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SGS060 裏交渉はきっと大丈夫……

 オレと姫様は疲れ果ててそれぞれの部屋に戻った。部屋に戻る前に食事が出された。美味しそうな料理だったが、食欲が湧かず、あまり食べなかった。


 オレは部屋に戻ってベッドに横たわると、念話でニドに話しかけた。ニドは食事とトイレ以外は、ずっと部屋に閉じ込められたままで、オレからの連絡を首を長くして待っていたようだ。オレは念話を使って交渉の経緯から結果まですべてをニドに説明した。


『和平協定が成立しなかったことや、裏交渉でベルッテ王がラーフランを攻撃すると約束したことは分かった。しかし証文も無いのに、ベルッテ王は君との約束を守るだろうか? ゴブリンのお守りを王様からもらったくらいでは、約束の証にはならないだろ?』


 やはりニドも心配しているな。実はこれからニドに話すことが、今回の交渉の成否に関わってくるのだ。今からニドを相手に交渉の第2ラウンドがスタートだ。


『ゴブリンのお守りは、自分のヨメを守り誠実であることを誓うという一生の約束だよ。だから、ベルッテ王が作ったゴブリンのお守りをわたしに贈るということは、ベルッテ王は私との約束を必ず守るという証なんだ』


『ゴブリン王のお守りか……。もしそれが本当だとしても、その説明を人族側が信じると思うのか? レングランの王様や大臣たちが信じるとは思えないな』


『そうだよね。そんなことは分かってるけど……』


『それなら、どうするんだ?』


『今回の交渉が成功するかどうかは、レングランがラーフランを装ってレブルンを3回侵略するかどうか、それに掛かってるんだよね。つまり、レングランの王様がやってみようかと考えてくれるかどうかに掛かっているってこと。ニド、あなたもそれは分かるよね?』


『それはそうだが、今のままではレングランの王様や大臣たちは信じないぞ。だから、ラーフランを装ってレブルンを攻撃させることなんてことは無理だ。それは君も分かるだろ?』


『普通なら無理だと考えるよね。でもね、わたしは無理じゃないと思ってるんだ。それはね、ニド、あなたがいるから。今回の交渉が成功するかどうかは、ニド、あなたが鍵を握っている。わたしはそう考えてるんだ』


『えっ? どういうことだ?』


 念話でニドの言葉が頭の中にダイレクトに入ってくるのと同時に、ニドの感情もそのまま伝わってくる。ニドはかなり警戒しているようだ。


『わたしはね、ベルッテ王が必ず約束を守ると思ってる。なんて言えばいいのか分からないけど、わたしにはそれが分かるんだ。これは本当だよ。ニド、あなたにはそれを信じてほしい。信じてもらえる?』


『ああ。君の能力はよく知っているからね。信じるよ。でも、おれが君を信じることと、レングランの王様がベルッテ王の裏約束を信じるかどうかは全く別の話だろ?』


『そんなことは無いよ。ニド、あなたがあなたの上司に対してうまく報告してくれたらいいんだよ。ベルッテ王はあの裏約束を必ず守るはずだとね。あなたが上司にそう報告してくれたら、レングランの王様へもそれが伝わるでしょ。そうすれば、レングランの王様もあの裏約束が必ず守られると分かってくれるはずだから。わたしを信じてくれるのなら、そういう報告をしてもらえるよね?』


 ニドが何者かは分からないが、レングランの王様との強いコネクションを持っていることは間違いない。和平協定の締結は失敗したが、ニドがうまく報告してくれれば失敗を挽回できるはずだ。


『うっ! しかし、証拠はなんだと聞かれるぞ』


『証拠? それはベルッテ王のお守りだよ。あのお守りがベルッテ王の約束の誓いだと、あなたが上司に報告すればいいだけ。簡単でしょ? ゴブリンの王様のお守りは、それだけ重い意味があるってことを言えばいいだけだから』


『おれにウソの報告をしろと言うのか?』


『ウソじゃないよ。あなたがわたしの能力を信じるなら、わたしが本当だと言えば本当のことなのだから。わたしを信じて、あなたの上司にベルッテ王のお守りが証拠だと言ってよ』


『ベルッテ王のお守りが証拠か……』


『そう。ねぇ、ラーフランを装ってレブルンを3回攻撃するように進言してもらえる? そうすれば、ベルッテ王はわたしとの約束を必ず守ってラーフランを繰り返し攻撃するようになるから』


『うーん……。ケイ、少し時間をくれ……』


 オレが念話でがんがん押し込んでいったから、ニドは考えを整理しているのだろう。



 ――――――― ニド ―――――――


 なんて強引な女だ! だが、ケイが念話で伝えてきたことは、おそらく本当だと思う。自分でも不思議だがそう確信できるのだ。ケイがベルッテ王をどのようにして籠絡したのかは分からないが、ベルッテ王はケイとの約束を守るのだろう。


