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SGS065 あなたは守護精霊?

 自分が断崖絶壁から飛び出したことが分かった。目の前には広大な空間が広がっている。自分の頭上近くには青い光を発している天井があった。じっくり見ている余裕は無いが、天井には少し凹凸があるようだ。天然の岩石なのだろう。


 オレとラウラは一つの筏に乗ったまま空中を落下している。筏が邪魔で下方は見えないが、横に広がる景色を見ると自分たちがかなり高い位置にいることが分かった。


 地面まではどれくらいだろうか……?


 オレが下を覗き込もうと体の位置を少し変えると、筏がぐらりと揺れた。


 断崖絶壁から筏が空中に飛び出たときは水平な状態だったが、オレが動いたせいで不安定になってしまった。今にも筏は回転を始めそうだ。


 慌てて風魔法を発動した。風で微調整をすると筏は水平状態で安定した。その状態を保ちながら、恐る恐る下を覗き込んだ。


 遥か下には……1000モラ(メートル)くらい下には森林や草原が広がっている。その中を川がうねうねと流れている。後ろを見ると断崖絶壁の天井近くに小さく口を開けた洞窟が見えた。オレたちはそこから飛び出したのだ。水の流れは白い滝となってオレたちと一緒に落ちていく。途中から水は発散して霧となっている。


 ともかく今は景色を楽しんでいる場合ではない。オレは自分たちに浮遊魔法を掛けた。


 えーっ! 失敗だっ! こんなときに失敗するなんて、ヤバイどころじゃない。


 バリアとか色々な魔法を掛けているから、どうやら魔力不足で魔法が失敗したようだ。それはともかく、魔法を失敗したから10秒間は魔法を発動できない。このロスは痛すぎる。どうすりゃいいんだ!?


 そう思っていると、ふいに体が軽くなった。


『私のほうで浮遊魔法を掛けたから、もう大丈夫よ』


『あ、ありがとう……。たすかったよ。ええと……』


『私はユウナ。ユウって呼んでね』


『ありがとう。でも、助けてもらったのに、呼び捨てにしていいのかな?』


『ええ、お互いに名前だけで呼びましょ。私は遠慮なくケイのことを呼び捨てにしてるものね、ふふふ』


『分かった。ところでユウ……。あなたは何者? どこにいるの?』


『私がいる場所はここ、あなたの中よ。正確に言えばあなたの異空間ソウルの中だけど』


 オレの異空間ソウル? 神族は自分自身のソウル以外に異空間にある補助のソウルを持っていて、それを異空間ソウルと呼んでいるらしい。


 どうやらオレも異空間ソウルを持っていて、ユウはその中に居るようだ。そんな場所に居るってことは、もしかするとユウは……。


『あなたはわたしの守護精霊……ですか?』


『まぁ、そんなものかな……。でも、その話はもっと後でしましょ。とにかく今は、あなたの足が地面に着かないと落ち着かないものね』


 そんな会話をしながら、オレたちはゆっくりと降りていった。ラウラはオレの腕の中で気を失ったままだ。右腕はオレもラウラも完全に再生している。まだ、右手の動きは少しぎこちないけれど、そのうち完全に元に戻るだろう。


 地面まではまだ500モラくらいはあるようだ。オレは落ち着いてもう一度この空間全体を見渡した。


 ここが地中だとは思えないくらいの広い空間だ。なんて表現すればいいのか、言葉にならないほどの見事な光景だった。この場所は、高さ1ギモラ(キロメートル)、幅1ギモラくらいの峡谷で、両側の岩壁は垂直に落ち込んでいた。峡谷の底部は森林と草原に覆われていて、所どころに見える川面や湖面が天井からの光でキラキラと輝いている。


 この断崖絶壁の真下には川が流れていた。断崖絶壁から流れ出た水は滝となって川に直接降り注いでいるのだろう。川幅は50モラくらいで、川は絶壁に沿って流れている。峡谷は同じくらいの幅で遥か彼方まで続いているが、左側も右側も霞んでいて峡谷の先がどこまで続いているのか見えなかった。


 オレたちが乗った筏はゆっくりと落下しているが、今のままでは川に落ちてしまう。風魔法を後ろに噴き出して、少しずつ前に進もう。滝からも離れたほうがいいだろう。


 徐々に川面が近付いてきた。


 うわっ! でかいワニがいるぞ。やばい! 川に落ちたら食われてしまう!


