表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/384

SGS051 驚きのヒール魔法

 オレの隣にはエマがいて、心配そうにラウラの手を取っている。オレがキュア魔法を使ったことには気付いていないようだ。無詠唱だし、治療したのは目に見えない内臓だけだから、気付かないのは当然だ。


 オレ自身の体は回復したようだ。痛みもなくなり普通に動けるようになった。次はドンゴを治療しよう。


 ……酷い。ドンゴは骨が折れているだけでなく、内臓も破裂していて瀕死の状態だ。ドンゴは蹴られているうちに気を失ったようだ。うつ伏せの状態で地面に両肘と両膝を突いただけで、ラウラに体重が掛からない姿勢で気を失っている。本当に凄い奴だ。ドンゴの姿を見ているだけで涙が出そうになった。


 オレは急いでキュア魔法をドンゴの体内に向けて放った。目で見て分かる怪我は放置しておくしかない。


 キュア魔法でドンゴを治療していて分かったことだが、オレの魔力は強まっているようだ。1分くらいでドンゴの骨折と内臓の治療は終わった。でも、ドンゴはまだ気を失ったままだ。出血は止まっているが、あちこち大きな傷があって、見た目は酷い状態だ。かわいそうだが、バハルが戻ってくるまでは放っておくしかない。


 自分の魔力を探知魔法で調べてみると魔力が〈120〉になっていた。今までは魔力が〈60〉だったはずだ。なぜか分からないが魔力が倍に高くなっている。


 おそらく魔力が高くなったのは、ラウラを助けるためにあの護衛に向けて無詠唱で念力魔法を発動しようとしたときだ。あのとき自分は体に異変を感じた。


 そんなことを考えていると、エマが声を掛けてきた。


「今のままだと、ラウラさんがドンゴに押し潰されるかもしれない。危険よ」


 そうだった。自分の魔力に気を取られている場合ではない。エマと力を合わせてラウラをドンゴの下から引っ張り出した。


「ラウラさんは流産してるかもしれないわ……。どうしたらいいの?」


 心配するエマに対して、オレが魔法で治療したから大丈夫と言ってあげたいが、正直に言うことはできない。


「とにかく、ラウラを小屋に運んで、体を冷やさないようにしなきゃ……。ラルカル! 手伝って!?」


 オレが呼ぶと、小屋に隠れていたラルカルが出てきた。こいつ、逃げ方は一流みたいだ。ラルカルに命じてラウラを小屋に運び込んだ。皮の毛布を掛けて魔法で体を温めたから、心配はいらないだろう。


 ラルカルはドンゴも小屋に運び入れた。もうひとり、治療が必要な男がいる。ニドだ。すでに意識は戻っていて、今はエマと話をしている。


「ニド、だいじょうぶ?」


「あぁ、頭がフラフラするし、体のあちこちが痛いというか、痺れているというか……」


 この男が王子たちに忠告してくれたことで、さっきのリンチ騒ぎは鎮まったようなものだ。勇気があると言うべきか、無謀と言うべきか。ともかく感謝しなきゃ。


「さっきはありがとう。あなたのひと言で助けられたから……」


 オレはそう言いながらニドを起こして全身を摩った。摩りながらキュア魔法を掛けた。もちろんニドもキュア魔法を使うことはできるだろうが、エマがそばにいるから呪文を詠唱して怪しまれることは避けているはずだ。


「どう? 少しは楽になった?」


 ニドはオレがキュア魔法を掛けたのを感じ取ったのだろう。驚いた顔でオレを見つめた。


「き、きみは、なにものなんだ……!? い、いや、なんでもない。ありがとう。すごく楽になったよ……」


 ニドはオレが無詠唱で魔法を使うことは知っているはずだ。それなのにどうしてこんなに驚くのだろうか?



 ――――――― ニド ―――――――


 この女はいったい何者なんだ!?


 おれは心底驚いていた。この女はおれにこっそりとキュア魔法を使ってくれたようだ。おかげで、さっきまでの頭痛や筋肉痛はすっかり消えて、おれの体は回復した。しかし変だ! あり得ないことが起こっている。ケイがどれほど凄いロードナイトであったとしても、キュア魔法にはこんな即効性はないのだ。


 たとえ頭痛のような簡単な疾患であっても、キュア魔法を使って完治させるには最速でも30分くらいの時間が掛かる。魔力が〈500〉を超えるような高位のロードナイトがキュア魔法を使ったとしても、こんなに早く治癒させることはできないはずだ。


 だが、こんなことができる種族が一つだけいることをおれは知っていた。魔法を使って致命傷や命に関わる病気を即効で回復させることができる種族。それは神族だ。唯一、ウィンキアソウルの魔力を使わず、異空間ソウルの魔力と魔法系統を使う種族が神族だ。


 神族だけが使うことができる即効性の回復魔法がある。キュア魔法ではなく、ヒールという魔法だ。


 ケイがこれほど早く治癒させたということは、おそらくヒール魔法を使ったのだと思う。ケイは探知魔法で探っても普通の人族の反応しか示さない。それなのに高い魔力で魔法を使うことができる。これは神族の特徴に一致する。


 つまり、ケイはロードナイトでもヒューマンロードでもない。神族……、ということか……。


 いや、そんなはずはない! おれはずっと神族に仕えていて、すべての神族の顔を知っている。神族の数は二十人ほどだ。こんな女性はいない……はずだ。


 もしかすると、おれの知らないところで神族が生まれていたってことか?


 あっ! ケイはミレイ神様の縁者……。もしかすると隠し子ということか!?


 いや、違う。おれはミレイ神様がレング神様に第二夫人として嫁ぐ前から何百年も仕えてきた。おれが知る限りミレイ神様に子供はいない。それはミレイ神様の使徒であるおれが断言できる。


 隠し子ではないとすれば……、ミレイ神様の妹であるアイラ神様の子供だろうか? アイラ神様はどこにも嫁がずに、はぐれ神となって独りでおられるはず……。なるほど、ケイはアイラ神様の隠し子か……。これは十分に考えられるな。


 おれはミレイ神様から密命を受けている。密かにケイを守り、ケイに危害を加えようとする者がいれば、その正体を探れと。秘密にする理由は仰せではなかったが、夫のレング神様と第一夫人のジルダ神様には絶対に気付かれないように行動せよとのご命令だった。


 ここまで考えて、おれはなんとなくミレイ神様のお考えが分かってきた。


 たしか、ケイには3歳になる娘がいたはずだ。盗賊に襲われたときに拉致されたと聞いた。神族の女性から生まれた子供は神族だ。つまり、ケイが神族だとすれば、その娘も神族だ。その娘が拉致されたとすれば、これは単なる押し込み強盗や拉致ではないということだ。


 たぶん、ミレイ神様とアイラ神様はケイとその娘の存在を隠しておられたのだ。人族の中に紛れ込ませて、神族とは分からないようにして育てていたのだろう。その娘が拉致されたってことは、何かの陰謀が企てられ、誰かが闇の中で動いている。そういうことのようだ。


 だから、ミレイ神様はおれにケイを守れ、危害を加えようとする者の正体を探れと仰ったのか……。


 ※ 現在のケイの魔力〈120〉。

 ※ 王子の護衛たちとの戦いのときに魔力が増加。〈60〉→〈120〉

 ※ 魔力が高まった理由はもっと後の方で明確になります。


ニドの推測が当たっているかどうかも、もっと後の方ではっきりします。

(筆者は早く言いたくて仕方ないのですが。ふふふふ……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