 そうだとすれば、これは千載一遇のチャンスだ。もしゴブリンたちがラーフラン王国を攻めるようになってくれれば、それに乗じてレングランはクドル湖西岸を奪還できるかもしれない。


 このクドル湖西岸は30年間近くラーフランに占領されてきた。何度もレングランは攻め込んでいるが、その都度敗退している。特に5年前にラーフランがクドル湖西岸にナビム要塞を築いてからはレングランは攻めあぐねているのが現状だ。その奪還はレングランの王様だけでなく臣民の悲願だと言ってよい。クドル湖西岸を押さえれば、その勢いでラーフランの王都にも攻め込めるかもしれない。


 どうせレングランの兵士たちはレブルン王国と戦っているのだ。ラーフランを装ってレブルンに戦いを仕掛けるのも戦術の一つだと思えば、たいした労力ではない。それよりも得られる成果の方がずっと大きい。


 よし! ここは、ケイを信じて、ミレイ神様とレング神様に進言してみよう。レング神様はすぐにレングラー王に命令してくださるだろう。


『ケイ、聞こえているか? 君の強引さには負けたよ。明日の朝、君がベルッテ王からお守りをもらえたら、おれの主人に進言しよう』



 ――――――― ケイ ―――――――


 やった! ニドを惹き込めた。これで、レングラー王を動かすことができるはずだ。シナリオどおりに事が運べば、ゴブリンたちはラーフランを繰り返し攻撃するようになるはずだ。そうすれば、姫様はレングラー王に対して今回の裏交渉の成果だと言ってくれるだろう。オレやラウラも晴れて自由の身になれるはずだ。大丈夫、きっと大丈夫だと思う……。


 ………………


 翌朝。オレはベルッテ王に呼ばれて王様の私室を訪ねた。


「ケイ、ここに残って、余のそばで暮さぬか?」


「ありがとうございます。王様のお気持ちは嬉しいですが、わたしは戻らなければなりません」


「残念だ。だが、おまえは余のヨメ同然だ。昨日、約束していたお守りをおまえのために作った。これが余の匂いが付いたお守りだ。紋章も入れておいた。これを身に着けておきなさい。少なくともこの国にいる限り、おまえに無礼を働く者はいないだろう」


 王様はそう言うと、オレにお守りをくれた。ベルッテ王の紋章が入った革のお守りだった。


 王様はオレを抱きしめて、唇を重ねてきた。舌が入って来てオレを求めた。オレは抵抗することもなく王様を受け入れた。どんどん気持ち良くなって来て、自分の頭がとろんとしてきたころ、王様は体を離した。


「わるい王様ですね」


 オレはヒール魔法で催淫作用を除去しながら、今度はオレの方から王様にキスをした。


「またいつか、王様に会いに来ます。どうかお元気で」


「必ず戻って来い。待っている」


 ………………


 レングランに向けて出発する前に、オレはドンゴとラルカルを部屋に招いて交渉の結果を話した。和平協定が成立しなかったことや、ドンゴとラルカルを残していく理由、二人の教育や仕事のことを王様にお願いしたことなどを丁寧に説明した。


 ラルカルはルセイラやテイナ姫と別れることがすごく残念そうだった。オレと別れることについては何も言ってなかったが。


 ドンゴはオレの説明を聞いて、ラウラのもとに必ず戻ると約束したから一緒に行くと言い張った。しかし、そんなことをするとドンゴだけでなくラウラの命も危なくなると言うと、理解したのか諦めたようだ。


 ルセイラに対しては姫様が昨日のうちに交渉結果や裏交渉のことを話しているはずだ。今朝、ルセイラに会って挨拶をしたときに、オレを睨んで口を利いてくれなかった。たぶん、交渉の失敗はオレのせいだと思っているのだろう。まぁ、そのとおりなのだが……。


 ………………


 出発のときが来た。ドンゴとラルカルは見送りに出てくれた。


「オイラ、待ってるだよ。ずっと、待ってる。ケイ、ラウラに、伝える、だよ」


「分かった。ラウラに伝えるよ。わたしがラウラをしっかり守るから、ドンゴは安心して待っていて。ドンゴもラルカルもお元気で。またいつか、必ず戻ってくるからね」


 オレはドンゴとラルカルに軽くキスをしてサヨナラを言った。


 姫様とルセイラはラルカルの催淫作用が切れたので、手を振ってクールに分かれた。ラルカルはすごく寂しそうだった。


 こうしてオレたちはレングランを目指して歩き出したが、足取りは重かった。


 ※ 現在のケイの魔力〈120〉。


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