SGS067 異空間ソウルのオーナー
ラウラへの説明が終わったときにユウが話しかけてきた。
『ケイがラウラさんに念話で話しかければ、私たちの会話にラウラさんを加えることができるわよ』
えっ? そうなの? オレが念話の中継局になればいいってことか。それならばユウが言うようにやってみよう。
「わたしから念話で話しかけたら、ラウラも念話での会話に参加できるんだって。やってみるから返事をしてみて」
「えっ?」
『ラウラ、聞こえる?』
「き、きこえるけど……」
ラウラは声で返事をしている。初めて頭の中に念話が入ってきたら誰でもオタオタするよな。
『ラウラさん、はじめまして。ユウです。ユウって呼んでね』
『こんにちわん。オイラはコタロー。コタローって呼んでほしいんだわん』
ラウラは突然、ユウやコタローから話しかけられて口をパクパクしている。
『は、はじめまして。ラウラです』
『やった! これでラウラも念話に加わって話ができるね。じゃあ、話を続けるよ。わたしもさっきコタローさんと初めて話をしたんだ。コタローさんは少し話し方が変わってるけど、どういう人なの?』
『コタローは私が異空間ソウルの中で飼っている犬よ。つまり私のペットということね』
そうか、ユウのペットか……って、違うだろ!
『犬がしゃべるって!?』
『ええ、おかしいよね。それも後で話すから、今はコタローの話を聞いてあげて。コタローが魔法の説明をするそうだから』
ユウが言うには、とにかくこんな危ない所ではゆっくり話ができないってことだ。オレが聞きたかったことは全部後回しになった。
『まずはサバイバルに使う魔法を説明するからにゃ。それを理解して虎を解体するんだわん。それと安全な隠れ家も必要だにゃ』
にゃ?
『コタロっ! あんたは犬なんだから、にゃは無いだろ!』
『最初はユウから語尾とかにわんを付けろって命令されてたんだわん。でもにゃ、わんパターンで面白くないって言われてにゃ、動物ならにゃんでもいいから付けろっていう命令に変わったのだぞう』
ぞう? 頭が変になりそうだ……。
とにかくそういうことでオレはコタローから異空間ソウルの魔法について説明を受けることになった。犬なのに異空間ソウルの魔法に精通しているらしい。
『ケイは異空間ソウルについては知ってるにゃ?』
『ええと、以前にラウラから簡単な説明を受けたことはあるけど……』
そのときの話では、神族は自身のソウル以外にそれぞれが異空間に補助的なソウルを持っていて、それが異空間ソウルと呼ばれているとのことだった。異空間ソウルは天の神様が作ったもので、亜空間の中に伸びるパイプを通して神族へ無尽蔵に魔力を供給しているそうだ。つまりオレが神族だとすれば、オレも異空間ソウルを持っているということだ。
オレがそういうことを話すと、コタローから『今はそれくらいの認識でオッケーだけどにゃ』との返事。ウィンキア語の会話に“わん”とか“にゃん”とかの語尾が入っているし、“オッケー”という和製英語が混じっているのも馬鹿にされている感じだ。それに何気に上から目線での言葉にも腹が立つ。
『ねぇ、コタロー。もしかして、わたしをからかってるの?』
ちょっと怒りを込めて念話を送ると、『ごめんなさい』とユウが謝ってきた。
『コタローは真面目に話をしているのよ。からったり馬鹿にしたり、そんなことはしてないから、それは分かってあげて。コタローにこんな話し方を仕付けたのは私なの。ちょっと事情があったんだけど、それについては時間があるときに話すから』
ユウからそう言われて、オレは気を鎮めてコタローの話を聞くことにした。
コタローの説明によると、異空間ソウルは魔力を無尽蔵に供給するだけでなく、その魔法ライブラリには高度な魔法が色々と登録されているそうだ。
魔法を使うには魔法の登録名称を唱えればよい。ただし登録名称は古代語だ。魔法にはもっと簡易な別名を付けることもできるそうで、別名を付けた後はその簡易名称を唱えるだけで魔法が発動するとのことだ。
『異空間ソウルのオーナーであればにゃ、魔法ライブラリに登録されている魔法をどれでも使えるのだわん。と言ってもにゃ、今のケイの魔力は小さいから使える魔法は限られてるけどにゃ』
『えっ? オーナーって、所有者って意味だよね? それはつまり、わたしも異空間ソウルの所有者ってこと?』
『イエス・イット・イズ』
なんでそこだけ英語やねん!?
