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SGS057 切り札を出す

 ベルッテ王と交渉を行う前に、身支度をするように言われて、オレだけ別室に連れ込まれた。部屋にはベッドがあり、反対側の壁際には大きな桶が置かれていた。桶にはお湯が入っているようだ。ここで体を洗えということだろうか?


 待っていると、ゴブリン族の男と女が部屋に入ってきた。男の方は昨日オレを取り調べたオリヴェルという名前の官吏だった。女の方は初めて見る顔だが、服装から官吏だと分かる。


 体を調べるから、まずトイレへ行って、それから体を洗えと言われた。その後、裸のままでベッドに横たわるように言われたので、オレは素直に従った。


 そうか……。王様と二人だけになるから、武器やオーブを隠し持っていないか調べるのだろう。


 オリヴェルが何やら呪文を唱え始めた。うん? 以前、どこかで同じような経験をしたような……。あぁーっ! やばい!


 そう思った途端、頭を雷が直撃したような、これまでで最高の痛みが全身に走って、オレは気を失った。


 ………………


 また、やられた……。


 頭がぼんやりしている。目が覚めて、何があったのか思い出した。目は見えるし音も聞こえるが、体が全然動かない。全身に麻酔を掛けられたような感じで感覚も無い。声も出せないようだ。これって……?


「申し訳ないが、あなたが武器やオーブを隠し持っていたり、邪悪な魔人でないかを調べさせてもらった。その結果は何も見つからなかった。ベルッテ王を害する恐れは無いようだ。だが念のため、電撃マヒと沈黙の魔法を掛けさせてもらったよ。王様が噛み痕を付けたら、電撃マヒと沈黙は解いてくださるはずだ」


 なるほど、そういうことか。用心深いな。


 オレはベッドに裸で寝かされたまま別の部屋に運ばれた。


 一人で放置されて、しばらく待っていると、誰かが部屋に入ってきた。たぶん、王様だろう。


「おまえが交渉官か。ほぉ、まだ若いな。可愛い顔だ。余は王になる前には何人もの人族の女に印を付けてきたが、おまえが一番可愛いようだ。では、さっそく印を付けてあげよう」


 王様はオレを抱き抱えて、首に噛み付いた。そのまま噛まれ続けていると、しだいに気持ち良くなってきた。


 10分くらい経ったのだろう。王様から解放された。


「どうだ、これで余の印が付いた。では、電撃マヒと沈黙を解いてあげよう」


 そう言って、王様は呪文を唱えた。


 体が動くようになって、声も出るようになった。王様の唾液が自分の体にたっぷりと入っているようだ。理性では催淫作用のせいだと分かっているのだが、もう、この人と離れられない。そういう気持ちに陥ってしまっている。


 王様にすがりついて「もっと抱いて」と言いながら唇を求めた。


 王様の舌が自分の中に入ってきて、いつものように頭がジンと痺れて、どんどん気持ち良くなってくる。


 王様は腰巻だけの姿で、こちらは裸だ。王様に抱きかかえられて、ベッドに寝かされた。自分の体が震えているのは怖いからではない。王様を受け入れる期待感で自分が興奮しているせいだ。


 王様と早くひとつになりたい……。そう思った途端、心の中で何かのスイッチが入ったのが分かった。


 王様が上に乗り掛かってきた。あぁ、ひとつになれる……。


 あれ? 王様が動かない。オッパイが王様の重たい体で押し潰されそうだ。自分の上で王様は覆い被さったまま寝息を立てている。眠ってるらしい。


 王様に組み敷かれて息苦しい中で、少しずつオレの理性が戻ってきた。自分に掛けたヒール魔法が効き始めているのだ。


 そうだ、思い出した……。オレは昨夜、寝る前に自分に暗示魔法を掛けていたのだ。魔族に印を付けられて種付けをされそうになったときに、相手の魔族に眠りの魔法を掛けること。そして、自分には印は付けたまま催淫作用を無くすようにヒール魔法を掛けること。


 自分が催淫作用のせいで理性を失うことを予想して、自分自身にセーフガードを掛けていたのだ。


 自分にヒール魔法を掛けたおかげで完全に理性を取り戻すことができた。


 とりあえず今は王様の下敷きになっている状態から抜け出さなきゃいけない。


 王様を念力で持ち上げて、オレは王様の下から這い出た。


 さて、オレの切り札を出すときが来た。王様に暗示魔法を掛けるのだ。その内容はすでに決めてある。


 まず第一は、今回の交渉で和平協定を締結するか、または和平協定の締結に向けて具体的な約束をすること。取り決めた和平協定または約束は必ず守ること。レブルン王国内での姫様、ルセイラ、ドンゴ、ラルカル、ニド、そしてオレの六人の安全と自由を保障すること。オレたちに危害を加えようとしたり、騙そうとしないこと。オレが直接または間接的に伝える命令には絶対に従うこと。オレの特殊能力については秘密にすること。この暗示魔法のことや、この部屋での会話を他の人に話したり、解呪しようなどという無駄な試みをしないこと。このどれかに違反しようとすれば、直ちに全身がマヒする。意識は失わず、目は見え耳も聞こえ、呼吸もできるが、身動きや話をすることはできず、全身に耐えがたい痛みが続き、1分後に回復する。違反を繰り返そうとすると、この拷問のような状態が繰り返し起こることになる。