 風魔法を強くしたから川の岸辺には問題なくたどり着けそうだ。


 よし、筏が岸辺に着地した。とたんにオレたちは木々の緑の匂いに包まれた。


 自由だっ! 自由になった!


 しかし、安心するのはまだ早い。


『ケイ、気を付けて。虎が来るっ!』


 森から何頭もの虎が飛び出して来てオレたちに襲いかかってきた。


 虎は五頭だ。虎と言っても普通の虎ではない。どう見てもサイズが半端ない。体長が5モラくらいあるのだ。頭に小さい角が一本出ている。そいつらが猛スピードで走り寄ってくる。距離は50モラくらいだ。


『後ろからもワニが来てる!』


 振り返ると数頭のワニが水を掻き分けてすごい勢いでオレたちに近付いてくるのが見えた。どのワニも見たことが無いくらいの大きさだ。たぶん8モラくらいはあるだろう。ヤバイ! どうしよう。


『前門の虎、後門のワニね』


 ユウちゃん、そんなこと言ってる場合じゃないよっ! ラウラはオレの腕の中で気を失ったままだし、どうやって戦うんだ?


 考えている時間は無い。とりあえず魔法で攻撃だ。


 オレはワニに向けて火砲の魔法を10発ほど立て続けに放った。当たらなくても構わない。


 続けて虎の方へも火砲を放った。火砲というのは火球を作ってそれを相手に向けて飛ばす魔法だ。何かに当たるとそこで爆発する。火球のサイズは直径30セラくらいの大きさにした。


 後方で爆発音が連続した。続いてバシャバシャという大きな水音が聞こえた。


『ワニたちが逃げてくわ』


 ユウからの念話だ。オレは見てなかったが、ワニたちの鼻先かその近くの水面に火球が当たって爆発したのだろう。ワニたちは驚いたのか慌てて方向転換して水の中に潜り込んだようだ。


 問題は前方の虎たちだ。オレが放った火球をすべて弾き飛ばしてしまった。どうやら五頭が連携してバリアのような防御壁を張り巡らしているらしい。


 虎たちは火球の魔法を見て警戒したのか、走るスピードを緩めて近付いてきた。


 バリアを張っているということはこの虎たちは魔物だ。魔物は種族ごとに特殊な攻撃魔法を有していると聞いたことがある。ということは、この虎たちの特殊攻撃はバリアってことか? いや、バリアは攻撃魔法じゃないよな。


 オレが放った火砲は通じなかった。しかもこの虎たちは魔物で、それが五頭もいる。そう考えると急に怖くなってきた。


『ねぇ、ユウ。この虎たちは魔物だよね? 逃げた方が良いのかな?』


 オレは震えながらユウに問い掛けた。


『そんなに怖がらなくても大丈夫。逃げる必要もないわよ。たしかに魔物だけど、今のケイの魔力は虎たちよりずっと強いから。安心して戦いなさい』


 そんなこと言ったって、どうやって戦うんだ?


 虎たちはオレたちを取り囲んで、周りをゆっくりと回り始めた。


 バチバチと電気がショートするような音がした。見ると、虎たちの角が発光している。オレたちのバリアも発光し始めた。はっきりとは分からないが何らかの攻撃を受けていることは確かだ。


 近くに転がっていた筏に火が付いて燃え始めた。


『熱攻撃かな? あ、電磁波攻撃か?』


『電子レンジと同じ原理かもしれないわね?』


 そうだな。でもユウさん、どうして電子レンジなんぞ知ってるんだ? おっと、今は戦いに集中しなきゃ……。


 オレのバリアは全然消耗していない。たしかに虎たちの攻撃を受けてオレのバリアは少しずつ削られているようだが、自動回復するスピードの方が速いのだ。ユウが言ってたようにオレの魔力の方が虎たちよりもずっと強いのだろう。


 負ける気がしない。そう考えると体の震えも止まった。


 虎たちの走るスピードが増した。オレたちの周りを輪になってぐるぐると駆けている。


『溶けてバターになったりするかもね』


『……?』


 オレが思わず発した冗談は、ユウには通じなかった。寒い冗談だった。オレはちょっと落ち込んだ。


 この虎たちの攻撃は、敵が逃げないように囲い込んで電磁波を浴びせて焼き殺すという方法なのだろう。


 さっきオレが咄嗟に放った火砲は通じなかったが、今度は別の魔法攻撃を仕掛けてみよう。最大魔力で反撃するのだ。


 ※ 現在のケイの魔力〈240〉。


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