「精錬」、「鍛冶」、「革加工」、「調理」のクラフト魔法も修得した。
修得に掛かった時間は合わせて5分くらいだ。
『ケイ、驚いたでしょ?』
ユウがちょっと自慢気に言ってきた。
『うん、正直驚いてる。こんな短時間で色々なクラフト魔法を修得できるなんて、知育魔法ってすごいよね』
『でしょ。これはね、科学技術の結晶なのよ。私たちが知っている地球の科学よりもずっと遥か先のね』
『え? 科学技術? 魔法じゃなくて?』
『魔法も科学技術の一つなんだって。そうよね、コタロー?』
『そうなのだわん。ケイが知っている言葉で言うとだにゃ、異空間ソウルも、ソウルオーブも、その魔法ライブラリに登録されている魔法もどれも全部にゃ、天の神様が開発したものだぞう。天の神様が有しておられる科学技術を駆使してにゃ』
ユウやコタローが言ってることは本当なのだろうか。異空間ソウルやソウルオーブ、そして各種の魔法は科学技術の結晶なのだと言う。しかも地球などよりも遥かに進んだ科学技術を使って開発されたものらしい。
考えてみれば、異空間ソウルもソウルオーブも魔法も、どれもがオレにとっては夢の中のような話なのだ。それを天の神様がどういう手段で作っていようが、今の自分は信じて使うしかない。
『ともかく、わたしは異空間ソウルのオーナーになったし、クラフト魔法も使えるようになったんだよね?』
『そういうことだわん。少しだけクラフト魔法の補足をしておくとにゃ……』
コタローが言うには、クラフト魔法を発動すると、その工程が頭の中にイメージとして浮かんできて、魔力によって工程が進んでいくとのことだ。ただし、出来上がる物の品質は術者の技能によって大きく変わるそうだ。
『だからにゃ、今のケイがクラフト魔法で何かを作るときの品質は最低だってことだわん』
腹が立つことにコタローはオレの技能を最低だと決めつけているようだ。
とにかくやってみれば分かる。オレはクラフト魔法を使って虎を解体して、必要な部材だけを取り出していった。手を触れる必要はなく、魔力だけで目の前の虎が解体されていくのは見ていて面白い。
だけどコタローが言うように虎の皮には解体の傷がアチコチに付いて品質は良くなかった。それでもこの皮は毛布の代りになるだろうし、この皮で衣服を作ることもできるだろう。虎の肉は食べられる部位を冷凍の魔法で凍らせて、虎の皮で包んだ。残った肉や骨も何かに使えるだろうから全部冷凍した。
四頭の虎から魔石も取れた。大きさは直径2セラくらいだ。それが4個。全部に魔力をフル充填してラウラに渡した。今後はラウラが魔法を使うときはこの魔石から魔力を得ることができるようになる。そうは言っても、今のラウラはソウルオーブを持っていないから、人族としての魔力〈1〉しか発動できない。でも魔力〈1〉でも着火や松明などの生活魔法を使うことができるから何も無いよりはましだ。
四頭の解体は5分ほどで終わった。解体魔法はすごい。以前はダンブゥ(暴猪)一頭を解体するのに何時間も掛かっていたから格段の進歩だ。品質が良くないのは自分の技能が低いせいだから仕方がない。
『もっと訓練を繰り返せば技能は高まっていくぞう』
やはりこっちの世界でも何かの技能を高めたい思うなら、頑張ってその訓練を続けるしかないらしい。
次は隠れ家をどうするかだが……。自分で作るしかないな。この闇国がどれくらい広いのか分からないが、まずはその隠れ家を拠点として探索の範囲を広げていくしかないだろう。
『隠れ家を作るのなら森の中になるよね』
オレはそう言いながらラウラと一緒に森へ入っていった。
オレたちが今いる場所は落差1ギモラの滝から300モラほど離れたところだ。
森の樹々はそれぞれ高さが80モラくらいあって、上に向かって真っすぐに伸びている。樹々の間には下草や低木が生えているが、川岸に近い樹は下草は無く根元が小石に覆われていた。
下草が茂っているところは少し歩いただけでその跡が付いてしまうから隠れ家には向かない。だから、隠れ家を作るとすれば川岸に近い樹の上に作るか、あるいは地下に作るか……。川に近いと言っても川までは50モラくらいあるし、川面よりも10モラくらい高い位置にあるから水が来ることはないだろう。
どの樹も根元の直径は10モラくらいあって、根元には大なり小なりの違いはあるが洞が空いていた。これなら洞の中を少し刳り抜いても大丈夫だろう。でも、根元を刳り抜いたのでは見つかってしまうかもしれない。どうしようか……。
見上げると、頭上15モラくらいのところから、太い枝が何本も出ている。幹から出ている枝の太さは2モラ以上ありそうだ。枝の付け根に出入り口を作ったら下からは見つからないし、上からも生い茂った葉で見えないはずだ。でも、そこまで登らなきゃいけない。浮遊魔法が使えないラウラは文句を言うだろうな。
『にゃにゃにゃっ!!』
オレが隠れ家の場所を考え込んでいると、コタローが訳の分からない叫び声をあげた。
『ケイ! 魔族の集団が近付いて来てるわん。オークが二十三頭。オークたちはソウルオーブを装着しているわん。虎が逃げた方からこっちに向かってるにゃ。距離240モラ。あと2分で森から出てくるぞう』
『えっ! オークの集団が!?』
『にゃにゃっ! 中にオークロードが一頭いるにゃ。危険だわん!』
『えーっ! どうしよう!』
突然のことでオレは頭の中が真っ白になった。
※ 現在のケイの魔力〈240〉。