 今まで敵対関係にあった国同士が今回の交渉だけで和平協定の締結まで漕ぎつけるのは難しいかもしれない。そう考えて、和平協定の締結に向けて具体的な約束をすることという、少し譲歩した暗示も盛り込んでおいた。これなら今までよりも必ず和平に向けて前進するはずだ。


 暗示魔法を掛ける前に、まず、周りの状況を調べた方がいい。探知魔法でこの部屋の周囲を探ると、周りの部屋にゴブリンが数人待機していることが分かった。たぶん王様の近侍きんじや護衛だろう。この部屋を覗き込んでいる者はいないが、部屋の物音は近侍たちに聞かれているはずだ。しかし、暗示を使って王様と交渉していることを、この近侍たちには聞かれたくない。どうしよう……。


 上手くできるか分からないが、王様への暗示魔法や交渉は念話を使うしかなさそうだ。


 周りのゴブリンたちに不審がられないようにするためには演技が必要だ。オレは王様を仰向けに寝かせて、その上にまたがった。あたかも種付けをされているような感じで腰を振り、艶めかしい声を出した。


 暗示魔法を掛けながら、その演技を頑張って続けた。全然気持ち良くないのに、感じている振りをするのは辛い。オレがいつもお世話になっていた18禁エロ動画の女優さんたちはこんな気持ちだったのだろうか……。


 そんなことを考えながら30分くらい頑張って、ようやく暗示魔法を掛けることができた。そして、王様を目覚めさせた。


 王様はまだぼんやりしているが、オレは念話を使って最初の命令を下した。


『声を出したり、暴れたりしてはダメです。王様とは念話で話をします。わたしの言うことが分かりますね』


 今の状況がやっと分かったのだろう。王様は叫び声を上げようとして、硬直した。全身がマヒして、激しい痛みに襲われているのだ。


『王様に暗示魔法を掛けました……』


 どんな暗示なのか、どんな条件で全身マヒと激痛に襲われるのかを説明した。1分が経って王様のマヒが解けた。王様はオレの説明を理解していないのか、また叫び声を上げようとして硬直した。オレはもう一度同じ内容を説明した。


 何度か同じことを繰り返した。ようやく、王様は自分が置かれた状況を理解したようだ。王様の目は恐怖に慄いている。かわいそうだが仕方ない。


 オレはその間も護衛たちに気付かれないように時々艶めかしい声を出して演技を続けた。


『王様、普通の声で話をしていいですけど、護衛や人を呼んではダメですよ。それから、わたしへの種付けは終わったことにして、わたしのことを自分のヨメと同じように扱いなさい』


 王様は頷いた。オレは自分の体や王様の体、寝具などをそれらしく偽装した。その後、王様にもう一度オレの首に噛み痕を付けるよう命じた。ヒール魔法が効きすぎて、王様の匂いが薄くなっているかもしれないからだ。


 数分だけ噛んでもらって、少し気持ちよくなってきたところで噛むのを止めさせた。唾液が少し入ったが、大丈夫だ。オレは王様に口づけした。王様の舌が入って来て、1分くらい続けた。これで王様も落ち着いたようだ。


 オレは王様に次のことを言わせた。


「誰かいるか」


 すぐに近侍のひとりが入って来て跪いた。侍女のようだ。


 王様もオレも裸のままだ。しかも王様はベッドの上で胡坐をかいて座り、オレは王様の膝の上にお尻を乗せて、赤ん坊のように抱きかかえられている。侍女は目のやり場に困ったのか、目を伏せたままだ。


「この女に種付けをした。もう余のヨメも同然だ。この者たちに害が無いことも分かった。今からこの者たちと会談を行う。別室を用意せよ。それと、レングランの王女をそこへ案内せよ。秘密の相談を行う故、部屋の中には侍女も護衛も不要だ」


「承知いたしました」


 侍女は下がっていった。オレは王様に抱きかかえられたまま、もう一度、口づけした。少し、王様の唾液の影響が出ているようだ。


『王様、すてきでした』


『今からでも遅くない。余の種を受け入れて、ヨメになれ。おまえの器量も能力も勇気も、余のヨメにふさわしい』


『ありがとうございます。でも、わたしは交渉官の役目を果たさなければいけません。レングランにわたしの家族を残して来ているので、必ず戻らないといけないのです』


『そうか。しかし、余はおまえをいつでもヨメとして迎え入れるぞ。覚えておいてくれ』


 その後も王様と色々話をしながら服を着て、別室に移った。


 ………………


 その部屋にはすでにテイナ姫が待っていた。王様とオレが着席すると、侍女がテーブルにお茶のような飲み物とクッキーを置いて出ていった。


 この部屋の中には侍女も護衛もいないが、部屋の周囲には多数の護衛が配置されているようだ。声を出して交渉をするのは危険だから念話を使おう。


 王様と姫様に念話でそれを伝えるとふたりは硬い表情で頷いた。


『美味しそうなクッキーですね。いただきます』


 場を和らげようとオレはクッキーを口に入れてみた。甘くて美味しい。


 テイナ姫もクッキーを口にするとニッコリと微笑んだ。


『このような美味しいお菓子は初めて食べました。ぜひ、我が国の民にも食べさせてあげたいものです』


 さすがは姫様だ。雰囲気がぐっと和らいだところで和平協定の交渉を開始した。


 ※ 現在のケイの魔力〈120〉。


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