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SGS380 絆を結び、絆を深めていく

 ―――― ラウラ(前エピソードからの続き) ――――


 十兵衛の家族たちへの治療が終わり、襲撃者の中で生き残っていた男への治療をしていると、十兵衛が息を切らしながら戻ってきた。ヒロコやカエデたちが倒れているのを見て十兵衛は顔を青くしていたが、あたしが何があったのか事情を説明して、命に別状がないと分かると落ち着きを取り戻した。


 十兵衛は信用できるし、あたしが浮上走行で空中を駆ける姿を見ている。これからの十兵衛との関係を考えると、この際、あたしの正体を明かしておいた方が良いだろう。そう考えて、あたしは自分のことを簡単に説明した。異世界から来たことや魔法を使えることなどだ。クルのことも紹介しておいた。子供たちは眠らせてあるから聞かれる心配はない。


「尋常ならざるお方だと思うており申したが……」


 さすがの十兵衛も驚きのあまり言葉を失っていた。


 戦いの後始末が色々と残っていたが、それを十兵衛には見せたくないから魔法で眠ってもらった。そしてまず、襲撃者たちの死体を魔法を使って始末して、戦いの跡を完全に消した。


 ケイから念話が入ってきたのは後始末をしている最中だった。手を休めて、戦いのことやクルが活躍したことを報告した。


『とにかくカエデや十兵衛の家族たちが助かって良かったよ。それにしても、その襲撃者たちは何者かな? 何か情報は掴めた?』


『それについてはね、襲撃者の中に生き残った男がいるから。これから尋問して、何か分かったらまた後で報告するね。それと、ケイ。地母神様によくお礼を言っておいて。カエデたちの命が助かったのは、地母神様がクルを目覚めさせて、守護精霊としてあたしに与えてくださったおかげだから』


『うん、分かった。ちゃんと伝えておくよ。だけど、クルが守護精霊らしくラウラのピンチを助けてくれたのは“おたまちゃん”のおかげでもあるんだよね? 小さな女の子の祈りがクルの心を動かしたみたいだから』


『ええ、そうね。でも、どうしてあの子がクルの姿を見ることができたのか、それが不思議なんだけど……』


『そうだねぇ……。コタロー、その理由、分かる?』


『いや、オイラにも分からないにゃ。だけどにゃ、推測はできるわん。その子は意識を持った浮遊ソウルを感知する能力に長けているのだと思うぞう』


『それはつまり……、霊感が強いってこと?』


『ケイの世界の言葉で言えば、そういうことだわん。でもにゃ、どうしてクルの姿が見えたのかってことよりもにゃ、もっと不思議にゃことがあるぞう』


『もっと不思議なこと?』


『ケイはラウラの話を聞いて、不思議だと思わにゃかったのかにゃ。それはにゃ、どうしてクルはカエデを助けようと思ったのかってことだわん。クルは人族のことを毛嫌いしていたはずだよにゃ。駆除するべき害虫だと考えていたはずだわん。それにゃのに、どうしてカエデの命を助けようと思ったのかにゃ?』


『そ、それは、幼い女の子が自分に対して祈ったからだよ。母親やカエデを助けてと幼子が必死に祈る姿を見たから、クルの心が動いたんだと思うけど……』


『それは上っ面の理由だにゃ。オイラはそれだけじゃにゃいと思うぞう』


『それ以外にどんな理由があるって言うのさ?』


『さあにゃあ。ケイもラウラもオイラに答えを求めるばかりじゃにゃくて、自分で考えてみたらどうかにゃ』


『コタロー、そんな意地悪しないで、クルの心が動いた理由が分かってるのなら教えてよぉ』


『その理由の推測はいくつもできるけどにゃ。ケイやラウラのために言わにゃいでおくわん。それとにゃ、これはヒントとは違うけれどオイラが知っていることを教えておくにゃ』


『え? なに?』


『明智十兵衛光秀の娘で“おたま”という名前にゃら、歴史上の有名人物にゃのだわん。“細川ガラシャ”の名前はケイでも知ってるよにゃ?』


『細川ガラシャ……。ええっ!? “おたまちゃん”は“ガラシャ”なの?』


『そうだわん。今はまだ2歳か3歳だろうけどにゃ。光秀が信長に謀反を起こした後、いろいろあってにゃ。“おたま”はキリスト教徒になるのだわん』


 コタローはガラシャが死んだときのことを話してくれた。今から35年ほど未来の出来事になる。時代は関ヶ原の戦いに向かって進んでいて、緊迫感が最高潮に達しているときだ。ガラシャは敵方の人質になるのを拒んで、大坂の屋敷で悲壮な最期を遂げた。キリスト教では自殺が禁じられているので、ガラシャは家臣に長刀なぎなたで自分の胸を突かせて亡くなったらしい。屋敷内にいた侍女や婦人たちは外へ逃したという。もちろんこの話はケイが生きてきた世界での歴史上の出来事であって、今の“おたまちゃん”の未来は全く別のものになるはずだ。


『きっとガラシャって心が強い人だったんだろうね。家臣に長刀で自分の胸を突かせるなんて、わたしには絶対に真似できないよ。今の“おたまちゃん”はまだ幼いけど、心のパワーが強いのかもしれないね。クルの心を動かしたのだから』


