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SGS061 形の上では失敗です

 レブルンの王都を出ると、道は麦畑の中を原野に向かって伸びていた。その道をオレたちは前後をゴブリンの戦士たちに守られながら歩いている。


 ベルッテ王はゴブリンの戦士百人を護衛として付けてくれた。原野に入ったらソウルオーブを隠し場所から取り出して、護衛隊の隊長に引き渡す予定だ。戦士の人数が多いのは、オレたちを護衛するというよりも、ソウルオーブを確実に入手してベルッテ王のところまで無事に持ち帰らせるための措置だろうな。


 オレたちの一行には人族の男が新たに一人加わっていた。歩きながらこの男に素性を尋ねた。


「おれの名前はマメル。3年前にゴブリンたちに捕まって、この街に連れて来られんだ。ゴブリンたちにこのまま一生こき使われるのかと思っていたんだが、おかげで助かったよ」


 この男はゴブリンに捕まっていた捕虜だ。ドンゴやラルカルとの捕虜交換ということで、オレたちに戻されることになったのだ。ゴブリン二人に対して人族一人では割に合わないが、レブルン王国に捕らわれていた人族の男は一人だけだったらしい。ゴブリンは普通、人族の男を捕虜にすることはなく殺してしまうからだ。この男が捕虜として生き延びることができたのはナゼだろう?


「おまえはどうして殺されなかったのです?」


 ルセイラが質問した。オレと同じような疑問を抱いていたようだ。


「もう3年になるが、おれは山賊に襲われて頭を殴られたんだ。気絶していたところをゴブリンに捕まったのさ。そのとき頭がぼうっとしていたんで抵抗できなかった。だから殺されなかったんだと思う。運が良かったのか悪かったのか分からないけどな」


 マメルと名乗った男は苦笑しながら自分がどうやって捕虜になったのか、その経緯を話してくれた。マメルは30歳に届かないくらいの年齢に見えるが、実際は30歳を超えているらしい。身長は180セラくらいで筋肉がしっかり付いた体格だ。ゴブリンにこき使われたせいか贅肉は無さそうだ。


「捕まったときに何ができるか聞かれたんで、おれは防具職人だって言ったのさ。それなら奴隷として生かしてやると言われて、この街に連れて来られたんだ。それ以来、防具の作成だけじゃなくて、縫製やら建築やらあらゆることをやらされたよ」


 マメルはその後も彼自身のことを色々と語った。おそらく今までは周りがゴブリンばかりで人と話す機会が無かったのだろう。マメルの話によると、この男はフォレスラン王国の出身とのことだった。フォレスランという国はレブルン王国から400ギモラくらい西にある国だそうだ。


「それで……、おれは捕虜の交換で解放されると聞いたんだが、どうして首輪を外してもらえないんだ?」


 マメルはルセイラに向かって尋ねた。マメルのオーナーはルセイラだ。ゴブリンから事前にオーナー権を引き継いだらしい。


「おまえはレングラン王国の奴隷になっただけです。捕虜交換でレブルン王国からは解放されたが、奴隷の身分はそのままだから勘違いしないように。いいですね?」


「くそっ! レングランの奴隷になるくらいなら、レブルンでゴブリンたちと暮らした方がよかったかもしれないな。少なくともおれを職人として大事にしてくれたからな」


「そうですね。ここに残ったほうが幸せだったかもしれません。なにしろ、今回の交渉で我が国はソウルオーブ100個を失って、おまえを得ただけですから……」


 ルセイラがオレを睨みながら皮肉を言った。


 なんとでも言え! こっちだって必死にやったんだ! 心の中でそう怒鳴ったが、口に出すことはできなかった。ルセイラの視線に耐えられず、オレは目を逸らした。


 たしかに今回の交渉結果についてはルセイラが言うとおりだ。公式の場では失敗だったと報告するしかない。姫様もそう言っていた。なにしろベルッテ王との裏約束の件は公開できないのだから。


 しかし姫様は、レングラー王に対しては裏約束のことも含めてすべて正直に報告すると言っていた。ベルッテ王のお守りについても裏約束の証拠の品だと言い通すことにしてもらった。


