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SGS049 黙っておれに従え

 ――――――― ケイ ―――――――


 どうして、こんなことになったのだろう……。ニドは奴隷だから魔人ではないはずだ。ロードナイトや妖魔人が奴隷の身分に落とされるような事態になった場合には、その魔人は逃げるか殺されてソウルを奪われるかであり、奴隷になるような魔人はいない。ラウラから以前にそう教えてもらった。


 ニドは魔人ではないはずなのに、眠っているときにバリアを張っていた。そんなことは予想もしてなかった。まして魔法で反撃してくるなんてあり得ない。


 オレは浮遊魔法や筋力強化を駆使して必死で逃げた。だが追い付かれて、バリア破壊の魔法まで撃ち込まれてしまった。


 たぶんニドはオレよりもずっと格上の魔人なのだろう。何かの理由があって、能力を隠したまま奴隷として箱庭に来たのだ。このまま戦っても勝ち目は無いだろう。オレは逃げながらそう考えた。


 ニドが撃ち込んできたのはバリア破壊の魔法だ。ということは、オレを殺すのではなく、捕らえて尋問するつもりだろう。抵抗すると却って危ない。


 捕らえて尋問しようとするってことは……、ニドはレングラン王国の特殊要員か何かだろうか。姫様から今回の和平交渉の話を聞いた王様が実情を確かめるために密かに送り込んできたのかもしれない。


 そう考えて反撃しなかった。その結果、オレはバリアを破壊されて、背中に衝撃を受けて気を失った。


 気が付いて目を開けると、倒れたままニドの腕に抱かれていて、目の前に男の顔があった。なんだか急に自分の心臓がドキドキし出した。不思議だが、この男に抱かれていることが嫌では無かった。自分を抱いているのは男で、しかも、さっきまで戦っていた相手なのに……。


 抱き起されて、オレは麦畑の中で座った。


「どうしておれを眠らせようとしたんだ? しかも、眠りや浮遊の魔法を使っていたよな? 君がナゼそんな魔法を使うことができるのか、それも話すんだ」


 ニドが疑問に思うのは当然だ。正直に説明するしかなさそうだ。


「少し長くなるけど……話すしかないよね……」


 盗賊に襲われて殺されたはずが死体置き場で生き返ったこと、そこから話を始めて、奴隷として箱庭に売られてきたことまでを掻い摘んでニドに説明した。その話の中で自分が記憶を失っていること、ゴブリンに襲われたときに初めて無詠唱で魔法を使えることに気付いたこと、自分が特殊なロードナイトらしいことを語った。


「どうしてそれを隠しているんだ?」


「正直に自分の能力のことを話して、わたしが魔女だと分かれば、オーナーはわたしを殺すかもしれない。オーナーは奴隷の生殺与奪権を持っているからね」


 ニドはオレの話を聞いて、顎を擦りながら何か考え込んでいるようだ。


「隠している理由は分かった。それで、君は何を企んでいるんだ?」


 ニドがじっと見つめてくる。オレは耐えきれなくなって目をそらした。この男はオレたちがゴブリンの国へ行こうとしていることをおそらく知っている。知っていて、わざと尋ねているのだろう。下手なウソやごまかしを語るのは危険だ。


「何か誤解してるのかもしれないけど、わたしは悪いことなんか企んでないよ。わたしが思っているのは、なんとかして奴隷の身分から抜け出したい。家族のような親しい関係になったラウラを守ってあげたい。そう思っているだけ。そのためにね、一つの計画を進めているんだけど……。言わなきゃいけないよね?」


 ニドに促されてオレは話を続けた。テイナ姫と女官のルセイラと出会ったこと、友だちになったこと、一緒にゴブリンの国へ和平協定交渉へ行く準備をしていることを語った。この企ては、たしかに自分やラウラが自由になるという狙いもあるが、それだけではなくて、レングラン王国とレブルン王国の関係を良くして、レングランの国力を高めることに必ず繋がるはずだと強調した。それは、ニドがレングラン王国の特殊要員だと考えたからだ。


 もちろんラルカルを使ってテイナ姫やルセイラの首にゴブリンの印を付けたことなどは話していない。


「それで、どうしておれに眠りの魔法を撃ち込んできたんだ?」


 眠らせてから暗示魔法を掛けるつもりだったのだが、そんなことを言えるはずがない。なんとしても暗示魔法のことは秘密にしておきたいからだ。ここは、なんとか言い訳をするしかない。