コタローが言うには、異空間ソウルというのは異空間にある半径数キロの半球型の空間で、神族であればそれぞれが自分の異空間ソウルを所有しているとのことだ。それぞれの異空間ソウルは完全に独立していて、オレもその一つを持っているそうだ。そして、ユウとコタローはオレの異空間ソウルの中に住んでいる。なんだか訳が分からない話だ。理解が追い付かなくなってきた。
話を戻す。コタローはさっき魔法の発動方法を説明してくれたが、ちょっと変だと思った。オレの場合は無詠唱で魔法を発動できているからだ。
『魔法を使うときには誰もが難しい呪文を唱えているよね。それは神族であっても同じだと思うんだけど、どうしてわたしだけ無詠唱で魔法を使うことができるのかな?』
『それはケイのソウルが地球で生まれたからだわん。ケイと同じように初代の神族や人族は地球で生まれてこっちへ連れて来られたからにゃ、無詠唱で魔法が使えたのだわん。だけどにゃ、今の神族や人族は世代交代してるからこの星で生まれたソウルなのだぞう。この星で生まれたソウルは色々と制限が掛かっていてにゃ、無詠唱で魔法を発動できないのもその制限の一つなのだわん』
何を言ってるのかよく分からないが……。
『つまり、地球生まれの神族や人族であれば無詠唱で魔法を使えるけど、この星で生まれた者は無詠唱では魔法を発動できないってこと?』
『そのとおりだわん。地球生まれのソウルは異空間ソウルで存在できるけどにゃ、このウィンキアで生まれたソウルは異空間ソウルの中では不安定になって存在できないことが分かっているのだわん。
だからにゃ、地球から来た初代の神族は異空間ソウルの中に入ったり操作したりできたのだけどにゃ、世代交代したらそれが不可能になったのだわん。この星で生まれた神族や人族が無詠唱で魔法を使えにゃいのもそういう制限を受けているからだぞう』
『それで人族たちは魔法を発動するためにあの長い呪文を唱えてるわけ?』
『そうだにゃ。異空間ソウルに登録されている魔法ライブラリには魔法毎に古代語で登録名が付いているのだわん。実はにゃ、その登録名には魔法の簡易説明文も付いていてにゃ、少し長いのだわん。今の神族たちはそれを呪文として唱えているのだぞう。ついでに言うとにゃ、人族や魔族も同じ呪文を使っているのだわん』
『神族だけでなくて人族や魔族も同じ呪文を?』
『人族が使っているソウルオーブは異空間ソウルの魔法ライブラリに準じて作られているのだわん。ダークオーブも魔族がソウルオーブを真似して作った物だからにゃ』
なるほど、そういうことか。異空間ソウルを作ったのも天の神様だし、ソウルオーブを作ったのも天の神様だ。同じ魔法ライブラリを使うのは当然だろう。
魔族がそれを真似たのであれば、人族も魔族も同じような魔法体系になっていて、呪文も同じになっているのは納得できる。
呪文は訳の分からない長ったらしい言葉だと思っていたが、あれが魔法の簡易説明文だったとは。しかも古代語だから覚えるのも大変だよな。超人的な神族も意外なところで苦労しているようだ。
そんなことを考えていると、ラウラが念話で話しかけてきた。
『ねぇケイ、聞いていい? ケイってウィンキアで生まれたんじゃないの?』
尤もな質問だ。ラウラへは本当のことを話すべきだろうか……。
※ 現在のケイの魔力〈240〉。