 ………………


 足取りは重かったが、レングランに向けての旅は順調だった。さすがにゴブリンの戦士が百人も隊列を作って進むと魔物は寄って来ない。


 途中でゴブリンの隊長にソウルオーブ100個を隠し場所から取り出して引き渡した。レングランの監視塔が見えるところまで送ってもらって、そこで護衛隊とは別れた。


 そして出発してから6日目の夕方、オレたちはバリケードを越えてレングランの畑地に入った。こちらも麦畑が王都まで続いているが、レブルンのほうが美しかった気がする。レブルンの麦畑が風に波打ちながら遥か地平線まで続いていく光景は一生忘れられないと思う。


 おっと、景色に感心している場合じゃない。姫様は元気が無いし、ルセイラはオレにずっと口を利いてくれない。みんなが落ち込んでいる。そう言うオレもこれからどうなるのか心配で堪らないのだが……。


 そうだ! もう一度、ニドに念押ししておこう。


『ニド、聞こえる?』


 オレは歩きながらニドに念話で話しかけた。


『どうした?』


『あなたの上司への報告、忘れないでよ』


『その件は大丈夫だ。ちゃんと報告しておくよ。だけど、おれの報告がどうであれ、君は何らかの処分を受けることになるぞ。なにしろ今回の交渉は表面的には失敗だし、実質的な交渉役は君だったからな』


 まぁ、そうなんだけど……。


『処分ってどんなこと?』


『そうだなぁ……。まず、奴隷に戻されることは確実だな。裏約束が果たされるまで王様が待ってくれるかどうか分からないが、最悪の場合……』


 あまり聞きたくないが……。


『王様が待ってくれなかったら、最悪の場合、処刑されるだろうな』


『しょ、しょけいって?』


『軽ければ鞭打ちの刑とか……、重ければ魔物との公開対決かな……』


『魔物との公開対決って、はっきり言えば魔物のエサって言うこと?』


『まぁ、そういうことだな』


 ううっ……。


 魔物のエサになるなんて絶対にイヤだ。


『最悪の場合は逃げ出すしかないね。奴隷に戻されたら従属の首輪が問題になるけど、魔法を使って外してみようかな……』


『いちかばちかに命を掛けるなんて止めた方がいいぞ』


 ニドとそんな会話をしながら歩いていると姫様が声をかけてきた。


「ケイ、今回の件は形の上では失敗です。わたくしにもルセイラにも何らかの処分が下されるでしょう。おまえにも処分が下るはず。覚悟をしておきなさい」


 覚悟って……。すごく重たいことを言うな。


「形の上では失敗ですか……。それなら仕方ないですよね。ただ、ベルッテ王との裏約束が実行されるまでは処分を待ってもらうよう王様によくお願いしてください」


「父上にはそのようにお願いするが、どうなるかは分からぬ。処分が決まるまでは可哀そうじゃが、おまえは奴隷の身分に戻って闘技場で待機しなさい」


 やっぱりそうなるか……。まぁ、ラウラのそばで居られるし、いざとなったら、ラウラを守りながらバハルと戦うしかないだろう。


 ………………


 オレたちは闘技場に戻ってきた。


 ニド、マメル、そしてオレはバハルに引き渡された。オレは再び従属の首輪をはめられて奴隷の身分に戻った。


 姫様とルセイラはバハルに必要最小限のことを説明しただけで、お城へ戻っていった。別れるときも姫様は無言で小さく頷いただけだった。ルセイラは最後まで口を利かなかったが、別れるときに手だけは振ってくれた。


 扉を開けて共生村に入ると、ラウラが駆け寄って来てオレに抱き付いた。


「ケイ、ずっと待ってたのよ。よかった。無事に戻って来てくれて……。あれっ? ドンゴとラルカルは?」


「レブルンに残してきたよ……」


 オレはラウラとエマに今回の交渉結果とドンゴたちを残してきた理由を説明した。交渉が失敗だったと知ると、二人ともこれからどうなるのかと心配し始めて落ち込んだ。その様子を見るとこっちも辛くなる。オレはみんなに迷惑を掛けている……。


 ともかく心配してもどうにもならない。今夜はゆっくり寝よう。ひさしぶりにオレはラウラの隣で横になった。ラウラを抱きしめながらベルッテ王との裏交渉のことや、ニドを通して王様に働きかけていることを話した。ラウラも少し安心したのかオレにキスをしてきた。ラウラの女の匂いに少しドキドキする。あっ、ヤバイかも……。そう思いながらオレの意識は薄れていった。


 ※ 現在のケイの魔力〈120〉。


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