「わたしたちがレブルン王国へ行ってる間は、ラウラをこの闘技場に一人で残すことになるんだけど……。わたしはラウラが独りぼっちになることを心配していたんだ。そんなとき、あなたたち二人が共生村にやってきた。二人とも優しそうで、友だちになれそうな気がしたんだけど、却って心配になったんだ」


「却って心配になっただと? どういうことだ?」


「あなたもエマも奴隷の身分に落とされたばかりなのに、その暗さが無くて、なんとなく奴隷らしくなかった。だから怪しいと思ったんだ。ラウラが一人のときに何かあったら大変だよね。それで迷ったけど、あなたたちに眠りの魔法を掛けて、持ち物を調べようと考えたんだ。何か分かるかもしれないと思って……」


「なるほど……、そういうことか」


「本当にごめんなさい……。あなたたちとは友だちになれそうなのに、眠りの魔法を掛けたりして。でも、ラウラのことが心配で眠れなくて、それで……」


 この説明で納得してくれただろうか。ニドは考え込んでいる。


「ところで、君は本当にロードナイトなのか? ロードナイトなら盗賊に襲われたときに反撃するはずだ。むしろ、浮遊ソウルがケイの体をボディジャックしてヒューマンロードになろうとしたが何らかの原因で記憶を無くした。そう考えた方がすんなり納得できるんだが……」


 なるほど、たしかにロードナイトであれば、襲われたときに反撃するよな……。


「たしかに疑わしいよね。どうして盗賊に反撃しなかったのか……。記憶が無いから、自分でも分からないけど……。でも、わたしはヒューマンロードじゃない。それは誓って言えるよ。証明しろと言われてもできないけど、自分が人間の心を持っているのは、自分が一番よく知ってるから」


 ニドはまっすぐにオレを見た。


「あぁ、信じるよ。君はちっともヒューマンロードらしくないからね。でも、君はおれに手を出した。それは確かだ。だから、罰は受けてもらう」


 ばつ? 罰って、ニドは何をする気だろうか……。


「罰として、おれの言うことに従ってもらう。黙っておれに従え」


「えっ! 何をするつもり?」


 思わず身を固くして縮こまった。


「そんなに警戒するな。君の体を要求したりしないから。実は君にぜひお願いしたいことがあるんだ。おれを君たちと一緒にレブルン王国へ同行させてもらいたい。荷物運びの奴隷ということで連れて行ってくれれば良い。おれを同行させることをテイナ姫に進言して承諾を得るんだ」


 なぜ、こんな要求をしてくるのだろう? 王様から密命を受けてレブルン王国への特使一行を警護するということだろうか? この男の役目はなんだろう?


「どうしてそんな要求をしてくるのか分からないけど……。あなたは何者?」


「おれが同行する理由も、おれ自身のことも話すことはできない。もう一度言う。黙っておれの言うことに従ってほしい」


「もし拒んだら?」


「そのときは、君の秘密をバハルに教えることになる。そんなことは、したくないけどね……」


 つまり、自分はこの男に弱みを握られたってことだ。


「分かった……。あなたに従う……」


 この男はエマにもオレの秘密をばらすつもりだろうか?


「ところで、エマはあなたの仲間なの?」


「いや、それは違う。さっき話したとおり、彼女とは知り合ったばかりだよ。レングランの私掠船が敵と戦ったときに、エマはその敵船に乗客として乗っていて捕虜になったらしい。レングランに連行されて奴隷になったわけだが、そのままだと性奴隷として売られることは目に見えていた。おれは偶然に彼女を見かけてね。あの闘技場の奴隷として連れてきたってことさ」


「あなたには、それだけの力があるってこと? 身分を変えたり、所属を変えたりするような……」


「そんな力など無いよ。おっと、しゃべり過ぎたな……」


「あの娘は性奴隷として売られたかもしれなかったけど、あなたに救われたんだよね。そのことをエマは知ってるの?」


「いや、知らない。よけいなことをエマに言わないでくれよ」


 不思議な男だ、ニドは……。


 その後は二人で箱庭に戻った。


 ニドの後ろに付いて畑の道を歩きながら考えた。オレはこの男にこれからもずっと脅され続けるのだろうか……。いや、ニドはそんな悪い奴には見えない。


 ニドは信じられる。根拠は無いが、ニドに対する確信のようなものが心の奥底にあった。


 ※ 現在のケイの魔力〈60〉。


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