 ケイとコタローとの会話はそれで終わったのだが、実はあたしは後でこっそりとクルに尋ねたのだ。


『ねぇ、クル。あのとき、どうしてカエデたちを助けようと思ったの?』


『ああ、あのときのことか? あの小さな女の子がボクにカエデを助けてと祈っていただろ。そのとき思ったんだ。地母神様ならどうするだろうかってね。地母神様ならおまえたちが困っていたら助けるだろう。そう思っただけさ。よかったな、おまえたちが地母神様と仲良くなっていて』


 それを聞いて、あたしは人と人との関係を築いていくことの大切さをしみじみと感じていた。人と人との関係だけではない。魔族や地母神様との関係も同じだろう。


 今回の件はケイが地母神様と仲良くなってくれていたから、クルの心が動いたと言ってもいいだろう。


 コタローもそれを察していたのだろうが、口にするとケイが有頂天になると考えて敢えて言わなかったのかもしれない。


 “絆”という言葉が頭に浮かんできた。ケイから植え付けてもらった知識の中にあった言葉だ。そうか。“絆を結び、絆を深めていく”というのはこういうことなのだ。あたしもクルとの間の絆をもっともっと深めていこう。心からそう思った。


 ………………


 あの生駒山での戦いから20日ほど後、あたしたちは無事に深志城へ帰ってきた。その後のことを簡単に述べておこう。


 クルの活躍でカエデたちは命を救われたが、完治するまでには数日の間、安静な休養が必要だった。だが安全に休める場所が無かった。根来衆が追跡を諦めるはずがなく、執拗にあたしたちを捜し回ると予想されたからだ。


 それであたしは山の斜面に横穴を掘って隠れ家を作った。カエデたちが戦った林の中だ。地中に隠れ家を作るのは何度も経験していたから、数時間で十分な広さの部屋を作り上げた。食料や毛布は常に亜空間バッグに確保してあるから問題なかった。


 ドウゴにも念話で事情を説明しておいた。クルにドウゴのところまで飛んでもらって、念話の中継をしてもらったのだ。クルが積極的に協力してくれるようになったので本当に助かる。


 ドウゴにはあたしたちを待たずに旅を続けてほしいと頼んでおいた。この後、ドウゴたちは信志郎とも合流して、根来衆に襲われることもなく、あたしたちより1週間以上早く深志城に着いたそうだ。


 襲撃者の中でクルに腕を斬り落とされた男がまだ生きていた。その者を治療して尋問した。十兵衛や子供たちは眠らせてあるからその場面は見ていない。


 尋問を始めると男は絶対に口を割らないと喚いていたが、威圧や念力の魔法を駆使すると、あっさりと素性を白状した。首領の名前は滝川一益たきがわかずます。織田家の家臣だ。男たちは滝川一益が率いていた忍びの者であった。


 男の話によると、あたしは京に入る前からずっとこの忍者たちに尾行されていたらしい。忍者たちは全員が旅人の恰好をして、ひっきりなしに交代していたそうだから、あたしは尾行されていることに全然気付かなかった。尾行中は虎視眈々とあたしを殺す機会を狙っていたそうだ。


 滝川一益という名前はあたしの知識にもあった。織田信長に仕えていた有名な武将だ。あたしたちを襲撃するように誰が命じたのか。男は知らないようだったが、容易に想像がつく。命じたのはおそらく信長だ。あたしが木下藤吉郎を通して信長を脅したことが原因だろう。美濃に手を出せば織田家を滅ぼすと信長を脅したのだが、信長は恐れるどころか反撃に出たということだ。


 あたしが浅はかだった。カエデや十兵衛の大切な家族を巻き込んで、危うく死なせてしまうところだった。


 尋問が終わった後、後腐れが無いように男には死んでもらった。ケイがいたら止めただろうが、あたしは今も敵を殺すべきときには躊躇してはならないと思っている。この男を放免したら後で面倒なことになるのは目に見えているからだ。


 そうは言っても、この時点であたしは「大きな後腐れ」を作り込んでしまっていた。あたしが信長の敵愾心を掻き立ててしまったことだ。今のままでは、信長はあたしやあたしの大切な者たちの命を狙い続けるだろう。


 信長には思い知らせてやる必要がある。自分がどれほどの相手を暗殺しようとしたのかを……。


 あたしたちは生駒山の麓に作った隠れ家で1週間ほど過ごした。そしてカエデたちが完全に回復したことを確認してから旅を再開して、その後は無事に深志城へ帰り着いたのだった。


 帰ってきた後も休んでいる暇は無かった。家老の信春たちと留守中の案件について話し合ったり、鉄砲隊を創設して十兵衛を鉄砲奉行に据えたり、鉄砲鍛冶たちの住まいや作業場を手配したり、信志郎や十兵衛と今後の戦略を練ったりしていた。それと、マリシィに十兵衛の家族を保護するよう頼んだり、甲斐国かいのくににいる武田信玄のところへ出向いて、今後の戦略を相談したりして、とにかく目が回りそうな忙しさだった。


 あっという間に半月が過ぎ、ちょっと落ち着いたところで、あたしは尾張方面に向けて旅立った。主な目的は信長を懲らしめることだ。それと……。


 ※ 現在のラウラの魔力〈812〉。

   (戦国時代の日本にいるため魔力は半減して〈406〉)


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